BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?( ベント・フリウビヤ, ダン・ガードナー)の書評

a couple of toy figurines sitting on top of a shelf

BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?
ベント・フリウビヤ, ダン・ガードナー
サンマーク出版

BIG THINGS( ベント・フリウビヤ, ダン・ガードナー)の要約

ビッグプロジェクトを成功させるには、「ゆっくり考え、すばやく動く」ことが鍵です。プロジェクトには多くのバイアスが潜んでおり、それらに注意しながら持続可能な未来に向けて進む必要があります。大きなことを成し遂げるためには、ビジョンと正しい計画、経験のあるメンバーとチームワークが欠かせません。

大型プロジェクトが失敗する理由は計画の甘さにあり!

予算内・工期内に完了するプロジェクトは、全体の8.5%に過ぎない。予算・工期・便益の3点ともクリアするプロジェクトは、わずか0.5%だ。 言い換えれば、91.5%のプロジェクトが、予算か工期、またはその両方をオーバーする。そして99.5%のプロジェクトが、予算超過か工期遅延、便益過小、またはそれらの組み合わせに終わる。( ベント・フリウビヤ, ダン・ガードナー)

大阪万博での工期遅れや予算オーバーが、現在大きな問題となっていますが、その原因についてはメディアも含め多くの解説がされています。しかし、詳細な原因を理解するためには、本書BIG THINGSが役立ちます。著者たちが分析したビッグプロジェクトの失敗原因を通じて、大阪万博での問題点が何であるかが明らかにされています。

ベント・フリウビヤ(経済地理学者)とダン・ガードナー(ジャーナリスト)は、世界中の1000億ドルを超えるメガプロジェクトの「成否データ」を分析し、プロジェクト成功のルールを明らかにしました。

彼らは、成功したプロジェクトの背後にある共通のルールを明らかにし、計画の初期段階で明確にされた目的設定や、適切な計画の立案がいかに重要かを示しています。この洞察は、将来的に大規模プロジェクトに携わる者にとって貴重なガイダンスを提供し、失敗を避けるための具体的なアプローチを提言しています。

新規事業の立ち上げ、火星探査、新製品開発、組織改革、プログラム設計、会議開催、書籍執筆、披露宴の開催、住宅リフォームなど、多岐にわたるプロジェクトに共通するのは、ビジョンの設定、計画の策定、実行への移行です。これらのプロセスでは、心理と権力の影響が避けられません。

心理メカニズム、特に楽観主義は、プロジェクトの成否に大きく関わります。楽観主義が過度になると、非現実的な予測を立てやすく、最適な選択肢を見落とし、問題を適切に特定や対処を怠りがちになります。この心理的側面は、プロジェクト管理において現実的な分析を行う上でしばしば障害となります。

また、権力も大型プロジェクトの遂行において重要な役割を果たします。リソースの獲得や地位の確保を目指す競争の中で、権力がプロジェクトの方向性や実行に大きく影響します。例えば、企業のCEOや政治家が自らの影響力を利用して、自分の支持するプロジェクトを推進することがあります。これらの要因を理解することが、大規模な取り組みを成功に導く鍵となります。

大阪万博でも政治家は大きなビジョンを掲げていますが、当初の計画が甘く、次々と問題が浮上し、工期遅れと予算オーバーにつながっています。過度の楽観主義と政治家の見栄とプライドが計画の邪魔をしているのです。

シドニーのオペラハウスは、今では世界遺産として認められていますが、その建設過程では納期と予算の管理が大きな課題となりました。計画段階での極端な低予算見積もりや、政治的なレガシーを考慮した性急な着工が、結果的に大きな損失を引き起こしました。 これらの問題は、計画段階での見込み違いが原因であり、十分な事前評価とリスク管理が行われていなかったことに起因します。

建設プロジェクトにおいては、リアリティに基づいた予算設定とタイムスケジュールの策定が不可欠であり、これが適切に行われなかった結果、予定外の延長とコスト増が発生しました。これらの教訓は、今後の大規模プロジェクトにおいて重要な参考点となるでしょう。

「すばやく考え、ゆっくり動く」、これが、失敗するプロジェクトに共通する特徴だ。 一方、成功するプロジェクトは逆のパターンをたどり、すばやくゴールに到達する。

プロジェクトはビジョンから始まります。ビジョンはプロジェクトの漠然とした完成イメージを提供するものですが、このビジョンを信頼性の高い実行ロードマップに変えるためには、計画フェーズでは、詳細な調査、分析、検証を通じて、信頼できるロードマップを作成します。この段階では、コンピュータや紙、物理的な模型を使って計画が立てられるため、コストが低くリスクも少ないです。

しかし、実行フェーズでは大金が投入されるため、プロジェクトはリスクにさらされやすくなります。問題は、多くの場合、計画立案をないがしろにし、プロジェクトの本格的な実施前に単なる形式的な手続きとして扱ってしまうことです。これでは、計画の重要性が軽視され、プロジェクトのリスクが高まります。

計画立案は、プロジェクトの正式な一部であり、プロジェクトの前進において最もコスト効率が高い方法です。創造的で多面的で注意深い思考は、ゆっくりとしたプロセスであるため、計画を立てる際には十分な時間を確保することが重要です。私たちは「すばやく考え、ゆっくり動く」のではなく、「ゆっくり考え、すばやく動く」べきです。

このようにして、プロジェクト全体の成功を支える堅固な基盤を築くことができます。エクスペリリ(実験と経験)をもとにゆっくり、徹底的に、反復的に計画を立てるようにするのです。

大型プロジェクトではトラブルが避けられないため、「いつ」トラブルが起こるかが重要な焦点です。計画フェーズでの反復的なプロセスを通じて、問題が早期に発見される確率を高めることが、大きな違いを生み出します。著者が言う計画には、必ず行動が伴います。これは、シリコンバレーの起業家が採用するリーン・スタートアップ方式と同じなのです。

例えば、映画会社のピクサーは事前の準備をしっかり行います。経営者やメンバーが計画段階で何度も議論し、問題点を明らかにしながら、デモの段階で修正を加えていきます。計画段階のバージョン5で重大な問題が発覚した場合、作品の書き直しに必要な時間とコストは比較的軽微になります。

しかし、同じ問題が制作フェーズで発覚すると、すでに制作されたシーンを全てやり直す必要が出てきます。これには膨大なコストと遅延が発生し、プロジェクトが頓挫するリスクが高まります。 このように、プロジェクトの初期段階で問題を特定し、対応することは、後の段階での高額なコストと時間の浪費を防ぐために極めて重要です。プロジェクト管理においては、計画フェーズでの厳密なレビューと調整が、全体の成功に寄与するのです。

プロジェクトに経験が重要な理由

よい計画を生み出すのは、幅広く深い「問い」と、創造的で厳密な「答え」である。ここで注意してほしいのは、「答え」の前に「問い」が来ることだ。問いが答えの前に来るのは当たり前、いや、当たり前であるべきだが、残念なことにそうなってはいない。プロジェクトは必ずと言っていいほど、答えから始まる。

プロジェクトは単なる手段であり、本質的には目的を達成するためのツールです。プロジェクトを開始する前に、「なぜこのプロジェクトを行うのか」という目的を明確にすることが重要です。

例えば、建築家のフランク・ゲーリーが提案したスペインのグッゲンハイム美術館ビルバオは、その目的を明らかにし、建物と土地の考え方を根本的に変えることで、ビルバオという無名な土地を国際的な観光地に変えることに成功します。

プロジェクトを始める際には、手段と目的が混同しないよう注意し、心理メカニズムが性急な結論へと駆り立てる衝動を抑えることが求められます。十分な情報に基づいて「何のために、なぜやるのか」を徹底的に理解し、プロジェクト全体を通じてその焦点を失わないことが、成功への鍵です。なぜプロジェクトをやるのかを問い、正しいゴールを設定し、そこから逆算し、プランを立てるようにするのです。

エイブラハム・リンカーンが示した「木を切る時間が5分あれば、最初の3分は斧を研ぐのに使う」という言葉は、プロジェクト管理においても適用できます。計画段階に十分な時間を割くことで、実行段階の効率を大幅に向上させることができます。ゆっくりと考え、計画を練り上げた後で迅速に行動に移すことが、大型プロジェクトを成功に導くアプローチです。

また、プロジェクトの成功には経験がとても重要な要素になります。フォロワーになることで、ITなどの巨大プロジェクトでの失敗を防げます。例えば、パイオニア企業が市場に早期に参入することの利点とリスクを示す重要な研究をみれば、経験の大切さを理解できます。

この研究は、50種の製品を含む500のブランドのデータを分析しました。結果として、市場に先駆けて参入したパイオニア企業の約半数が倒産しているのに対し、フォロワー企業の倒産率は8%にとどまっています。

さらに、生存しているパイオニア企業の平均的な市場シェアは10%であるのに対して、フォロワー企業は28%の市場シェアを獲得しています。 この研究は、初期の市場参入が長期的な成功につながる場合もあるものの、多くの場合、後から参入するフォロワー企業の方がより高い市場シェアを獲得しており、成功していることを示しています。

パイオニア企業は先行することのメリットを享受する一方で、他社の経験から学ぶ機会を逸しており、それが大きなリスクとなることが指摘されています。これが、今日の市場参入戦略において重要な教訓とされています。

オリンピック会場の建設が毎回予算オーバーになる主な理由は、長い間隔で開催されるため前回の大会のノウハウが残っていないことと、関係者が建物に対する見栄を張ることにあります。特に、50年や60年といった長期間の間隔で開催されると、過去の経験や知識が蓄積されず、同じ過ちを繰り返すリスクが高まります。

さらに、関係者が印象的な建築を求め、それを採択させるために、楽観的な計画や非現実な予算が立てられます。工事がスタートした後に、さまざまな問題にぶつかり、予算超過を招く要因となっています。大型プロジェクトは事前のベストシナリオ通りに進まないことを忘れないようにしましょう。

著者が提唱する参照クラス予測法(RCF)を用いることで、プロジェクトの成功率を高めることが可能です。この手法では、過去の似通った事例からデータを収集し、それをアンカーにし、調整をしながら、将来のプロジェクトの成果を予測します。

イギリス、デンマーク、アメリカ、中国など多くの国で採用されており、実際に良い結果をもたらしていると報告されています。この予測法は、実際の計画立案においても役立つリアルなデータと経験を活用することで、より確実なプロジェクトの進行が期待できます。

最高の計画とは、経験とフロネシスを持つプロジェクトリーダーとチームによって、実験を最大限に活かして立案され、実行に移される計画だ。

最高の計画は、経験とフロネシスを持つプロジェクトリーダーとそのチームによって立案されます。フロネシスとは、知識や経験を活かして柔軟に問題に対処し、適切な判断を下す能力を指します。このような能力を持つリーダーがいるチームは、計画を成功に導く可能性が高まります。

プロジェクトリーダーは過去の経験や知識を活用しつつ、新しいアイデアやアプローチに柔軟に対応することが求められます。チーム全体が協力し合い、意見を出し合うことで、より練り上げられた計画が形成されます。フロネシスを持つリーダーは、時には大胆な決断を下すことも求められるため、計画の適切な実行にはリーダーの資質が不可欠になります。

プロジェクトを成功させる11の経験則

モジュール方式は、個人にも可能性を開く。小さいものをすばやくスケールアップできるから、個人でも小さい実験を通して大きいことができる。想像力と粘り強ささえあればいい。

デンマークの海上風力発電プロジェクトは、モジュール方式の採用によって大きなイノベーションを達成しました。この方式は、レゴを組み立てるように、小さな部品を積み重ねてビジョンを実現するというものです。これにより、デンマークは化石燃料や原子力に頼ることなく、地球環境に貢献しています。

さらに、モジュール方式は個人の創造性も促進します。小規模な実験から始めて、それを迅速に拡大することが可能で、個々の試行錯誤が大規模な成果を生む可能性を秘めています。風力発電産業の成功は、デンマーク人がガレージや農場で小規模な試みを続けた結果生まれました。

著者は過去の研究から大きなプロジェクトを成功させる11の経験則を明らかにしました。
1「マスタービルダー」を雇おう。

マスタービルダーは、あなたのプロジェクトの実現に必要なすべてのフロネシス(実践知)を持っているからだ。

2「よいチーム」を用意しよう。

3「なぜ?」を考えよう。

4 「レゴ」を使ってつくろう。

5  ゆっくり考え、すばやく動こう。

実行フェーズでは、想像できるどんな悪夢も起こり得るし、実際に起こっている。こうしたリスクへの露出を減らさなくてはならない。そのために、十分な時間をかけて、詳細な実証済みの計画を立てよう。

6「外の情報」 取り入れよう。

7 「リスク」に目を向けよう。

8 「ノー」と言って手を引こう。

9 「友好な関係」を築こう。

10 「地球」をロジエクトに組み込もう。

今日の世界では、気候リスクの軽減以上に緊急を要する問題はない。公共の利益のためだけでなく、あなたの組織やあなた自身、あなたの家族のためにも必要なことだ。 アリストテレスの言う「フロネシス」は、全体にとっての善が何であるかを知り、かつそれを実現する能力である。

11 最大のリスクは「あなた」
自分の頭の中のバイアスが大規模プロジェクトの成功を妨げることがあります。過去のデータや経験、そして他者の知見を活用して、プロジェクトを成功に導くことが重要です。

ビッグプロジェクトに潜む多くのバイアスに気を付けながら、持続可能な未来への一歩を踏み出すべきです。大きなことを成し遂げるためには、ビジョンと正しい計画、経験のあるメンバーとチームワークが欠かせません。


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