ビジネス新・教養講座 テクノロジーの教科書
著者:山本康正
出版社:日経BP
本書の要約
インターネットの出現で、ハードウェアは常にソフトウェアを更新できるようになりました。テスラはおよそ半年ごとに新しい機能が追加され、顧客はその度に新たな顧客体験を得ています。日本メーカーもCXを高めるための施策を顧客に提案しなければ、負け組になる可能性が高まっています。
テスラの強みはソフトウェアのアップデート
インターネットの出現で、ハードウェアは常にソフトウェアを更新できるようになりました。例えばスマートフォンの「iPhone」は毎年ですし、電気自動車のテスラはおよそ半年ごとに新しい機能(自動運転関連も含む)が追加されていきます。(山本康正)
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストとして活躍する著者・山本康正氏の新刊は、新聞や雑誌の連載をまとめたもので、最新のテクノロジーやイノベーションについてわかりやすく語られています。ブロックチェーン、AI、サブスク、5Gなど多岐にわたるテクノロジーが解説されていますが、今日はテスラの強みについて考えてみたいと思います。
テスラのEVに対しての評価は日本車メーカーに比べ、「質的に劣る」と言われていますが、テスラの価値は購入後のCXにあります。iPhoneはアプリストアから次々とリリースされるアプリが顧客満足度を高めました。テスラの場合はショッピングモール内の便利なところに優先的に配置されている専用充電ステーションや、半自動運転をはじめとする最新の機能を追加してくれるアップデートが強みになっています。テスラ車を購入した後の体験の一つひとつが顧客満足度を高めているのです。
EVはガソリン車よりもパーツ点数が大幅に少ないため参入の障壁が低く、英家電大手ダイソンもEVを開発すると発表しています。日本企業は既存のガソリン車とのカニバリゼーションが起こるため、EVや自動運転技術への対応が遅れています。
各企業に求められるのは、「うちでも作れる」という能力の問題以前に、顧客が満足する体験をいち早く届けるという姿勢です。そのためには自社の可動範囲を考えたうえで外の企業と提携することや、手元資金が多い企業の場合は買収も貴重な選択肢となります。
インターネットの出現で、ハードウェアは常にソフトウェアを更新できるようになりました。テスラはおよそ半年ごとに新しい機能(自動運転関連も含む)が追加され、顧客はその度に新たな顧客体験を得ています。今後は購入後にソフトウェアがアップデートされるビジネスモデルが当たり前になる中、日本の自動車メーカーは競争力を失っていく可能性があります。顧客が使い続けることで収益を高める仕組みを日本メーカーも導入する必要があります。
日本の自動車メーカーがやるべきこと
イーロン・マスクは電気自動車や自動運転機能はあくまでも手段でしかなく、消費者がスムーズに移動するための仕組みが重要だと捉えています。マスクはそのために以下の施策を実施しています。
■自前の充電ステーションを全世界に配備
■充電中に無線LANでビデオを見られるように計画
■渋滞が激しい地域向けには地下にトンネルを掘り、自動コントロールのレールの上で車を走らせる取り組を開始。
■地下だけではなく、宇宙にも目を向け、ロケット事業のスペースXが軌道に乗る。(テスラの関連記事)
2020年7月には時価総額が車メーカーとしては最も高くなり、トヨタやGMをはるかに上回っています。テスラは既存の車メーカーとは異なり、車輪が付いたコンピュータを売りながら、CXを高めています。
テスラは店舗に行かずにスマートフォンから注文できます。アプリから無線操縦装置(ラジコン)のように、車を動かせたり、自動運転にも力を入れ、差別化をはかっています。
新たな差別化の要素として自動運転の性能が加わります。これが市場を大きく転換する可能性があります。技術革新で消費者が求める軸が変わると、市場が大きく転換するからです。馬車から車への転換はおよそ100年前ですが、当時はもっと速い馬を欲しがっていた人もいたでしょう。しかし多くの人々は、自動車の利便性を選んだのです。 そして自動運転が完成すれば、無人タクシーの実現が可能となるため、人件費が7割を占めるという有人タクシーやライドシェアより安く、24時間、メンテナンスの時間以外は自動で走り続けられることになります。
自動運転技術を開発するのは自動車メーカーだけではありません。主だったプレーヤーにはGAFAの投資先も多く、アップルの参入も噂されています。
●アルファベット傘下のウェイモ
●トヨタとデンソーと提携したオーロラ・イノベーション
●ウーバー・テクノロジーズ
●リフト
●エヌビディア
●インテル
自動運転には、センサーなどの最新のテクノロジーが必要でここでは日本のメーカーに強みがありますが、コア技術のディープラーニングでは、ウェイモなど自動運転技術に特化した企業が先行しています。走行データの収集なども日本企業はテスラに遅れをとっています。
iPhoneのパーツは日本製のものが多く使われていたにもかかわらず、デザインやUI/UXという強みでアップルがマーケットを支配し、日本の携帯電話メーカーは淘汰されてしまったことが、自動車業界でも起こる可能性があります。
トヨタよホンダがiPhoneの二の舞を避けるためには、アメリカの自動運転技術の企業に投資したり、バッテリーの開発を急ぐ必要があります。当然、テスラのように顧客体験を高めるための施策も提案しなければなりません。
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