超長寿化時代の市場地図 多様化するシニアが変えるビジネスの常識
スーザン・ウィルナー・ゴールデン
ディスカヴァー・トゥエンティワン
超長寿化時代の市場地図 (スーザン・ウィルナー・ゴールデン)の要約
企業は超高齢化社会において、年齢による区分ではなく、個々人のライフステージに着目すべきです。一人ひとりの生き方や状況に応じた柔軟な対応により、エイジズムを克服し、長寿社会の課題解決を図ることができます。それが、すべての世代にとってより豊かな社会の実現につながるのです。
人生100年時代のマーケティングとは?
人口構成が激変する中、私たちのマインドセットにも大きな変化が必要だ。「老い」や「加齢」に対する固定観念や思い込み、既存の高齢者ビジネスのやり方では、通用しなくなる。 (スーザン・ウィルナー・ゴールデン)
超高齢社会における新たな市場の創出と価値観の変革 世界的な長寿化の波が押し寄せるなか、私たちの社会は大きな転換期を迎えています。アメリカでは2035年までに65歳以上の人口が18歳未満を上回ると予測されており、世界最長寿国の日本においては、すでに65歳以上の人口が総人口の30%近くに達しています。
このような人口構造の劇的な変化は、私たちの社会や経済に根本的な変革を迫っています。 従来の社会では、65歳以上の人々を一括りに「高齢者」として捉え、画一的なサービスや製品を提供してきました。しかし、この考え方は現代の実態にそぐわなくなっています。
60代や70代でも新たなキャリアを追求したり、起業に挑戦したりする人々が増加しており、「老後」や「シニア」といった固定概念では捉えきれない多様な生き方が広がっています。 このような変化を背景に、3200兆円規模とも言われる未開拓市場が生まれつつあります。
この市場で成功を収めるためには、年齢による区分ではなく、個々人の「ライフステージ」に着目したアプローチが不可欠となっています。人生100年時代においては、教育、仕事、引退という従来の三段階モデルは既に時代遅れとなっており、生涯にわたる学び直しや複数のキャリアを経験する「マルチステージ」の生き方が一般的になりつつあるとスタンフォード大学経営大学院の講師のスーザン・ウィルナー・ゴールデンは指摘します。
この新しい市場における重要な要素の一つが、健康寿命の延長を目指したサービスです。単なる医療や介護にとどまらず、予防医学やウェルネスプログラム、社会参加を促進するコミュニティ活動など、包括的な健康支援サービスへの需要が高まっています。これらのサービスは、身体的な健康維持だけでなく、メンタルヘルスの向上にも貢献しています。
教育分野においても大きな変革が求められています。かつての「一度の教育で一生を過ごす」という考え方は完全に過去のものとなり、60年以上にわたって継続的に学び続けることが必要とされています。この変化に対応し、生涯学習プログラムやオンライン教育プラットフォームなど、新しい形態の教育サービスが次々と生まれています。
また、世代間の交流を促進するサービスも注目を集めています。祖父母と孫が一緒に参加できる体験型プログラムや、多世代で共有できる製品の開発が進んでいます。これらのサービスや製品は、年齢を意識させない使いやすさと、幅広い世代に受け入れられるユニバーサルデザインを採用することで、世代を超えた価値を提供しています。
しかし、これらの変革を実現する上で最も重要なのは、高齢者に対する偏見や固定観念の克服です。65歳以上の人々を情報弱者や依存的存在として見なす従来の偏見は、彼らの持つ可能性や能力を不当に過小評価してきました。
超高齢化社会の5Qと18のステージ
高年齢層の人びとは多様であり、ニーズも欲求もさまざまに異なる。「85歳の人を1人知っているなら、85歳については1人分のことしかわからない」と肝に命じておこう。
実際には、85歳以上の多くの人々が自立した生活を送り、デジタル技術にも積極的に適応している現実があります。 このような認識の転換を通じて、私たちは年齢にとらわれない、真に包括的な社会の実現に向けて歩みを進めることができます。それは同時に、企業にとっては新たな事業機会の創出につながり、社会全体にとっては持続可能な発展の基盤となるのです。
社会が多様化し、長寿化が進む中で、従来の「年齢」に基づく分類では、人々の実際の生活や価値観を十分に反映できなくなっています。それぞれの人が異なるニーズ、願望、経験を持っていることを認識し、人生を「ステージ」に基づいて捉える新たな視点が求められています。
人生を5つの主要な期間、さらに18のステージに分けて解析する枠組みは、年齢による一律のアプローチを超え、個々の状況や感情を深く理解するための手助けとなります。
5Qはスタート期(0~30歳)、グロース期(25~55歳)、ルネッサンス期(55~85歳)、レガシー期(75~100歳)、そしてエクストラ期(100歳以上)に分かれています。これらの期間は、さらに詳細な18のステージに細分化され、成長、キャリアと家族、再出発、そして結びのステージとして整理されています。
スタート期は自己形成の段階であり、グロース期ではキャリアの構築や家庭生活が中心となります。ルネッサンス期は、新たな挑戦や価値の再発見が起こる時期であり、レガシー期は次世代へ経験や知識を伝える段階です。
さらにエクストラ期では、長寿を見据えた深い洞察と人生の総括が行われます。このような分類をさらに細分化し、成長、キャリアと家族、再出発、結びの各ステージに焦点を当てることで、人々の人生の流れをより具体的に捉えることが可能になります。
成長のステージは、学びや経験を通じて自己を形作る重要な期間です。この段階では、好奇心や挑戦が自己形成を促進し、人生の基盤を築く活動が行われます。キャリアと家族のステージでは、経済的な安定を追求しながら家庭生活を支えるための努力が求められます。
さらに、この段階では健康の維持や改善、継続的な学びも重要なテーマとなり、家族の介護や個人のキャリアの発展が同時進行で進むこともあります。 再出発のステージは、これまでの人生の方向性を再評価し、新たな挑戦に乗り出す段階です。
ここでは、これまで積み上げた経験を活かしながら、新しい活動やキャリアに挑むことが特徴的です。「サイドプレナー」として副業を開始するなど、多様な働き方や価値創出の方法が模索される場面でもあります。このような転換は、現代社会で特に重要な意味を持っています。
結びのステージでは、人生の総括が行われます。この段階では、次世代への知識や経験の伝承に重きを置きながら、自己の生活を整理し、新たな役割を見出す努力がなされます。終活という形で自分の人生を振り返りながらも、充実した時間を追求することが重要視されます。
これらのステージは必ずしも直線的に進むわけではなく、人それぞれの人生経験や選択によって順序や内容が変化します。この柔軟性を認識することが、企業やコミュニティが高齢者向けのサービスを設計する際の重要な鍵となります。
年齢ではなく「ステージ」に基づくアプローチは、高齢者をより深く理解し、彼らの多様なニーズに応えるための基盤を提供します。 このような考え方は、単なるマーケティングの枠を超え、社会全体の進化に貢献します。高齢者を単なる支援の対象としてではなく、価値あるパートナーとして捉えることで、企業や地域社会は彼らの知識や経験を活用し、共に成長することができます。
特に、高齢者市場における製品やサービスの開発では、ライフステージに基づく設計が求められます。例えば、新たな学びの場を提供するサービスや、コミュニティとつながるためのプラットフォームを構築することで、彼らの生活の質を向上させることが可能です。
さらに、職場や教育現場での世代間の交流もまた、社会全体に利益をもたらします。異なる世代が共に働き、学び合うことで、新たな視点や価値観が生まれます。
リバース・メンタリングなどの取り組みは、若い世代の視点を高齢者に共有し、組織全体の学びと成長を促進します。同様に、教育の場においても、高齢の学習者が若い学生と共に学ぶ環境は、双方の学びを豊かにするだけでなく、世代を超えた理解を深める場となります。
これらの取り組みを通じて、年齢に基づく固定観念を排除し、人生の多様なステージに応じた柔軟な対応が可能になります。長寿化社会における課題に対応するためには、年齢ではなくステージに基づく視点を導入し、人々がそれぞれのライフステージで意味のある選択をできる社会を築くことが重要です。この視点の転換が、社会全体にとっての豊かな未来を切り開く鍵となると著者は指摘します。
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