ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング(鈴木祐)の書評

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ヒトが持つ8つの本能に刺さる 進化論マーケティング
鈴木祐
すばる舎

本書の要約

人間の欲望を徹底的に問い直し、顧客体験を高める心理的マーケティングを活用することで、モノやサービスが売れるようになります。8つの基礎本能を使って、自社の商品やサービスが刺さる本能を見極めたり本能の種類を増やすことで、売上がアップします。SEIQのフレームワークを使い倒すことで、イノベーションも起こせるようになります。

進化論マーケティングとは何か?

もともと、“商売”という営みは、何らかのモノやサービスによって、私たち人類の欲求を満たそうとする体系的な試みにほかなりません。となれば、ヒトの欲望をできるだけ精密に理解できた者ほど、大きな利益を得やすいのは当然でしょう。(鈴木祐)  

サイエンスライター・作家の鈴木祐氏は、「進化論マーケティング」を活用し、人間の欲望を徹底的に問い直すことで、モノやサービスが売れるようになると言います。ダーウィンが生み出した進化論の考え方をビジネスに応用し、人類史を原始の時代にまでさかのぼった上で、人間の欲望について問い直すことが進化論マーケティングの特徴になります。

良いモノさえ作れば売れた高度成長期とは異なり、若者は既存のマーケティングに対してシビアな目を向けています。「20代の若者の84%は広告を信用していない」といったデータもある中、既存の常識でマーケティングを行うのではなく、人間の欲求についての深堀りを行いましょう。

ユーザーの表面的な欲求だけを追うのをやめ、人間の本当の欲求に立ち返り、マーケティングを行います。モノを売る行為とは、「私たちの欲望はどこから来たのか?」を考えることなのです。

私たちが商品を買う理由の奥を探り、人類が持つ“究極のモチベーション”を探ることこそが、進化論的なアプローチの最重要ポイントとなります。

「消費者は自分の欲しいものをよくわかっていない」と考え、心の奥底にある欲求を人間の本能から深堀りすべきです。

人の欲望を生み出す本能は以下の8つに整理できます。
1 安らぐ・・・心身の危険から離れて不安や恐怖から逃れたい本能
2 進める・・・明確なゴールを設定し、それをクリアしたい本能
3 決する・・・自分の行動や目標を自分で決めて実行したい本能
4 有する・・・生存に役立つ物や情報を蓄積したい本能
5 属する・・・特定のグループやコミュニティに入りたい本能
6 高める・・・特定の集団のなかでより上の地位につきたい本能
7 伝える・・・周囲の人間に自分の特性をアピールしたい本能
8 物語る・・・自分の人生に大きな意味を感じたい本能

8つの基礎本能を使って、自社の商品やサービスが刺さる本能を見極め、刺さる本能の種類を増やすことで、売上をアップできるようになります。

私たちが祖先から受け継いだ本能は、現代人の買い物にも影響をおよぼしていることがわかってきました。10万円のシャツや100万円の時計、1000万円の指輪などの高級品を購入する背景には、「性的シグナル機能」があります。異性からモテたいという気持ちが、人を高級品に走らせるのです。

多くのユーザーから「4つ以上の欲望を満たしている」と判断された企業は、「何も満たしていない」と判断された企業よりも売り上げの増加率が約400%も高く、顧客が商品に対して感じる「信頼」や「愛着」のスコアにいたっては、2,000%を超す開きが認められたと言います。

例えば、高級車を売りたい場合には、以下の本能に刺さるメッセージを開発し、組み合わせるようにしましょう。
・高い車で自分の魅力をアピールし、それによって生殖の確率を高めたい(伝える本能)
・高い車で資産を強調し、周囲から尊敬されたい(高める本能)
・高い車はブレーキ性能が良いので、身の安全を守ることができる(安らぐ本能) 

SEIQの7つの質問でイノベーションを起こそう!

以下8るの欲求を細分化した「二次本能スコアボード」を使うとより顧客の欲求を満たす商品やサービスを提供できるようになります。

「没入アプローチ」と「共感マップ」によって、顧客との距離が縮まり、顧客の欲求の解像度が上がります。
●没入アプローチ
・ユーザーの属性を明確にする
・できるだけその人に近い暮らしをする

●共感マップ
特定の人物(ペルソナ)をイメージしながら、その人の思考と感情について考えます。

ストラテジストのビル・オコナーは、カリフォルニア大学バークレー校との共同研究で「SEIQ」という質問のフレームワークを開発しました。SEIQは「イノベーションに欠かせない7つの本質的な質問」(The Seven Essential Innovation Questions)の略になります。

SEIQの問いは、新たな価値を生み出す大きな力を持ちます。いずれの質問も人類の発明史を貫く共通のパターンであり、私たちの祖先は、みな似たような思考法を使って偉大な成果を成し遂げてきたのです。

彼らは人類の歴史を旧石器時代から洗い直し、現代までに世に出た発明のなかで影響力が大きかったものを1000種類近くも選別しました。通貨、カメラ、コンピューター、インターネット、ジャズ、フェイスブックなどのイノベーションが生まれた背景に共通するパターンを約60種類にまで集約したうえで、それぞれを7つの質問としてまとめました。

以下のSEIQの7つの質問に答えることで、イノベーションを起こしやすくなります。
1. 私の商品を新たな視点で見ることは可能だろうか?
2. 私の商品を新しい方法で使うことはできるか?
3. 私の商品が機能する時間や場所を変えることはできるだろうか?
4. 私の商品に何かを新たに結びつけることができるだろうか?
5. 私の商品のデザインや性能を変えることはできないだろうか?
6. 私の商品に“新しさ”を感じるものを加えられないだろうか?
7. 私の商品のまったく違う価値を想像できないだろうか?

企業が消費者をコントロールできたのは、情報の少なさを武器にできた大昔の話で、何か隠し事があるとすぐに顧客にバレてしまいます。競合との争いが激しくなる中、売上をアップするためのLTV(Life Time Value)という指標が重視されています。

顧客の企業に対する愛着度を高めること、より長期間、継続して利用してくれる顧客ほど、LTVの値が高くなります。LTVを高めるためには、顧客から支持されるためのブランド力と信頼が欠かせなくなっています。企業は欲求を深堀りしながら、顧客体験を高める施策を行うと同時に、顧客からの信頼を勝ち得るために、誠実さを追求する必要があります。

顧客の欲求を深堀りし、商品やサービスの魅力を高め、顧客の体験を高めることで売上と利益がアップします。人の本能からマーケティングを行う「進化論マーケティング」を実践し、売上げアップを目指しましょう。


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