センスは知識からはじまる
水野学
朝日新聞出版
本書の要約
知識や体験を増やし、それを蓄積していくことで、センスが磨かれていきます。その上でアウトプットのブラッシュアップを行い、アイデアの精度を高めるようにしましょう。過去のものを大事にしながら、そこに新しいエッセンスを付け加え、知識に基づく予測を組み合わせることで、ヒット商品が生まれます。
普通を知ることがセンスを磨く第一歩
「センスのよさ」とは、数値化できない事象のよし悪しを判断し、最適化する能力である。これが僕のセンスについての定義です。(水野学)
著者の水野氏は「くまモン」アートディレクションなどで話題の、日本を代表するデザイナーですが、その彼がセンスとは何かを私たちに教えてくれるのが、本書センスは知識からはじまるです。
私たちはセンスを磨くことは難しいことだと考えがちですが、あらゆる分野の知識を蓄積することでセンス力を向上できると著者は述べています。最初から素晴らしいアイデアが生まれるわけではなく、「ちょっと面白い」程度のアイデアを改良することで、アイデアの「精度」は高まっていき、徐々にセンスのよいアウトプットができるようになります。
センスがいい商品をつくるには、「普通」という感覚を大事にすべきです。普通こそが、「センスのいい/悪い」を測ることができる唯一の道具だからです。
普通とは「いいもの」と「悪いもの」もわかることで、その両方を知った上で、「一番真ん中」が何かを掴める能力です。「普通」を知っていれば、ありとあらゆるものがつくれるということです。
数値化できない事象を測る方法をたくさん知っていればいるほど、センス力を磨けます。自分が認識している「普通」の基準と、あらゆる人にとっての「普通」を、イコールに近づけられるようになればなるほど、そのアイデアが世の中で通用するようになります。普通という「定規」であらゆる事象を測っていくことを心がけると、センスのよいアイデアが生まれてくるのです。
過去に存在していたあらゆるものを知識として蓄えておくことが、売れるものを生み出すには必要不可欠だということです。
普通を知ることを日頃から意識し、知識や体験を積み重ね、それに自分らしさを付け加えていきましょう。 知識や体験を増やし、それを蓄積していくことで、センスが磨かれていきます。その上でアウトプットのブラッシュアップを行い、アイデアの精度を高めるようにしましょう。過去のものを大事にしながら、そこに新しいエッセンスを付け加え、知識に基づく予測を組み合わせることで、ヒット商品が生まれるようになります。
企業の価値もセンスで決まる?
企業の価値を最大化する方法の一つに、センスというものが挙げられる。それどころか、その会社が存続するか否かも決める。
人間というのは技術がその時点の限界まで進歩すると、美しいものを求める傾向があると著者は言います。鉄砲などの技術が開花した戦国時代の終わり頃に、千利休が現れ、大名たちは茶の湯に夢中になりました。戦国時代に技術力が当時のピークを迎えたために、その後の安土桃山時代はセンスの時代になったのです。
それと同じことが現代でも起こっています。ITなどのテクノロジーが発達する中で、人々はセンスを求め始めています。センスのいい企業が成長し、センスのあるビジネスパーソンが求められているのもここに理由があります。
しかし、この時代の変化に多くの企業が追いつけずにいます。「ユーザーに、『徹底的に』気持ちよさを提供しよう」というセンスを磨くこと、「クリエイティブなセンス」を高めることが求められています。
市場調査を中心としたマーケティングに依存するのをやめ、企業経営者はクリエイティブな能力をもっと意識すべきです。スティーブ・ジョブズは市場調査を重要視せず、自分の本当に欲しいもの、「みんなも本当は欲しいだろう」と自分が思うものを生み出す努力を続けてきました。ジョブズのこの能力の高さが、アップル成功の重要なファクターになっていたことは間違いありません。
企業の美意識やセンスが、企業価値になる。これが今の時代の特徴です。
経営者だけでばく、ビジネスパーソンはセンスを磨くべきです。創業者がつくったパーパスや企業独自の美意識を振り返りながら、改めて自社のパーパスを定義することで、顧客や従業員、パートナーとの関係を変えられます。
企業がセンスを磨く3つの方法を著者は紹介しています。
①経営者もしくは経営陣がクリエイティブディレクターになること。
②外部の人間がクリエイティブディレクターになること。
③企業の中に特区をつくり、そこで働く人たちがクリエイティブディレクター的な役割を果たすこと。
企業の内部や外部にクリエイティブディレクターが存在することで、閉塞感を打破でき、顧客から求められる存在になれるはずです。センスは自分の知識と体験を積み重ね、研鑽を続けることで磨かれていきます。経営陣が向上心を持ち、センスを磨くことで会社が顧客から支持されるようになるのです。
「センスとは知識の集積である」という著者の言葉を信じ、自分の思考と行動を変えていきたいと思いました。
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