2030年の戦争 (小泉悠, 山口亮)の書評

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2030年の戦争
小泉悠, 山口亮
日経BP

2030年の戦争 (小泉悠, 山口亮)の要約

日米同盟は日本の安全保障の要ですが、2030年以降は両国関係が大きく変化する可能性があります。このため日本は、米中対立やインド太平洋地域の安全保障環境の変化を分析し、限られたリソースの中で効果的な戦略を立案する必要があります。将来予測は、現在の地政学的課題を明確化し、具体的な対策を検討するための重要なツールとなります。

日本はもはや戦争に巻き込まれている?

今の戦争はわかりにくくなっています。それは何かといえば、殴り合いの戦い以外に、見えにくい、またははっきりしない戦いがあることです。1つはサイバー攻撃や認知戦、もう1つはグレーゾーン事態です。要するに完全な有事ではないものの、じわじわと相手を懐柔したり弱らせたりして現状を変更し、次のステップとして攻撃が行われるものです。 (山口亮)

東アジアの安全保障環境が緊迫度を増すなか、日本の防衛態勢と地域の平和維持に向けた分析の重要性が高まっています。東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授と東京国際大学国際戦略研究所の山口亮准教授による最新の研究は、従来の安全保障研究の枠を超えた新たな視座を提供しています。

著者の2人は、衛星画像分析や軍事シミュレーションといった最新の手法を駆使しながら、地域研究と安全保障研究を融合させた独自のアプローチで現状を分析しています。

特に小泉氏のロシア研究における「仮想敵国」としての冷静な分析視点と、相手の行動原理を理解することの重要性を説く姿勢は、感情的になりがちな国際関係の議論に新たな展望をもたらしています。

現代の戦争はその形態が大きく変わり、理解が難しくなっています。従来の物理的な軍事衝突だけでなく、サイバー攻撃や認知戦、さらにはグレーゾーン事態と呼ばれる新たな脅威が出現しているからです。これらの脅威は目に見えにくく、明確に敵対行為と判断するのが難しいという特徴を持っています。

グレーゾーン事態では、完全な戦争には至らないものの、相手国を徐々に弱体化させながら現状を変えていく戦略が取られます。このような段階的なアプローチは、最終的に軍事行動への布石となる可能性があります。

また、サイバー攻撃では、重要インフラや金融システムが狙われ、社会の混乱や機能停止を引き起こす恐れがあります。 認知戦においては、情報操作やプロパガンダが用いられ、社会の分断や誤解の拡散が狙われます。これらは物理的な被害を伴わないため、対応を決断するのが非常に難しい特徴があります。

「戦争(war)」が武力を伴う衝突を意味する一方で、「紛争(conflict)」は意見や考えの対立を含む広い概念です。この視点から見ると、現在の世界は紛争が至るところで起きていると言えます。日本は平和だと言われますが、戦争を広く定義すれば、近隣ではすでに戦争に近い状況が進行しています。

例えば、朝鮮半島は休戦中ながら実質的に戦争状態が続いていますし、台湾と中国の間ではハイブリッド戦争が繰り広げられています。また、日本もサイバー攻撃や情報戦などのハイブリッドな攻撃にさらされており、いくつかの紛争の中に巻き込まれている状況です。このような背景を考えれば、日本も戦争の初期段階にあると言えるかもしれません。

日本の安全保障における最重要課題は、台湾周辺、朝鮮半島、極東ロシアの三地域です。これらの地域で有事が発生した場合、日本への直接的な軍事的脅威のみならず、海上交通路の遮断による経済活動への打撃も懸念されます。特に海上交通路の遮断は、資源やエネルギーの供給、貿易活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

台湾有事を起こさないために必要なこと

結局、中国が台湾と地域の情勢をどう見ているかによります。中国が計画的に侵攻を実施する場合、「120%勝てる」と思ったら取りに行くかもしれません。 (山口亮)

台湾有事のシナリオでは、中国による多層的なアプローチが想定されています。まず海上封鎖とミサイル攻撃により台湾の防衛体制を弱体化させ、その後に大規模な上陸作戦が展開される可能性があります。台湾は物資供給の多くを海外に依存しているため、海上封鎖は特に深刻な打撃となります。さらに、ミサイル攻撃やサイバー攻撃が組み合わされることで、防衛態勢の維持が極めて困難になると予測されています。

また、中国が武力行使に踏み切るタイミングについても、様々なシナリオを山口氏は提示します。計画的な行動から偶発的な衝突の拡大、そして切迫した状況判断まで、複数のプランが考えられます。特に状況の悪化による判断は、その予測が困難であり、周辺国の即応能力が問われることになります。

中国指導部の「今行動を起こさなければ手遅れになる」という切迫感から生じる突発的な軍事行動の可能性は、東アジアの安全保障における重大な懸念事項です。この背景には、台湾の民主主義の成熟や独立志向の強まり、さらには米国や日本による台湾防衛態勢の強化があります。

加えて、台湾の半導体産業の発展や国際的存在感の向上により、中国にとって統一実現の時間的余裕が失われつつあるという認識があります。 このような切迫感に基づく軍事行動は、十分な準備や計画のないまま開始される可能性が高く、予期せぬ事態の発生や急速なエスカレーション、さらには国際社会からの予想以上の反発を招く危険性をはらんでいます。このため、中国自身にとっても深刻な打撃となりかねません。

経済的な観点からの分析も重要性を増しています。中国経済の成長が限界に達した場合でも、これまでの経済的蓄積を基盤とした軍事力の増強は継続する可能性があります。特に大規模な資産バブル崩壊などの経済危機に直面した場合、国内の不満を外部に向けるための軍事行動として、台湾侵攻が選択される可能性も排除できません。

しかし、このような軍事行動には重大なリスクが伴います。国際社会からの経済制裁や外交的孤立、莫大な戦費負担は避けられません。中国指導部もこれらのリスクを認識し、様々な対策を検討していると考えられます。経済制裁への耐性強化や、国際世論への働きかけなど、複合的な準備が進められているはずです。

日本に求められるのは、米国や台湾との緊密な連携のもと、事態の推移を正確に把握し、適切な対応を取る態勢を整えることです。小泉氏と山口氏が示すような、客観的なデータと冷静な分析に基づいた議論を重ねていく必要があります。 特に重要なのは、サイバーセキュリティの強化や情報収集・分析能力の向上、さらには社会全体のレジリエンス強化です。

小泉氏は、2030年代にアメリカが台湾を守る意志を示すかどうかが、台湾有事の行方を左右する重要なポイントになると指摘しています。台湾問題はアメリカの対応次第で大きく影響を受けるのは間違いありません。そのため、ウクライナ戦争のような事態が台湾で繰り返されないことを祈るばかりです。

小泉氏と山口氏のシミュレーションを読むと、日本、アメリカ、中国の動きが複雑に絡み合い、戦争に備える必要性が避けられないことが浮き彫りになります。特に台湾周辺の安全保障については、早急に現実的な対応を考える必要があることを痛感させられます。また、その際、北朝鮮に便乗させないように、マルチ有事のリスク対策を行うことも求められます。

両氏の研究が示唆するように、現代の安全保障環境は従来の枠組みでは捉えきれないほど複雑化しています。衛星画像分析や軍事シミュレーションといった新たな手法を取り入れながら、地域の特性と安全保障上の課題を総合的に理解することが、これからの研究と政策立案には不可欠となっています。

このような多面的なアプローチと、冷静な分析に基づく議論の積み重ねが、複雑化する東アジアの安全保障環境に対応するための基盤となることでしょう。日本は、同盟国や友好国との協力関係を深めながら、自らの防衛力強化と地域の安定維持に向けた取り組みを着実に進めていく必要があります。

将来予測から日本の軍事的課題を明らかにし、対策を考える!

我が国のリソース(人、モノ、カネ)は限られています。GDPすべてを国防に注ぎ込んだら、一時的には安心かもしれないけど、日本経済は破綻してしまいます。軍拡競争の悪循環にも陥るでしょう。(小泉悠)

日本が国家安全保障の課題に直面する中で、限られたリソースを効果的に活用した防衛態勢の構築が急務となっています。小泉氏が指摘するように、国防費の際限ない増大は日本経済に深刻な負担を強いるだけでなく、近隣諸国との軍拡競争を招く恐れがあります。

このような悪循環に陥ることは、日本の平和的な国家運営を危うくするばかりか、地域全体の緊張を一層高める結果となりかねません。そのため、バランスの取れた安全保障戦略が必要です。 日本の安全保障を考える上で、日米同盟は中心的な役割を果たしています。

日本が外交的自主性を保ちながらも、日米同盟の維持と強化が不可欠です。しかし、2030年以降、米国のアジア太平洋地域への関与が現在と同様の形で継続される保証はありません。米国内の政治的な変化や経済的な状況によっては、米国のプレゼンスが縮小し、日本にさらなる安全保障上の負担が求められる可能性があります。

このような不確実な未来に備えるためには、日本が独自の安全保障能力を高めるとともに、新たな国際情勢に柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。

米中対立の行方、インド太平洋地域の安全保障環境、さらには国際的なパワーバランスの変化を総合的に分析し、戦略を立案することです。特に、限られたリソースを最大限に活用するためには、明確な優先順位の設定が欠かせません。

例えば、日本の防衛態勢強化には、軍事的な装備や能力の向上だけでなく、経済力の安定、先端技術の開発、外交努力の強化が求められます。また、同盟国やパートナー国との協力を深めることによって、単独では解決できない課題に対処することが可能となります。

将来予測は国民的な議論を促す重要な手段です。安全保障政策には必ずトレードオフが伴いますが、その現実を明確にすることで、経済的負担と安全保障上のリスクや外交的柔軟性をどうバランスさせるかといった問題について、建設的な議論を行う土壌を育むことができます。このような透明性のある議論は、政策決定への支持を広げる助けとなります。

将来予測は単なる未来予測ではなく、現実的な課題の理解を深め、効果的な解決策を模索するための重要なプロセスです。限られたリソースを効果的に活用するためにも、分析と議論を進めることが求められ、それによって持続可能な安全保障政策を構築し、国際社会での地位を強固にすることが可能となります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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