買い負ける日本 (坂口孝則)の書評

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買い負ける日本
坂口孝則
幻冬舎

本書の要約

日本企業の調達面での買い負けが問題となっています。この買い負けの根底にある原因を構造的に捉えると、上位構造としての「日本産業の衰退」、それに続く下位構造としての「日本型システムの限界」が見て取れます。多層構造、品質追求、全員参加主義・全員納得主義といった3つの特性も、この買い負けを引き起こす要因となっています。

なぜ、日本は買い負けるのか?

私は日本の消費者が悪いとは思わない。消費者にとっては安いほうがいいに違いない。ただし結局は程度問題だ。価値を認めるべきは認め、価格を上げるべきは上げる。その当然の値上げがなく、ひたすら低価格志向を重ねれば日本は世界から置き去りにされていく。(坂口孝則)

日本がグローバルのマーケットで存在感を失っています。  「買い負け」が問題となっている日本。かつては水産物を中心に中国との争奪戦で敗れ、この課題が注目されていましたが、現在では、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で同じ問題が顕著に表れています。

調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏は、長年続いたデフレ、日本企業の価格重視、購入量の少なさ、対応速度の遅さ、そして過度な品質要求などをその原因としてあげています。これらの特徴は、過去の成功体験に基づく旧態依然とした姿勢の表れで、その結果、日本企業は顧客に対する魅力を失い、ビジネスの競争力を低下させていたのです。

例を挙げると、かつては世界をリードしていた半導体産業でも、日本企業の位置づけは大きく変わりました。中国など他の国々による技術の進化と競争の激化により、我が国の技術優位性は失われ、半導体の調達において外部に依存するようになってしまったのです。

日本の国家戦略の欠如、政策のミスにより、LNGでも買い負けが起こっています。再生エネルギーを優先することで、カタールの不信感が高まり、中国との競争に負けてしまっているのです。

中国は、積極的にLNGの調達先を確保し、自国のエネルギー需要を満たすために努力しています。一方で、日本は再生エネルギーに注力することで、LNGに依存することを避けてきましたが、その結果としてLNGの供給不足に直面しています。

現在では、働く人材が、働く国を選んでいる。良い人材を各国が争って誘致している。その状況がわからず待遇改善が図られなければ日本から人材が流れ、日本は堕ちていく。

マグロや小麦などの食料品でも買い負けが続いていますが、最近では労働者からもスルーされています。低賃金、言葉の問題、パワハラなどによって、ベトナムやフィリピンの労働者もシンガポールやオーストラリアなどを選択するようになっています。

現代のグローバル化した社会では、人々は自己の将来やキャリア展開を重視し、どの国で働くかを選択しています。各国はこの厳しい競争の中で、優秀な人材を引き付けるためにさまざまな施策を導入しています。しかしながら、日本企業がこの現状を十分に把握し、適切な待遇改善を実行しなければ、優れた専門家たちは日本を見逃し、その結果、多様性の構築やイノベーションの発生が妨げられるでしょう。

これらの「買い負け」の背景には、日本企業の安価で少量の購入にこだわる姿勢、対応の遅さがあると言えます。 日本企業が購買において顧客にとって魅力的でない存在となってしまった理由は、安価で少量の購買、反応の遅さ、そして過度な品質へのこだわりが挙げられます。これらの傾向は、過去の成功体験に縛られた結果とも言え、これが顧客に十分な価値を提供できない状況を生み出しています。

日本企業は多くの場合、価格を最優先に考え、最低限のコストで商品やサービスを調達しようとします。これはコスト削減や利益の最大化を追求する戦略として理解できますが、その一方で、これが付加価値や品質に対する投資を妨げる結果となっています。また、購買量が少ないため、一度の取引での売上が限定的となり、海外の事業者(販売側)にとっては魅力的な取引先とは言えない状況を生んでいます。

さらに、日本企業の対応スピードの遅さも問題となっています。手続きが複雑で時間のかかる調達プロセスが取引の遅延を引き起こし、ビジネスチャンスを逃す原因となっています。これは一部、慎重さや品質へのこだわりからくるものですが、現代のビジネス環境では、市場の変化に素早く対応することが求められています。

また、日本企業が高品質を求める理由は、過去の成功体験が大きく影響しています。日本は高品質な製品で世界的に名高いですが、その歴史が過度な品質追求を生む一方で、価格やスピードの優位性を見失わせてしまっています。 このような背景から、日本企業は価格が安く、購買量が少なく、対応スピードが遅い一方で、品質に対する要求が過大という状況が生まれ、顧客に対する魅力を失ってしまっています。

港湾がスルーされることで、買い負けが加速する?

日本に寄る外航船の便数が減っている。日本は運んでもらえない国になっているのだ。

北米西岸コンテナ航路を見てみると、東京港への寄港隻数の減少が明らかとなります。特に2021年には前年比で3割減の月が多く、2022年前半に至っては前年比で5割減という結果が出ています。また、横浜港や大阪港、神戸港も2年連続で同様の減少傾向にあります。これは北米西岸コンテナ航路だけでなく、他の航路でも見られる現象で、2021年には全体的に大幅な減少が確認されています。

こうした現象の一因として、コロナ禍が挙げられます。コロナの影響で、予定していた日本への寄港が減ってしまったのです。さらなる遅れは避けたいという事情から、船舶会社は日本を”素通り”する選択をしました。例えば、米国から日本に寄って荷物を積む予定だったコンテナ船が、時間の都合上、空のコンテナのまま中国に向かうというケースです。このような現象を「抜港」と呼びます。

日本への寄港が優先されなくなった理由の一つは、より効率的な航路を選択することで利益を追求する傾向にあります。つまり、米国から日本に寄るよりも、より早く中国に戻って次の便に備える方が効率的であるという考え方です。

この抜港の傾向が始まったきっかけは阪神・淡路大震災とされ、震災で神戸港に寄港できなかった船舶は釜山港を利用しました。1994年には世界6位だった神戸港は、この震災以降、順位を落とし続け、2021年には73位まで落ち込みました。一度避けた港は再び利用することが少なくなり、これが日本の港への寄港減少の背景となっているのです。

海外の船舶会社が日本の港をスルーすることで、日本企業は買い負けてしまう恐れがあります。なぜなら、海外の船舶会社が利益のでない日本の港を回避することで、船舶運賃が高騰し、物流コストが上昇してしまうからです。これによって、日本企業の製品価格が上昇し、競争力が低下してしまう可能性があります。

価格ばかりを追求し、それでいて購入量も少ない日本。さらに手続きは複雑で時間もかかる。そのような特性を持つ日本を海外の企業が優先する理由は見当たらず、これが日本の「買い負け」の根本的な原因となっています。

買い負けから脱出するための12の提言

買い負けの原因を構造的な観点から考察すると、以下の要素が主要な要因として浮かび上がります。「日本産業の衰退」を上部構造とし、その下部構造に「日本型システムの限界」が存在します。著者は日本企業の3つの組織的特性、「多層構造」、「品質追求」、「全員参加主義・全員納得主義」が問題となっていると指摘します。

まず、「日本産業の衰退」が買い負けの根本的な原因となっています。これは、日本の産業力の減衰により、国際競争に破れる事例が増えたことを示しています。日本企業が海外のニーズに対応しきれず、競争力が低下した結果、購買力が衰えました。

次に、「日本型システムの限界」が下部構造として見られます。日本の企業は大量生産や効率追求の「日本型システム」に立脚しています。しかし、このシステムは柔軟性やスピードに欠け、急速に変わる市場環境への対応が難しいとされています。このため、需要の変動に素早く対応できず、買い負けが生じてしまいます。

買い負けの原因・・・日本企業特有の3つの組織体質
①多層構造
多数の階層で構成される日本企業では、意思決定や情報共有が遅れる傾向があります。サプライチェーンの把握ができていないために、適切な購買ができないことも買い負けの原因になっています。これにより、迅速な対応ができず、競争に敗れるケースが見受けられます。

②品質追求
日本企業は品質へのこだわりが強い一方で、それが度を越えてしまうこともあります。これにより、製品の開発や改善に時間がかかり、競争力のある製品を素早く市場に投入することが困難になります。冷静なコスト計算に基づいた品質追求をしなければ、海外企業からスルーされてしまうのです。

③全員参加主義・全員納得主義
日本企業では、全員が参加し、全員が納得する形で意思決定を行うことが重視されます。しかし、このような承認プロセスは時間を必要とし、市場の変化に速やかに対応することが難しくなります。

このような背景から、日本企業は価格が安く、購買量が少なく、対応スピードが遅い一方で、品質に対する要求が過大という状況が生まれ、顧客に対する魅力を失ってしまっています。これを改善するためには、価格競争力の強化、対応スピードの改善、そして効率的な調達プロセスの確立が求められます。著者はその上で12の提言を行なっています。

1、仕入先への早期発注を
2、下位仕入先へ積極的な関与と情報開示を
3、日本企業トップは仕入先トップと積極的な交渉を
4、品質を売るのでなく価値の販売を
5、OR設計(Order Replacement)の徹底を。代用できる商品の積極利用。
6、コスト評価の徹底を
7、結果ではなく手法と結果幅の合意を(無駄な会議をやめ、交渉を重視、担当者に価格幅を与える)
8、リスクを取った行動を
9、横並びを脱する企業戦路を
10、自己を否定し新たなビジネスモデルを
11、人材の流動化と賃上げを
12、外国人財にも学びの場を

日本企業が再び世界の競争力を持つためには、「買い負け」の原因を正確に分析し、改善策を導入することが必要です。そうすれば、日本の産業が再び活気を取り戻すことが可能となります。著者は買い負けの原因を明らかにすることで、日本企業の問題を明らかにしています。本書の12の提言は日本企業が再び成長するための施策としても使えるのです。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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