成長企業の法則――世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー(名和高司)の書評

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成長企業の法則――世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー
名和高司
ディスカヴァー・トゥエンティワン

本書の要約

著者はグローバル成長の条件をLEAP(リープ)というフレームワークで整理しています。Lean and Leverage、Edge and Extension、Addictive and Adaptive、Purpose and Pivotの頭文字を取ったLEAPが今後の21世紀型の会社として成長する企業の要件になるのです。

G企業になるためのLEAPのフレームワーク

まずは「なんのためにやるのか」という社会と連動した「本質的な使命感」を持つこと。しかし、それだけでずっと同じところに留まっていることには意味がなく、使命感を基軸として、進化をどんどん進めていく思想が必要なのです。これこそが今回新しい経営モデルとして提案したLEAPです。これが今後の21世紀型の会社として成長する企業の要件になるでしょう。(名和高司)

著者の名和高司氏は、21世紀に入って成長を遂げている企業100社を洗い出し、成長の原動力を探ります。アップル、テバ、ノボノルディスク、スターバックス、ファーストリテイリング、ダイキン、コマツといったグローバル・グロース・ジャイアンツ(G企業)には、クオリティ企業的な要素とオポチュニティ企業的な要素の両方があったのです。それは欧米の企業でも、日本の企業でも、新興国の企業でも共通でした。

■G企業の2つの共通要素
①「堅牢性」「しぶとさ」「ブレない」といった静的(スタティック)な特性。
G企業は自分たちの足下を深堀りしており、非常に根っこがしっかりしています。

②「変容性」「身軽さ」「融通無碍」といった動的(ダイナミック)な特性。
一つめの要素が「深化」ならば、こちらは「新化」と表現できるます。

この二つの共通要素は、二律背反的です。しかし、G企業には、この二つの要素があり、二律背反する要素の不思議な共存が成長のバネになっているのです。

G企業をさらに詳しく見ていくと
①事業モデルレベル
②コアコンピテンスレベル
③企業DNAレベル
④(根っことなる)志レベル
この4つのレベルでそれぞれ二律背反の要素を兼ね備えています。 著者のLEAPというフレームワークは、まさにこのクオンタム・リープ(量子跳躍)を駆動するエンジンです。そして、その真ん中には、P(Purpose)という基軸が埋め込まれています。これは「使命感」であり、世の中を変えようという「志」なのです。

■LEAP(リープ)のフレームワーク
1、Lean and Leverage
G企業は無駄のない低コスト体質(Lean)でありながら、周囲をうまく活用できる梃子(Leverage)の原理をうまく活用するビジネスモデルがあります。

2、Edge and Extension
他社が真似できない一芸としての尖り(Edge)を持ちながら、そこに安住せず、ずらし(Extension)の力を持っています。

3、Addictive and Adaptive
企業DNAを示すAは、偏執狂のようなこだわり(Addictive)を有しつつ、世の中の変化に応じた適応力(Adaptive)もあわせ持っています。G企業は学習と脱学習をやり続けられ、変化に適応できるDNAを持っています。

同じ場所」で「同じこと」をやり続けていると成長は止まります。ワントリックポニーでは成長できないのです。「学ぶ」という基本姿勢で一つ学んで次へと向かっていくと、そこでまた新しい発見ができます。だから「学習の場をずらす」ということを意識していくといいのです。しかも、その際には、これまで学習してきた定石にとらわれず、学習してきたことそのものを疑う「脱学習(Unlearning)」の視点が欠かせません。言い換えれば、異次元の学習のプロセスを始動させることが肝要です。

4、Purpose and Pivot
志を示すPは、企業としての大義(Purpose)を保持しながら、新たな一歩踏み出すピボット(Pivot)の動きも使える企業です。著者はこのPurposeが最も重要だと指摘します。

G企業になるための5つのステップ

「クオンタムリープ(Quantum Leap・量子的跳躍)」という言葉は、経営の世界では「非連続な飛躍」という意味で使われています。 オポチュニティ(O)企業は、非連続な成長機会に飛びつきます。一方クオリティ(Q)企業は、そのような賭けに等しい跳躍には慎重です。リスクを取り続けるとどこかで破綻する可能性が高くなりますが、非連続な変化の局面においては、リスクをとらないことは最大のリスクにつながります。

本書が提唱するG企業は、突然変異ではない形で、非連続な成長機会にチャレンジしつづけます。その時のキーワードは、「着眼大局(See-Think)、着手小局(Plan-Do-See)」です。

多くの日本企業は、「リーン(Lean)」「尖り(Edge)」「こだわり(Addictive)」「大義(Purpose)」という4つの要素は十分兼ね備えています。ただ、それだけでは高質なQ企業のままで終わってしまいます。 日本企業に不足しているのは「Leverage(てこの原理)」「Extension(ずらし)」「Adaptive(適合力)」「Pivot(一歩踏み出す)」の4つです。これらはO企業特有の「動的」な要件です。

Q企業としての特性をしっかりもちながら、O企業的な動きを身につけることができれば、日本企業もG企業に進化することができると著者は言います。そのためには、軸足を自社の強みにしっかりおきつつ、片方の足を踏み出す努力が求められます。

◉ステップ1 大志を組織に埋め込む
まず、自社が目指すものを明確にすることから始めます。LEAPのPの部分です。 志をきれいごととせずに、自社ならではの信念にまで深め、そしてそれを一人一人にしっかりと刷り込んでいく必要があります。

◉ステップ2 企業DNAを読み解く
自社のDNAを解読します。LEAPのAの部分です。 DNAには静的DNA(こだわり・Addictive)と動的DNA(適応力・Adaptive)がありますが、 日本の良い会社の多くは、静的DNAが際立っています。逆に、動的DNAは極めて希薄です。新しいこと、先が見えないことに対しては拒絶しないまでも、様子見を決め込んで後手に回ることが多いのです。

すべての企業には、自社固有のDNAがあります。しかし、それが時間とともに風化したり、変質している場合もあります。その場合、自社の歴史を紐解きなおしたり、成功・失敗の歴史を紐解いてみることは、極めて有効です。まずは、起業時のことを思い出し、アクションを起こし、失敗を恐れないようにしましょう。失敗の中から何を学び、それを次にどう生かすかがカギとなります。このような脱学習と学習のプロセスから新しい優位性を獲得することを、著者は「学習優位(ファミリアリティ・アドバンテージ)」と呼んでいます。

◉ステップ3 コア・コンピタンスを磨く
自社のコア・コンピタンスを見極めます。LEAPのEの部分です。すべての企業には「得意技」があります。なければそもそも企業として存在していないでしょう。そして、この得意技を極めることによって、「尖り(Edge)」が磨かれます。

また、その得意技を「ずらし(Extension)」て、新しい優位性を築くかがカギとなります。 アップルはiPhoneを生み出す際に、iPodからのずらしで行いました。その後もこのずらしによって、ヒット商品を連発しています。

◉ステップ4 事業モデルを描く
著者は「スマート・リーン」という事業モデルを提唱します。顧客に「高い価値(スマート)」を「低いトータルコスト(リーン)」で提供するということです。 重要なことはスマートとリーンを同時に実現することです。

そのためには、「資産の三枚おろし」が効果的です。これは資産を「共層」「協創」「競争」の3つに分けて捉えなおす方法です。 「スマート」を実現するためには、一番上の「競争」領域に磨きをかけることが大前提となります。一方「リーン」を極めるためには、一番下の「共層」領域で他社の資産をレバレッジする必要があります。 しかし、最も重要な層は真ん中の「協創」領域です。 ここでは他社の知恵をレバレッジする ことにより、スマートかつリーンな事業モデルを生み出すことができるからです。

まず「スマート・リーン・マトリックス」であるべき戦略の型を見極め、そのうえで、「資産の三枚おろし」のフレームワークを使って、何を自社に残し、何を外に出し、どの領域でだれといかにクロスカプリング(異結合)を企てるかを導きます。

◉ステップ5 一歩踏み出す(Pivot)
LEAPの検討プロセスの最後は、Pivotになります。出発点のPすなわち「大義(Purpose)」を軸足としつつ、もう一つの足で新しい可能性を探り当てることによって、Q企業からG企業へと進化することができます。

同じところで同質な学習を続けるのではなく、不得意なところで、異質な学習を積むことによって、Q企業の学習能力をG企業としての学習能力に進化させることが可能になります。経営者はLEAPのフレームワークを経営に取り入れ、飛躍的成長を「目指すべきです。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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