消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測の書評

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消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測
博報堂生活総合研究所
集英社

消齢化社会の要約

現在、日本人の価値観や趣向における年齢の違いが徐々に薄れてきています。この消齢化社会では従来のデモグラフィック属性に基づいたマーケティングは、効果を期待できなくなりそうです。今後は世代を超えたタテ串の考え方や共感を引き起こす要素、共有可能な価値観を取り入れたマーケティング戦略が必要となるでしょう。

消齢化社会とは何か?

我々は間もなく平均年齢が50歳になる日本を、「消齢化社会」と名付けてみました。(博報堂生活総合研究所)

博報堂生活総合研究所消齢化社会を「生活者の意識や好み、価値観などについて、年齢による違いが小さくなる現象が進んでいる社会」と定義します。

現代の日本では、高齢化が進み、平均寿命も延びています。その結果、65歳以上の人口が増え、平均年齢も上昇しています。このような状況下で、年齢による差が小さくなる消齢化社会が到来することが予測されています。 

例えば、若年層と高齢層の間での消費行動やライフスタイルの違いが少なくなり、共通の価値観や嗜好が形成される傾向があります。これは、社会全体の年齢構成が均質化されることを意味します。 それに伴って「年相応」のステレオタイプや固定観念が崩れつつあります。

消齢化社会の背景には以下の3つの理由があります。
・能力の変化
昔に比べて、高齢者でもフィジカルな活動や知的な仕事ができるようになりました。医療技術の進化や生活環境の改善、教育の普及により、年齢を超えた多様な能力を持った人々が増えてきました。

・価値観の変革
社会的な価値観や規範が多様化し、「すべき」とされることが減ってきました。それぞれの人が自分らしい生き方や価値観を持つことが認められるようになったのです。

・嗜好や関心の共通化
昔の「年相応」とされることから解放され、若い世代と高齢者が共通の興味や趣味を共有することが増えてきました。例えば、音楽、映画、ファッションなど多くの分野で年齢を超えた共通の興味を持つ人々が増えてきています。

実際、私も今年60歳になりますが、洋服はUnited ArrowsやBeamsで買いますし、ロックやR&Bのライブにもいきますから、昔の還暦とは異なるライフスタイルを送っています。

このような背景から、年齢という一つの指標に囚われることなく、人々は自分の「できる」ことや「したい」ことを追求する時代になってきました。これは、社会全体がより多様性を受け入れ、個々の能力や興味を重視する方向に進んでいることを示しています。

10年後の2032年には、消齢化がますます進みそうです。博報堂生活総合研究所のコウホート分析によると、人々の価値観や好みにおける年齢差は徐々に縮小し、その変化の中心にはテクノロジーの進化が位置しています。デジタル技術やAIの普及が、高齢者も含めて誰もが新しい知識や技術を身につける可能性を増大させる一方で、団塊世代の社会からの退出は、日本の文化や価値観に新しい変化をもたらすことでしょう。

消齢化社会の4つの未来仮説

博報堂生活総合研究所は消齢化社会の4つの未来仮説を立てています。
【未来仮説1】消齢化で「個人の生き方」が変わる
消齢化は個人の生き方にも大きな影響を及ぼします。今後以下の4つの変化が起こりそうです。
・生き方の”脱デモグラ”が加速
これまで社会は「年相応」や「適齢期」の枠に囚われてきましたが、消齢化の進行と共に、年齢に紐づく一般的なイメージや期待から解放されることでしょう。年齢や性別といったデモグラフィック特性から解放された新しい生き方が広がることが予想されます。

・個人の属性を気分で変える時代へ
年齢を基準としたライフステージの概念が曖昧になる中、任意の時期にキャリアチェンジや新しい学びを追求する人が増えるでしょう。デジタル技術を利用して、自身のアバターやデジタルIDを変更することも可能となり、多様な生き方が実現されることが考えられます。

・「実質年齢」への関心の高まり
年齢という数字だけではなく、体の状態や心の状態を示す「実質年齢」が重要となります。健康状態や能力、精神状態を総合的に評価した年齢が、新たな基準として認識されるようになるかもしれません。

・「実質年齢」を基準とした新しいサービスの登場
企業や行政は実質年齢をもとにした新しいサービスを展開することが考えられます。例として、体力や能力を考慮した保険料の設定や、実務能力を元にした就職・定年の判断が行われるかもしれません。こうした取り組みにより、年齢だけでなく実質的な能力や状態を基準にした柔軟な社会が形成される可能性があります。

【未来仮説2】消齢化で「人との関わり方」が変わる
・わかりあえるを基盤にした新たな人間関係

・対話を促す仕組みづくりが活発に

・重みを増す「真ん中」の人々
消齢化の進行とともに、コミュニティ内の中間層の価値観が基準として重要になってきます。異なる背景を持つ人々が円滑にコミュニケーションするためには、この中間層が翻訳者のような役割を果たすことが効果的です。

・「ミドラー」が躍進する社会へ

【未来仮説3】消齢化で社会構造が変わる
・社会全体で進む「デモグラ」離れ

・捉え直しの好機がやってくる(脱デモグラ視点で社会を見直す)

・地域格差は緩和に向かう(高齢層の中にも実質的な若者が見つかる)

・地域の「同じ」に着目した動きが加速する(地域コミュニティ同士の協調が活発になる)

【未来仮説4】消齢化で市場が変わる
・「タテ串」の発想こそが、有効
従来の年代ごとの考え方(ヨコ串)を取り払い、さまざまな年代を縦断的につなげる「タテ串」のアプローチが、今後の時代においてますます効果的となるでしょう。

・商品戦略の「タテ串」再編が始まる
「タテ串」思考で商品戦略を再編する動きが見受けられるようになります。この考え方に基づき市場を分析すると、新たな変化が浮き彫りとなります。

例えば、従来の店舗やモールのフロア構成が、特定の年代や性別に基づいたゾーニングから、縦断的な「タテ串フロア」に変わることが考えられます。そして、これまでの「親子コーデ」や「母娘旅行」など、2世代をターゲットとした消費の形も変化。

祖父母、親、子どもを一気に対象とした「3世代消費」や「3世代シェア」の可能性が広がってきます。 さらに、消費者個人へのアプローチも進化します。若い時期から取り入れてもらい、高齢になっても継続的に利用してもらえる「超ライフ・タイム・バリュー(SLTV)戦略」の重要性が高まってきます。

このSLTV戦略を最大限に活かすために、様々な年代の方々が使用しやすい、シンプルかつ汎用性の高い「超ユニバーサル商品」の開発に注力する企業も増えるでしょう。 

消齢化の波は、私たちの生き方や価値観、社会のシステムを根底から変える可能性があるのです。この変化を受け入れ、それぞれの人生をより豊かにするための新しい方法を模索することが、未来の私たちにとっての新たな課題となるでしょう。 

・商品訴求の軸足は「同じ」にシフトする
生活者同士の「違い」を掘り下げて、それに合わせて細かく商品の機能価値や情緒価値を検討していくアプローチよりも、年齢も見た目もバラバラな 生活者の中に大きな「同じ」を探し出し、広く訴求するアプローチにこそチャンスが広がっていくでしょう。

・「同じを楽しむ」ニーズが新市場に(記号型ファッション・ルーティンの共時化サービスなど)
消齢化社会の到来により、さまざまな社会的変化がもたらされることが予想されます。例えば、商品やサービスの需要や傾向が変化する可能性があります。

価値観の差が世代間で減少すると、従来の「セグメント」というマーケティング手法の有効性が低下します。一方で、これは異なる世代間の境界がなくなり、より広大な一つのマーケットが形成されることを意味します。これにより、企業は特定の層に焦点を当てるのではなく、より幅広い層に向けた包括的な戦略を採る必要が出てきます。この変革は、新しい商品開発やブランドメッセージの策定に大きな影響をもたらすでしょう。

本書にはさまざまな知識人の考えが紹介されていますが、特に、集英社「少年ジャンプ+」編集長 細野修平氏の「作品が消齢化すればヒットした」という言葉が印象に残りました。年齢や性別を超えた消齢化が、マーケットでの成功の証になりそうです。マーケティングは今後、脱デモグラとなり、ますます共感型にシフトしていくはずです。


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