太刀川英輔氏の進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」の書評


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進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」 (海士の風)
著者:太刀川英輔
出版社:英治出版

本書の要約

進化思考とは、生物の進化のように2つのプロセス(変異と適応)を繰り返すことです。変量・擬態・欠失・増殖・転移・交換・分離・逆転・融合と言う「9つの変異オプション」と解剖・系統・生態・予測の「4つの適応」としての時空観学習を組み合わせることで、凡人でもイノベーションを起こせるようになります。

進化思考とは何か?

実はどんな人でも、創造性を発揮する驚くべき力を秘めている。私はそう確信している。(太刀川英輔)

ダ・ヴィンチやグーテンベルグ、ライト兄弟のような天才と凡人は何が違うのでしょうか?デザイン活動家の太刀川英輔氏は、私たち凡人でも創造性を発揮する力があると言います。ただ、私たちは天才たちとは異なり、創造性の構造やそれを育む練習法を知らないだけなのです。

著者は自然界には、創造とよく似た現象=「生物の進化」があることに気づきます。著者は創造と進化の関係を20年以上考え続け、本書のテーマである「進化思考」と言うコンセプトに辿り着きます。

進化思考とは、生物の進化のように2つのプロセス(変異と適応)を繰り返す思考法です。過去38億年にわたり、生物は変異と適応を繰り返して進化を実践してきました。進化とは、エラー的な変異と自然選択による適応を繰り返す、生物の普遍的な法則性のことなのです。この生物の進化の法則を学ぶことで、私たちは創造性の本質を見出せるようになります。この進化思考を身につけることで、イノベーションを起こせるようになるのです。

天才たちは、狂人的な変異の思考を全開にして、前例のない発想を無数に生み出しながら、それらを秀才的な適応の思考によって取捨選択してきました。

進化思考では、進化における生物の知的構造と同じように、創造性もまた、「変異の思考」と「適応の思考」という2つのプロセスの往復から発生すると考える。この観点に立てば、創造とは、変異によって偶発的な無数のエラーを生む思考と、適応によって自然選択する思考の繰り返しであり、自然に則った形でその構造を捉えられるのだ。

進化思考で往復する変異と適応の思考は、WHYとHOWを行ったり、来たりすることだったのです。
適応(WHY):なぜ、そうあるべきなのか?
変異(HOW):どのように変化できるのか?
この2つの思考の繰り返すことで、創造的な発想が可能になるのです。

変異と適応を組み合わせよう!

自然界では変異と適応がまったく別のプロセスで起こっているのだから、エラーを許容しながら本質的な適応圧を理解する方策を探るのが、本質的な創造性への向き合い方になる。そうすれば、新規事業開発やコンセプト立案などの創造的な取り組みにどう向き合えばいいのか意識しやすくなるだろう。そしてイノベーションの発生確率を飛躍的に上げられるようになる。

常識を捨てて、クレイジーな発想を身につけることで、短時間のうちにアイデアを量産できるようになります。大量の変異的アイデアを短時間で生み出すスキルは、新しい可能性にたどり着く確率を高めます。そのアイデアをユーザーやアイデアに適応することで、イノベーションを起こせるようになります。相反する変化と適応という2つのプロセスをシームレスに往復することが、進化と創造の鍵になるのです

変量・擬態・欠失・増殖・転移・交換・分離・逆転・融合と言う「9つの変異オプション」によって、私たちは新しいアイデアを生み出せます。A・F・オズボーンによる発想の法則も、進化の法則に近いことがわかります。
変量(超をつけて考える)
擬態(真似て考える)
欠失(標準装備を減らしてみる)
増殖(常識よりも増やして考える)
転移(新しい場所を探す)
交換(異なるものに入れ替える)
分離(別々の要素に分けて考える)
逆転(真逆の状況から発送する)
融合(意外な物と組み合わせる)

生命は様々なエラーから進化してきました。変異の数を増やしたり、偶発性によって、チャンスがもたらされます。エラーは当たり前だと考え、失敗を恐れず、行動しましょう。この辺りは、クランボルツの計画的偶発性理論に近く、本書の主張に共感を覚えました。アイデアの作り方を自然とデザインで整理し、様々な進化や、作品を通じて説明してくれるのも、嬉しい限りです。

以下の「4つの適応」としての時空観学習に、「9つの変異」を組み合わせることで、アイデアの質を飛躍的に高められます。
解剖──中身を分けて理由を観察する 
系統──物事の古くからの文脈を知る
生態──モノや人の繋がりを理解する
予測──未来の課題を知り希望を描く

変異と適応を繰り返し、収斂した先には、創造の誕生が待っている。新しい適応の方向性が見え、それに適合する変異が見つかると、そこに方向性が生まれ、新しい名前がつく。コンセプトの誕生だ。創造がたとえ偶然の産物だとしても、私たちは自分の意識を使って、その発生確率を高めることはできる。極端な方法(変異=HOW)を無数に生み出しつづける観点と、本質的な繋がり(適応=WHY)を観察しながら、無数の変異を本質的な軸で選択しつづけ、粘り強く往復しながら両立を探すことが鍵となる。

変異と適応を統合し、イノベーションを起こしたければ、つねに「変異の9つのパターン」と「適応の4つの概念」を組み合わせ、コンセプトを磨くことが重要になります。

本来的に学びは人生を豊かにする、楽しいものだ。創造的であることはヒトの生存戦略そのものであり、創造性の発揮に幸せを感じるように、私たちは進化してきたのだろう。私は誰もが幸せに創造性を最大限に発揮しながら、その結果として生態系との共生が形作られる世界が見てみたい。それは私たち自身が生き残るコンセプトの追求だ。

以下の5つのステップを意識することで、私たちはイノベーションを起こせるようになり、世の中を進化させられます。
①常識を疑って、現実を塗り替える変異の可能性を考える。
②愛情をもって、時間と空間に宿る適応のなかの願いを引き受ける。
③上記2つのステップを繰り返し、創造の螺旋を登り、生き残るコンセプトに磨き上げる。
④コンセプトに宿る祈りを共有する仲間を見つけて、領域を越えて繋がる。
⑤希望ある物語を描き、未来を具現化させる。

解剖・生態の空間軸と系統・予測の時間軸を身につけ、それらを変異と組み合わせることでイノベーションを起こせるようになるのです。まずは狂おう!という著者のメッセージを信じることで、私たちは勇気をもらえます。エラーを恐れず、バカになり、アイデアを量産することから始めましょう。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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