トヨタは「鉄」、MINIは「楽しみ」を売っている: もったいない! 日本企業が気づいていない経営と戦略問題(フォーリー・マーク)の書評

black and red steering wheel

トヨタは「鉄」、MINIは「楽しみ」を売っている: もったいない! 日本企業が気づいていない経営と戦略問題
フォーリー・マーク
青山ライフ出版

本書の要約

経営=「独自ワオ!」+「市場理解・顧客理解」と捉えましょう。「独自のワオ!」とブランドを育成するためには、自社の強みを明確にし、顧客に対して積極的に発信する必要があります。顧客との対話を継続し、彼らを理解することが重要です。企業のDNA、戦略、ブランドイメージには一貫性を持たせるよう心がけましょう。

トヨタとミニの違いから競争優位性を考える!

経営=「独自ワオ!」+「市場理解・顧客理解」 (フォーリー・マーク)

著者のフォーリー・マークはトヨタは「鉄」を売っている製鉄会社にしかすぎないと指摘します。 一方、ミニ(Mini)は自動車ではなく、「Fun(楽しみ)」、「Funky(型破りな)」、「Cool(格好いい)」というアティテュードを売っていると言うのです。

BMWも自動車ではなく、「Sheer driving pleasure(駆けぬける歓び)」や「The ultimate driving experience(究極の運転体験)」というアティテュードを売っています。

Heinekenはビールを売ることで、顧客に生活に刺激や潤いを与えています。ブランドもビール会社としてしっかりと認知されています。日本のAsahiは、ビールだけでなく同じブランドで、ソフトドリンクやスナック菓子、サプリメント等を売っているため、海外ではブランドを理解されずらくなります。ビール会社が健康食品を売るのはおかしいと考えるのがその理由です。

アティテュードは特定の「気持ち」「感情」「人格」「性格」「考え方」「生き方」のようなものをすべて包括した表現で、このアティテュードがブランドイメージを左右します。この企業DNAやアティテュードは創業者や社員の「情熱」から生まれてきます。

提供価値やアティテュードの源泉は企業の本質です。つまり、企業のDNA、企業の存在意義、企業のカルチャー、企業の戦略から発生するものです。  

ビジネスや経営は「顧客・市場の理解」と「独自の考えの提供」という双方向のバランスです。顧客や市場のニーズを理解し、それに対して独自のアイデアや提案を行うことで、企業は付加価値を生み出すことができます。このバランスを実現するためには、マーケティングの役割が重要です。

マーケティングは、顧客や市場のニーズを発見し、それを企業の戦略や商品・サービスに繋げる役割を果たします。顧客のニーズや要望を把握するためには、市場調査や顧客の声を集めることが必要です。また、競合他社の動向やトレンドも把握し、それを踏まえた戦略を立てることが重要です。

一方で、企業のアティテュードや独自性も重要な要素です。企業の本質やカルチャー、存在意義などから独自のアイデンティティを見つけ出し、それを提供価値として顧客に伝えることが求められます。

企業のアティテュードや独自性は、経営者だけでなく、現場の社員の情熱や創造力から生まれるものであり、組織全体で共有されるべきです。 「アティテュード」や「独特の提供価値」を掘り出し、創造するためには、より深いところに目を向ける必要があります。

戦略的な一貫性さえあれば。 一貫性は単に範囲を狭くすることではありません。

Asahiなどの日本企業と異なりイギリスの多国籍企業ヴァージン・グループは、最初はレコード会社から始まり、その後航空会社、鉄道会社、ラジオ局、携帯電話会社、ホテル、結婚式サービスなど、次々と新たな事業を展開してきました。さらには宇宙旅行会社まで立ち上げました。

しかし、ヴァージン・グループは常に一貫性を持っています。彼らは顧客に「状況や常識に挑戦する」という姿勢を提供し続けています。この戦略的な一貫性は、企業の強みをさらに高め、競合他社との差別化を図るためのものです。他社があなたの会社のDNAや本質をコピーすることはできません。

顧客と社員は(潜在的な社員も)企業の提供価値、アティテュード、イメージを理解できます。その点で、日本企業(特にメーカー)はそれぞれ多くの事業、製品・サービスを提供していますが、戦略的な一貫性があまりなく、差別化もあまりできていません。

顧客と社員が企業の提供価値やアティテュード、イメージを理解することは非常に重要です。顧客は、企業が提供する製品やサービスに対してどのような価値を感じるのかを考えます。また、社員は企業のパーパスや文化に共感し、組織に貢献する意欲を持つことが求められます。さらに、潜在的な社員も将来的なキャリアの可能性や企業の魅力を見極めることができます。

しかし、日本企業(特にメーカー)の中には、多くの事業や製品・サービスを提供しているにも関わらず、戦略的な一貫性が欠けている場合があります。これは、企業のパーパスや文化が明確でないことや、各事業や製品・サービスが独立した形で展開されていることが原因として考えられます。

この戦略的な一貫性の欠如は、企業の差別化を妨げる要因となります。顧客は、同じような製品やサービスを提供している企業の中から、自分にとって最も価値のあるものを選びたいと考えます。そのため、企業が明確な差別化を図り、他社との競争力を高めることが求められます。

戦略とは顧客・市場理解と独自ワオ!

戦略=独自の「差別化、競争力、儲かる、付加価値」ストーリー

戦略の源泉は企業DNAや企業カルチャーです。企業DNAや企業カルチャーを使えば、独自のものが生まれます。差別化と競争力も生まれます。企業のDNAとは、その企業が持つ独自の特徴や価値観、行動指針などを指します。企業のDNAは、経営者や従業員の共有したビジョンや理念、組織の歴史や伝統、および経営方針などから形成されます。

企業の独自のストーリーを確認する簡単な質問を行うことっで、自社の優位性を発見できます。
・差別化ストーリーはどうなっているか?
・競争力ストーリーはどうなっているか?
・付加価値ストーリーはどうなっているか?
・儲かるストーリーはどうなっているか?  

経営の秘訣は2つだけだと著者は言います。
①顧客・市場理解
顧客のニーズや市場の動向を把握し、それに合わせた戦略を立てることが重要です。

②独自ワオ!
企業は他社との差別化を図るために、独自の魅力や強みを持つ必要があります。この二つの要素が組み合わさることで、企業は競争力を獲得し、成長していくことができます。 企業のDNAや企業カルチャーは、経営者や従業員の共通の理解と行動によって形成されます。

経営者は組織のパーパスを明確にし、それを従業員に共有することが重要です。また、従業員は企業のDNAを理解し、それに基づいた行動を取ることが求められます。 企業のDNAや企業カルチャーは、組織内外に対しても重要な影響を与えます。

組織内では、共通の価値観や行動指針に基づいて働くことで、組織全体の一体感や連携が生まれます。組織外では、企業のDNAが顧客やパートナーとの関係構築やブランドイメージ形成に影響を与えます。

顧客がいなければ何も始まりません。 そして、その顧客にすばらしい、独特な何か(ワオ!)を提供しなければなりません。  

自社の独特の提供価値を明確にすることは、企業と顧客の関係を変える重要な要素です。企業カルチャーや企業DNA、意義、提供価値は、コントロールできるものであり、それによって自社の運命をある程度までコントロールすることができます。戦略は、自分の運命をコントロールするためのストーリーやガイドです。

戦略は、独自の「差別化、競争力、儲かる、付加価値」ストーリーと捉えることができます。つまり、戦略は付加価値や差別化のためのガイドなのです。ある意味では、戦略は「違い(difference)」そのものです。この「違い」が差別化の源泉となります。

この源泉は、考え方ややり方、会社カルチャー、組織、価値観、ふるまいなどに表れます。 差別化のためには、自社の独自性を明確にし、他社との違いを示す必要があります。それによって、顧客は自社の提供価値を認識し、他社との比較をすることができます。

また、独自の提供価値を持つことで競争力が高まり、儲かるビジネスを展開することができます。 自社の差別化戦略を形成するためには、まず企業カルチャーや組織のあり方を見直し、独自の考え方や価値観を確立する必要があります。

また、顧客のニーズを理解し、それに応えるための商品やサービスを提供することも重要です。さらに、顧客との関係構築やコミュニケーションも差別化戦略の一環として考えることができます。

そのためには、社内の現場と市場の現場での経験を可視化し、実感することが重要です。よい社内の現場には、企業のDNAやカルチャー、パッションが溢れています。また、他社が真似できない技能やノウハウもそこに見つけることができます。

一方、市場の現場では、市場理解や顧客理解、潜在的なニーズや機会を感じることができます。これらの要素を通じて、企業の洞察やアイデンティティ、真の提供価値を再発見することができます。

企業が成長するためには、人材ミックスが必要です。エンジニアだけではなく、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が必要です。多様な視点やアイデアが組織に豊かさをもたらし、競争力を高めることができます。

また、自社の独自性や差別化を明確にすることも重要です。自社が持つ「ワオ!」という魅力や特徴を見つけ出し、それをブランド化することで、市場での存在感を高めることができます。

さらに、ブランドや企業のイメージが混ざらないようにするためには、組織を分けたり、本社のブランド名を使わないようにする必要があります。これにより、顧客の視点から見ても明確な選択肢として認識されることができます。

独自の「ワオ!」とブランドを育成し、自社の提供価値を最大化するためには、適切な企業カルチャーが不可欠です。 一方で、顧客の観点から子会社やブランドが親会社と関連がないように示すことも重要です。顧客は信頼性や一貫性を求めるため、明確なブランドイメージを持つ組織が有利になることを忘れないようにしましょう。


 

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