無形資産経済 見えてきた5つの壁(ジョナサン・ハスケル, スティアン・ウェストレイク)の書評

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無形資産経済 見えてきた5つの壁
ジョナサン・ハスケル, スティアン・ウェストレイク
東洋経済新報社

本書の要約

先進国が成長するためには、無形資産への投資が鍵になります。高い成長と公平な経済を実現するためには、無形資産への投資を積極的に行うべきです。金融システムだけでなく、政治家や官僚も制度の再構築と刷新に向けた勇気と決意を持つ必要があります。これらの課題に取り組むことで、イノベーションが起こせるようになります。

無形資産時代になぜ先進国は経済成長できずにいるのか?

重要な問題は、無形資産は変わった経済的性質を持つので、それに合わせて制度も変えねばならないということだ。(ジョナサン・ハスケル, スティアン・ウェストレイク)

社会の繁栄には、資本ストックが重要な要素となります。資本ストックとは、人々や企業、政府が長期的な利益をもたらすために持続的に投資してきたもののことを指します。労働者が経済の筋肉であるならば、資本は関節や靱帯、支持器官に相当します。つまり、筋肉が効果的に働くための仕組みであり、筋肉の効率性を決定するものです。

1980年代以降、世界の資本ストックは着実に変化してきました。かつては企業が主に物理的な資本に投資していました。機械や建物、車両、コンピュータなどがそれにあたります。しかし、現代社会が豊かになるにつれて、企業の投資先は触れられないもの(無形資産)にシフトしています。例えば、研究開発やブランド、組織開発、ソフトウェアなどです。 これは、経済の進化や技術の発展によるものです。物理的な資本だけではなく、知識や情報、ブランド価値など、非物質的な要素である無形資産が重要視されるようになったのです。

企業は無形資産に投資することで競争力を高め、持続的な成長を実現しています。 また、資本ストックのシフトは地域や国家の経済構造にも影響を与えています。例えば、先進国ではサービス業や知識産業が成長し、経済の中心となっています。一方、新興国では物理的な資本への投資がまだ重要視されており、経済の発展が進んでいます。

先進国は経済成長できずに苦しんでいる理由に無形資産への投資の減速があると指摘します。著者らは経済危機は無形危機だと言い、現代の経済危機の5つの特徴を明らかにしています。
①停滞:10年以上にわたり、生産性の伸びが極端に低下しています。これにより、先進国は21世紀の進行中の成長トレンドに比べ、1人当たりの所得が約25%も低くなっています。

②格差拡大:資産や所得において、1980年代から明らかに格差が拡がっており、減少の兆しは見られません。現代の格差は、単純な富の有無だけでなく、尊厳の面での格差としても複雑になっています。

③競争力の低下:市場経済のエンジンである競争が適切に動いていないようです。企業の成績は固定化しており、新たな起業の数が減少しています。また、多くの人々が転職や移住の選択をしづらくなっています。

④脆弱性の高まり:新型コロナウイルスの大流行は、たとえ豊かな経済圏であっても、自然災害には敵わないことを示しました。このパンデミックの影響は、経済の複雑さや高度さと深く関連しています。

⑤正当性の喪失:21世紀の経済におけるもう一つの懸念点は、経済学者よりも一般の人々の間で頻繁に取り上げられる正当性の欠如、あるいは「フェイク性」という現象です。多くの労働者や企業は、かつての熱意や正当性を失っていると感じています。

スケーラブルな無形資産を持つ企業は急成長できるし、巨大になれる。これは今日のハイテク巨人を見ればわかる。スピルオーバー効果は、企業がそれに投資しても、その恩恵を活用するのは競合他社になりかねないということだ。

最近では様々な理由で無形資産への投資が減速しています。その一つがスピルオーバー効果です。かつてのスマートフォン業界の巨人、ブラックベリーとノキアは大きな失敗を経験しました。ノキアは経営難からマイクロソフトに事業を売却し、通信機器のメーカーとして新たな一歩を踏み出しました。一方、ブラックベリーはスマートフォンのライセンス更新を見送る方針を採用しました。

このような事例から、政府の投資支援の重要性が再認識されています。多くの国々が、科学研究や教育、研修といった形での投資を強化しています。新しい産業や技術革命の推進には、こうした投資が不可欠です。 政府は、R&Dのバックアップや新技術の導入促進など、多角的な方法で無形資産への投資を行うべきです。

未来の無形資産への投資を促す方法

無形の特性のため、無形リッチ経済の資金調達はずっとむずかしくなる。多くの無形投資のサンク性のため、伝統的な銀行では担保として使いづらい。だから投資しようとする企業は手持ちの現金に頼るか、自分の家を担保にして資金調達するしかない。

ほとんどの企業は外部資金を負債の形で調達しています。しかし、無形資産が重要な企業の場合、負債ファイナンスはあまり適していないことがあります。無形資産は担保に使えないことが多く、そのため返済能力の評価も困難になります。

無形資産集約的な企業とは、特にブランド価値や技術力などの知的財産を持つ企業を指します。このような企業は、その価値を具体的な資産として担保にすることが難しい場合があります。例えば、ブランド価値は企業の評判や顧客の信頼によって形成されるものであり、担保としての価値を明確に評価することは難しいです。

そのため、無形資産集約的な企業は、他の資金調達方法を模索する必要があります。一つの方法としては、株式の発行や出資を通じた資金調達が考えられます。これにより、企業は新たな投資家を獲得し、資金を調達することができます。また、無形資産の価値を示す情報開示や評価方法の確立も重要です。

投資家や金融機関は、企業の無形資産に対する評価を行うための情報を必要とします。 金融政策の観点から見ると、無形資産集約的な企業の特性を考慮する必要があります。金融政策は、企業の資金調達環境を整備することで経済の活性化を図るために行われます。無形資産集約的な企業が適切な資金を調達できる環境を整えることは、経済の持続的な成長にとって重要です。

したがって、金融政策の一環として、無形資産集約的な企業の資金調達ニーズに応えるための施策が必要です。例えば、無形資産の評価方法や情報開示の基準を明確化し、市場に信頼性の高い情報を提供することが求められます。また、投資家や金融機関のリスク評価方法の見直しや、無形資産を保証する新たな金融商品の開発なども検討されるべきです。

無形資金の増加は、経済リスクを増大させ、中立的な安全金利を下げ、中央銀行の行動を制約し、金利を低く保つ必要性を引き起こします。これは、経済への負のショックを金利の変動によって相殺する能力を制限し、人々の脆弱性を高めてしまいます。

無形資金への改革が緊急に必要です。たとえば、税制の偏向を廃止することなどが挙げられます。また、年金基金や保険会社が無形ベースの企業に投資できるようにする改革も求められます。

ただし、これらの改革はリスクを減らし、収益性を高めるように設計されるべきです。 さらに、金融政策が行き詰まった場合に財政政策が自動的に支援する仕組みを改善する必要があります。最も脆弱な集団に対する補助金支給や、より累進性の高い税制などが、自動的な安定化装置として機能するでしょう。

コロナ禍は、こうした提案の政治的な受け入れを高めました。したがって、今こそこれらの提案を採用するべきです。 結論として、無形資金の増加は経済リスクを引き起こし、中央銀行の行動を制約します。これに対応するためには、無形資金への改革や財政政策の改善が必要です。コロナ禍を機に、これらの提案を実施することが重要です。

問題が生じたのは経済の性質が変わったからだ──資本ストックが有形から無形にシフトしたのは、現在進行形の静かな革命なのだ。そして我々の制度は、金融システムから都市計画ルール、特許法廷から教育機関まで、それに追いつけていない。  

金融システムだけでなく、政治家や官僚も無形投資への認識を変える必要があります。現在の制度やルールでは、経済成長と公平性を両立することが難しい状況です。そのため、都市計画ルールや特許制度など、さまざまな分野での対応策を考える必要があります。

今後も先進国が成長するためには、無形資産への投資が鍵になります。高い成長と公平な経済を実現するためには、金融システムだけでなく、政治家や官僚も制度の再構築と刷新に向けた勇気と決意を持つ必要があります。これらの課題に取り組むことで、イノベーションが起こせるようになります。

 

 

 

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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