売上最小化、利益最大化の法則――利益率29%経営の秘密
木下勝寿
ダイヤモンド社
本書の要約
多くの企業は売上アップを目指し、利益を二の次にする経営を行っていますが、利益重視の経営に今こそ変えるべきです。「5段階利益管理」(売上総利益〈粗利〉、純粗利、販売利益、 ABC利益、商品ごと営業利益に分けて管理)することで、会社の弱点がわかり、それを見直すことで会社の利益を高められます。
「無収入寿命」を伸ばす、利益率の高い経営
営業利益に対して原価や販管費が高い場合、無駄なコストを払っている可能性が高い。(木下勝寿)
株式会社北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏は売上よりも利益をあげる経営で、同社を短期間で優良企業に育てています。
多くの企業は売上アップ目指し、利益を二の次にする経営を行っていますが、これは大変リスクが高いと言います。特にこの数年のコロナパンデミックで、利益の上がっていない会社は一気に淘汰されました。
売上を上げたい一心でやみくもにお客様を増やすと、一人ひとりの顧客満足度を高める施策に力が注げなくなります。売上が上がり、仕事が増え、従業員が増え、会社の規模が大きくなると、アクシデントも増え、管理の手間も増えます。これでは顧客満足を高めるために時間を使えなくなります。会社の規模が大きくなると業務が複雑になり、人件費や家賃などの固定費の増加を招き、利益が上がらない体質になります。逆に、利益を高めるためには、顧客をファンにし、そのLTVを高めることが鍵になります。
今回のコロナ禍の中、著者が提唱する企業の「無収入寿命」注目されました。無収入寿命とは、売上ゼロになっても経営の現状維持ができる期間を指します。 減給などのコスト削減なしで全従業員の雇用を維持し、家賃を支払い、その間に会社を立て直すことができるようになります。 売上ではなく、利益を増やすことによって、企業の無収入寿命を伸ばすことができます。
北の達人コーポレーションはここ5年で売上5倍、経常利益7倍の実績を残しています。利益率29%を達成し、上場しているおもなEC企業平均の12倍の利益率となり、盤石な経営基盤を誇っています。同社の無収入寿命は伸び、永続的企業という木下氏の目標に近づいています。この驚異的な利益を達成するために使用している管理手法が、5段階利益管理になります。
5段階利益管理とは?
会社の弱点が一発でわかる5段階利益管理によって利益率の高い会社をつくれると述べています。「①売上総利益(粗利)率」「②純粗利率」「③販売利益率」「④ABC利益率」「⑤商品ごと営業利益率」に着目し、この数字を改善すると、利益率が高まります。
①売上総利益(粗利)率
売上総利益(粗利)=売上-原価
売上総利益(粗利)は、売上から原価を引いて求めます。
②純粗利率
純粗利=売上総利益(粗利)-注文連動費
純粗利は、売上総利益(粗利/利益①)から注文連動費を引いて求めるます。 注文ごとに必ず発生するコストがあります。 例えば、カード決済手数料、送料、梱包資材、商品説明のための同封物、ノベルティ、スプーンなど付属品等の料金を同社では、注文連動費と呼びます。商品ごとに割り振りにくい場合は、全社合計の注文連動費を商品売上比率で配分し、商品ごとの利益を明らかにします。
③販売利益率
販売利益=純粗利-販促費
販売利益は、純粗利(利益②)から販促費(販売促進費)を引いて求めます。 販促費をかければ当然売上は上がりますが、この販売利益が上がっていない場合、その販促は効果がなく、無駄であることがわかりますから、コミュニケーションを見直すべきです。
広告を出稿する場合には売上を目標にするのではなく、利益を目標にすべきです。その際、イノベーター理論や収穫逓減の法則を参考にし、CPOをコントロールすべきだという著者のアドバイスに共感しました。
同社では、直接注文を取るためのレスポンス広告なら使用時に計上し、認知度やイメージアップのためのテレビCMなどの間接施策は、CM効果の有効期限を設定し、その期間で月ごとに等分で減価償却していると言います。
④ABC利益率
ABC利益=販売利益-ABC(商品ごとの人件費)
ABCとは、アクティビティ・ベースド・コスティング(Activity-Based Costing)の略=商品ごとの人件費になります。ABC利益は、販売利益(利益③)からABC(商品ごとの人件費)を引いて求めます。
商品・サービスの販売にかかる間接コスト(人件費)を使用比率に応じて配分することで、商品・サービスごとの収益を把握できるようになります。経営者やリーダーは、ABC利益率を見ながら、業務オペレーションを改善し、人の配置を変えることで、少ない手間で大きな利益を上げることができます。
⑤商品ごと営業利益率
商品ごと営業利益=ABC利益-運営費 ABC利益(利益④)から運営費を引いて求めます。
5段階で見える化することで、「売上は上がっているが、利益は出ていない商品」「売上は低いが、実は利益が出ている商品」などが一目でわかるようになり、企業が何に集中すべきかが一目瞭然になります。
利益につながらない業務はやめたり、変えることで、会社の業績は改善します。 会社の全活動が利益につながっているかを把握し、それらを数字という客観データから思い切って見直すのです。
また、月次で比較しながら数字を見ることで、利益額や利益率が下がったとき、「どの商品のどの段階」に問題があるかが一目瞭然なので、どんな手を打てばいいかがすぐわかります。5段階利益管理を導入することで、弱点がわかるだけではなく、「強み」もわかります。
「手間やコストがかかっていないが利益の多い商品」の特徴を分析し、その要因を新商品開発や新規事業開発に活かすのだ。これにより、今までよりも少ない手間やコストで利益を増やしていけるようになる。こうやって会社を効率経営に変えていくのだ。
経営においてこれまでは、「売上最大化、利益最大化」が常識でしたが、今後は利益にこだわり、会社を存続させることを重視する経営が当たり前になるかもしれません。
利益を度外視して売上を高める経営は、不況下では固定費を吸収できずに赤字となり、キャッシュフローを悪化させます。逆に、売上が低くても利益をあがる経営をしていれば、キャッシュフローがよくなり、景気が悪化しても従業員の給与を支払えます。変化が激しい時代には、売上よりも利益を重視すべき理由がここにあるのです。
本書にはD2Cだけでなく、経営や組織構築の様々なノウハウが詰め込まれています。同社の成長のプロセスを理解することで、利益をアップさせるだけでなく、広告運用や組織の課題を解決できるようになります。
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