マーケティング偏差値を高めて売上アップにつなげる ひとりマーケターの教科書
堀野正樹
日本実業出版社
ひとりマーケターの教科書(堀野正樹)の要約
堀野正樹氏は「60点でもまず動く」ことを推奨し、戦略・チーム連携・実行・データ分析の4つの力を通じて成果を出す方法を本書で具体的に解説しています。IメッセージではなくYouメッセージを届ける視点転換、6W2Hや心理トリガーを用いた施策設計、自己実現価値に基づく価格戦略など、マーケターだけでなく経営者にも示唆に富む内容が詰まっています。
ひとりマーケターは100点ではなく、60点を目指そう!
60点を目指すのが成功の近道。(堀野正樹)
私はこれまで、多くのベンチャー企業の経営者や、マーケティングを兼任する担当者の方々と向き合ってきました。対話を重ねる中で、ある共通の悩みが浮かび上がってきます。それは、「マーケティングは難しい」というものです。 「マーケティングって、結局何から始めればいいんでしょうか?」「施策をやってはいるんですが、効果がよくわからなくて……」。そんな言葉を、何度となく耳にしてきました。
知識がゼロというわけではない。むしろ、皆さん勉強熱心で、マーケティングのトレンドにも敏感です。ただ、それを実際の自社の状況にどう当てはめればいいのかが見えていないのです。ステージは違えど、「どこに力を注げば成果が出るのか」が明確でないからこそ、迷いが生まれるのだと思います。
限られたリソースで日々多くの業務をこなす現場において、体系的な学びに時間を割くことは難しいのが実情です。マーケティングは、つい「後回し」にされがちです。そうして後回しにされた結果、「思ったほど集客ができない」「売上が思うように伸びない」という状況に直面してしまう。
そんな中で私は、自分自身の役割として「この混乱を整理し、明日からでも行動できる道筋を届けること」が重要だと考えるようになりました。だからこそ、実務に根ざし、誰にでもわかりやすくマーケティングを体系化してくれる書籍を日々探し続けています。
そうした中で、私が日頃から注目していたのが堀野正樹氏の発信でした。堀野氏のXでの投稿には、理論と現場のバランスが絶妙に取れており、単なる気づきにとどまらず、「明日から使える」という実行力が込められている。現場のリアリティと、経営的視点の両方を併せ持つ投稿は、私にとっても大きな学びでした。
そんな堀野氏から、今回マーケティング偏差値を高めて売上アップにつなげる ひとりマーケターの教科書をご恵贈いただきました。本書は、まさに「これを待っていた」と言いたくなるような一冊でした。この書籍は、社員数10名から100名規模の企業で孤軍奮闘する“ひとりマーケター”のために書かれています。
読んでいて驚くのは、机上の空論が一切ないということです。 本書では、難しいとされるマーケティングのフレームワークや理論が、実にわかりやすく、そして実務に即して解説されています。とくに印象に残ったのは、「最初から100点を目指さなくていい。まずは60点を目指そう」という著者のスタンスです。
この考え方は、多くの現場で起こる“完璧主義による停滞”を見事に打破してくれます。堀野氏は、その「60点の戦略づくり」を以下の5つのステップで提案しています。
ステップ1 顧客調査(ニーズの把握)
まずは顧客の声を丁寧に拾い上げ、現場で実際に何が求められているのか、どのような課題を抱えているのかを可視化します。インタビュー、アンケート、購買データなど、さまざまな手段を用いて「本音」に迫ることが重要です。
ステップ2競合分析(ポジショニングマップの活用)
業界内での自社の立ち位置を明確にするために、競合他社と自社を軸にしたポジショニングマップを作成。差別化のポイントや、今後狙うべき市場領域を視覚的に把握します。競合との比較により、自社の強みと弱みも客観視できます。
ステップ3 ターゲットの選定
セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3段階を通じて、誰に向けて何を売るのかを明確化します。さらに、パレートの法則(2割の顧客が8割の成果を生む)を活用して、重点顧客に集中する戦略を立てます。
ステップ4 成功の鍵(KSF)の言語化
成果を出すための決定的要因(Key Success Factor)を明文化します。これは社内の共通認識としても重要で、ブレない軸となります。KSFを言葉にすることで、施策の優先順位や評価基準も明確になります。
ステップ5 カスタマージャーニーの設計
顧客が商品を認知し、購入し、リピートするまでの流れを時系列で整理します。各接点(タッチポイント)でどのような体験が提供できるかを考えることで、施策の抜けや重複を防ぎ、一貫した顧客体験を構築できます。
これら5つのステップは、どれも専門的でありながら、難解にならず「使える形」に落とし込まれている点が特長です。再現性が高く、かつ現場での実行がしやすいため、特にひとりマーケターにとって心強いフレームワークとなっています。
Youメッセージから発想し、顧客体験を高めよう!
「Iメッセージ」から「Youメッセージへ」(堀野正樹)
私が深く共感したのは「IメッセージからYouメッセージへ」という発想の転換です。多くの企業は、自社の強みや技術力を語ります。しかし、それはあくまで発信者視点の「Iメッセージ」です。顧客が知りたいのは、「その商品を使ったら、自分にとってどんな未来が待っているのか?」という「Youメッセージ」。なのですここにマーケティングの本質があります。
「Iメッセージ」は、自分たちが言いたいことを中心に構成されています。たとえば「当社は創業30年の実績があります」「国際特許を取得した最新技術です」といった表現です。もちろん、これらが無意味というわけではありません。しかし、それだけでは「だから私にどう関係があるの?」という疑問が顧客の心に残ってしまいます。
一方で「Youメッセージ」は、“聞き手の立場”を出発点にしています。「この商品を使えば、あなたの毎日の業務時間が50%短縮できます」「このサービスによって、従業員の離職率が半減し、社内の定着率が高まります」といった表現です。ここには、相手の課題に寄り添い、その解決策として自社の価値を提示する姿勢があります。つまり、主語がではなく顧客に変わるのです。
この違いは単なる言葉の選び方ではなく、思考の構造そのものに関わっています。マーケティングは一方的な情報の発信ではなく、顧客との双方向的な対話です。自社視点の押しつけでは、心には届きません。「私はこう思う」ではなく、「あなたにとって、こう変われる」という提案が必要なのです。
本書では、その「Youメッセージ」づくりを支えるフレームとして、6W2Hの視点を活用することを勧めています。6W2Hとは、「誰に(Who)」「何を(What)」「なぜ(Why)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰から誰へ(Whom to Whom)」「どのように(How)」「いくらで(How much)」という8つの観点から、マーケティング施策を設計・点検するフレームワークです。
たとえば「Who=誰に」では、ペルソナ設計が重要です。年齢や性別、職業といった属性だけでなく、価値観や悩み、理想の状態を描くことで、より感情に刺さる訴求が可能になります。
「Why=なぜこの商品なのか」では、顧客の深層心理を掘り下げることがポイントです。人は常に論理だけで行動するわけではありません。むしろ「安心したい」「自分を認められたい」「もっと成長したい」といった根源的な感情や欲求が、行動の背後に隠れています。
つまり、選ばれる理由はスペックではなく、「その商品が自分の人生にどんな意味をもたらしてくれるか」に集約されるのです。
だからこそ、マーケティング施策も顧客の感情や価値観にフィットした形で設計することが重要になります。お客様が「これは私のための商品だ」と感じたとき、初めてその商品は心に届き、選ばれる候補になります。施策の言葉やビジュアル、伝え方のトーンに至るまで、相手の“価値観フィルター”を通じて響く設計が求められるのです。
このように、顧客の無意識にある欲求に焦点を当て、「自分事化」させることで、マーケティングの成功確率は大きく高まります。単なる機能訴求や事実説明だけでなく、「この商品があることで、自分の世界はどう広がるのか?」という未来のストーリーを描けるかどうかが鍵なのです。
さらに「How=どのように届けるか」では、オウンドメディア、SNS、広告、営業など、最適なチャネルと伝え方を設計し、顧客との接点を一貫性あるものにする。
「How much=価格の設計」では、単なる市場相場ではなく、自己実現価値に基づく価格戦略を検討することが求められます。たとえば「この商品を使えば、あなたは今よりももっと自由に、自分らしい人生を送ることができる」という未来に対して、いくらまで支払えるのか。その心理的価値をベースに価格を考えるアプローチです。
加えて、本書ではコンバージョン率を高めるための「心理トリガー」の活用方法も実務レベルで紹介されています。
たとえば、信頼性を高める「権威づけ」、希少性を訴える「限定性」、他者の行動を示す「社会的証明(レビューや実績)」。さらに「損失回避(今行動しないと損をする)」や「ベネフィットの明確化(この商品を選ぶとどんな未来が得られるか)」など、人の無意識に働きかける設計は、行動経済学や認知心理学の知見とも重なり、非常に説得力があります。
これらのトリガーを意図的に施策に組み込み、6W2Hで施策全体のロジックを点検・設計することで、施策は単なる「やってみた」から「成果につながる仕組み」へと昇華していきます。とくに予算も人手も限られる中小企業やベンチャーのひとりマーケターにとっては、無駄を減らし、最短距離で結果を出すための“武器”になるはずです。
また、経営者の視点から特筆すべきなのが「自己実現価値に基づく価格設定」の考え方です。価格は「原価+利益」や「競合との比較」だけでは決まりません。顧客がその商品を通じて「どんな自分になれるのか」「どんな理想を叶えられるか」という未来の実現価値に価格がつくのです。
このように、顧客体験そのものの価値を最大化し、それをわかりやすく言語化して伝えることが、これからのマーケティングにおいては不可欠です。
中小企業やベンチャーのマーケターにとって、結果を出すのは、決して容易なことではありません。社内に相談できる同僚がいない、予算も限られている、マーケティングの専門教育も受けていない。
そうした中で成果を求められる「ひとりマーケター」は、まさに現代ビジネスの最前線で、最も過酷なポジションに立っているともいえるでしょう。
だからこそ、堀野氏が本書で提示している「4つの力」は、ひとりマーケターにとっての羅針盤となります。戦略作成力で全体の道筋を描き、チーム連携力で社内外のリソースを活かし、実践力でROIを最大化し、データ活用力でボトルネックを見つけて改善する。
この4つを意識的に運用するだけで、施策の精度が上がり、結果に直結する確率は飛躍的に高まります。 大切なのは、完璧を目指すのではなく「まずは60点でもいいから始めること」。それが本書のメッセージであり、迷いを振り切って行動に移すための力強い後押しとなってくれます。
限られたリソースの中で、どのように仕組みを整え、顧客と真摯に向き合っていくか――そのヒントと視点が、この一冊には凝縮されています。 本書は、マーケティングの現場で迷いを抱えるすべての方に、「次の一手」を提示してくれる実践的なナビゲーターです。
理論だけでは動けない、経験だけでは突破できない。そんなときにこそ、確かな答えを導いてくれる一冊として、力強く背中を押してくれるはずです。
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