マイケル・ルイスの最悪の予感 パンデミックとの戦いの書評


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最悪の予感 パンデミックとの戦い
著者:マイケル・ルイス
出版社:早川書房

本書の要約

今回の新型コロナウイルスが指数関数的に広がることに気づいた感染対策の非公式チームは、トランプ大統領がコロナを軽視する中、感染症対策のプランを作成します。しかし、アメリカのリーダーには想像力が欠如していたために、コロナ患者の爆発を避けることができなかったのです。

アメリカがコロナ対策に失敗した理由

厳しい現実問題として、データが集まるまで待つゆとりはない。感染症が発生すると、すぐに決断を迫られる。遅れれば遅れるほど、あなたが決断するのをあるいは、間違っていた場合の言い訳にしようと、あなたがデータを集めるのを待っている人々が死亡する確率が高まる。 (マイケル・ルイス)

データ活用で野球界の常識を変えたマネー・ボールの著者マイケル・ルイスが、今回のコロナパンデミックをテーマに最高の一冊最悪の予感 パンデミックとの戦いを届けてくれました。複数の魅力的な登場人物が、アメリカ国民を救うために活動した記録をわかりやすいストーリーにまとめ、アメリカの問題点と素晴らしさの両方を同時に炙り出すことに成功しています。

アメリカ国内で新型コロナウイルスの感染者が出始めた頃、トランプ大統領やCDC(疾病対策センター)は、アメリカは大丈夫だと国民に説明し、初期の対応を間違えました。そこにリスクを感じた一部の人々、ホワイトハウスを去ったアマチュア疫学者やチャン・ザッカーバーグ・バイオハブを率いる化学者たちが、解決策を模索します。

プロフェッショナルは当初それぞれのやり方で、新型コロナウイルスを捉え、その危険性を明らかにしていきます。弱い紐帯がつながり、やがて非公式な一つのチームが出来上がり、政治家やCDCを動かし始めます。しかし、そこには絶えず政治家や官僚、CDC、医療業界の横槍が入り、物事はなかなかうまく進みません。スピードが鍵であったにも関わらず、リーダーたちは新型コロナウイルスの危険性を理解しなかったのです。

著者はその過程を丁寧に取材し、登場人物の動きを一つのストーリーにまとめていったのです。その中で、アメリカの組織に大きな課題があることが明らかになります。

アメリカには多くの組織があり、それぞれがそれぞれのやり方で、課題を解決しようとします。

アメリカ政府のなかには、小さな箱がたくさんある。何か問題が発生するたび、その問題に対処するため、新しい箱がつくられてきた。たとえば、「食の安全を確保するにはどうしたらいいか」「銀行の倒産を防ぐに はどうすべきか」「テロの防止にはどんな対策が必要か」などだ。それぞれの箱が、特定の問題の解決に役立つ知識や才能、専門技能を持った人たちに割り当てられる。時間の経過とともに、その問題を中心とした文化が出来上がり、小箱によって異なる文化が根付く。箱ごとに、独自の硬直した小さな世界になっていく。

お互いの組織がつながることがないため、適応能力が低く、他の組織で何が起こっても、関心を示さずにいます。ある組織のなかに、別の組織が抱えている問題の解決策を見いだせる人材がいるにもかかわらず、それを活用しようとしないのです。問題を解決できる人は、官僚組織の最下層である「L6」にいますが、リーダーたちはL6のメンバーの能力を見出せませんし、それを活用する勇気も持ち合わせていません。

日本でコロナパンデミックが終わらない理由

紙を半分に折って、また半分に折って、と合計50回繰り返すとします。もとの紙の厚さが0.1ミリだとすると、50回折るころには1億1200万キロを超える厚さになるんです。 (カーター・メシャー)

カーター・メシャーは本書の中で最も魅力的な人物で、彼の思考と行動から真のリーダーシップを学べます。実はアメリカではブッシュ大統領の時代にカーター・メジャーを中心に、パンデミックへの対策が練られていましたが、政権が変わることでこのチームは解散してしまいます。そして、感染対策を軽視していたトランプが大統領をしている最悪なタイミングで、コロナパンデミックが起こってしまうのです。

カーターは今回のコロナパンデミックが、指数関数的なプロセスで増加すると捉えていました。たとえば、1ペニー(100分の1ドル)から始めて、金額を毎日2倍にしていったら、30日目には500万ドル以上になります。小銭がそこまで急に膨れ上がるとは意外に思えるのと同様、感染症の拡大のスピードには、人間の想像力は追いつけないのです。

今回の新型コロナウイルスが指数関数的に広がることに気づいたカーターは、トランプ大統領がコロナを軽視する中、感染症対策のプランを作成しますが、アメリカのリーダーには想像力が欠如していたために、コロナ患者の爆発を避けることができなかったのです。

政治家やCDCは今までの常識に則り、リスクを取らずに時間を無駄にしたのです。累乗の急激な患者の増加が起こることを予測できず、感染が爆発的に広がる前に介入することが重要だと気づけなかったのです。 ウイルスは人間より優位に立っていると考え、ソーシャルディススタンスを早期から徹底できれば、これほど多くの人がアメリカで死なずにすんだはずです。

2020年1月の時点でウイルスはすでに加速度的に広まっていると喝破していたチャリティ・ディーンは、平時と戦時のリーダーの役割は異なると述べています。

平和な時代にリーダーになった人は、往々にして、争いを避ける才能、あるいは、争いを覆い隠す才能を持つ。戦場の指揮官に向いている人は、少なくとも一般市民が存亡の危機を察知するまで、リーダーに選ばれない。しかしそのころには世間の人々が伝染病についてじゅうぶん知識を得て、恐怖を覚えるころには戦いの最も重要な局面は終わっているのだ。(チャリティ・ディーン)

ウイルスは生き延びるために変化しますが、今回のオリンピックで日本は人流をあえて作り出すという愚策を取りました。大会関係者が多数来日し、日本人との接触が増える中、新型コロナの患者は指数関数的に爆発し始めました。菅総理のオリンピックの間違ったメッセージによって、人々の移動が加速したことで、日本の状況はこの一ヶ月で一気に悪化しました。コロナパンデミックと言う戦時に、最悪なリーダーが指揮を執っていたことが、日本人を不幸にしています。

感染者数のデータを軽視し、PCR検査を怠ってきたことが、日本のコロナパンデミックを酷いものにしています。科学を信じないリーダーたちの失政が、コロナとの戦いが終わらない原因になっています。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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