ロバート・シラーのナラティブ経済学―経済予測の全く新しい考え方の書評


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ナラティブ経済学―経済予測の全く新しい考え方
著者:ロバート・シラー
出版社:東洋経済新報社

本書の要約

ナラティブは根拠なき熱狂となって人々の信念を変え、人々の行動を変えて、マクロ経済を大きく動かすことさえあるのです。経済学者は人々の語る「ナラティブ」が経済に影響を与える影響を理解し、歴史家のようにもっとナラティブを活用すべきです。

ナラティブ経済学とは何か?

伝統的な経済学アプローチは大規模な経済事象における世間の「信念」が果たす役割を検討できていない。つまりはナラティブを見ていないということだ。世間のナラティブについての理解を経済事象の説明に組み込めば、経済学者たちは未来予測でそうした影響にもっと敏感になれる。(ロバート・シラー)

多くの経済学者はナラティブ(物語)の視線を持たずに、未来を予測しています。経済を動かす要因にナラティブの要素を付加することで、口承やニュース媒体、ソーシャルメディアを通じて世の中に広がります。

経済行動に影響する通俗ナラティブのヴァイラルな拡散を研究するナラティブ経済学によって、経済的な出来事を予測し、備える能力を改善できるとノーベル経済学のロバート・シラーは指摘します。経済学者は他の分野の専門家のようにもっとナラティブの重要性に気づくべきです。

ナラティブは根拠なき熱狂となって人々の信念を変え、バブルを生み出してきました。歴史を遡ると、ナラティブが人々の行動を変え、何度もマクロ経済を大きく動かしてきました。経済学者は人々の語る「ナラティブ」が経済に影響を与える影響を理解し、歴史家のようにもっとナラティブを活用すべきです。

400年前の「新聞の発明」から物語の伝播のスピードが早まり、インターネットがそれを加速させています。このときを境に、かなり常軌を逸した考えが広まるようになりました。史上初の投機バブルは1630年のオランダのチューリップ・バブルでしたが、これは新聞ができた時期とほぼ重なると言います。人々は昔から物語を紡いできましたが、新聞の登場がチューリップ・バブルの感染力を高めてしまったのです。ナラティブ流行はウイルスが感染するように、世の中に拡散していきます。

経済ナラティブというのは、人々が経済的判断をするやり方を変えそうな、感染性の物語を指す。経済的判断とは、労働者を雇うか好機を待ち続けるか、事業でリスクを負うか慎重になるか、事業を立ち上げるか、変動の激しい投機的資産に投資するかといった判断だ。

ビットコインは、何千種類もある民間発行の暗号通貨ライトコイン、リップル、イーサリァム、リブラなどのはしりであり、多くの会話や熱狂、起業活動を生み出してきました。ビットコインは、投機的な熱狂と、実際の商業利用ではなく市場価格から見て、史上最も驚くべき暗号通貨だと著者は言います。

ビットコインの物語は成功した経済ナラティブの一例です。きわめて感染性が高く、世界の相当部分でかなりの経済的変化をもたらしました。

経済ナラティブの7つの主張

ビットコイン・バブルもナラティブで説明可能です。ナラティブ経済学はしばしば、意外なつながりを明らかにします。ビットコインの物語は感染するよう巧みに構築され、アナキスト精神を捉えていました。ビットコインは匿名であり、政府の統制や管理から自由で、政府が手出しできないものである点が、アナキズムの精神に近く、人々がビットコインを購入するきっかけになったのです。

ビットコインの一部はバブルの物語で、一部は謎の物語です。ビットコインのナラティブが持つロマンスを高めているのは、この謎の要素があるからです。非専門家や一般人もその物語に参加できるので、そうした人々もビットコインに関与したような気分になり、自分のアイデンティティをビットコイン中心に構築できるようになるのです。そして、このナラティブは果てしない富の物語をも生み出します。

サトシ・ナカモトという謎の人物が、ビットコインの物語の主人公になっています。だれ一人としてサトシ・ナカモトを目撃していないことが、ビットコインの物語を世の中に広めました。初期のビットコインコード開発者は、サトシとのやりとりはメールのみで、直接会ったことは一度もないと述べています。

人々は謎の物語が大好きで、その謎が深まるのも好きだ。だからこそ、ミステリー文学という豊かなジャンルが成立しているのだ。ビットコインの謎の物語は何度も繰り返されてきたしナカモトかもしれない人物を大胆な探偵たちが見つけてきたときにはそれがさらに繰り返される。魅力的な謎が繰り返し語られることで、ビットコインのナラティブの感染率は、そうでない場合よりも高まった。

ビットコインの物語はアナキスト的な気分とサトシ・ナカモトの謎を利用するだけでなく、経済的な力を得たいという物語でもあるのです。

21世紀を通じて先進国の格差が急拡大し、多くの人々は未来に不安を感じています。経済生活についてもっと自力で何とかしたいと思っていました。ビットコインの価格が最初に上がりはじめたのは、2011年ウォール街占拠の抗議運動の頃でした。ビットコインのナラティブは、個人に力を与えるものでもあったのです。

ビットコインなどの暗号通貨の高い感染率を引き起こしたナラティブの別の部分は、コンピュータがますます人々の生活を統制するようになってきたという物語です。21世紀の人々は、アマゾンのアレクサ、アップルのSiriなど人間の話を理解して、豊かな知識をもって知的な回答を人間の合成音声で返す自動化アシスタントにアクセスできます。

さらに自動運転の自家用車、トラック、列車、船が近い将来に実現しそうなので、トラック運転手など、運転やナビゲーションで生計を立てる人々の大量失業が今後起こるはずです。この「テクノロジーに生活が脅かされる」ナラティブは、産業革命以来、人々の不安を増殖してきました。

将来についての恐怖は、必要とされなくなるという実存的な恐怖の側面が大きい。 そういう環境では、選択肢がなくなる。コンピュータは人間より何十倍、何百倍もすばやく、新しい作業をするように教育できる。コンピュータで失われた雇用を相殺するために、政府が職業訓練に支出しろというのは正当に思えるが、人々が長期的に勝てるとは想像しづらい。世界中の何百万人もの学生たちは、自分たちの教育は人生での成功に役立つのかと疑問視していて、それが不安を作り出し、そしてそれがビットコインのような、技術に動かされる暗号通貨の感染を、間接的に後押ししている。

ビットコインに関わることで、コンピュータ技術を身につけると同時に、自分も富裕層になれるかもしれないという夢を抱けるようになるのです。

人々がビットコインを買うのは、何かエキサイティングで新しいものの一部になりたいからで、その経験から学びたいからです。また、最近ではテクノロジーカンパニーで働くことが、勝ち組であるというナラティブがあります。しかし、テクノロジー側で働いていたとしても、決して成功が保証されているわけではありません。

ハイテク業界の人々は、金融側が勝ち組だと考えがちで、金融側にいたいという願望から、ビットコインを購入します。ビットコインを買うことで、勝ち組になれるというナラティブが人々の背中を押しているのです。また、ビットコインには仕組みを理解しなくとも、購入できるというメリットがあります。

「未来の一部になろう」というナラティブが、ビットコイン価格が高騰するニュースによって、ビットコインの価値を嵩上げしているのです。

ナラティブは、ある具体的な経済行動が、将来何か利益をもたらすかもしれない有益な学習体験となるのだと示唆することもある。時には、その経済行動を実行するのは、自分自身をそのナラティブ自体に参加させる手段となる。そのナラティブに参加することで、自分が歴史の一部だと言える。たとえばビットコインを買うことで、国際資本家エリートに参加したことになる。

経済ナラティブには、以下の7つの主張があります。
1、流行は速度も規模も様々。流行の時間軸や規模には大きなばらつきがある。
2、重要な経済ナラティブは世間的な話題のごく一部でしかないこともある。ナラティブはあまり耳に入らなくても、経済的に重要かもしれない。
3、ナラティブ群は単独ナラティブのどれよりも影響が強い。群れが重要だ。
4、ナラティブの経済的な影響力は変化するかもしれない。ナラティブが時間とともに発達する中で変わる細部が重要だ。
5、虚偽のナラティブを止めるには真実だけでは不十分。真実は重要ではあるが、それは本当に有無を言わせないくらい明らかなときだけ。
6、経済ナラティブの感染は反復機会を利用する。強化が重要。
7、ナラティブはつながりで栄える開人間的興味、アイデンティティ、愛国心。人間的興味、アイデンティティ、愛国心が重要。

ナラティブには繰り返され、変異し、刷新されるという特徴があります。ナラティブは、経済についての世間的な理解を変え、経済的な現実の世間的な認識を変え、ビットコインのような新しいムーブメントを創り出します。その結果、個人の行動に新しい台本を示唆し、経済行動に影響を与えていくのです。

ナラティブによって人は合理的な行動を取れなくなることがあり、それがバブルや恐慌を生んできたのです。過去の歴史を見れば、ナラティブが人々の不安を掻き立て、経済を動かしてきたことがわかります。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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