3つの世界――キャピタリズム・ヴァーチャリズム・シェアリズムで賢く生き抜くための生存戦略
山口揚平
プレジデント社
3つの世界(山口揚平)の要約
山口揚平氏は、現代社会を3つの異なる世界に区分しています。今後、「キャピタリズム」(お金中心)、「ヴァーチャリズム」(創造性と個性)、「シェアリズム」(人とのつながり)の3つの異なる世界をバランスよく生きることが大切になっていきます。この3つの世界を上手に行き来することで、人生の幸福度を高められるはずです。
3つの世界で生きるために必要なこと
複雑で攻略の難しい3つの世界で楽しく生き抜くには、私たちの暮らしを構成する3つの要素である「稼ぐ・貢献する・生活する」のポジションを定めることが必要不可欠となる。(山口揚平)
ブルー・マーリン・パートナーズ株式会社代表取締役の山口揚平氏は、現代社会の複雑な構造を独自の視点で解き明かしています。著者は私たちが生きる世界を「キャピタリズム」「ヴァーチャリズム」「シェアリズム」という3つの異なる社会システムに分類し、それぞれの特徴と相互関係を詳細に分析しています。
まず、キャピタリズム(資本主義社会)は、私たちに最も馴染み深い世界です。ここでは資本が社会の主要なエンジンとなり、人々は労働や資本投下を通じて通貨を獲得し、それを用いて様々な経済活動を展開します。この世界観は産業革命以降、長きにわたって私たちの社会を形作ってきました。
次に、ヴァーチャリズム(仮想社会)は、インターネットとデジタル技術の発展に伴って急速に台頭してきた新たな世界観です。この世界では、データが地球規模で瞬時に流通し、従来の金銭概念とは異なる新しい「価値」が生まれています。例えば、ソーシャルメディア上のフォロワー数や、オンラインコミュニティでの評判などが、新たな形の「通貨」として機能し始めています。
最後に、シェアリズム(共和主義社会)は、2つの世界とは一線を画しています。この世界では、人々が土地に根ざし、自然のリズムに寄り添いながら協調的な生活を営みます。ここでの「価値」は、コミュニティ内での評判や互恵的な貢献によって形成されます。長期的な視点で時間をかけて貢献を積み重ねることが、この世界では重要な意味を持つのです。
山口氏は、これら3つの世界が現代社会において同時に存在し、互いに影響を及ぼし合っていると主張します。そして、我々一人一人がこの3つの世界それぞれに適応するため、比喩的に「3つの財布」を持つ必要性を説いています。
各世界での「お金」の性質が大きく異なるため、それぞれに適した形で価値を蓄積し、活用していく能力が求められるのです。 しかし、著者は同時に、これら3つの財布を適切に管理することの難しさも指摘しています。特に、急速に拡大するヴァーチャリズムの世界で生き抜くためには、従来の金銭的価値観だけでなく、新たな形の「お金」を理解し、獲得し、活用する能力が不可欠となります。
ヴァーチャリズムの世界は、3DCGやAI、ブロックチェーン技術などの発展により、より立体的かつ複雑に構築されつつあります。今後イノベーションが進展することで、参加者が今後飛躍的に増加していきます。ヴァーチャルワールドでの時間の過ごし方や多様なつながりが私たちの幸福度を左右するかもしれません。
一方、シェアリズムの世界では、人々がより鋭敏に五感を使い、自然や他者との関係を丁寧に築いていくことの重要性が強調されています。山口氏は、この世界で真の健康(ウェルネス)と豊かな生活(ウェルビーイング)を実現するためには、自然や動植物とのつながり、季節の変化への感受性、そして人々との深い交流が不可欠だと主張します。 しかし、著者は現代人の多くが自然や動物の声を聴く力を失いつつあることを危惧しています。
テクノロジーの進歩と人間性の回復という、一見相反する方向性を同時に追求することが重要になっていますが、このアドバイスを忘れると、うつや精神疾患のリスクが高まるため、3つの世界の時間配分を意識する必要がありそうです。
3つの世界と5つの人間性の要素
現代社会を生き抜くために必要な要素について、山口揚平氏は5つの重要な概念を提示しています。これらの要素は、不安定な時代において私たちの人生の基盤となるものです。
まず「社会性」は、仕事やお金など、社会と共存していく力を指します。次に「関係性」は、親しい友人や家族、パートナーとの絆を表します。「身体性」は心身の健康とエネルギーを意味し、「創造性」は想像(イメージ)を現象化する力を示します。最後に「個性(天才性)」は、各個人に固有の才能、性格、天性といったあり方を指しています。
これら5つの要素は、山口氏が提唱する3つの世界観と密接に関連しています。「キャピタリズム」「シェアリズム」「ヴァーチャリズム」という3つの世界は、それぞれ異なる形でこれらの要素と結びついているのです。
キャピタリズムの世界では、主に「社会性」が重視されます。私たちは仕事を通じてお金を稼ぎ、社会システムの中で生きていく力を養います。しかし、このような世界に過度に傾倒すると、他の要素がおろそかになる危険性があります。
一方、シェアリズムの世界は、「身体性」と「関係性」の回復を目指す場所です。自然とのつながりや、地域コミュニティでの深い人間関係を通じて、心身の健康を取り戻し、真の豊かさを感じることができます。キャピタリズムの世界に疲れた人々が、シェアリズムの世界に癒しを求める傾向が見られます。
そして、ヴァーチャリズムの世界は、「個性(天才性)」と「創造性」を最大限に発揮できる場所です。テクノロジーの進化により、私たちの想像力と創造力は大きく拡張されつつあります。この世界では、個人の独自性が尊重され、それぞれの才能や個性が花開く可能性を秘めています。
山口氏は、これら3つの世界と5つの人間性の関係について興味深い見解を示しています。私たちは、社会性を追求しながらキャピタリズムに惹かれつつも、同時に身体性と関係性の回復を求めてシェアリズムへ回帰する傾向があります。さらに、個性と創造性の発揮・拡張を求めて、ヴァーチャリズムの世界へ飛び込んでいくという構図が見て取れるのです。
現代社会では、キャピタリズムによる汎用化や画一化の追求に疲れた人々が、人生の手応えや身体性、仲間との関係性の回復を求めてシェアリズムへ向かう動きが見られます。自然に寄り添った生活や、地域コミュニティでの深いつながりを通じて、失われつつあった人間性を取り戻そうとする試みが各地で行われています。
一方で、テクノロジーが創り出すヴァーチャリズムの世界は、驚異的なスピードで進化を続けています。山口氏は、今世紀の半ばには世界のほとんどの人々がこのヴァーチャルな世界に包摂されることになるだろうと予測しています。ヴァーチャリズムが目指すのは、人の個性とその創造性の無限の拡張です。AIやVR技術の発展により、私たちの想像力と創造力は、これまでにない形で増幅されていくことでしょう。
結局のところ、3つの世界の特性を理解し、5つの人間性の要素を調和させながら、自分らしい生き方を模索することが、これからの時代を生き抜くための鍵となるのです。この多層的なアプローチこそが、不確実な未来に対応する柔軟性と強靭さを私たちに与えてくれるのです。
ヴァーチャリズムの先にある未来
ヴァーチャリズムとは、現実社会に役立つ仕組みをネット上で実現させるこれまでのITの取り組みではない。新たな理想「社会」そのものをデジタル空間に成立させようという試みのことである。社会に必要な民主制度・市場・法的枠組み、そして人権を含む社会福祉環境などをこれまで機能として使っていたネット空間に構築するムーブメントのことである。
ヴァーチャリズムの目指すところは、単に五感を再現することにとどまりません。その先にある認知の限界に挑戦することこそが、ヴァーチャリズムの真の目標です。これは、人間の知覚や理解の範囲を拡張し、これまでにない新しい経験や認識の可能性を開くことを意味します。
ヴァーチャリズムの世界では、アバターを通じて身体的特性を自由に変更できることから、個性の本質が大きく変容します。外見や物理的な属性ではなく、思考や精神的特性が個性の中心となるのです。この新しい環境下では、個人の知覚、解釈、認知、そして表現方法が重要な意味を持ちます。
具体的には、ヴァーチャル空間において個人がどのように世界を感じ取り、それをどう理解し、どのように反応するかが、その人の個性を形作ります。さらに、これらの反応パターンの一貫性が、個性をより強く、鮮明なものにします。
つまり、ヴァーチャリズムにおける個性とは、個人の世界観を明確に表明することにほかなりません。 この世界では、社会性よりも個性と創造性に高い価値が置かれます。ヴァーチャリズムの特徴として、無国籍性と多様性が挙げられます。ここでは、現実世界のような地理的・政治的境界が存在せず、代わりに無数の異なる「世界」やコミュニティが共存しています。
ユーザーは、これらの世界間を自由に移動し、所属を変更することができます。現実世界では、重力や物理的な制約によって移動や所属の変更が制限されますが、ヴァーチャリズムの世界ではそのような制限がありません。人々は自分の興味や価値観に基づいて、瞬時に異なるコミュニティや世界にスイッチすることができるのです。
さらに、ヴァーチャリズムの世界では、現実世界のような生まれながらの制約がありません。出生地、親、身体的特徴といった、現実世界では変更不可能な要素が、ここでは存在しないか、あるいは自由に選択できます。このため、「出る杭は打たれる」というような同調圧力からも解放されます。
ヴァーチャリズムの本質は、コンピュータネットワークを単なる機能の集合体から、一つの完全な社会や世界へと進化させることにあります。これは、現実世界の社会構造や制度をデジタル空間に移植するだけでなく、デジタルならではの特性を活かした新しい形の社会を創造することを意味します。
このデジタル世界であるヴァーチャリズムにおいて、最も重要なポイントとなるのが所有権、オリジナリティ、そして個性です。現実世界とは異なり、ヴァーチャル空間では物理的な制約がないため、これらの概念は新たな意味を持ちます。デジタルアセットの所有権、創造物のオリジナリティ、そして個人の独自性が、この世界での価値や地位を決定する重要な要素となります。
さらに、ヴァーチャリズムの世界では、アテンションエコノミーが大きな役割を果たすことが予想されます。評判や流行によって人々の注目が集まり、それが新たな価値を生み出す仕組みです。このような環境下では、個人や組織は自らの存在感を高め、注目を集める能力が重要になります。
ヴァーチャリズムは、私たちに新たな自己表現の場を提供するだけでなく、社会のあり方そのものを再定義する可能性を秘めています。物理的な制約から解放された世界では、創造性と個性がこれまで以上に重要となり、人々はより自由に自己を表現し、新しいコミュニティを形成することができるでしょう。 このような世界に備えるためには、従来の社会規範や価値観にとらわれず、柔軟な思考と適応力が求められます。
古今東西・森羅万象が捕捉され、解析されるようになる。どこでも(IoT)、動き回り(ロボティクス)、データ処理され(量子コンピュータ)、解析され(AI)、すべて記帳される(ブロックチエーン)世界がやがて到来する。コロナウイルスの感染経路がこの手順によって明らかにされたように。それを「監視社会の幕開け」と捉えるか、「不正のできないクリーンな時代」と思うかはあなた次第だ。ここで重要なのは、ビジネスがAwareness:人のことを想うという本来の意味に戻ることである。
時間軸をプラスした4次元的な世界観では、現在の行動が将来に影響を与えます。例えば、学生時代に真剣に勉強することは、将来のキャリアに良い影響を与える可能性があります。また、環境保護活動に参加することは、数十年後の地球環境改善につながるかもしれません。
イエール大学の調査によると、人生の成功を決めるのは、学歴でも財産でもなく「ものを見る時間軸に尽きる」ことが明らかになっています。
社会性は人間性の中で最も強い力を持ち、私たちの意識を常に引きつけています。特に日本では同調圧力が強く、個性を花開かせて生きることは困難です。また、お金が社会の中心軸となり、人々の意識はこの1次元的な数値に奪われがちです。
関係性は親しい友人や家族、パートナーとのつながりによって強化されますが、より良い関係性は幸福感と強く結びついています。この関係性は、2次元や3次元の概念、つまりコミュニケーションや空間の共有、日常生活の共有と密接に関連しています。
シェアリズムの考え方は、この関係性の重要性を体現しています。共生的関係や贈与経済は、貨幣を介さない価値交換によって関係性を強化し、幸福感を高めます。また、共にいること自体に価値を見出すという考え方は、3次元や4次元的な思考に基づいています。
身体性は、心身の健康とエネルギーを指します。これは明らかに3次元的な概念であり、自然や親しい人々との関係によって維持・増進されます。
ヴァーチャリズムは、単なる「仮想現実」ではなく、まだ形になっていない4次元的な意識世界を指します。この領域には、個性(天才性)と創造性という人間性の重要な要素が属します。ヴァーチャリズムの目的は、これらの要素を拡張することにあります。
創造性は、4次元のイメージを3次元の具体的な形に変換するプロセスです。一方、個性は、各個人に固有の微細な波動やふるまいであり、5次元や6次元の領域に属します。 この考え方は、現代社会における個人の存在意義や創造性の本質について、新たな視点を提供します。社会性や関係性の重要性を認識しつつ、個々人の独自性や創造性を尊重し、それらを開花させることの重要性を示唆しています。
変化の激しい現代社会において、私たちはどのように生きるべきか。本書は、その問いに対する一つの答えを提示しています。山口氏の3つの世界論から、未来と社会とのつながりを強化することの重要性がわかります。
「キャピタリズム」(お金中心)、「ヴァーチャリズム」(創造性と個性)、「シェアリズム」(人とのつながり)の3つの世界をバランスよく生きることが大切です。この3つの世界を上手に行き来することで、人生の幸福度を高められるはずです。
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