DTCからの提言 2023 パワー・オブ・チェンジ――未来を築く経営の新「定石」(デロイト トーマツ コンサルティング)の書評

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DTCからの提言 2023 パワー・オブ・チェンジ――未来を築く経営の新「定石」
デロイト トーマツ コンサルティング
ダイヤモンド社

DTCからの提言 2023 パワー・オブ・チェンジの要約

経営の変革には「変化をとらえる力」「変化を駆動する力」「変化を創る力」の3つの能力が重要です。組織のパーパスを共有し、自律分散型の意思決定と知識共有を促進することで、持続的な進化を実現できます。コミュニティを戦略的な経営資源として活用し、未来を主体的に創造していくことが、これからの組織に不可欠です。

企業変革のための4つの思考の軸

Changeの難しさは、過去から鍛えてきた自社を否定して再び乗り越えることの難しさに由来している。(デロイト トーマツ コンサルティング)

現代のビジネス環境は、社会の成熟化とグローバリゼーションの進展によって、製品やサービスのコモディティ化が加速しています。この結果、企業が競争優位を維持することはますます難しくなってきています。

こうした環境下で、持続的な競争優位を確立し続ける企業には、自社が意図する変化を能動的に形成する能力と、それを支える高度な情報戦略が共通の特徴として見受けられます。

これらの企業は、変革のためのケイパビリティ(能力)を備え、特にコミュニティを戦略的に活用することで、新たな事業機会を生み出しています。コミュニティを活用することで、単なる製品やサービスの提供を超えて、ステークホルダーとの関係性を強化し、価値共創の場を生み出しているのです。

一方で、過去の成功体験に固執し、既存の戦略や組織構造、業務プロセスに依存し続ける企業は、急速に競争力を失っていく傾向にあります。 持続的な成長の本質は、構築と脱構築のサイクルを継続的に実行することにあります。このプロセスでは、既存の価値観や業務プロセスを解体し、時代の変化に応じて新たに再構築することが不可欠です。

競争優位は短期化・陳腐化する。常に再構築して新陳代謝することが成功の原動力。

企業の競争優位性は、かつてないほどの速さで陳腐化する時代を迎えています。デジタル技術の進化やグローバル化の加速により、一度確立した優位性も瞬く間に追随され、その価値を失うリスクに直面しています。このような環境下で持続的な成長を実現するには、継続的な優位性の再構築と組織の新陳代謝が不可欠となっています。

その際経営者は、自己変革を通じてビジネスの本質を問い直し、再定義していくことが必要です。 自己変革を効果的に推進するためには、企業にとって明確な「思考の軸」が不可欠です。この軸は、企業が不確実性の高い経営環境において持続的に発展するための指針となり、次の4層構造として捉えることができます。

■形成的変革を駆動する思考の4つの軸
①企業戦略 企業の存在意義とその実現に向けた具体的な戦略の策定。
企業は単なる利益追求を超えて、社会における存在意義を再定義する必要があります。経済的価値の創出はもちろんのこと、環境保護や社会的包摂といった社会的価値との両立が求められています。現代の消費者やステークホルダーは、企業に対してより高い倫理観と社会的責任を期待しており、これらの期待に応えることが、新たな信頼関係の構築につながります。

②経営資源の活用
経営資源の革新的な活用方法です。従来のヒト・モノ・カネ・情報という枠組みに加え、新たな価値創造の源泉として「コミュニティ」の重要性が高まっています。顧客、取引先、地域社会との継続的な対話と協創を通じて、革新的なビジネスモデルやサービスを生み出すことが可能となります。特に、デジタル技術を活用したコミュニティ形成は、企業の競争力強化に大きく貢献します。

③ダイナミック・ケイパビリティの構築(動的な組織能力)
企業は、環境変化に応じて柔軟に組織能力を再編成し、進化させる能力が求められています。ダイナミック・ケイパビリティとは、変化する市場や競争環境に対応するための柔軟性と適応力を指し、この能力が企業の持続的な競争優位を支えます。これは単なる適応能力ではなく、変化を先読みし、機会として活用する力を意味します。新技術の導入や業務プロセスの改善、さらには事業ポートフォリオの見直しなど、多角的な視点からの組織能力の強化が求められています。

④カルチャーと行動様式の変革
イノベーションを生み出す土壌として、組織文化の重要性は増すばかりです。従業員の自律性や創造性を重んじ、失敗を恐れない挑戦的な風土を醸成することで、組織全体の変革力が高まります。また、多様性を受け入れ、オープンなコミュニケーションを促進する文化は、新たな発想や価値観の創出を支援します。

このような形成的変革の実践において、特に注目すべきは「コミュニティ」の戦略的活用です。従来の企業間競争から、エコシステムを通じた価値共創へとビジネスモデルが進化する中、コミュニティマネジメントの巧拙が企業の競争力を大きく左右します。顧客との共創、パートナーとの協業、社会との対話など、多様なステークホルダーとの関係構築が、持続的な競争優位の源泉となっているのです。

企業が持続的な成長を実現するためには、これら4つの変革の軸を統合的に推進し、常に新たな価値創造に挑戦し続けることが求められます。競争優位性は守るものではなく、継続的に再構築されるべきものという認識のもと、組織全体で変革への意識を高め、実践していくことが重要です。

正しい情報をどう取り入れ、経営に活用するのか?

手持ちの情報や自己都合で物事を見て、判断が先鋭化してしまう。ここでのポイントは、当事者は一生懸命頑張っているのに、考え方が硬直化してしまうことだ。当事者は、信じ切っている道を、悪気もなく邁進している。思考はロジカルになり戦略の精度が高まるにもかかわらず、何かがズレてしまうのである。ロジカルかつ戦略的な思考に則っているはずだが、世界の「常識」からは乖離してしまう。そしてガラパゴス化とズレは加速する。

当事者たちは、自分たちが信じる道を、何の悪意もなく懸命に進んでいきます。そのプロセスにおいて、思考はますますロジカルになり、戦略の精度も確かに向上していきます。しかし、ここで重大な問題が生じます。論理的で戦略的な思考を積み重ねれば重ねるほど、世界の「常識」から離れていってしまうのです。

このズレは、時間とともに加速度的に広がっていく傾向があります。いわゆるガラパゴス化現象です。組織や個人が独自の進化を遂げていく一方で、外部世界との接点は徐々に失われていきます。結果として、どんなに精緻な戦略や論理を組み立てても、それが現実世界で機能しにくくなってしまうのです。

このような状況を打開するためには、経営者のリーダーシップが不可欠です。まず必要なのは、組織内外に存在するリテラシーギャップの認識です。よく耳にするのは「情報戦は難しい」という言葉です。しかし、この言葉の裏に隠れている実態は、もっと単純なものかもしれません。つまり、「自分から積極的に情報を集める努力をしていない」という現実です。

この問題には、二つの典型的な行動パターンが見られます。一つは「知らないのにわかったふりをする」という態度です。情報不足を認めることを恥じるあまり、表面的な理解で判断を下してしまいます。年齢を重ねるとこの態度を取りがちだと、私も今回反省しました。もう一つは「自分で調べることを避け、外部に丸投げする」という姿勢です。これは、自己責任を回避する一種の自己防衛です。

しかし、こうした問題の解決は、実は思われているほど複雑ではありません。必要なのは、たとえ10分でも時間を確保し、自分の手を動かして考えることです。つまり、問題は難しさにあるのではなく、単純に必要な努力を怠っているという点にあるのです。 情報収集において本当に重要なのは、地道な作業を厭わない姿勢です。手を抜かず、必要な汗をかく。そうした基本的な取り組みが、実は最も確実な解決策となります。一次情報に当たる、書籍を読む、専門家と話すことがリーダーには求められます。

また、情報の重要性を正しく理解し、それを組織全体で共有していく必要があります。 改革においては、単なる表面的な変更ではなく、思考や判断のプロセスそのものを見直すことが重要です。外部との対話を増やし、異なる視点を積極的に取り入れる。そして、自組織の論理や戦略が、より広い文脈の中でどのように位置づけられるのかを常に検証していく必要があります。

情報に対する効果測定だけではなく、どのような目的を持って収集し、修正し、組織へのインパクトを図っていくかという視点の転換である。またトップが現場に対してもオーナーシップの感覚を持つということだ。直接見られなかったとしても、数字や情報からリアルなイメージを持てるか否かだ。

成功を続けている企業に共通する特徴として、継続的な情報収集と、それに基づく経営判断の柔軟な修正が挙げられます。これらの企業は、市場環境や顧客ニーズの変化を常に監視し、その変化を敏感に捉えることで、的確な意思決定を行ってきました。 特に注目すべきは、情報収集から意思決定までの一連のプロセスです。

まず、幅広い情報を継続的に収集します。この段階では、自社にとって都合の良い情報だけでなく、不都合な情報も含めて広く集めることが重要です。 次に、収集した情報を基に、既存の仮説を検証します。市場環境の変化や新たな競合の出現など、様々な要因によって、これまで正しいと思われていた仮説が適切でなくなることは珍しくありません。成功企業は、こうした状況に柔軟に対応し、仮説の修正を躊躇しません。

そして最も重要なのが、修正された仮説を実際の経営判断に反映させる段階です。情報収集や分析が適切に行われても、それが具体的な行動に結びつかなければ意味がありません。成長企業は、新たな知見を迅速に経営判断に取り入れ、実行に移していきます。 このサイクルを継続的に回すことで、企業は環境変化に適応し、持続的な成長を実現することができます。それは単なる売上や利益の増加だけでなく、組織としての学習能力の向上にもつながっていきます。

コミュニティの重要性と3つの進化の素

コミュニティの主役は個人であり、ネットワーク組織であるコミュニティはそこに集う人々の信頼関係の上に成り立つ。それゆえ、参加する個人がコミュニティのパーパスに共感することがますます重要になる。それがなければ、参加者の熱意や共感によるコミュニティの活性化は望むべくもないからだ。

ビジネスの本質は変わらないと言われています。しかし、私たちを取り巻くビジネス環境では、解決すべき課題、価値創造の方法、そしてビジネスに期待される価値そのものが大きく変化しています。 現代のビジネスは、もはや単なる利益追求だけでは成立しません。

企業は経済的価値の追求だけでなく、社会課題の解決や持続可能な未来の創造といった、より広い視野での価値創出が求められています。 この新しい潮流の中で注目されているのが、ベネフィットコーポレーションという選択肢です。これは社会的価値と経済的価値の両立を目指す企業形態で、従来の株式会社とは異なる価値観に基づいています。

さらに、公的機関や非営利組織、自律分散型のコミュニティなど、多様な主体が価値創造の担い手として台頭しています。 特に重要なのが、コミュニティの位置づけの変化です。もはやコミュニティは、単なる顧客との接点ではありません。それは、複数のステークホルダーを包含した統合的なプラットフォームとして機能することが期待されています。

CSV(共通価値の創造)やステークホルダー資本主義の概念が示すように、現代企業に求められているのは、社会的責任を果たすことに加え、ステークホルダーとの価値共創を重視する経営です。このような認識のもと、コミュニティはヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ第5の経営資源として戦略的に位置づけられるべきです。

コミュニティの真価は、価値共創のプラットフォームとしての機能にあります。そこでは、相互尊重と信頼関係の構築が不可欠です。コミュニティのメンバーは、単なる利益実現の手段ではなく、創造性を共に発揮し、共通の目標を達成する運命共同体として認識されるべきです。

企業には、「あなたと共に取り組むからこそ実現できる」という深い敬意をもって、ステークホルダーと向き合うことが求められます。この信頼と尊敬に基づく関係性こそが、真の価値共創の基盤となります。信頼関係が確立されてこそ、コミュニティ内での真摯な議論が可能となり、メンバーは互いに切磋琢磨しながら課題に立ち向かうことができるのです。

コミュニティの効果的な活用のために、3つの核となる要素があります。 まず、パーパスの共有化です。組織の存在意義と方向性をコミュニティメンバーと共有し、共感を基盤としたつながりを築きます。この共通の目的意識が、コミュニティの求心力となります。

次に、自律分散型の意思決定を重視します。従来型のトップダウンではなく、コミュニティのメンバーが主体的に判断し、行動できる環境を整えます。この自律性が、コミュニティの活力を生み出します。

そして、知識とノウハウの共有化を促進します。コミュニティ内で積極的に情報や経験を共有することで、新たな価値の共創が可能になります。この知的資産の循環が、コミュニティの成長を支えます。

これら3つの要素を適切に組み合わせることで、コミュニティは組織の持続的な発展を支える強力な経営資源となるのです。

現代のビジネス環境において、組織の持続的な進化は不可欠です。著者は、この進化を支える「変革の原動力(Power of Change)」という概念を提示し、組織の深層に根付かせるべき3つの重要なカルチャーについて語っています。

①認識(パーセプション)を創造し続けるカルチャー
これは組織の内外に対して共感を生み出す力となります。パーパス(存在意義)に基づいた認識の変容は、環境やステークホルダーの行動変容を促す原動力となります。組織は常に新たな認識を獲得し、それを更新し続けることで、環境の変化に適応していく必要があります。

②イントレプレナー(社内企業家)を育むカルチャー
自律的で主体的なリーダーシップを持ち、変化の波を組織全体に伝播させる人材の存在が不可欠です。彼らのマインドセットは、組織の変革を推進する重要な要素となります。

③セレンディピティ(偶然を価値につなげる力)を育むカルチャー
急速に変化する不確実な世界では、予期せぬ出来事から価値を見出す能力が重要となります。個人もチームも、予想外の事態を積極的に受け入れ、偶然から学びを得られる環境を整えることが必要です。 このセレンディピティは、組織カルチャーを進化させる有効な手段となります。

組織は予想外の出来事を好意的に受け止め、それを経験した仲間を評価する文化を育てる必要があります。まさにスティーブ・ジョブズのコネクティング・ドットを実践すべきです。

通常とは異なる事象への関心や追求を奨励することで、学習を繰り返す組織の基盤が形成されていきます。 既存の企業・組織には、新たな自己変容を繰り返す思考軸を確立し、組織として学習し続けるカルチャーを深層部に育むことが求められます。

経営チームもまた、自ら学習する姿勢を持ち、新たなセンスを磨くことで、組織全体の進化を導いていく必要があります。 これらの変革は、単なる経営戦略の変更にとどまりません。それは、ビジネスの在り方そのものを根本から見直す作業です。コミュニティを基盤とした新たな価値創造の仕組みづくりが、これからの企業に求められています。

ビジネス環境が急速に変化する今日、企業の変革アプローチも進化を遂げています。デロイト トーマツ コンサルティングが提唱する「形成的変革」は、従来の「適応的変革」を超えた新しい変革の形を示しています。 これまでの適応的変革は、環境の変化に応じて組織を変えていく受動的なアプローチでした。

これからの時代に求められるのは、組織自らが能動的に環境を形作っていく「形成的変革」です。 この新しい変革を実現するために、3つの重要な力が必要とされます。

第1の「変化をとらえる力」は、環境の変化を敏感に察知し、その本質を理解する能力です。第2の「変化を駆動する力」は、組織内外のステークホルダーを巻き込み、変革のモメンタムを生み出す力です。そして第3の「変化を創る力」は、新たな価値や可能性を生み出していく創造的な能力です。

この形成的変革の実現には、先に述べた組織の進化の3要素が不可欠です。認識を創造し続けるカルチャー、イントレプレナーシップ、そしてセレンディピティを育む環境が、変革の基盤となります。 さらに、コミュニティの戦略的活用も重要です。パーパスの共有化、自律分散型の意思決定、知識・ノウハウの共有を通じて、組織全体の変革力を高めていきます。

これからの企業には、環境変化への適応だけでなく、自ら未来を形作っていく主体性が求められています。形成的変革は、そのための新しい道筋を示しているのです。この変革に成功する組織こそが、不確実な時代を勝ち抜いていけるというのが本書のメッセージになります。

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