独学の思考法 地頭を鍛える「考える技術」
山野弘樹
講談社
本書の要約
「探究のための独学」は、現代ビジネスの中心的なスキルとして重視されています。急激に進化する現代社会において、持続的な学びの意義は高まっています。問題を自ら発見し、その解決策を模索する力、そして効果的なコミュニケーション能力を持つことで、ビジネスで結果を出せるようになります。
正しい独学が必要な理由
独学こそ「自ら思考する力」が本質的に試されるのです。(山野弘樹)
世の中が複雑化した答えのない時代には、学びを継続することが求められます。忙しい現代人が自分をアップデートするための手法として、独学が注目されています。 独学は、自分のペースで学びを進めることができるため、多くの人々が独学を選んでいます。
特に、社会が抱える本質的な課題に対して自分なりの考えを持ちたいという人々にとって、独学は有効な方法です。 すぐに答えの出る学校の勉強などの独学は、暗記力やテクニックが問われます。しかし、社会の課題に対して自分なりの視点や解決策を見つけるためには、単に知識を詰め込むだけでは不十分です。そのためには、探究のための独学=深く考える技術が必要となります。
哲学者の山野弘樹氏は本書の中で、自ら思考する力を養うためのメソッドを明らかにしています。以下の3つのステップを実践することで、考える力を高められ、独学での効果を得られるようになります。
[ステップ1]問いを立てる:走り出すための出発点を設定する
[ステップ2]論理的な思考を展開する:そこから実際に走り出す
[ステップ3]物語を作る:走ったコースの景色を再現VTRにまとめる
以下のステップを実践することで、思考する力を高められます。
①問いを立てる力・・・どこから思考を始めるべきかの出発点を正しく決める
(良い問いと不適切な問いを明らかにする)
すべては「問い」から始まります。初めの問いが事柄の本質を捉えきれていない場合、私たちはいくら時間とエネルギーをかけても、説得的なアーギュメントを導き出すことはできず、空回りしてしまうだけでしょう。重要なのは、本質的な問いを覆い隠してしまう表面的な問いを剥ぎ取り、真に問われるべき問いを探究し続ける姿勢なのです。
②文節する力・・・ 情報の海の中からチャンクを整理・収集する力
③要約力・・・ 集められたチャンクを用いて、ロジックを(再)構成する力
④論証する力・・・構成されたロジックをつなげて、アーギュメントをつくる力
(問いと答えの正しい循環運動によってロジカルなコミュニケーションが可能になる。)⑤物語化する力・・・相手に伝わる思考をする。(抽象的な文章を映像化する。)
独学によって、「考える力」を身につけるためには、単に情報を得るだけではなく、その情報を自分の中で整理し、自分なりの意見や解決策を見つけることが重要です。このような思考力を養うためには、問いを持ちながら読書をしたり、人とのコミュニケーションを取ることが必要です。
本を読みながら疑問や疑念を抱くことは、私たちの知識や思考力を高めるための有効な方法です。ただ単に情報を受け入れるだけでなく、自分自身で考えることが重要なのです。著者の意見を鵜呑みにするのではなく、著者との対話を重ねることで、考える力を養えます。
その際、以下の読書メモをつくることで、自分の頭が整理でき、本の全容が明らかになり、再読する際にも便利です。
・疑問を示すメモ
・同意を示すメモ
・繋がりを示すメモ
要は問いを立てることとロジカルシンキングのメソッドが身につけば、思考する力が高まります。そして、それをストーリーとして伝えることで、他者とのコミュニケーションをよりよくできるのです。
対話的思考を養うための3つのステップ
独学とは、文字通り一人で机に向かって行われるものだと考えられがちですが、そうした考えとは裏腹に、独学は他者との対話を経ることによって初めてその真価を発揮するものです。
独学とは、文字通り一人でするものだと捉えがちですが、他者の存在も欠かせません。その理由は主2つあります。
①独学者が独断的・独善的な思考に陥ってしまうのを、他者との対話が防いでくれます。他者の意見こそが、閉鎖的な思考の枠組みに風穴を開けてくれます。
例えば、ある独学者が自分のアイデアに固執し、他の意見を全く受け入れようとしない場合、その独学者は自分の視野を狭めることになります。しかし、他者との対話を通じて、異なる視点や新たな情報を得ることができれば、より広い視野を持つことができます。
②探究としての独学の営みは、決して一人で完結してしまうようなものではありません。真なる思考は、複数人との対話の中でこそ本来の輝きを取り戻します。他者との意見交換や議論を通じて、新たなアイデアや洞察を得ることができます。
例えば、ある独学者が特定のテーマについて深く研究しているとします。その独学者が他の専門家や研究者と意見を交換し、議論を重ねることで、新たな視点やアプローチを発見することができます。これによって、独学者の研究はより深まり、高いレベルに到達することができるのです。
私もこのブログを書くことで、読者の方からフィードバックをもらえたり、周りのビジネスパートナーと意見交換をします。この対話を通じて、新たな知識や気づきを得られます。
「独学」という言葉からは想像されにくいのですが、他者との対話というプロセスを経ることは、「探究としての独学」の方法を習得・実践するために必要不可欠な試みなのです。
対話的思考を養うために、以下の3つのステップを実践しましょう。
[ステップ1]「問い」によって他者に寄り添う。
[ステップ2]「チャリタブル・リーディング」を実践する。
[ステップ3]他者に合わせた「イメージ」を用いる。
他者に寄り添うためのスキルとして、著者はチャリタブル・リーディングを紹介しています。チャリタブル・リーディングとは、相手の意見や文脈をできる限り肯定的な視点から読み解くことを指します。つまり、相手の意見に対して否定的な反応をするのではなく、その意見を理解しようとする姿勢を持つのです。これにより、相手の立場や背景を考慮しながら、自分の意見を伝えることができるようになります。
チャリタブル・リーディングは相手を圧倒するために行われるわけではないというのが最も重要なポイントです。相手の意見を潰してしまつのではなく、より論理的に抜け漏れの少ない議論を作る補助をするために行われるのが、チャリタブル・リーディングに他ならないのです。
チャリタブル・リーディングとクリティカルシンキングの手法は、見方やアプローチが異なるように思えますが、実は相互に補完しあい、両立することができます。
チャリタブル・リーディングは、他者の意見や文章を理解するために必要な柔軟性や寛容さを培います。これにより、相手の意図や背景に敏感になり、より深い理解を得ることができます。
一方、クリティカルシンキングは、情報を客観的に評価する能力を養います。情報の信頼性や根拠を検証し、論理的な思考を通じて正確な判断を下すことができます。クリティカルシンキングは、思考の妥当性を確保するために必要なスキルであり、誤解や偏見を避けるためにも重要です。
チャリタブル・リーディングによって他者の意図や背景を理解し、クリティカルシンキングによって情報を評価し、自身の思考を洗練させることができます。両方を上手に使うことで、より豊かな思考力を身につけ、よりよいコミュニケーションを築くことができるのです。
さらに、他者に合わせた「イメージ」を用いるために、メタファー(比喩)とアナロジー(類比・類推)を使うようにしましょう。
メタファーとは、比喩表現を使うことによって相手に物事をわかりやすく伝えたり、表示物の視認性を高めたりする手法です。メタファーは、言葉の技法であり、ある物事を別の物事に例えて、その特徴や感情を表現することを指します。アナロジーは、類似性や関連性を持つ事物を比較することで、理解を助ける方法です。
メタファーとアナロジーを使うことで、相手にわかりやすく伝えることができるだけでなく、相手のイメージや感情に訴えることもできます。相手の共感や理解を得るためには、メタファーやアナロジーを上手に活用して、魅力的な表現を心掛けましょう。
「探究のための独学」は、私たちにとって大切な力です。社会が急速に変わる中、学び続ける姿勢はこれまで以上に大切になっています。特に現代の情報過多の時代には、自らの思考力を鍛え、適切な情報を選び取る力が求められます。
探究のための独学は、私たちの成長と自己実現の鍵となるものです。この学び方を採用することで、私たちは問題解決の技巧を磨き、独自の思考方法を培います。そして、この探究のための独学は、私たちの生涯学習の基盤とも言えるものです。
その理由は、「自らの思考で探究する」という行為が、私たちが目指す充実した人生の中で避けられない課題や問題に直面する時の力となるからです。私たち自身の興味や疑問を追い求めることで、テーマや課題を発見し、それに対する答えを導き出します。このプロセスを経ることで、私たちは自分自身をよりよく知り、自己成長の道を進むことができます。
私の経験でも、書評ブログを更新し続ける中で、深い考察の力が育まれてきました。インプットとアウトプットを繰り返し、様々な著者と対話によって、思考する力を高めることができました。
さらに、大学の教壇で学生たちにイノベーションやケーススタディの考え方を伝える中で、物語力が磨かれました。著者が指摘するように、独学の追求は、人生をより一層充実させる要素であると私も感じています。
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