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政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す
著者:南彰
出版社:朝日新聞出版
本書の要約
総理大臣や政治家だけでなく、メディアへの不信感が高まっています。総理の記者会見では、事前に質問が総理に渡され、回答が準備される出来レースが続き、国民はメディアに怒りすら感じています。メディアと政権との関係を元に戻さないと、民主主義は間違いなく危機に陥ります。
政治家の共犯者?新聞社の政治部の問題点
繰り返しになるが、権力は情報を統制しようとする。それに抗って、事実を国民に知らせるのがメディアの役割だが、官邸記者クラブ常駐組は記者会見を「官邸記者クラブ主催の総理慰労会」にすることで、その役割を放棄している。それは、情報統制の「共犯者」と言うほかにない。(立岩陽一郎)
新型コロナ・ウイルスの第二波が疑われる中、政策を議論する場である国会が閉会しています。総理大臣の記者会見も行われず、日本の政治は機能不全に陥っています。優先事項や重要事項よりも政治家や取り巻きの利権が重視され、アベノマスクやGo to キャンペーンなど意味のない施策に税金が投入されています。政策の失敗だけでなく、森友問題や桜を見る会など総理の疑惑が次々明らかになっていますが、官僚は総理に忖度し、情報が隠蔽され続けています。この8年間で日本の民主主義は破壊されてしまったのです。
本来であれば、第4の権力であるメディアが政権を監視すべきですが、政治部の記者たちは疑惑の渦中にいる首相を質すことなく、追求を諦めています。一ヶ月前に行われた総理の記者会見もプロンプターを使った朗読会でしかなく、記者クラブのメンバーからは厳しい質問はされませんでした。一方、イギリスのジョンソン首相はBBCのローラ・クンスバーグ政治編集長のインタビューのなかで、新型コロナウイルスの感染が拡大していた「最初の数週間や数カ月間、(ウイルスを)十分に理解していなかった」と自分の過ちを認めました。クンスバーグ氏は何度も質問を繰り返し、ジョンソン首相を追い詰め、反省の言葉を引き出したのです。欧米のメディアは政治家に臆することなく、政権を批判しますが、日本の記者は総理への質問を自主規制しています。
政治部不信 権力とメディアの関係を問い直すの著者の南彰氏は新聞労連の委員長で、朝日新聞の政治部で記者をしていました。その南氏は現在の政治とメディアの関係は危機的な状況になっていると指摘します。政治家への不信だけでなく、メディアに対する不信感もSNS上にあふれています。権力を監視するはずのメディアが、自らの役割を放棄している中で、著者は政治部の記者の問題点を明らかにしていきます。
最近の総理の記者会見においては、記者から事前に質問が総理に渡され、回答が準備される出来レースが続いています。アメリカのホワイトハウスで取材を重ねてきた朝日新聞の尾形聡彦氏は次のように問題点を指摘します。
これは明らかな出来レースで、癒着です。世界的に見ても記者倫理を逸脱した恥ずべき行為です。そもそも公の会見の質問を事前に教え、会見ではあたかも初めて聞くように演技していること自体が読者・視聴者を騙す裏切り行為です。(尾形聡彦)
台本が決まっているなら、記者会見とは言えず、私たちの知る権利を政府と記者クラブが奪っているのです。政治部の記者が政治家の共犯者であることが、メディア全体の不信感を生んでいます。自主規制は記者が最もやってはいけない行動で、政治家の横暴を質さない記者たちは政治家の広報担当でしかありません。
メディアは取材メモやプロセスをオープンにすべき!
記者会見は政治家が何を考えているのかを公に示す場であり、人々が理解しやすいように記者が専門性を生かして質問する場だが、大手メディアの人間が自分たちの特権を守るために、異質な存在を入れないようにしている。「異質な存在」とは、フリーランスの記者たちや、男性が大多数を占めるメディア業界では異端である女性記者たち。話が通じる”内輪”のメンバーで情報を独占しようとする慣習や仕組みが、長い間うまく機能してきてしまったことが今の状況の元凶だと思う。それに限界を感じている記者たちもいる。(小島慶子)
安倍政権以前の民主党は記者会見をオープン化してきましたが、第2次安倍政権になってから、記者会見は形骸化しています。メディアと政権が馴れ合い、共犯関係を作ることで、日本の民主主義は危機に陥っています。
今、香港で起きていることは、私たち日本人にとっても決して他人事ではありません。香港の現在を私たちの未来にさせないために、メディアと国民は政治家に正しい質問を投げかけるべきです。真実を追求するジャーナリズムがしっかりと取材で取材できる環境を守ために、国民は選挙を通じて、政治家の行動にブレーキをかける必要があります。
コロナ禍のなかで、安倍政権が間違った政策を実施していますが、この政権が聞く耳を持たないために、多くの日本人が不安を感じています。ジャレド・ダイアモンドが指摘するように、政治を変えるために、私たちは投票に行くことをやめてはいけません。
自分が優秀な候補者であると判断した人がいれば、十人の友人を説得する。その十人がそれぞれ十人ずつ説得すれば、百人説得したことになります。それが選挙の結果を変えるかもしれません。危機を乗り越えるためにあなたができる最も効果的なことはまともな政治のために投票に行くことなのです。(ジャレド・ダイヤモンド)
評論家の荻上チキ氏は、記者会見や国会で各社が同じメモを作るのは効率的でないと指摘します。さらに、公権力が保管・公開する会見や議事録についても消去や回収の可能性を危惧し、「記者会見のメモは共有財産」とメディアや在野が共同して記録する重要性を説いています。
そのうえで、将来のメディアのあり方について、4つの提案をしています。
①リアルタイムでの情報伝達
②在野から検討できるよう記録
③研究できるよう動画をテキスト化
④グラフ化や特集を提案。
読者が検証可能なデータベースがあってこそ、報道に信頼性が出てくることは間違いありません。メディアが所有する情報と取材プロセスをオープンにすることで、政治家や官僚の態度を変えられます。著者の南氏は、第2次世界大戦の敗戦時と同じように、メディアの刷新が必要だと言います。メディアは自主規制をやめ、今こそ、フリーランスや専門家、市民と幅広く連携し、情報発信をオープンに行うべきです。
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