キャス・サンスティーン&ルチア・ライシュのデータで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」の書評


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データで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」
著者:キャス・サンスティーン&ルチア・ライシュ
出版社:日経BP

本書の要約

リマインダーや看板などの「ナッジ(nudge)」をうまく活用することで、私たちはより良い行動を選択できます。目的が不正な場合や大半の選択者の利益か価値観のいずれと一致しないと見られるナッジには反対意見を持つことがわかっていますから、適切な情報設計を行い、課題を解決すべきです。

人の行動を左右する「ナッジ」とは何か?

「ナッジ」とは、「一人ひとりが自分自身で判断してどうするかを選択する自由も残しながら、人々を特定の方向に導く介入」といえる。(キャス・サンスティーン&ルチア・ライシュ)

「ナッジ(nudge)」をうまく活用することで、私たちはより良い行動を選択できます。「明日は病院の予約が入っています」というリマインダーはナッジですし、工事を教えてくれる看板もナッジです。GPS付きのナビゲーション装置、デフォルトルール(何もしなければどのようになるかを定めているもの・初期設定)もナッジになります。重要情報(喫煙のリスクや借り入れコストに関する情報)の開示や「明日はもっと貯金しよう」プラン(SMarTプランもナッジに当たります。

ナッジは表現の仕方やその目的によって、評価が変わります。著者の2人は、各国のナッジを比較し、どんな働きかけ(ナッジ)には素直に応じやすいのか?どんな仕組み(ナッジ)には違和感を持つのか?どうすれば、行動が変わるのか?を解き明かします。

(1)目的が不正であると見なされるもの
(2)大半の選択者の利益か価値観のいずれと一致しないと見られているもの
に人々は反対意見を持ちます。

著者らは、ナッジの5つの教訓を導きだします。
教訓1 さまざまな国の市民は、少なくとも近年に採用されているか、真剣に検討されている種類については、ナッジをおおむね支持している。
教訓2 男性の姓を自動的に妻の姓に変えるようにするデフォルトルールのように、大半の選択者の利益や価値観に合わないと感じるナッジを市民は支持しない。
教訓3 宗教的や政治的に偏向しているなど、目的が正当ではないと感じるナッジを市民は支持しない。
教訓4 市民は操作に反対するが、サブリミナル広告のケースでは反対意見が多いが、圧倒的ではない。
教訓5 支持政党は、今回テストされたナッジに市民がどう反応するかを予測する因子としては総じて弱い。支持政党の方針の違いにより、ナッジへの評価は、はっきりとした差が認められなかった。

各国のデータを比較する中で、民主主義国家はナッジを支持していますが、日本が例外であることがわかります。ハンガリーと日本は政府に対する信頼の欠如で、政府による健康や交通ルールに関するキャンペーンに対して懐疑的な人が多く見られたのです。信頼を得る一番の方法は、信頼を得る努力を続けることです。

ナッジは本当に効果があるのか?

行動情報を活用するアプローチはナッジに限られたことではないのは事実である。命令も、禁止も、インセンティブも、行動科学によって正当化できるだろう。行動科学の知見に基づく政策プログラムには、ナッジ以外にも選択肢がある。また、一部のナッジは小さな変化しか生み出さないことも事実である。

ナッジが大きな効果をあげられないという指摘もありますが、さまざまな領域で、ナッジは他の種類の介入よりも費用便益がはるかに高いことが証明されてます。かけた費用1ドルあたりのインパクトが大きかったナッジがいくつもあることを忘れてはいけません。

効果が大きいナッジ、例えば、無償学校給食プログラムに自動加入がとりいれられた結果、アメリカの貧しい家庭の子ども1100万人以上に、1学年度を通じて朝食と昼食が無償で提供されています。クレジットカード規制法が2010年に施行されることで、アメリカの消費者は年間100億ドル以上を節約しています。こうした効果のかなりの部分がナッジとナッジ型の介入から生まれているのです。

貯蓄については、年金プログラムへの自動加入が採用されて、加 入率が大幅に上がっています。いま初期段階にあるか議論されている新しいナッジも、大きなインパクトをもたらす可能性がああります。温室効果ガスの排出を減らすことが目標であれば、グリーンエネルギーへの自動加入をとり4れると、数多くの国で大きな効果をあげられるだろうと著者らは指摘します。

所得税額控除制度や類似の制度は、世界的に見ても非常に効果が高い貧困対策プログラムの一つにあげられますが、制度を利用していない対象者が大勢いいます。これを自動加入方式にすれば、何百万人もの生活が大きく改善するはずです。

もちろん、世界が直面している問題は無数にあり、ナッジだけではとうてい足りません。ナッジでは、貧困や失業、腐敗をなくすことはできなませんが、税金、補助金、命令、禁止を問わず、一つの施策だけで大きな問題を解決できるわけではありません。ナッジによって、問題をほんの少し前進させるだけでも、大きな成果が得られます。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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