「居場所がない」人たち ~超ソロ社会における幸福のコミュニティ論~(荒川和久)の書評

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「居場所がない」人たち ~超ソロ社会における幸福のコミュニティ論~
荒川和久
小学館

「居場所がない」人たち(荒川和久)の要約

「所属するコミュニティ」は、周囲に知られ、理解される安心感を提供します。一方で、「接続するコミュニティ」は未知の人々との「無の関係性」から始まり、その中で人と対話することで、自己の内面を活性化させる経験となります。これを繰り返すことで、自分の可能性を広げられます。

人口減少時代のソロ社会の現実

今まで長生きしてきた高齢者たちが毎年150万人以上50年連続で死んでいく多死時代に突入する。日本の出生は今後も最大で年間約80万人程度だとするなら、生まれてくる数の倍の死亡者がいることになる。人口が減るのは当然なのだ。実際、2100年には日本の人口は今の半分に減るだろう。(荒川和久)

日本は現在、高齢者の死亡率が急増している多死時代に突入しています。毎年150万人以上の高齢者が亡くなり、この傾向は今後50年間続くと予想されています。一方で、日本の年間出生数は約80万人程度と推定されており、死亡者数が出生数の約2倍に達しています。

このため、日本の人口は急速に減少しており、2100年までに現在の半分に減少すると予測されています。さらに、結婚を選択する人が減少することにより、ソロ社会が形成されつつあります。

「ソロ社会」という現象は、未婚化、少子化、そして高齢者の増加による多死化の3つの要因によって避けられない現実となっています。これは単に子どもの数が減るだけでなく、家族の数自体が減少することを意味します。結婚の減少と出生率の低下は自然な結果であり、その結果、単身世帯や独身者の数が増加しています。

これはまさに社会の個人化の現れであり、この傾向がしばらく続きそうです。政府の人口政策だけでは対処できない問題です。

荒川和久氏は本書で、個人化が進む現代社会において、居場所の見つけにくさとそれがもたらす幸福度の問題に焦点を当てています。2040年には独身者が5割になると予測され、超ソロ社会が到来すると言われています。このような社会で、私たちは家族や職場、地域以外にどのようなつながりを築いて、幸福度を高めることができるのでしょうか。

激減した夫婦と子世帯のかわりに、大幅に増えているのが一人暮らしの単身世帯(ソロ世帯)である。社人研の2018年時点の推計によれば、2040年には39%が単身世帯となると推計されていたが、2020年国勢調査ですでに38%にまで増えている。このままなら、2040年を待たずして、40%を超えるだろう。反対に、同推計では「夫婦と子」の家族世帯は2040年には23%にまで下がるとされていたわけであるが、こちらも最悪20%を切ることもあり得る。

著者は、日本の人口減少に対する現実的な対応を提案しています。政府や私たちが現実を直視し、「人口は減り続ける」という事実を受け入れ、それに基づいた適応戦略を考える必要があると主張しています。人口が現在の半分、約6000万人に減少する未来を恐れたり、危機と捉えたりするだけでは未来は変わらないと言います。

代わりに、これを「恐ろしい未来」ではなく「当然やってくる未来」と捉え、6000万人の人口で成り立つ社会の道筋を構築することが重要だとしています。このような視点と考え方へのシフトが、これからの日本にとって重要であると述べています。

本書では、年齢を重ねるごとに「居場所」を見つける難しさや、時には「居場所がない」と感じることがある現実を取り上げつつ、居場所がない状況でも幸福感を見つける方法を提案しています。

私たちは他者とのつながりを求める生き物であり、個人主義が進む社会でも他者とのつながりが重要です。著者は、そんな状況下でコミュニティを形成し、幸福を感じる方法を示しています。

しあわせを生み出す接続するコミュニティとは?

しあわせとは「人との接点・つながり」であり、つながった人と何をするのかが問われているのだ。いい換えれば、状態にしあわせはない。行動してしあわせを生み出すということである。

荒川氏は、従来の「居場所」への執着から離れ、「接続する」関係や「出場所」という新しい概念を提唱しています。これは、個人が自由に選択し、多様な人々と繋がることが可能なコミュニティの形を指しています。家族に限らず、血縁や同居、常時の一緒にいることがなくても、必要に応じて、場面に応じてつながり、互いに助け合うことができる関係性です。

著者は、このような「接続する家族」という新しいコミュニティの形が、現代社会において必要であると考えています。この視点は、人々が自分の能力の範囲内で他者との関係を築き、支え合うことを重視しています。

ソロ社会という状況の中で、私たちは家族や職場、地域といった従来の居場所だけに頼るのではなく、新たなつながりを築くことが求められています。 荒川氏は、例えば趣味やインターネットを通じたコミュニティ、ボランティア活動、教育機関など、さまざまな場所や関係性を通じて自分自身を表現し、多様な人々との交流を深めることを提案しています。

米国の社会学者マーク・グラノヴエッターは「弱い紐帯の強さ」を提唱している。常に一緒にいる強い絆の間柄より、いつものメンバーとは違う弱いつながりの人たちの方が、有益で新規性の高い情報や刺激を得られやすいというものである。「弱い紐帯」とは「接続するコミュニティ」そのものである。

このブログで何度も取り上げている「弱い紐帯」はまさに「接続するコミュニティ」です。(マーク・グラノヴェッターの関連記事

10年以上私は書評ブログで情報発信を続けてきましたが、ここからさまざまな出会いをデザインしてきました。書くこと、旅すること、イベントで講演することなどから、「接続するコミュニティ」をつくり続けてきたのです。

このようなつながり(接続するコミュニティ)を通じて、私たちは自己成長や新たな価値観の獲得、人間関係の充実を実現できるのです。

「所属するコミュニティ」は、周囲に知られ、理解される安心感を提供します。一方で、「接続するコミュニティ」は未知の人々との「無の関係性」から始まり、その中で人と対話することで、自己の内面を活性化させる経験となります。

著者は、単に安心な居場所を求めるのではなく、多くの接続点を持つことの重要性を強調しています。自分自身の「出場所」を作り、他者や異なる経験との出会いを通じて、内面に新たなコミュニティを築くことを提案しています。行動することで自分の内面に積み重ねられる「インサイドコミュニティ」を形成することで、新たな自己発見と精神的自立の証を得られます。

荒川氏は、自分自身の幸福を追求することは個々の自由であり、他者の価値観に縛られる必要はないと述べています。私たちは自分自身の幸福を見つけるために、自分の内に眠る多様性や可能性に目を向けたほうがよさそうです。


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