3つのステップで成功させるデータビジネス 「データで稼げる」新規事業をつくる
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
翔泳社
本書の要約
データ活用が進む現代において、企業や組織はデータを有効活用することで競争力を高めることが求められています。しかし、データをただ集めたり分析したりするだけでは効果が得られないこともあります。データ活用には、顧客の課題や不便な点を理解し、それに基づいて新たな機能やサービスを提供すべきです。
無形資産が企業の成長を左右する?
企業が新規事業を検討する際には、「新規事業の中でどうやってデータを活用するか」を考えることは必須であり、また必然とも言える。(EYストラテジー・アンド・コンサルティング)
現在、多くの産業が市場の成熟期に差し掛かり、企業は主力事業での成長の限界を感じています。新たな成長の道筋を描くため、新規事業への投資が求められています。
日本の企業は、有形資産への投資が無形資産への投資よりも多い傾向にあります。これは、具体的には、有形資産が7割、無形資産が3割です。この傾向が、米国や欧州企業との収益性や成長性の格差を生む原因とされています。 有形資産とは、建物や設備、機械などの目に見える資産です。無形資産とは、ブランド力や技術、ノウハウなどの目に見えない資産です。
近年、ビジネスの競争が激化する中、無形資産が企業の競争力を左右する重要性が増しています。 無形資産への投資は、企業の収益性や成長性を向上させるための重要な施策です。無形資産への投資により、企業は独自の優位性を獲得し、競合他社との差別化を図ることができます。
また、無形資産は、有形資産に比べて、より長く使用できるというメリットがあります。 日本の企業が競争力を保持し、企業価値を向上させるためには、無形資産への投資を増やすことが重要です。
その中で、データビジネスへの投資は無形資産への投資とも言え、設備や工場への投資よりも企業の競争力を引き上げる可能性があると言えます。 サブスクリプションモデル等のストック型ビジネスを成功させるためには、顧客との接点を増やし、顧客体験を向上させることが求められます。
顧客との接点が常に存在する利点を活用し、サービスの利用状況を分析して顧客のニーズや課題を発見します。そして、その分析結果を基に、顧客の満足度を向上させる新たなサービスをタイムリーに提供することが重要です。
データは、収益を上げるために活用する必要がありますが、実際には使い物にならないことも多いです。その理由として、データの取得、蓄積、分析、管理には多大な時間と投資・コストがかかることが挙げられます。
データを活用するためには、それを収集し、整理し、分析するためのインフラやシステムを整備する必要があります。しかし、これには膨大な労力と費用がかかるため、企業にとっては大きな課題となります。
また、データは陳腐化するのも早く、すぐに無価値になる可能性もあります。データは常に最新の情報を反映させる必要があり、鮮度を保つことが求められます。そのため、データを蓄積するだけでなく、定期的に更新し、管理する必要があります。
これによって、古いデータを使って誤った判断を下すリスクを回避することができます。 ただし、苦労して取得したデータを所有しているだけでは、収益を生むことはできません。データそのものは、顧客がお金を払いたくなるような解決策ではありません。顧客は、「データを活かした解決策」にお金を払いたいのです。データを活用して得られるインサイトやアクションが顧客の問題を解決し、価値を提供することが重要です。
データを単なる情報の集まりではなく、具体的なビジネスへの展開につなげることが求められます。 さらに、データを活用する際には、活用方法を間違えると企業の存続を脅かすようなリスクが存在します。データの解釈や分析方法に誤りがあったり、データの信頼性やセキュリティに問題があったりすると、企業の意思決定に誤りが生じる可能性があります。そのため、データの活用にあたっては、正確な情報を得ることや、データの品質管理にも十分な注意が必要です。
データマネタイズで収益を上げよう!
データマネタイズとは、〝データ〟と〝マネタイズ(事業による収益化)〟を組み合わせた言葉だ。企業が所有するデータを活用した新事業や新サービス(=データビジネス)を立ち上げ、収益につなげることを指す。
データマネタイズの背景には、デジタル化の進展やインターネットの普及により、大量のデータが蓄積されるようになったことがあります。企業はこれらのデータを資産として活用し、新たな価値を創出することが求められています。
データマネタイズの具体的な取り組みとしては、まず企業が保有するデータを分析し、その中に潜む価値を見つけ出すことが重要です。例えば、顧客の購買履歴や行動データから嗜好性を分析し、個別のニーズに合わせた商品やサービスを提供することができます。
また、企業はデータを活用した新たなビジネスモデルを構築することも重要です。例えば、データを基にした広告配信やマーケティング施策、データを活用した予測や最適化の手法を導入することで、効率的なビジネス運営や顧客満足度の向上を図ることができます。
「データ活用ありき」でなく、「顧客が抱える課題や不便なこと」を起点に新機能や新サービスを検討することが大前提になる。
データ活用が進む現代において、企業や組織はデータを有効活用することで競争力を高めることが求められています。しかし、データをただ集めたり分析したりするだけでは効果が得られないこともあります。データ活用には、顧客の課題や不便な点を理解し、それに基づいて新たな機能やサービスを提供することが重要な前提となります。
「顧客が抱える課題や不便なこと」を起点に新機能や新サービスを検討することが企業には求められます。顧客の声やフィードバックをしっかりと収集し、それをもとに改善策を考えることが大切です。データ活用はその手段の一つであり、顧客の課題解決や利便性向上を目指すためのツールとして活用されるべきです。
顧客の課題や不便な点を解決するためには、データ活用だけでなく、顧客とのコミュニケーションや共創が欠かせません。顧客の声を聞き、彼らのニーズを理解することで、適切な改善策を講じることができます。データ活用はその過程で役立つツールとして活用されるべきです。 データ活用の目的は、顧客満足度の向上や事業成果の最大化です。
そのためには、「データ活用ありき」ではなく、「顧客が抱える課題や不便なこと」を起点に新機能や新サービスを検討することが大前提となります。データはあくまで手段であり、目的を達成するための手段として活用されるべきです。
また、データマネタイズの成功には、データの品質やセキュリティの確保が欠かせません。データの正確性や信頼性を確保するためには、適切なデータ管理体制やデータ品質管理の仕組みを整える必要があります。また、個人情報や機密情報の保護にも十分な対策を講じることが求められます。
データビジネス進化のための3つのステップと思考法
データビジネスは、企業にとって新たな収益を生み出すものになるため、既存の事業やサービスとはある程度距離の離れたものとなる。データビジネスの距離は、
・〈顧客〉データビジネスでサービスを提供する相手(顧客)が、既存の顧客なのか、新規の顧客なのか ・〈サービス〉データビジネスで提供するサービスが、既存サービスの延長なのか、(他社が取り扱うサービスも含め)
自社にとって新規のサービスなのかによって変わり、データビジネスの3つの段階が決まる。
データビジネスの進化には、次の3つの段階があると言われています。
・第1段階 既存サービスの新機能・サービス追加既存
・第2段階 データを用いた他事業者サービスのクロスセル
・第3段階 データを用いた新規事業の展開
第1段階は、既存のサービスに新機能やサービスを追加することを指します。企業は、既存の顧客との接点や販売チャネル、流通網、サポート体制を活かし、データを活用して新たな収益を生み出すことができます。つまり、データビジネスと既存の事業とは非常に密接な関係があると言えます。
第1段階のデータビジネスで収益を上げる方法としては、以下の方法が考えられます。
・新たな機能やサービスの対価(利用料)を得る
・新たな機能やサービスを提供することで既存サービスの魅力を高め、顧客層そのものを拡大させたり、解約を防止する
第2段階は、他の事業者のサービスを提供する際にデータを活用することを指します。この段階では、既存の顧客に新規サービスを提供することが可能です。自社ではまだ取り扱っていなかった顧客の潜在的なニーズや課題を見つけ、それに合致する他社のサービスを提供することができます。データビジネスと既存の事業との距離は少し遠くなりますが、新たなビジネスチャンスを見つけることができます。
第2段階のデータビジネスは、既存顧客の抱える新たな課題をデータによって把握し、他社の取り扱いサービスを見繕って顧客に代理販売するようなデータビジネスを指す。
第2段階のデータビジネスで収益を上げる方法としては、以下の方法があります。
・他社のサービスをあらかじめ仕入れて、自社サービスとセットで販売する・バナー広告や販促のメールを自社の顧客に配信し、広告料を得る
・他事業者に顧客を送客し、販売手数料や紹介料を得る
第3段階は、企業が新規のサービスを提供し、新規の顧客にアプローチする際にデータを活用することを指します。この段階では、企業は新しいサービスを提供するために、サービス提供体制や販売チャネル、取引先、サポート体制などを構築する必要があります。データビジネスと既存の事業との距離はさらに広がりますが、新たな市場を開拓することが可能です。
データビジネスの第3段階では、データのみならず、販路の開拓や他の事業者との取引関係の構築が重要となります。さらに、持続性の高いビジネスモデルを築くためには、様々な事業者との共存共栄を目指すエコシステムの構築も欠かせません。ただし、この段階では大きな先行投資と高い不確実性が伴います。
データを活用したこの新事業が、既存事業に代わる新たな収益の柱となる可能性があります。このため、データビジネスの立ち上げと収益化の方法が重要な課題となります。 多くの企業が既存事業の成長限界に直面し、新たな成長を求めています。第3段階の「データを用いた新規事業の展開」が必要となる理由がここにあります。
第3段階の「データを用いた新規事業の展開」は、次のような方法で収益化を図ります。
・データを活用し、既存事業とは異なる新たな事業を展開
・データを活かした手法で、すでに存在する事業者よりも優位なサービスを実現し、異業種に新規参入
データを用いた新規事業の展開を成功させるためには、主に3つのステップが必要です。
①データビジネスのアイデアを広げる
社内に眠っているデータを棚卸しし、自社が保有するデータや取得できるデータの価値と使い道を検討します。
②アイデアを具体的な事業化の形にする
具体的なビジネスモデルやサービスの提供方法を検討し、実現可能性を確認します。
③事業としての収益を出すために、マネタイズの方法を考える
収益モデルや価格設定、顧客獲得戦略などを検討し、具体的な収益化計画を策定します。
新たな事業の立ち上げとなるため、第1段階、第2段階と比較すると難易度は高い一方で、見込める収益規模が大きくなります。真摯にデータ活用に取り組めば、リターンをより大きくできるのです。
・データが活かせる5つのパターン
①情報の非対称性の解消
仲介業者の過度な利幅の確保など、バリューチェーンにおける需要と供給間の情報の非対称性がデータにより解消されます。
②合理的でない・根拠ない手段により発生する無駄の削減
データが少なかったアナログの時代の判断方法(勘や経験に頼った業務判断など)が未だ残る業務・業界にデータを活用し合理的にします。
③既存手段よりもデータを活用した手段によるコスパの改善
データを活かし、これまで人手の多くかかっていた業務などの効率化や高頻度化、業務品質の均質化を図ります。同じパーフォマンスでコストを下げたり、同じコストでパーフォマンスをアップします。
④きめ細かな個別対応の実現による最適化
供給者の事情により、大ぐくりな単位でしか提供できなかったサービスなどを、より個に合わせて、きめ細かにカスタマイズして提供します。顧客データを活用し、顧客体験を高めるサービスを提供し、チャーンを防ぎ、LTVを長くします。
⑤データに基づきアクションの頻度を高めることによる機会損失の削減 これまで定期的な頻度でしか行われなかった判断やアクションを、データを活用することでよりタイムリーに頻度高く実施し、機会損失を削減します。
5つの課題解決のパターンと以下の4つのレベルの課題を組み合わせることで、正しい自社のデータ活用法が見えてきます。
・個人レベルの課題=既存のユーザーや消費者の課題、あるいはまだ利用者になっていない潜在的な顧客が抱える課題
・企業レベルの課題=データビジネスの提案先となる顧客企業やその取引先など、企業の抱える課題
・業界レベルの課題=データビジネスの提供先となる顧客企業が属する業界だけでなく、周辺の業界も含めた課題
・社会レベルの課題=社会システムの欠陥や矛盾から社会で発生し、未だに解決に至っていない課題
データを活用して、ビジネスモデルを策定する方法
データビジネスのビジネスモデル策定は、成功するために重要な要素です。このプロセスでは、以下の5つのポイントを考慮するようにしましょう。
①誰に:まず、ビジネスの対象となる顧客や市場を明確にする必要があります。どのような人々にサービスや製品を提供するのかを明確にすることで、効果的なビジネスモデルを構築することができます。
②何を:次に提供するサービスや製品の内容を明確にする必要があります。顧客のニーズや要求に対応するために、どのような価値を提供するのかを明確にすることが重要です。
③どうやって:ビジネスモデルを構築するためには、どのような方法や手段を使用するのかを考える必要があります。効率的で効果的なビジネスプロセスを確立し、競争力のあるサービスを提供するための方法を検討する必要があります。
④誰がお金を払うのか:ビジネスモデルの中で、誰がサービスや製品に対して支払いを行うのかを明確にする必要があります。収益を確保するために、どのような料金体系や収益モデルを採用するのかを検討する必要があります。
⑤サービスは誰に提供され、お金は誰から誰にどう流れるのか:
サービスや製品が提供される対象となる顧客や市場、そしてお金がどのように流れるのかを明確にする必要があります。ビジネスモデルの中で、どのようなパートナーシップや取引関係を築くのかを考慮し、効果的な収益モデルを確立する必要があります。
以上の5つのポイントを押さえることで、データビジネスのビジネスモデルを効果的に策定することができます。また、ビジネスモデルの策定においては、マッチング型、販促・広告型、BPO型、サービサー型の4つのパターンを適用することも有効です。これらのパターンを使用することで、より効果的なビジネスモデルを形成することができます。
例えば、近年、健康管理の重要性がますます高まっています。特に、個々の体調に合わせた商品やサービスの需要が増えています。このような需要に応えるため、体調可視化ツールが注目を集めています。 体調可視化ツールは、個人の日々の体調データを収集し、分析することができます。
・マッチング型
具体的には、事業者が体調データを提供することで、そのデータに基づいて個々のニーズに合った商品やサービスを提供することができます。この提供に対して、事業者はお金を支払います。例えば、保険会社が保険加入者の体調を把握し、保険商品を提供する場合などです。
・販促・広告型
体調管理アプリなどに広告を配信したい広告主は、体調可視化ツールの利用者の属性や人数などを知りたいと考えています。そのため、広告主は体調可視化ツールの提供元から広告料を支払います。
・BPO型
保険会社などは、保険加入者の体調把握を外部に委託することがあります。この場合、体調可視化ツールを提供し、ユーザーの体調データを把握する役割を果たします。その結果、委託を依頼した企業から業務委託料を受け取ることができます。
サービサー型
このモデルでは、直接ユーザーからお金を受け取ります。取得した体調データを基に、保険や健康増進のサービスを開発し、ユーザーに販売することで収益を得ます。
需要と供給相互依存のマルチサイドのプラットフォームを形成し、ネットワークを拡大させることで、ビジネスは飛躍的に成長します。
データビジネスの進化は、企業にとって大きなチャンスとなります。既存の事業にデータを活用することで、新たな収益を生み出すことができるだけでなく、他の事業者のサービスを提供することで新たなビジネスチャンスを見つけることもできます。さらに、新規のサービスを提供することで、新たな市場を開拓することも可能です。データビジネスは、企業の成長と競争力強化に不可欠な要素となっています。
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