ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件(藤井保文)の書評

man riding on black underbone motorcycle

ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件
藤井保文
日経BP

本書の要約

企業がジャーニーシフトを実践し、顧客の行動データを把握することで、顧客が「今どのフェーズにいるのか」も分かるようになり、最適なタイミングで最適な商品・サービスを提供できるようになります。「行動支援の時代」において、あらゆる企業は製品販売型の「バリューチェーン」から体験提供型の「バリュージャーニー」へとシフトしていく必要があるのです。

インドネシアのGojekが成功した理由

「ジャーニーシフト」とは、顧客提供価値が時代によって変質したことを示した言葉です。一文で示すと以下のようになります。顧客提供価値が、「モノや情報の提供」「瞬間的な道具としての価値」から、ありたい成功状態を実現させ、行動を可能にさせる「行動支援」に変わっている。(藤井保文)

東南アジアのDXは日本よりはるかに進んでいます。私もベトナム、インドネシア、シンガポールでGrabやGojekといったスーパーアプリを使っていますが、移動や買い物での顧客体験はインフラは劣っているにも関わらず、日本より優っています。

インドネシアのGojekのコンセプトは、彼らが抱えるドライバー集団に「ヒトやモノを運んでもらう」サービスであるということです。
・バイクタクシー
・フードデリバリーや買い物代行、宅配便
・マッサージ師や清掃業者といったサービス提供者を自分のところまで送り届けてもらう
・電子決済サービス(GoPay)

Gojekは「自分が移動しなくても、ドライバーが日常に発生するさまざまな距離をゼロに近づけてくれるサービス」に進化しています。

・ユーザー視点→「ドライバー集団に頼めることのカテゴリー別アプリ」の集合。
・ドライバー視点→「仕事の内容はどれも何かを運ぶ依頼」

Gojekは、優秀なドライバー集団によってインドネシアにおける移動の課題を解決しただけではなく、サービスを支えるドライバーの生活も大きく変えています。増加した中間層の雇用を生み出したというだけではなく、これまでの生活にはなかった「金融支援」と「福利厚生」によって、ドライバーを豊かにしています。

Gojekはドライバーの収入データや労働データ、ユーザーからの評価を把握し、これらのデータを基に精度の高い与信管理を行っています。その結果、助成金付きの住宅ローン、何らかの原因で働けないときの就業不能保険、生命保険や健康保険などを用意し、これまでドライバーが得られなかったような生活をサポートしています。

直近どの程度まじめに働いているか、実際に危ない運転をして事故になっていないか、といった実際の行動データからドライバーの信用を評価するわけですからリスクが低く、これらの事業はGojekから見ても利益率の高い収入源になっています。

このほかにもCVSのアルファマートでの割引、社食サービス、車載デジタルサイネージでの広告サービスなどステークホルダーとドライバー、Gojekがwin-winの関係をつくることで、それぞれが豊かになっています。

インドネシアでは、スマートフォンの定着によって多くの人々がオンラインにつながり、交通渋滞をはじめとするさまざまな社会のペインポイントを実践的に解決したのです。人々の生活が便利になっただけでなく、ドライバーやマーチャントなど、社会を構成する多様なステークホルダーそれぞれで変革が進んでおり、社会全体がアップデートされています。

一方、日本では縦型のサプライチェーンでビジネスが成り立っているため、インドネシアのような横串でステークホルダーをつなぐ発想がないため、顧客体験がなかなかよくなりません。日本の企業は今こそ社会のペインを見つけ出し、それを解決するためにジャーニーシフトを実践すべきです。

行動支援時代にジャーニーシフトが重要な理由

今の時代、「社会ペインのための協調は、企業が勝ちぬくための必須の姿勢」であるということです。

ジョイントビジョン・・・社会の多様な人々が共通して「実現したい」と思えるゴール。社会にインパクトを与える活動をするには、ジョイントビジョンを提示することが重要になっています。このジョイントビジョンからバックキャスティングし、さまざまな企業がお互いに共助することで世の中のペインを減らせます。

・共助が必要な2つの理由
(1)オープン化
利便性を高めてユーザーを増やすには「オープン化」こそが最強の戦略の一つになります。API的に横串連携を可能にすると、巻き込めるプレーヤーが増え、かつ認知や利便性が上がることで利用者数も増やせます。

(2)リソースの共有
「リソースの共有」によってコストも機会損失も避けられます。場所や人やモノが空いているタイミングで融通し合ったり、1人のスタッフが2つや3つの企業でタスクを同時に実行したりすることも可能となり、超高齢社会の対策としても効果的です。

アフターデジタル時代における大きな環境変化の1つ目は、「行動データによる顧客理解の解像度向上」です。オンラインがオフラインの世界を包み込む時代になると、企業はサービス提供を通じて顧客の詳細な行動データを取得できるようになります。これにより、従来とは比べものにならないほど高い解像度で顧客を理解することが可能になります。

リアルにまでオンラインが浸透したアフターデジタル時代においては、顧客理解の精度が圧倒的に高まります。時間単位、状況単位で顧客を理解することができるようになり、最適なタイミングで最適なコンテンツやコミュニケーションを提供できるようになり、顧客に行動してもらいやすくなります。

顧客の行動データを把握することで、顧客が「今どのフェーズにいるのか」も分かるようになります。その結果、単一企業、またはアライアンスを組んだ企業群などが連携し、さまざまな接点を通して最適なタイミングを捉え、顧客の成功体験の実現をサポートできます。

「行動支援の時代」において、あらゆる企業は製品販売型の「バリューチェーン」から体験提供型の「バリュージャーニー」へとシフトしていく必要があります。OMOもWeb3も、新たなデジタルテクノロジーは顧客の行動支援のために使われる道具であると考えるべきです。

熱狂を生むようなジャーニーをつくることができれば、自社の商品やサービスが圧倒的に使われるようになります。また、熱狂したファンたちがそれをシェアし、周りに広げてくれます。データを駆使し、顧客に喜んでもらえる商品・サービスを最適なタイミングで提供することで、さまざまなカテゴリーで熱狂的なファンを増やせます。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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