脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法
モリー・マルーフ
ダイヤモンド社
脳と身体を最適化せよ!(モリー・マルーフ)の要約
本書はエネルギーの源であるミトコンドリアを活性化し、心身を最適化するバイオハック戦略を紹介する一冊です。栄養、運動、睡眠、マインドフルネス、テクノロジーの活用を通じて、現代人が直面する慢性的な疲労やストレス、集中力低下に対応します。愛や社会的つながりの重要性にも触れ、健康とは単なる身体の状態ではなく、意識的な選択と愛の循環によって育まれる力であると説いています。
私たちが健康を取り戻すために必要なバイオハックとは?
あなたの細胞の一つひとつに、生命の「スパーク」がある。身体を動かす電気エネルギーだ。(モリー・マルーフ)
現代のビジネスシーンは、かつてないほどのプレッシャーに晒されてます。情報とタスクの波に押し流される中、常に高い成果が求められることで、多くのビジネスパーソンが集中力の低下やモチベーションの維持に苦しみ、そして何より「正体不明の疲労感」に悩まされています。こうした不調は、単に仕事の多さだけでなく、生活全体の質を下げ、幸福感さえも奪いかねない問題となっています。
気づけばカフェインやエナジードリンクでその場をしのぐ日々が続き、いつの間にか心と体をすり減らしている。そんな状態に、あなたも心当たりがあるのではないでしょうか?
これらのサインは、実は体の深部、つまり細胞レベルで起きている「エネルギー不足」からの警告です。 そんな健康課題に対し、モリー・マルーフ博士は、脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法(原題 The Spark Factor)で、信頼性の高い実践的な解決策を提示します。
彼女は医学博士であり、世界中の起業家や投資家、テック企業のエグゼクティブに対して個別化医療サービスを提供する人気のコンシェルジュドクターです。スタンフォード大学メディカルスクールでは、健康寿命に関する講義を担当していた実績もあり、複数の企業やスタートアップのウェルネスプログラムに携わり、まさに今を生きるビジネスパーソンの健康を支える第一人者です。
「頑張っているのに、どうして結果が出ないのか」「ここぞというときに集中力が持たない」──そんな違和感を抱えながら働く人は少なくありません。マルーフ博士自身も、学生時代にエネルギーの低下を経験し、そこから抜け出すために自身の身体と徹底的に向き合ってきました。
著者は世間に広まる健康法や生産性向上のメソッドが、現代のビジネスパーソンのライフスタイルに本当にフィットしているとは限らないという事実に気づきます。 本書で彼女が提案するのは、細胞内のミトコンドリアを活性化させるというアプローチです。
本書では、エネルギーと活力の本質に迫りながら、先端科学と日常的実践とを融合させた新たなライフスタイル戦略が紹介されています。著者は、読者自身の生物学的特性を理解し、それを基盤にパフォーマンスを最大化するための知的フレームワークを提供しています。
メインの読者としては女性が想定されていますが、その内容は性別を問わず活用でき、すべての現代人にとって有益なアドバイスが含まれています。「バイオハッキング」というコンセプトに基づき、自身の健康をデータと科学的理解をもとに、行動を変えることで、私たちは健康を手に入れられます。血糖値や睡眠の質、食事、運動、ストレスの状態などをトラッキングし、それに応じて生活習慣を改善すれば良いのです。
マルーフ博士は、こうしたバイオハッキングにおいて、テクノロジーの利活用とともに、信頼性のあるエビデンスに基づいた判断の重要性を繰り返し強調しています。 栄養に関するアプローチでは、単なるカロリー管理にとどまらず、消化吸収の効率や腸内環境、食材の質にまで踏み込んだアドバイスがなされています。
また、食物繊維や発酵食品、良質な脂質とたんぱく質を組み合わせた栄養戦略は、エネルギー持続と精神的安定性の向上に大きく貢献します。
エネルギーは基盤であり、バイオハックはその手段であり、脳と身体の最適化はその結果としてもたらされます。細胞の発電所と呼ばれるミトコンドリアが正常に機能しなくなると、エネルギー欠乏が生じ、それがあらゆる慢性疾患の引き金となります。
つまり、脳と身体のバイオハックとは、多角的に見ても最終的にはミトコンドリアのバイオハックに他なりません。私たちは、この小さなエネルギー産生器官と双方向の関係を築いており、ミトコンドリアは私たちの人生経験すべてに影響を与えながら、同時に私たちの行動からも大きな影響を受けているのです。
幸いなことに、ミトコンドリアは環境に対する感受性が高いため、これをハックすることは比較的容易です。つまり、意識的な介入によって、エネルギーの増加や健康の改善を即座に図ることが可能になります。
たとえば、神経可塑性を高める効果が報告されている「ライオンのたてがみ(ヤマブシダケ)」のようなサプリメントは、その代表例として紹介されています。1日3グラムの摂取が脳機能の最適化に寄与するという研究もあり、こうした補助的な戦略も本書の魅力の一つです。
また、ホルミシスという考え方も極めて重要です。これはミトコンドリアの機能を促進し、レジリエンスを高めるための極めて効果的な方法であり、身体に逆境への適応方法を教える生物学的メカニズムです。
しかしながら、ホルミシスの効果を最大化するためには、身体の発する繊細な信号に耳を傾ける必要があります。もしもストレッサーに接して「活力が出た」というより「ただ疲れた」と感じたのであれば、それは回復が不十分であるという明確なサインなのです。
ホルミシスは、量と質のバランスを見極めながら取り入れる必要があります。 ミトコンドリアは大量の酸素を消費するため、その活動に伴って活性酸素種(ROS)と呼ばれる副産物を生じます。これはいわば、細胞内での代謝プロセスに伴って立ち上る「のろし」のような存在です。
低レベルであればROSはホルミシス効果をもたらし、適応反応によってミトコンドリア機能をさらに強化してくれます。 軽度のストレスが私たちのレジリエンスを高めるように、少量のROSもミトコンドリアにとっては有益な刺激となります。
こうしたホルミシス的ストレスを意図的に活用するバイオハッキングは、ミトホルミシスを通じてミトコンドリアの機能性と回復力を高めるとされており、近年の研究でも多くのエビデンスが蓄積されています。カロリー制限、一時的な酸素欠乏、温度変化、運動といった活動がその代表例となります。
ただし、注意すべきは、私たちは日々の生活の中で、意図せずして大量のROSを体内に取り込んでしまっているという点です。
たとえば、大気汚染、アルコール、たばこの煙、重金属、溶剤、殺虫剤、紫外線、高温環境、焦げた食品、さらには特定の薬剤までもがその原因となります。これらは車のエンジンから出る排気ガスのように、細胞を傷つける有害物質となり得ます。
このようなダメージに対抗するためには、抗酸化物質に富んだ食事が有効です。カラフルな果物や野菜、スピルリナやクロレラといった天然の解毒力を持つ食品を積極的に取り入れることで、体内の抗酸化防御機構を強化し、ROSの悪影響を最小限に抑えることができます。また、自然の中で過ごすなどストレスの多い環境から距離を置くことも重要だと著者は指摘します。
NEATが重要な理由
習慣を変えるのは大変だが、自動操縦をオフにして、それをやり遂げるのがバイオハックだ。バイオハックは、習慣を変えるための手法(観察、測定、継続的な記録による自己認識)とツール(臨床検査、訓練、介入、進捗のモニタリング手段)を提供する。あなたの身体はあなたの家であり、その目的はもっぱらあなたに奉仕し、あなたを守ることにある。
マフトルド・ヒューバーは健康を「逆境に適応し、自己管理する力」と定義します。著者のマルーフ博士もまた、逆境への柔軟な適応力こそが本質だと語ります。ストレスをゼロにすることは不可能ですが、それにどう対応し、しなやかに立ち直るか。その回復力こそが、真の健康を支えてくれるのです。
過食、睡眠不足、運動不足、人間関係の希薄さ、SNSの過剰使用、そしてアルコールやカフェインに頼る日々。これらの悪い習慣が私たちの適応力を下げ、エネルギーを奪う落とし穴です。私自身、かつてはアルコールでストレスを紛らわせていましたが、2007年に断酒を決意し、そこから脳と体の本来の力を取り戻しました。
自分の体調や生活習慣をトラッキングし、現状を把握することが、改善への第一歩になります。マルーフ博士は、こうしたバイオハッキングにおいて、テクノロジーの利活用とともに、信頼性のあるエビデンスに基づいた判断の重要性を繰り返し強調しています。
重要なのは、体を酷使するのではなく、細胞の「バッテリー容量」そのものを増やすことだと著者は繰り返します。エネルギーが増えれば、自然とパフォーマンスは上がり、仕事も人生も好転していきます。
バッテリー容量を増やすには、運動と休養をバランスよく取り入れて細胞のエネルギー生成力を高めること、栄養価の高い食事を適切なタイミングで摂ること、十分な睡眠や自然とのふれあい、瞑想などを通じてストレスを緩和すること、そして信頼できる人とのつながりを大切にして心の充電を図ることが大切です。 さらに本書では、日常生活に取り入れやすい介入方法も多数紹介されています。
NEATはただ歩き回ったり、バスをつかまえるために走ったり、 庭仕事をしたり、掃除した り、せかせかと身体を動かしたりするだけで達成される。こうした活動は1日を通してかなり積み上がっていく。
エネルギーを最適化するうえで見逃せないのが、非運動性活動熱産生(Non-Exercise Activity Thermogenesis)、すなわちNEATの概念です。NEATとは、明確な運動としてのトレーニングやスポーツ活動ではない日常生活におけるあらゆる動き――たとえば、歩く、階段を使う、掃除をする、買い物に行く、話しながら身振り手振りを交える、あるいは立ったり座ったりといった動作などを含みます。
これらの小さな活動は一見地味に思えるかもしれませんが、実は身体のエネルギー消費に大きな影響を与える重要な要素なのです。 特に現代のようにデスクワークが中心となり、座りがちなライフスタイルが常態化している環境では、NEATの積極的な活用が健康とパフォーマンスの鍵となります。
マルーフ博士は、こうした日常的な動作の一つひとつを「運動」と捉えるマインドセットの転換を提案しており、日中の身体活動を意識的に増やすことで、ミトコンドリアの活性化、血糖値の安定化、さらには精神的なクリアさの向上まで期待できると述べています。
このような視点で生活を見直すことは、忙しいビジネスパーソンにとって非常に実用的かつ持続可能な健康習慣であると言えるでしょう。 また、NEATを高める工夫は、創造力や意識の明晰さにも影響を及ぼすとマルーフ博士は指摘しています。
たとえば、集中力が切れたタイミングで立ち上がり、軽くその場で足踏みをしたり、ストレッチをするだけでも、血流が促進され脳の活性化に繋がります。加えて、通勤ルートを一駅分歩く、エレベーターを見送って階段を選ぶ、昼休みに周囲を散歩する、資料を読みながら歩くといった工夫も、蓄積すれば大きな健康的利益となります。
私も以前から歩くことを意識し、1日1万歩を自分の日課にしていますが、歩くことで脳が活性化し、ビジネスにも良い影響を与えています。その際、オーディオブックで読書をすることで、健康と学びの一石二鳥を狙っています。
このようにNEATを「運動」と捉え直すことで、忙しい日常においても自分なりのペースで身体を動かし続けることが可能になります。
これは単なる健康習慣ではなく、エネルギーを高め、集中力と感情の安定性を向上させるための戦略的な介入です。まさに、現代の知的労働者にとっての必須スキルとも言えます。
食事においては「自分に合う食べ物を知る」ことが重要です。世間で「体に良い」とされる食品も、必ずしもあなたの体に合うとは限りません。植物性食品や魚介類を中心とした高栄養な食事を基本にしながら、自分にとっての“元気の源”を見つけるプロセスが鍵になります。
さらに、「マインドフルネス」も大切な要素です。今この瞬間に意識を集中させることで、思考をクリアにし、ストレスに振り回されにくくなります。過去や未来に囚われる時間を減らし、現在に集中することで、心の安定が手に入るのです。 疲れやすくなった、集中力が続かない、ストレスに負けそうになる。そんな日々を変えたいと思ったときこそ、この本が力になります。
食べない時間を長くする、つまりファスティング(断食)をするか、ケトジェニックダイエットのような超低炭水化物食にすることで、炭水化物の摂取量を減らすことができる。炭水化物の摂取量を減らせば、燃料を切り替える練習の機会を身体に与えることができる。炭水化物を摂らなければ、身体はグルコースやグリコーゲンをすぐに使い果たし、別の燃料を探さざるをえないからだ。
ファスティング(断食)をすることは、脳の健康にも良い影響を与えることが明らかになっており、ケトジェニックダイエットのように極端に炭水化物を制限する食事法に取り組むことによって、炭水化物の摂取量を減らすことが可能になります。
これは単なる食事制限ではなく、身体に「燃料を切り替える練習の機会」を与えるという意味でも非常に有効です。炭水化物が枯渇したとき、身体は自然とグルコースやグリコーゲン以外の燃料、つまり脂肪を代謝してエネルギーを得ようとするようになります。
この代謝の切り替えこそが、ミトコンドリアを鍛え、柔軟でエネルギー効率の高い体内環境を構築する鍵です。ミトコンドリアの健康は本書全体を貫くキーテーマであり、運動や断食を通じてその数と質を改善し、日常生活のパフォーマンス向上を目指すことが推奨されています。
また、ミトホルミシス(適度なストレスによる適応反応)の考え方は、冷水浴やサウナといった温度刺激を健康に活かす実践として紹介されています。私自身もアイスバスを体験する中で、呼吸の重要性に気づき、身体に適度なストレスを意識的に与えるようになってから、その効果を実感しています。(アイスバスの関連記事)
人のつながりを強化しよう!
私は、人間関係の質がエネルギー容量に大きな影響を及ぼすことに気づいた。 人間関係 の質は生活の質を実際に大きく左右する。
ソーシャルメディアの利便性は私たちの生活を豊かにする一方で、その利用方法によっては心身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。ソーシャルメディアがもしあなたの気分や健康に悪影響を与えていると感じるなら、その原因と背景を深く掘り下げて考える時間を持つことが重要です。意識的にスクリーンタイムを減らすことで、より健康的で充実した体験に時間を費やせるようになると著者は述べています。
現代社会はまさに「認知の危機」に直面していると言われています。膨大な情報の洪水の中で、本当に価値のある情報を見極め、それを理解し、行動に繋げる能力が損なわれつつあるのです。うつ病や不安障害、ADHD、認知症、自閉症スペクトラムなど、神経認知機能に影響を与える疾患が世界的に増加している現状は、この情報過多の時代と無関係ではないのです。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアダム・ガザレイ博士は、過度なテクノロジーへの接触が、自然との触れ合い、身体を動かす習慣、そして質の高い睡眠といった、健全な精神と身体を保つために不可欠な要素を阻害していると警鐘を鳴らしています。
さらに、人との直接的な交流の機会が減少することで、共感性や社会性の低下が引き起こされる可能性についても、徐々に明らかになりつつあります。だからこそ、テクノロジーから意識的に距離を置き、スマートフォンの使用時間を制限すること、そして現実世界での対面交流を増やすことが、健康な生き方への第一歩となるのです。
人とのつながりは、私たちの心身に深い癒しと活力を与えてくれます。実際に、社会的ネットワークが豊かな人ほど、うつ病や肥満のリスクが低く、健康寿命が長いことが、数多くの研究によって明らかにされています。
一方で、孤独は深刻な健康リスクとなります。社会的孤立は慢性的なストレス反応を引き起こし、それがミトコンドリア機能の低下や代謝障害にまで波及する可能性があるのです。年齢を重ねても、積極的な社会参加は幸福感に直結します。
実際に、67歳から95歳の高齢者を対象にした調査では、社会活動が幸福度に最も強い影響を与える因子であることが明らかになっています。
人とのつながりは、まるで愛の循環のようです。人との交流は、幸せホルモンとして知られるオキシトシンの分泌を促進し、心を穏やかに保ち、身体の修復機能を高める力があります。愛すれば愛するほど恐れは減り、自己治癒力が高まり、生きる希望も強まるのです。
私たちの生命エネルギーは、細胞を巡る回路のように働いています。安全と危険を察知し、適応的に反応するこのシステムは、まさに宇宙の英知そのものであり、無限の愛と美と創造性を内包したフィールドの一部だという著者の言葉に共感を覚えました。
この神聖なエネルギーに触れるとき、私たちは人生を真に楽しみ、家族や愛を生きる支えとして受け入れ、自らを深く慈しむことができるようになります。愛に基づいて生きることで、健康も、創造性も、そして人間としての成長も自然に促されるでしょう。
愛に従い、意識的にエネルギーを注ぐ先を選び取る生き方は、結果として私たちの健康を支え、自己実現の基盤ともなっていきます。
同時にウェアラブルデバイスを活用し、自身の健康状態を日々確認しながら、最適化への道を一歩一歩進んでいく。それがミトコンドリアを活性化するという生き方の本質であり、現代を生き抜くための知的戦略なのです。こうして整えられた身体と心は、ミトコンドリアレベルでの健全な働きを支える土台ともなるのです。
疲れやすい、集中力が続かない、ストレスに押しつぶされそうになる。そんな毎日を変えたいと思うなら、この本は最良の入口になります。本書は、自分の中にある生きる力を呼び覚まし、心と体を整えるための実践的な知恵を教えてくれます。
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