情報資源の経営戦略 SNS時代の競争優位
西野和美
本書の要約
テクノロジーが進化する中で、情報の重要性がましています。従業員が自由に、そして活発に情報を受信・発信し、価値を創造できるような場を設定することで、企業はイノベーションを起こせるようになります。社内外に能動的に情報の流れをつくり出すことで、人々は能動的に生産活動を行えるようになります。
飛躍的企業は情報を価値に変えている!
大量の情報に日々囲まれている現在だからこそ、企業経営における情報の重要性と、そうした情報の流れをいかにマネジメントするかについて、きちんと考える必要がある。(西野和美)
企業の内部そして外部に存在する情報を上手に活用することで、企業の成長は加速します。競争力をもつ企業は情報の流れのコントロールが巧みであり、その活用の仕方によって、業界さえも左右するほどのインパクトを生じさせています。アマゾンやグーグルなどは、顧客情報を蓄積・分析、活用することで、飛躍的な成長を遂げています。
企業が提供する商品やサービスをより魅力あるものにする場合、環境情報を利用して外部環境の分析が行われたうえで、企業内で生成・共有・蓄積された情報も活用し、モノやサービスを創出・改良する必要があります。
他方、企業のイメージ向上においては、企業情報を効果的に発信する必要があります。さらに、環境内に蓄積された情報を利用して、商品やサービスの創出・改良にも、企業のイメージ向上にもつなげる必要があります。変化の激しい現代に持続的な競争優位性を構築するためには、環境、自社、顧客の情報を今まで以上に活用すべきです。
アマゾンは、顧客の購買履歴やそれに伴うモノ(商品)の流れや情報の流れなど、事業活動に関わるあらゆる事象を徹底的に情報に変換し、それらを自社事業の売り上げをさらに高めるために利用しています。アマゾンはより多くのモノや情報、カネの流れをつくり出すことで、企業成長を実現しています。購買履歴の蓄積、レビュー情報の蓄積、それらを上手に顧客に発信することで、顧客体験が高まり、アップセルやクロスセルが引き起こされたのです。
アマゾンはマーケットプレイスを開始することでサードパーティを巻き込むことに成功します。このサービスによって、販売者はアマゾンの顧客層にアクセスすることができるようになります。アマゾンとしてはサイト上での販売品目・販売量を在庫の追加投資をせずに拡大できました。
AWSにはコンピューティング、ストレージ、データベースなどのインフラストラクチャテクノロジーから、機械学習、人工知能、データレイクと分析、モノのインターネットなどの新しいテクノロジーに至るまで、他のどのクラウドプロバイダーよりも多くのサービスがあり、サービス内にはさらに多くの機能があります。
当初は自社向けに開発したAWSを開放することで、事業者はより速く、より簡単に、より費用効果的に高い既存のアプリケーションをクラウドに移行し、オンラインサービスを活用できるようになったのです。
マーケットプレイスやAWSによって、アマゾンは現在、世界最大規模の取引/クラウドプラットフォームとなっています。このプラットフォーム上で、モノの流れが増えれば購買に関する情報の流れも増え、それらがアマゾンに入り、分析されることによってより効果的な施策が打てるようになります。アマゾンは大量のモノ・情報・カネの流れを押さえることで、企業成長を促進させてきたのです。
社内外の情報をコントロールすることがイノベーションにつながる!
ホンハイは元々はテレビの部品メーカーでしたが、1990年代半ばにはPCの筐体の製造、さらにはPCの最終組み立てまで請け負うようになり、2000年頃からはPC(アップル、HP、レノボ、デル、ソニー)や携帯電話(アップル、ノキア、モトローラ)などのデジタル機器の製造を受託し、急成長を遂げました。
ホンハイが急成長したのは、以下の2つの理由からです。
①競合他社が追いつけないほどの圧倒的なスピード
②コスト競争力
ホンハイは金型の設計から製造までに関わる一連の情報を、従業員に蓄積させたことで、圧倒的なスピードを手にしました。コスト競争力を実現できたのは、金型技術を生かして多様な部品の内製も行えるようになったのです。メッキ、マグネシウム合金の材料から加工、ステンレス鋼の表面研磨、といった材料分野も内製化し、金型の設計から部品製造、組み立てに至る一連の業務の垂直統合化を行いました。
多少高価でも高性能の工作機械を多数導入し、生産能力に余裕が出るだけの設備投資を継続しました。当時では難度の高い凝ったデザインもホンハイならば量産可能であり、製造スピードと精度の向上で安価に製造できるようになったのです。企業内の設備(モノ)にカネを大きくかけ、その生産ノウハウ(情報)も蓄積しました。 結果、激しい競争にさらされている電子機器メーカーは、こぞってホンハイに製造を委託するようになりました。
ホンハイは、受託によって蓄積してきた製品設計のノウハウを活用してPCのマザーボードを自社設計し、クローン市場へも参入しました。受託業務によってひたすら設計情報を蓄積するフェーズから、新たな価値の具現化へと自らの業務内容を転化させるフェーズに成長したのです。
ホンハイは情報を活用することで、OEM(委託先ブランドの製品を製造する)メーカーからODM(委託先ブランドの製品を設計 から製造まで担う)メーカーへのシフトに成功します。製品内部の部品調達もホンハイに決定権があるので、サプライヤーに対する価格交渉力も上がりますし、製造コストも安価になるので、利益というカネが企業内により多く入ることにもなります。
ホンハイは、内製化を推し進めることで、自社に技術情報を蓄積していきました。その過程で設備投資を行い、短納期と低価格で大量生産できるという実績(情報)を電子機器メーカーにもたらしました。他方、電子機器メーカーからの製造受託によって設計情報と製造ノウハウを大量に蓄積することで、さらに設計まで内製化し、ODMメーカーとして業界内で揺るぎない地位を確立したのです。
ホンハイは情報とモノを企業内に大量に蓄積することでライバル企業との差異をつくり出し、より多くの顧客を獲得することでさらなる情報の蓄積を促していきました。
顧客や利害関係者との取引をはじめとした企業行動すべてを徹底的に情報化し、それら情報を蓄積・分析・解析することなどによって、企業が新たな価値を創造したのです。企業内外の情報の生成、発信、受信、蓄積、分析、解析をきちんと自らのコントロール下で管理することで、アマゾンやホンハイは飛躍的に成長しました。
従業員がもっと自由に、そして活発に情報を受信・発信し、価値を創造できるような場を設定することで、企業はイノベーションを起こせるようになります。社内外に能動的に情報の流れをつくり出すことで、人々は能動的に生産活動を行えるようになります。情報を資産として捉え、上手にコントロールすることで、持続的競争力を持てるのです。
コメント