デザイン経営 各国に学ぶ企業価値を高める戦略 (小山太郎)の書評

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デザイン経営 各国に学ぶ企業価値を高める戦略
小山太郎
中央公論新社

デザイン経営 各国に学ぶ企業価値を高める戦略 (小山太郎)の要約

デザイン経営は、企業の持続的な成長を促進する重要な戦略です。顧客との共感を軸に競争力を高めると同時に、営業利益や株価といった財務指標にも好影響を与えます。 海外では、イノベーションや芸術性と結びついた多様な形で実践されており、日本においても導入が進められています。今後の日本企業の成長には、経営層によるデザイン経営への理解と、全社的な取り組みが重要な鍵になります。

企業の成長を加速させるデザイン経営とは?

デザイン経営とは、デザインプロダクト中心の企業活動がなされることである。(小山太郎)

近年、ビジネス界で「デザイン経営」というアプローチが大きな注目を集めています。これは、製品やサービスの見た目を美しく整えるだけではなく、企業全体の価値を高め、持続的な成長を実現する経営戦略として評価されています。

たとえば、世界的に高い時価総額を誇るアップルの成功も、デザインの力を抜きに語ることはできません。デザインは単なる付加価値ではなく、企業の中核を担う重要な要素となりつつあります。

デザイン経営の研究家の小山太郎氏のデザイン経営 各国に学ぶ企業価値を高める戦略では、このテーマについて国際的な視点から深く掘り下げられており、各国のデザイン経営の類型と特徴が丁寧に解説されています。 デザイン経営においては、デザインプロジェクトが企業活動の中心的な役割を果たします。

その性格は、ビジネス上の課題解決、製品の「かたち」の決定、そして工学的設計という3つの要素の組み合わせによって特徴づけられます。中にはこれらすべてをバランスよく備えたプロジェクトもあれば、特定の要素が際立つプロジェクトも存在します。いずれにせよ、重要なのはそれらの要素が企業の目標や市場のニーズに的確に対応しているかどうかという点です。

実際に、デザイン経営を実践している企業の多くは、デザインへの投資を通じて高い競争力を維持し、営業利益や株価といった財務指標においても優れた成果を上げています。たとえば、イギリスのデザイン評議会が行った調査によれば、1ポンドのデザイン投資が4ポンドの営業利益増加につながるとされています。

また、デザイン賞を受賞している企業の株価は、市場平均に比べておよそ2倍の成長率を記録しているとの報告もあります。これらのデータは、デザインへの投資が単なるコストではなく、企業価値を高めるための戦略的な投資であることを明確に示しています。

さらに、デザインへの投資は、単に財務的な成果をもたらすだけでなく、顧客満足度や購買意欲を高めることにもつながります。優れたデザインは、製品やサービスの使いやすさや魅力を引き出し、消費者との深い結びつきを生み出します。このような結びつきは、ブランドへの信頼や愛着を高め、長期的な顧客関係の構築にも貢献します。

その中核にあるのが「デザイン思考」と呼ばれるアプローチです。これは、従来の市場調査では把握しきれない潜在的なニーズを、観察や共感といったプロセスを通じて見出していく方法です。デザイン思考を経営に取り入れることで、企業は単なる商品やサービスの改善にとどまらず、ビジネスモデル全体の革新に取り組むことが可能となり、結果として顧客の期待を超える価値を提供できるようになります。

世界各国の先進的な企業は、それぞれの文化や産業背景に根ざした独自のデザイン経営を展開しています。イタリアでは、美しい形が重視されています。芸術性や職人技を重視する姿勢がファッションやインテリアといった分野で国際的な競争力を生み出しています。

アメリカでは、イノベーションと効率性を軸としたデザイン戦略が、テクノロジー企業の成長を支える原動力となっています。特に、UIやUXの領域におけるデザインへの注力が顕著であり、シンプルで直感的な操作性や、ユーザーの期待を超える体験の提供が、ブランド価値の向上や顧客ロイヤルティの獲得につながっています。

こうしたアプローチは、単に製品の使いやすさを追求するだけでなく、ユーザーとの関係性を深め、継続的な利用や高評価を生み出す重要な要素となっています。

韓国では、工学的設計、工業デザイン、デザイン思考の3つをバランス良く取り入れたデザイン経営が展開されており、それによってグローバル市場における存在感を高めています。

北欧諸国においては、工芸の価値が重視されており、機能性・美しさ・持続可能性を兼ね備えたデザインが高く評価されています。これにより、日常生活の質が向上している点も特徴です。

著者は、日本のHONDAやバルミューダの成功事例を紹介しています。さらに、より多くの日本企業でデザイン経営を推進するためには、CDO(最高デザイン責任者)の設置、プログラマーの待遇改善、そしてソフトウェア工学への投資が不可欠です。

また、職人文化を活かし、芸術的な模型から量産可能な製品を生み出すことで、「眺めの良い暮らし」の実現が可能になります。さらに、自然との共生を意識した北欧的アプローチや、アート思考、アーティストとの協業も有効な手段だと著者は述べています。

こうした取り組みを支えるには、企業内に「プロジェクト文化」を根付かせることが重要であると、著者は指摘しています。 このプロジェクト文化を浸透させるには、財務部門がデザインプロジェクトへの投資を最優先事項として位置づけることが不可欠です。あわせて、デザインを企業の中核的活動と捉え、マーケティング部門や製造部門がその成功を支援する体制の構築が求められます。

デザイン経営のプロセスとは?

デザイン経営では、デザイナーが直観した将来のライフスタイルのイメージを先取りして、いまこの現在において実現することが望まれる。

デザイン経営を実践するにあたっては、プロジェクトの進行プロセスに注目する必要があります。デザインプロジェクト(円形モデル)では、まず実践が行われ、その後にマーケティング業務が続きます。次に、必要なテクノロジーの探索が行われ、さらに物資の調達に関する意思決定へと進みます。

一方、従来型の企業活動を示す四角形モデルでは、最初に投資のための原資が確保され、それに基づいて企業組織やチームが編成されます。その後、投資収益率(ROI)の保証が求められ、デザインを意識した研究開発(R&D)が展開される流れとなります。

このように、デザインプロジェクト(円)と従来の企業活動(四角形)では進行のロジックが異なりますが、両者を効果的に統合することで、デザインを中心に据えた「エクセレント・カンパニー」の実現が可能となります。

デザイン経営の導入には、企業文化や組織構造にまつわる課題を乗り越える必要があります。特に、伝統的な経営スタイルを重視する企業では、デザインの価値が十分に認識されていなかったり、部門間の連携が不足していたりするケースも少なくありません。

また、短期的な利益を優先する経営姿勢が、長期的視点に立ったデザイン投資を妨げる要因となることもあります。こうした課題を解決するためには、経営層の明確な意思と、組織全体へのデザイン思考の浸透が不可欠です。専門性の異なるメンバーが協働し、デザインを経営戦略の中核に据える体制を構築することが、競争優位の確立につながります。

デジタル化やグローバル化が加速する現代において、過去の成功体験だけでは変化に対応することが難しくなっています。こうした時代において、デザイン経営は企業の未来を切り拓くための有効な手段であり、その重要性は今後ますます高まっていくと著者は指摘します。

著者はアメリカの自動車メーカーとフェラリーを比較します。アメリカの自動車メーカーは、マーケティング戦略として頻繁にモデルチェンジを行い、前のモデルを意図的に陳腐化させることで買い替えを促しています。これは、短命な製品を次々と生み出す「スタイリング」の発想に基づいています。

一方、デザイン経営ではこのような考え方と決別し、長寿命で芸術性の高い工業製品を目指します。フェラーリは、過去の優れたモデルの要素を受け継ぎながら新たなデザインに活かすことで、無駄なスタイリングを行うことなく、ブランドらしさを維持しています。

韓国では、サムスン電子や現代自動車グループがトップ主導でデザイン経営を導入し、成功を収めています。経営陣の強いリーダーシップのもと、全社的にデザインを重視し、世界各地にデザイン研究所を設立して、優れた製品をグローバル市場に展開している点が特徴です。

デザイン経営を実践する企業では、協業するデザイナー集団を入れ替えることで、美学的に異なる様式に対応し、多様なデザインを生み出しています。これにより、ブランドイメージを何度でも刷新・再生できるのです。

たとえば、イタリアの家具メーカー・ドリアデ社では、ネオバロックの精神を体現するポジェック・シーペック、ミニマリズムを感じさせる伊東豊雄、純粋なフォルムを重視するアントニア・アストリ、そして官能性を表現するロン・アラッドといったデザイナーを順に起用しています。

デザイン経営は、単なる一過性の流行ではなく、企業がこれからの時代を生き抜き、未来を切り拓いていくための確かな指針です。市場環境や社会の価値観が急速に変化する中で、企業は従来の成功モデルにとらわれることなく、顧客や社会との対話を通じて本質的な価値を見出し、提供していく姿勢がこれまで以上に重要になっています。

製品やサービスの機能や価格だけで差別化を図るのではなく、ユーザー体験や美的価値、企業の姿勢そのものがブランドの評価に直結する時代において、デザインは経営戦略の中核を担う存在へと変化しています。こうした流れを的確に捉え、実践へとつなげるには、経営トップの強いリーダーシップが欠かせません。

今こそ、CEO自らがデザインの重要性を深く理解し、それを企業文化として根付かせる覚悟を持つべき時です。デザインを単なる外注的な機能として扱うのではなく、組織のあらゆるレイヤーに創造性と共感力を浸透させ、従業員一人ひとりが価値創出の担い手となるような体制づくりが求められています。

そうした取り組みの積み重ねこそが、短期的な成果にとらわれない持続可能な競争力を生み出し、企業を長期的に成長させる原動力となるのです。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
株式会社INFRECT取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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