最強の経験学習
デイヴィッド・コルブ , ケイ・ピーターソン
辰巳出版
最強の経験学習(デイヴィッド・コルブ , ケイ・ピーターソン)の要約
『最強の経験学習』は、経験・検討・思考・行動のサイクルを通じて、学びを深め、人生そのものを変革する力を育てる実践書です。著者らは、9つの学習スタイルを柔軟に使い分ける重要性を説き、学びの過程に意識的に向き合うことが真の成長につながると伝えています。結果よりも過程を信じ、他者と協働しながら多様な学習スタイルを育むことで、より柔軟でしなやかな人生を歩むことが可能になります。
経験学習の4つのプロセス
どんな経験からでも何かを学ぼうという姿勢を持っていると、正しい教訓だけを得ることができます。人生に向き合う方法として「学び」の道は楽ではないかもしれません。とはいえ、長い目で見ればもっとも賢い方法なのです。(デイヴィッド・コルブ , ケイ・ピーターソン)
経験は、学びの原点であり、人生を変える力を持っています。 成功も失敗も、あらゆる出来事には意味があります。そこから何を学び、どのように行動するかによって、人は進化していきます。受け身で知識を得るのではなく、自ら経験に飛び込む姿勢こそが、真の成長を導くのです。
こうした視点を体系化したのが、デイヴィッド・コルブとケイ・ピーターソンによる最強の経験学習です。本書の中心にあるのは、「経験」「検討」「思考」「行動」という4つの段階で構成される経験学習サイクルです。
まず、自分が直面する現実の「経験」が出発点となり、それを一歩引いて振り返る「検討」を行います。次に、その経験から得た気づきを「思考」によって概念化し、最後に「行動」へと移す。この循環を意識的に繰り返すことで、表面的な理解ではなく、内面からの変化を生む深い学びが実現されます。
このサイクルは、自動的に回るものではありません。自分は学習の過程にいるという自覚を持ち、どの段階でどのように学ぶかを意識的に選択することが求められます。そこにおいて重要なのが、自分自身の学び方を知ることです。
著者らは、学習者の多様なスタイルに注目し、9つの学習スタイルが紹介します。それは、「経験」「想像」「検討」「分析」「思考」「決定」「行動」「開始」「バランス」の9タイプです。
自分のスタイルを理解することは、学びの効率を高めるだけでなく、自身の強みや弱みに気づく手がかりになります。 さらに、こうした学習スタイルの理解は、人間関係にも大きな影響を与えます。
一つの学習スタイルに特化すれば、ある道では成功するための助けになります。一方で、他の可能性はシャットアウトされてしまいます。それぞれの学習スタイルと、スタイルの違いがどんな影響を与えるのかを知ることで、変化のチャンスに気づけるようになります。
さまざまなスタイルが存在することを知っていれば、自分とは異なるアプローチを取る相手に対しても、その違いを尊重し、円滑なコミュニケーションを築くことが可能になります。たとえば、まるで“別の世界から来たように感じる”相手の言動にも、その背景にある学びのスタイルを見出せば、すれ違いの原因が明確になります。
また、自分の弱みを他者の強みで補ってもらったり、逆に相手の不得意な部分を自分が支えたりといった、相互補完的な関係性を築くきっかけにもなるでしょう。学びを個人の枠にとどめず、チームや組織の中で活かすことで、より豊かな成果につながるのです。
脳内には千億個を超えるニューロンが存在し、それらは生涯を通じて数えきれないほどの経験によって結びつき、変化し続けます。経験学習サイクルを通して得た学びは、このニューロン同士のつながりを強化し、私たちの思考力や創造性を高めます。自分が学びの過程にいることを理解している人は、経験から何を学ぶかを自ら選び取り、成長をデザインする力を持っているのです。
このように、学習サイクルを活用すれば、どのような状況でも学びの機会へと転換し、その恩恵を最大限に受けることができます。
学習の柔軟性を高め、人生を変えるための3つの戦略
学びの柔軟性、つまり目の前の状況に応じて九つの学習スタイルを使い分ける能力は、人生というゲームの頂点を極めるのに役立ちます。
学びにおいて重要なのは、単に自分の得意なスタイルを知ることにとどまりません。より本質的な力となるのは、「学びの柔軟性」です。すなわち、目の前の状況に応じて9つの学習スタイルを自在に使い分ける能力こそが、変化の激しい現代において求められる真のスキルだと言えるでしょう。
たとえば、知恵と勇気を兼ね備え、複雑な問題に果敢に立ち向かうリーダーや、患者の心に寄り添いながらも高度な医療技術を提供できる医師、開発から販売までを一貫して担える柔軟な企業家などは、いずれも自分の得意なスタイルに加えて、複数の二次的な学習スタイルを実践的に使いこなしています。それがたとえ、もともとのスタイルと正反対の性質を持つものであったとしてもです。
このような多様なスタイルの活用は、個人の適応力を大きく高めます。たとえば、直感的に「行動」に出ることを得意とする人が、「検討」や「分析」のスタイルを後天的に身につけることで、衝動的な判断を避け、より戦略的に物事を進めることができるようになります。
逆に、熟慮型のスタイルを持つ人が「開始」や「決定」といったスピード感のあるスタイルを取り入れることで、停滞を打破し、実行力を高めることが可能になります。 短期的には、自分のスタイルを補完してくれる他者と協働することで、まだ身についていないスキルをチーム全体でカバーすることができるでしょう。
しかし、長期的な視点では、あらゆる学習スタイルを自らの中に育てていくことが望まれます。それによって、状況に応じた最適な判断と行動が可能となり、自分の限界を超えていく成長が実現されるのです。 すべてのスタイルを使いこなすことは、まさに「学びの達人」への道とも言えます。
変化し続ける社会のなかで、固定された思考や方法に頼るのではなく、柔軟に学び方を変化させながら進んでいく姿勢こそが、人生という複雑なゲームを乗り越えていく鍵になるのです。
本書を読み進めるなかで、「学びにおける柔軟性が高い人は、人生の柔軟性も高い」という言葉に深く共感を覚えました。まさに、学びのスタイルを拡張することは、自分の生き方そのものをしなやかにすることでもあるのです。
また、私自身、自分の学びの傾向が「経験」に偏っていることに気づかされました。これまでは直感的に動くことが多く、「検討」や「思考」を十分に深める前に「行動」に移る傾向があったのです。しかし、学習サイクル全体を意識的に回すことの重要性を本書から学び、今後は各フェーズを意識して取り入れながら、自分自身の学び方をよりバランスの取れたものへと整えていきたいと考えるようになりました。
他者に共感したり気遣ったりすると、人生の目的や意味を強く感じるようにもなります。しかも、自分の仕事が他者の成功に貢献すると、その仕事は、一人の人間のなしうる仕事の範疇を越えたことになります。
他者とつながり、共に学び、支え合う中で得られる気づきもまた、学びの一部です。誰かに共感し、気遣い、相手の成長に貢献することで、私たちは自分の存在意義や人生の目的をより強く実感するようになります。自分の仕事や行動が、他者の可能性を広げる助けとなるとき、それは一人の人間が担う「仕事」の枠を超えた、社会的な価値や影響を持つ行為となるのです。
著者らが提唱する「学習の柔軟性を高め、人生を変えるための3つの戦略」も、そうした意味をさらに深めてくれます。
その3つとは、「深い意味のある経験」「意識的な学習」、そして「大きな変化を起こすために、小さな一歩から始めること」。このプロセスは、どれも地道で時間のかかる取り組みに見えるかもしれません。しかし、それこそが自分自身の真の成長を引き出す唯一の道なのです。 日々の生活の中に、柔軟性を持とうとする姿勢を取り入れること。そこから、自分自身の中にあるまだ知らない一面が少しずつ解き放たれていきます。
そして、その道のりは、決して一直線ではありませんが、一歩ずつ進んでいくことで、次第に自分だけの道が形を成していきます。その道の途中には、予期せぬ課題も、新たな出会いも、そして自分でも気づかなかった可能性が待っているでしょう。 学びの柔軟性を育むとは、言い換えれば「変化を恐れず、進化を楽しむこと」です。
この書評ブログを書き始めてから、気づけば15年が経過しました。 毎日のインプットとアウトプットを通じて、多くの学びを得ることができています。 小さな一歩を踏み出した15年前の自分に、心から感謝しています。
自分自身の成長を信じ、経験・検討・思考・行動のサイクルを回しながら、人生そのものを学びの旅と捉える。その旅の中で得られるのは、知識やスキルだけではなく、自己理解と他者とのつながり、そして未来への確かな道しるべです。
結果だけを追い求めるのではなく、学びの過程そのものに信頼を置くことも重要です。過程を大切にすることで、余計な緊張や焦りから解放され、活動をより楽しめるようになります。特に、9つの学習スタイルをじっくりと身につけていくことで、少しずつ柔軟性が高まり、その変化を自分でも実感できるようになるでしょう。学習のプロセスを信じることは、目の前の結果にとらわれすぎず、自分の成長を俯瞰的に捉える力を養ってくれます。
さらに、体を動かしたり、マインドフルネスを実践したりすることで、心と体の調和が生まれ、学びへの集中力や意欲も高まります。身体性を伴った学習体験は、それぞれの学習フェーズをより深く豊かなものにし、学習サイクル全体を活性化させる助けとなるのです。
本書は、こうした日々の取り組みを支えるための、確かな指針と豊かな洞察に満ちた一冊です。受け身ではなく、意図的に、柔軟に、そして主体的に学ぶ姿勢こそが、人生そのものを変えていく力になります。
コメント