自滅する企業 ― エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病 (ジャグディシュ・N・シース)の書評

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書籍:自滅する企業 ― エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病
著者:ジャグディシュ・N・シース
出版社:英治出版
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30秒でわかる本書のポイント

【結果】企業存続の危機 企業が自滅的な悪習慣を積み重ねることにより、組織全体が回復不能な深刻な状況に陥る。 人間が不健康な生活習慣で致命的な病気にかかるのと同様に、企業も消滅する確率が高まる。
【原因】自滅的な習慣の蓄積 過去の成功体験や慢心が、組織内に見えない「習慣病」を生み出し、徐々に蝕んでいく。 短期的な利益追求や現状維持への固執が、長期的な視点を欠いた自滅的な行動パターンを定着させる。
【対策】習慣の断絶と予防 自滅的な悪習慣を早期に発見し、断ち切るための具体的な措置を講じることで回復が可能となる。 そもそも悪習慣が組織に根付かないような予防策や仕組みを構築すれば、企業は永続的に生き残ることができる。

3行要約

本書は、企業が破綻に向かうプロセスを人間の不健康な生活習慣になぞらえて解説しており、悪しき習慣の積み重ねこそが組織を回復不能な死に至らしめる主因であると論じている。しかし、著者は企業の死は不可避な運命ではなく、自滅的な行動パターンを断ち切る決断や、そもそも悪習を寄せ付けない予防的な経営対策を講じることによって回避可能であると主張します。

おすすめの人

・経営幹部やマネジメント層で、組織の長期的な健全性に責任を持つ方
・自社が成功の罠に陥っていないか危機感を持っているビジネスリーダー
・過去の成功体験が組織の変革を阻んでいると感じている管理職の方
・企業の衰退事例から学び、予防的な経営戦略を構築したい経営企画担当者 
・組織改革やチェンジマネジメントに取り組むコンサルタントや人事担当者 

読者が得られるメリット

・優良企業が衰退する7つの典型的パターンを理解し、自社の早期診断ができる
・組織に潜む「習慣病」を見抜く視点と、具体的な処方箋を手に入れられる
・成功企業の失敗事例から学び、同じ轍を踏まないための予防策を講じられる
・現実否認や傲慢など、目に見えにくい組織病理を客観的に評価する基準を得られる
・リーダーシップによる組織の健康管理という新しい経営の視座を獲得できる

優良企業がなぜ自滅するのか?

優良企業が転落するのは、外部環境が大きく変わっているのに、変化を起こすことができない、あるいはもっと不思議なことに、変化を起こしたがらない場合である。なぜ変わることができないのか。なぜ変わりたがらないのか。その根底に、成功した企業が名声を獲得していく過程で身につけてしまう、自滅的な習慣があることがわかった。(ジャグディシュ・N・シース)

「なぜ、あの優良企業が?」 私たちはしばしば、飛ぶ鳥を落とす勢いだったエクセレント・カンパニーが、ある日突然、経営危機に陥る姿を目にします。 競合他社との競争に負けたからでしょうか?それとも、予期せぬ市場の変化でしょうか?

本書自滅する企業 ― エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病の著者、ジャグディシュ・N・シースは、その原因の多くは「外部環境」ではなく「内部」にあると指摘します。

人間が不健康な生活習慣を積み重ねて病気になるように、企業もまた、成功体験が生み出す「自滅的な習慣」によって、内側から蝕まれていくのです。 今回は、企業の寿命が劇的に短くなっている現代において、組織が生き残るための「予防医学」を説く一冊を紹介します。

本書の著者、ジャグディシュ・N・シースは、エモリー大学ゴイズエタ経営大学院の教授であり、マーケティングを専門としている世界的な経営学者です。フォード、GE、3Mなどグローバル企業のアドバイザーも務め、消費者行動、リレーションシップマーケティング、競争戦略などの研究で知られています。

2008年出版という古い本ではありますが、今、読んでも内容に古さを感じないのは、著者のアドバイスが現代の経営課題にも通じるからだと思います。

企業が成功するには、あらゆるものが変化しているという事実に立ち向かわなくてはならない。

企業が成功し続けるためには、変化そのものを前提に経営を設計しなければなりません。市場も技術も顧客も、静止することはないからです。厳しい競争環境のなかで、都合の悪い現実から目を背けることは、猶予ではなく衰退の始まりを意味します。 まず押さえるべきは、衰退は突然起きるのではないという事実です。

多くの場合、成功体験の延長線上で、組織はゆっくりと柔軟性を失っていきます。外部環境の変化よりも、自社の過去の成功ロジックを優先する――その積み重ねが、やがて戦略の硬直化を招きます。

著者は企業の衰退を調査する中で、自滅する企業の悪い習慣の7つのパターンを見つけます。処方箋とともにこれらを紹介していきます。

7つの悪習慣とその対処法

現実否認を引き起こす変化はさまざまだが、とくに可能性が高い変化は、新しいテクノロジーの出現による危機だ。

ビジネスの持続的な成長を阻むのは、外部の競合以上に、組織内部に深く根を張る「負の慣性」です。私たちが直視すべき「7つの病」について、その兆候から治療法までを整理し、企業の持続的成長を実現するためのヒントを得たいと思います。

①現実否認症
・症状 新しいテクノロジーや消費者の嗜好変化、グローバルな環境変化を頑なに拒絶することから始まります。「我々は違う」という思い込みが自前主義や現状の正当化を生み、組織の目を曇らせます。

・治療法 まずは他社の失敗を鏡として自らの状況を客観的に「探し」、病を「認め」、病の深さを「評価」することです。その上で、現実を直視して状況を「変える」勇気ある行動が求められます。シナリオプランニングを実施し、将来の不確実性に対して柔軟に対応することで、この習慣病にかからずにすみます。

・ケーススタディ 消費者の燃費志向を軽視したGMや、アラン・ケイが所属していた「未来のオフィス」が開発していたパーソナルコンピュターの試作機を複写機ビジネスに関係ないと切り捨てたゼロックスが、その代表例と言えます。

②傲慢症
・症状 異例の業績が現実認識をゆがめ、「自分たちにしかできない」という過信が引き金となります。周囲の声を聞かず、自分を誇示し、批判的な人を排除して同意ばかりを求める独裁的な空気が蔓延します。

・治療法 管理職に失敗を許容する挑戦の機会を与え、後継者選びに多様性を持たせることです。外部のリーダーやエグゼクティブ・コーチ、異質な考え方もつ人材を強制的に取り入れることで、傲慢の壁を内側から壊す必要があります。

・ケーススタディ 革新的ともてはやされたエンロンやワールドコムは、過度な自信から健全なルールを無視し、批判に耳を貸さずに巨額の不正へと突き進みました。

③慢心症
・症状 独占的な市場や政府の保護など、競争のない環境が原因です。意思決定が遅れ、組織は官僚化し、無駄の多い高コスト構造や、すべてを自前で抱え込む垂直統合モデルに固執するようになります。

・治療法 組織の官僚化を防ぐには、リエンジニアリングによって徹底的に無駄を排除し、企業文化そのものを変革していく必要があります。また、ローテーション制度を導入すれば、仕事が周期的に変わるため、特定の業務に対する慢心が生まれにくくなります。

・ケーススタディ 長らく市場を独占したAT&Tや、かつての護送船団方式に守られていた日本の大企業群は、厳しい競争から遠ざかった結果、動きの鈍い組織構造を抱えることになりました。

④コア・コンピタンス依存症
・症状 過去の成功を支えた特定の強みに依存しすぎる病です。組織改革を試みても空回りし、社内からワクワク感が消え、結果として顧客や投資家などのステークホルダーが次々と離れていく事態に陥ります。

・治療法 既存の強みを新たな用途や市場へ転用するか、バリューチェーンを拡大する、M&Aを行う、あるいはまったく新しい強みをゼロから構築するかのいずれかが求められます。そのためには、利益を稼ぎ、再投資することが不可欠です。さらに、次世代技術へ常に先行して移行する姿勢を持つことで、こうした停滞に陥ることを防げます。

・ケーススタディ 訪問販売という強みに固執したブリタニカや、ブロックという資産への依存から一時的な低迷を経験したレゴは、過去の強みが足かせとなった典型的な事例です。

⑤競合近視眼症
・症状 業界ナンバーワンの自負が視界を狭め、既存のシナリオに囚われることで起こります。大手の動きばかりを気にする一方で、新進のニッチ企業や代替技術の脅威を見落とし、無力化してしまいます。

・治療法 市場の勢力図を常に見直し、製品・市場の範囲を再定義することです。独立した調査部門を置き、供給業者の変化や代替品の台頭を鋭く察知し、ライバルに反撃すると同時に、再びコア事業へと集中する鋭敏さが求められます。周辺企業やニッチな先進企業のM&Aも効果があります。

・ケーススタディ ファイアストンはミシュランのラジアルタイヤという代替技術を、ゼニスは日本メーカーという新進企業の台頭を軽視した結果、市場での地位を失いました。

⑥拡大強迫観念症
・症状 規模の拡大そのものが目的化し、場当たり的な支出が繰り返され、利益が低下します。効率ばかりを追うコストセンター中心の組織になり、一つの成功で別の失敗を隠す「内部相互補助」の文化が蔓延します。

・治療法 コストの所在を明確にし、コストセンターをプロフィットセンターへ転換することです。得意領域に集中し、残りを外部へ委託する「仮想統合」や、個別のニーズに応える仕組みへの移行が必要です。

・ケーススタディ クリスピー・クリーム・ドーナツは、ブームに乗じた無秩序な店舗拡大により、自社の店舗同士で顧客を奪い合うという本末転倒な事態を招きました。取り扱う製品が多い企業の場合は、利益率の高い製品を開発したり、利益率の低い部門を切り離すといった対策も検討すべきです。

⑦テリトリー欲求症
・症状 組織が内向きな「象牙の塔」と化し、部門間の縄張り争いが優先されます。強力なリーダーシップが欠如し、各部門がちぐはぐに動くことで、組織全体に不和と混乱、そして不快感が漂います。

・治療法 社内コミュニケーション(インターナル・マーケティング)を強化し、部門横断的なチームを恒久化することです。地域や機能といった従来の枠組みを捨て、顧客や製品を中心に組織を再編すべきです。

・ケーススタディ M&Aで巨大化したWPPや、部門の独立性が高すぎたモトローラは、社内の権力闘争が戦略の統一性を妨げ、結果として組織の衰退を招くことになりました。

企業の自滅は、これら複数の病が併発した時に最も残酷な結果をもたらします。IBMのパソコン事業の失敗は、「拡大強迫観念症」「競合近視眼症」「コア・コンピタンス依存症」が重なり合った典型例です。

IBMはアーキテクチャを公開し、「IBM互換機」によって市場規模の拡大を狙いましたが、規模が大きくなってもコストは下がりませんでした。コストの89%が部品調達費用であり、そのうちの79%をインテルとマイクロソフトの2社に占められていたからです。 IBMは、単なる部品供給業者が「真の競争要因」になりうることに気づかない「競合近視眼症」に陥り、利益の源泉と支配権を彼らに明け渡しました。

自社の工場で付加される価値はわずか11%に留まり、ハード組み立てという既存の枠組みから抜け出せない「コア・コンピタンス依存症」の末路となりました。 付加価値の低い部分に甘んじ、供給業者に利益を吸い上げられる構造は、生き残りの限界点を下回ります。

過去の成功に固執せず、常に自らの立ち位置と外部環境の変化を直視すること。それこそが、自滅を避ける唯一の道なのです。

経営トップの責任とリーダーシップ

会社が自滅的習慣を回避する、あるいは断ち切るためには、有能なリーダーシップが欠かせないということだ。よいリーダーは会社のためのビジョンを考える。だが、偉大なリーダーは、明確なビジョンを持っているだけでなく、絶えず変化する厳しい外部環境によってもたらされる現状の弱点と潜在的なもろさという現実の中で、ビジョンを築くことができるのである。

重要なのは、会社が自滅的習慣に陥った責任がCEOにあるかどうかにかかわらず、それを断ち切るのがCEOの仕事であることです。積極的な介入が必要なとき、それができるのは経営トップだけです。特に危機が深刻な場合、あるいは自滅的習慣が組織に常態化している場合、新しいリーダーを招かなくてはならないこともあります。

本書が繰り返し強調するのは、自滅的習慣を断ち切ることができるのは経営トップだけであるという事実です。会社が自滅的習慣に陥った責任がCEOにあるかどうかにかかわらず、それを断ち切るのがCEOの仕事であることは間違いありません。積極的な介入が必要なとき、それができるのは経営トップだけなのです。

特に危険なのは、リーダーが常に「現状維持」の経営スタイルを取る場合です。環境が変化しているときに、外部の視点(アウトサイド・イン)ではなく組織内の視点(インサイド・アウト)で物事を考え行動する企業は、組織衰退の悪循環に陥ります。

こういった企業は、慢性疾患に侵されたかのように、じわじわと死に近づいていくのです。市場や顧客のニーズではなく、社内の都合や過去の成功体験を基準に判断を下し続けることで、気づいたときには手遅れという状態になってしまいます。

特に危機が深刻な場合、あるいは自滅的習慣が組織に常態化している場合、既存のリーダーシップでは変革が困難なこともあります。そのような状況では、新しいリーダーを外部から招き入れ、組織の抜本的な改革を断行する必要があるかもしれません。

歴史的に見ても、危機的状況から企業を救ったのは、しがらみのない新しいリーダーシップによる大胆な変革であることが多いのです。 企業の永続的な繁栄のためには、経営トップが常に自社の「健康状態」を冷静に診断し、必要な処方箋を躊躇なく実行する勇気と決断力が求められます。

リーダーは単に現状を維持するだけでは不十分です。環境の変化を予測し、会社を現状よりもっと成功した位置に積極的にもっていかなくてはなりません。そのためには、会社の企業文化、業務プロセス、システム、組織体制、規程に積極的に介入し、内部から変えなくてはなりません。

テクノロジー、競争、資本市場、規制、市場ニーズが変化し、グローバル化する世界の中で、会社の将来を安全な位置にもっていくために、対外的な規制を変更する必要もあるでしょう。真のリーダーシップとは、組織を守るだけでなく、未来へと導く変革の推進力なのです。 本書は、企業が自滅を避け、永続的に繁栄するための羅針盤となる一冊と言えるでしょう。

コンサルタント 徳本昌大のView

本書『自滅する企業』は、優良企業の衰退が外部環境の変化だけでは説明できず、組織内部に積み重なる意思決定の偏りや行動パターンによって加速されることを明快に示しています。

現実否認、傲慢、慢心、コア・コンピタンス依存、競合近視眼、拡大強迫観念、テリトリー欲求――本書が挙げるこれら7つの要因は、いずれも成功体験の延長線上で正当化されやすいという点で厄介です。

順調に回っているときには合理的に見える判断が、環境が変化した途端に足かせとなり、戦略の選択肢をじわじわと狭めていきます。

ここで重要なのは、これらが運や企業体質の問題ではなく、マネジメントの設計と運用次第で抑制できるということです。兆候を早い段階で捉え、前提を見直し、意思決定の軌道を修正できれば、衰退の連鎖は断ち切れます。 そのために求められるのは、トップ自らが組織の状態を継続的に点検し、外部の視点から現状認識をつくり直し、必要な変革を先送りせずに実行する姿勢です。

さらに、この議論は「倒産するかどうか」という問題にとどまりません。企業の新陳代謝が加速する現代の市場では、競争優位を維持できる期間そのものが短くなっています。S&P500企業の平均在籍年数は長期的に低下傾向にあり、今後10年で15〜20年程度にまで縮むと見込まれています。

日本でも、多くの企業がわずか10年という短期間で破綻に追い込まれているのが現実です。 時間軸が短くなるほど、問題の本質は「致命傷になる前に気づけるか」から「気づいた瞬間に手を打てるか」へと移っていきます。

だからこそ本書が提示するのは、単なる衰退の要因分析ではなく、自己点検の視点と実践的な治療法を導き出すことなのです。 成功している今こそ、本書が示す7つの悪い習慣を自社に照らし合わせ、その予防策と治療法を学ぶべき局面だと言えるでしょう。

注)S&P500企業の平均在籍年数に関する見通しは、Innosightによる “Creative Destruction” の分析整理を参照。

🖋 書評:徳本昌大 書評ブロガー・ビジネスプロデューサー

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