Deep Skill ディープ・スキル――組織と人を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」
石川明
ダイヤモンド社
本書の要約
合理的な議論だけで結論が出ないときには、そもそもの企業の出発点である「意志」や「パーパス」に立ち戻る必要があります。もしも、合理性による膠着状態に陥ったら、自社の「意志」や「パーパス」から新規事業を考えるようにしましょう。
合理性の罠とは何か?
「合理性」のみを追求することによって、誤った判断をしてしまったり、問題を余計にこじらせたりしてしまうケースがあるのです。(石川明)
不確実性の世の中において、合理性を追求するだけでは、正しい答えは見つかりません。最も効率的に目的を達成するために、合理的に考える能力が必要で、確かに多くのビジネスフレームワークは役立ちます。論理破綻しているビジネスプランが経営者から承認されるはずはありません。
合理的に考えれば考えるほど、新規事業への投資よりも、既存事業への投資を優先すべきだと多くの経営者は考えますが、これでは成長を持続できなくなります。時間の経過とともに事業環境は変化しますが、目先のことを考えると新事業を行うことはリスクが高くなります。
しかし、既存事業にのみ頼る経営を続けていては、いずれジリ貧になってしまいます。これを避けるためには、次の新規事業に投資すべきです。
新規事業に投資をしても、そのリターンが得られるとは限りません。どんなに合理的なビジネスプランを考えたとしても、やってみなければ結果はわからない。それが、新規事業なのです。
既存事業への投資はリターンや成果をかなり精度高く予測できますから、投資効率を合理的に考えれば、新規事業よりも既存事業への投資を優先するという結論に至ってしまうのです。
リーマンショックなどの不況時などには、目先の業績を優先する必要があるため、新規事業への投資は一気に減ります。新規投資への圧力に合理的に反論するのは、きわめて難しいのが実態です。
新規事業のビジネスプランの合理性を追求しようとしても、やってみなければわからないという限界が存在します。リーマンショック時に多くの大企業が新規投資を見送る中、果敢にチャレンジしたAirbnb、uber、Slackなどのスタートアップ企業がマーケットを獲得していったことを忘れないようにしましょう。
不況の時には、余計なお金を払いたくない心理が働き、顧客から本当に求められる消費やサービスだけしか生き残れません。リーマンショック後に大企業が投資を控える中で、ベンチャー企業は顧客のペインを減らすことで、一気に成長していったのです。
新規事業で合理性の罠に陥らない方法
「合理性の罠」に「合理性」をもって対抗するのは本質的に不可能ということ。ここに難しさがあるわけです。
新規事業担当・・・約10年のスパンで構想する「立場」
既存事業サイド・・・短期的な収益目標を達成する「立場」
両者の「時間軸」や「ミッション」が異なる「立場」にいるため、合理性を追求すれば異なる結論に至るのは当然のことになります。
企業経営に「合理性」は不可欠ですが、経営判断の根源にあるのは、「合理性」を超えた「意志」や「パーパス」になります。
・我が社は何のために存在しているのか?
・どういう会社になりたいのか?
経営者は「意志」や「パーパス」を明かにし、顧客に何を提供するかを明かにすべきです。合理性とは「最も効率的に目的を達成すること」ですが、その「目的」を決めるのは「意志」にほかなりません。最初に「意志」があり、その「意志」を達成するために「合理性」が必要とされるのです。
合理的な議論だけで結論が出ないときには、そもそもの企業の出発点である「意志」や「パーパス」に立ち戻る必要があります。もしも、合理性による膠着状態に陥ったら、自社の「意志」や「パーパス」から事業を考えるようにしましょう。
環境の変化は必ず訪れるのですから、合理性の罠に陥らずに、新規事業が必要と考えられたなら、経営者は抵抗勢力に屈せず、投資を怠らないようにすべきです。
企業の経営理念やビジョンに立ち戻り、目的を再確認すること、顧客満足を高めるために必要なことを考えることで、「合理性の罠」に陥らずに、正しい答えを出せるようになります。企業の「意志」や「パーパス」を明かにし、経営者と社員で共有することの重要性を再認識できました。
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