若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義 (高橋暁子)の書評

a person holding a cell phone with social media on the screen

若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義
高橋暁子
講談社

若者はLINEに「。」をつけない  (高橋暁子)の要約

SNSは単なるメッセージのやりとりを超えて、世代や文化によって使い方や受け取り方が大きく変わる「多面的なコミュニケーションの場」になっています。高橋暁子氏は、それぞれの世代が持つ独特な使い方の違いをわかりやすく整理し、世代間のすれ違いを防ぐための具体的なアドバイスを示しています。特に「弱い紐帯の強み」「六次の隔たり」などの理論は、SNSが偶発的な出会いやビジネスチャンスを生む場であることを示しています。

世代間SNSギャップを解決するためのメソッドとは?

SNSにおける公式や問題の解き方を知ることで、これまで解けなかった問題が解ける自分に気づくかもしれません。SNSが難しいわけでは、ないのです。解の公式を知らなかっただけです。(高橋暁子)

「丁寧にメッセージを送ったつもりでも、なぜか相手との距離を感じてしまう」「若い世代とSNSでやり取りすると、反応がどこかそっけない」。こうした漠然とした違和感は、実は表面的なコミュニケーションの問題に留まらず、SNSというプラットフォームが内包するコミュニケーション設計の思想そのものの違いに根差しています。

LINEやX(旧Twitter)に代表されるSNSは、単なるメッセージ交換のツールを超え、世代ごとに異なる情報空間として認識され、利用されています。たとえば、私が2009年に使用していたTwitterと現在のXは、もはや同じプラットフォームとは言えません。それに伴い、投稿の作法も変化させる必要があります。 同じスタンプ、同じ語尾、あるいは同じリアクションであっても、その意味の受け止め方は世代によって大きく異なります。

これは、句読点一つ、絵文字一つに込められたニュアンスが多層的であり、一歩間違えれば意図せぬ誤解を生みかねないことを意味します。例えば、ある世代にとっては丁寧さを示す句読点が、別の世代には堅苦しさや冷たさを与えることがあります。また、絵文字の選び方や使用頻度も、世代間の「常識」に差があるため、意図とは異なる印象を与える可能性も考慮しなければなりません。

以前、共著で出版をご一緒した高橋暁子氏から若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義をご恵贈いただきました。本書では、そうした見えにくいズレを、理論にとどまらず、豊富な具体例を交えながら非常にわかりやすく解きほぐしています。著者の高橋氏は、私たちがSNS上でより良いコミュニケーションを図るためには、まずその“公式”を理解することが鍵だと指摘します。

印象的だったのは、「マルハラ(句点ハラスメント)」という概念です。若者世代にとって、語尾の句点は「冷たい」「圧がある」と受け止められることがあり、大人が好意的に使っているつもりの絵文字も、過剰に使うと「媚びている」と解釈されるリスクがあります。こうしたズレは、言葉の意味だけでなく、文化的な文脈の違いに根差しているのです。

本書では、大人世代と若者世代のLINEの使い方の違いも明確に示されています。大人は「用件があるときに送る」「長文で、句読点・絵文字・顔文字を含む」「非同期型のやりとり」が基本となります。

一方、若者は「用がなくてもやりとりを始める」「短文・句読点なし・スタンプ中心」「リアルタイムのテンポ感を重視」といった傾向があります。この違いを理解せずにコミュニケーションすれば、すれ違いが生じるのは当然と言えます。

実際、私自身もLINEのメッセージに句点を入れたことで、子どもたちから「マルハラ」とからかわれた経験があります。そのとき感じた違和感が、そのまま本のタイトルと重なり、ページをめくる手が止まりませんでした。

ページを追う中で、これまで当たり前のように信じていたSNSの「常識」に自分自身が縛られていたことに気づき、その思い込みが少しずつほどけていくのを感じました。時代が変われば、SNSの公式も変わるのです。SNSは、単なる会話の手段ではなく、多様な価値観が交差するダイナミックな空間であり、視点を変えることで無数のチャンスが眠っていることに気づかされました。

本書の中で特に印象に残ったのは、SNSを単なる情報のやり取りの場ではなく、多様な価値観や考え方が出会い、交差する「出会いの交差点」として捉える視点でした。

高橋氏が提示するのは、現代社会の中でどう人とつながり、どう関係性を築き、その中からいかに新しいチャンスを見つけていくかという実践的な示唆であり、その柔軟で前向きな捉え方に大きな共感を覚えました。

実際、私自身の経験を振り返っても、SNSがきっかけで得た執筆や出版の機会は数多くあります。特筆すべきは、それらの多くが親しい友人ではなく、名前は知っているが頻繁にはやり取りをしていないというような「弱いつながり」から生まれている点です。

本書で紹介されている「弱い紐帯の強み」や「六次の隔たり」といった社会ネットワーク理論は、私がこのブログでも繰り返し紹介している理論でもあり、非常に共感を覚えた部分です。信頼できる近しい関係ももちろん大切ですが、それだけでは得られない新しい情報や偶発的な機会は、むしろ日常の枠を超えた関係性の中にこそ潜んでいます。

SNSは、そうした偶然の出会いや、多様な価値観を持つ人々との対話を可能にする、まさに“社会的イノベーションの空間”なのです。そこはイノベーションの交差点でもあり、他者の投稿に触れることで新たなアイデアが生まれたり、思わぬインスピレーションを得ることも少なくありません。

だからこそ、常にSNSにアンテナを張ることで、思いがけないチャンスに出会える可能性が広がっていくのです。ただ情報を発信する、フォロワーを増やす、それだけでは本質には届きません。

大切なのは、どんな言葉を使うか、相手の文脈をどう読み解くか、そして関係性をどう築いていくかということ。文章力、読解力、コミュニケーション力の3つがバランスよく機能してこそ、SNSは投稿の場から関係性が価値を生む場へと変わっていくと著者は指摘します。

炎上を恐れずにブランドを築くSNS戦略

炎上した場合は、素早い対応が大切です。そのうえで、企業の考えやスタンスを消費者にしんし説明することです。問題ないと考えるのであれば、態度は一貫させ、真摯に対応すべきです。自社に考えがあり、その投稿やCMに問題はないと判断したのであれば、むしろスタンスを一貫させること、誠実な思いを真摯に堂々と伝えることで、自社のファンを増やすことも可能になるのです。

SNSでの炎上は、今やどの企業にとっても他人事ではありません。一度炎上が発生すれば、企業イメージの失墜や顧客離れに直結するリスクをはらみ、広報やマーケティング担当者の多くが日々その可能性に神経をとがらせています。

しかし、高橋氏は「炎上を恐れるのではなく、どう向き合うかが問われている」と指摘します。つまり、炎上は避けるものではなく、乗り越えるべきコミュニケーションの試練であり、その対応次第で企業の信頼性やブランド価値を高めることすら可能なのです。

最も大切なのは初動です。炎上が起きたとき、即時に状況を把握し、企業としてのスタンスを明確にする。対応が遅れることで、企業側の誠意や真剣さが疑われ、さらに炎上が拡大するケースも少なくありません。

とりわけ、現在では多くのユーザーがXを情報の第一報として確認しています。その場で企業が言葉を発しない、何の行動も起こさないという対応は、「無関心」「無責任」といった印象を与え、かえって事態を悪化させる要因となり得ます。

たとえ詳細がまだ不明な段階であっても、「事実を確認中であること」「必要であれば謝罪する意思があること」を明確に伝えるだけで、ユーザーの反応は大きく変わります。問題はすぐに解決できなくても、誠実に向き合っている姿勢が伝わるかどうかが、信頼維持の鍵となるのです。

とはいえ、反応の速さだけでは十分ではありません。その後に続く説明の質が、むしろ企業の本質を映し出します。もし明らかな非がある場合には、事実を隠さず認め、誠意ある謝罪と改善策の提示が不可欠です。そこで問われるのは、言い訳ではなく、責任の取り方です。

一方で、自社の判断が正当であり、発信した内容にも理念に基づいた意図があると確信しているのであれば、安易な撤回や迎合に走るべきではありません。重要なのは一貫性であり、批判があったからといって方針をぶらすのではなく、なぜその発信をしたのか、背景と意味を明確に伝えることが必要です。その誠実な姿勢こそが、消費者との新たな信頼関係を築く基盤になります。

このような一貫した態度で炎上を回避したのが、2023年に話題となったSoup Stock Tokyoの対応です。同社は、離乳食の無料提供を全店舗で実施するという方針を打ち出した際、「子連れが増えて店内が騒がしくなるのでは」「独身を切り捨てるのか」といった批判的な声に直面しました。

通常であれば、こうした否定的反応を受けて方針を再考する企業も少なくない中、Soup Stock Tokyoは企業理念に基づいた明確な声明を発表し、「すべての人の体温をあげる」という創業の精神を再確認しました。そして、「Soup Stock Tokyoは誰のものでもない」という言葉で、多様な客層に開かれた場であることを改めて表明したのです。

この対応は、単なる火消しではなく、ブランドの哲学を社会に向けて発信する契機となりました。「理念に感動した」「応援したい」といった声が広がり、ネガティブな反応をはるかに上回る共感を獲得しました。結果として、多くの人がその姿勢を支持する形で店舗を訪れ、ブランドの信頼性をより強固なものにしました。

実際、SNS運用で人気を博すシャープやタニタのような企業アカウントも、これまで何度も「プチ炎上」を経験していると言います。

しかし、それが致命的なダメージに至らないのは、いずれも自社の考えを明確に持ち、外部の声にただ迎合するのではなく、一貫した対応を取り続けているからです。共感や許容を得るのは、必ずしも“完璧な正しさ”ではなく、ブレない姿勢です。

現代のユーザーは、投稿そのものだけでなく、その裏側にある企業の思想や論理を見ています。少々の失言や誤解が生じたとしても、それが悪意や無責任から出たものでなければ、多くの人は真意を汲み取ろうとします。

むしろ、対話を通じて透明性を示すことが、ファンを育て、ブランドへの信頼を深めていく道筋となるのです。 炎上は企業にとって痛手ではありますが、それをきっかけにブランドとしての立ち位置を再確認し、社会との対話を深める貴重な機会にもなり得ます。

大切なのは、企業が何を恐れるかではなく、何を信じ、どう語るか。その軸がぶれない限り、炎上は恐れる対象ではなく、信頼構築のプロセスの一部として乗り越えることができるのです。

SNSはもはや「避けるべき場」ではなく、「戦略的に活用すべき資産」です。情報収集、意見の可視化、共感の伝播といった機能を活用すれば、ビジネスでの信頼構築やパーソナルブランディング、さらには世代間ギャップの橋渡しにも寄与します。 プライベートでも、メッセージの読み方や投稿のニュアンスを知ることで、人間関係の質が飛躍的に変わる可能性を秘めています。

今やSNSは、これからの社会を生き抜くための基盤と捉えるべきです。正しく理解し、適切に使うことができれば、時代の流れに取り残されず、むしろリードする存在になれます。

SNSは敵ではありません。むしろ理解すれば、それほど力強い味方はいないのです。必要なのは、その構造と文脈を読み解くリテラシーを身につけ、実践することです。

本書は、複雑化したSNS環境の中で、私たちがどのように読み、どのように応答し、どのように機会を広げていけるかを教えてくれる、SNS時代の対話の教科書としてお勧めしたい一冊です。

最強Appleフレームワーク
この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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