
書籍:AI覇権戦争書籍
著者:松田雄馬
出版社:SBクリエイティブ
ASIN : B0GTSCD8LG

【書評】松田雄馬『AI覇権戦争』に学ぶ:超知能時代の意思決定と日本の現場力
生成AIの爆発的な進化により、ビジネスのあり方は根本から覆されようとしています。ChatGPTをはじめとする便利なツールの登場に、「AIをどう使いこなすか」「プロンプトエンジニアリングのコツは何か」といった、表面的なノウハウに目を奪われているビジネスパーソンは少なくありません。「強いAIを持てば勝てる」――そうした魔法のような思い込みが蔓延する中で、私たちが本当に目を向けるべきものは何でしょうか。
松田雄馬氏の著書『AI覇権戦争』(SB新書)は、そうした安易なAI万能論に、冷徹な構造的視点から一石を投じる戦略書です。本書は、単なる最新AIのトレンド解説書ではありません。
データセンターの覇権争い、半導体輸出規制をめぐる米中の対立、NVIDIAやAnthropicといったキープレイヤーたちの熾烈な攻防など、AIを支える物理的・地政学的な「インフラと構造」を解き明かす、新時代の未来予想図です。 なぜ今、私たちが本書を読むべきなのでしょうか。
AIが過去のデータから予測できる「限定された環境」は、やがてデータの枯渇という壁にぶつかります。しかし、実際のビジネスの現場は、仕様の不備や市場の急変が日常茶飯事の「無限定環境」です。この予期せぬ変化が連続する環境において、マニュアル(形式知)だけでは対応できません。
日本文化には、箸の使い方が象徴するように、対象を分解・支配する西洋的な思考ではなく、他者や環境との「関係」の中で意味を見出し、その場その場で最適な答えを創り出していく知恵が根付いています。これは、西田幾多郎氏の「場所の論理」や清水博氏の「生命知」とも響き合う、日本独自の「現場の知」です。
20世紀、日本企業が世界を席巻した背景には、この「現場の知」の蓄積がありました。しかし、GAFAMやNVIDIAといった巨大企業の影に隠れ、いつしか私たちはその強みを見失ってしまったのではないでしょうか。
AIが普及する今だからこそ、私たちはAIが提示する「形式知」を鵜呑みにせず、現場の人間が持つ「暗黙知」と、人と人との関係性から生まれる新たな知識創造に立ち返らねばなりません。
強いAIを持つ社会が勝つのではありません。AIを使いながら、人と組織を強くし続けられる組織こそが、逞しく生き残ります。本書は、そのための確実なロードマップを提供してくれます。
単なる過去の栄光の回顧ではなく、AI時代という新たな「風土」において、私たちがどのように判断の質を上げ、逞しい組織を再構築すべきか。思い込みに騙されず、構造で考えることで、日本企業の新たな可能性を切り拓く――。そのための知的誠実さに満ちた、すべてのビジネスパーソン必読の一冊です。
この記事でわかること
・AIの進化を支える「Scaling Law(スケーリング則)」の限界と、データの枯渇問題がもたらす構造的変化
・AIの進化が「学習」から「思考」へとシフトする構造的理由と、その未来予測
・地政学的リスク(米中対立、半導体規制)が、AIエコシステムの「物理的インフラ層」に及ぼす影響
・AIが得意な「限定環境」と、ビジネス現場の本質である「無限定環境」の違いと、日本独自の「現場の知」の有用性
・野中郁次郎の『知識創造理論』(暗黙知と形式知)をAI時代に再考し、逞しい組織を再構築するための生存戦略
30秒でわかる本書のポイント
【結論】
・強いAIを持つことではなく、AIを使いながら人間と組織を強くし続ける「逞しさ」こそが、AI時代の勝者の条件である。
・Scaling Law(スケーリング則)の限界を見据え、AIを意思決定の道具と割り切りつつ、人間同士の関係性から生まれる新たな知識創造と人間の「責任ある判断」に集中すべき。
・日本企業が本来持つ、他者や環境との「関係」からその場その場で最適な知を生み出す「現場の力」にこそ、生き残りの鍵がある。
【原因】
・AIの進化が Scaling Lawによって無限に続くという魔法のような思い込みが、データの枯渇やモデル崩壊といった構造的制約への関心を薄れさせているため。
・AI影響度の大きな業界では、これまで10人で行っていた業務が1〜2人でこなせるようになり、激しい業界再編と人材の淘汰が起きるため。
・米中対立や半導体規制など、AIを巡る覇権争いの主戦場が「物理的インフラ層」へシフトしている地政学的構造を理解していないため。
【対策】
・AIの仕組みやそれを支える物理的基盤(ハードウェア、電力、国家戦略)を俯瞰的に学び、全体像を「構造」として把握する。
・AIが提示する情報を道具として使いこなしつつ、現場のマニュアル(形式知)だけでは対応できない場面で、人間同士の関係性から最善の「判断」を導き出す。
・自らの業務プロセスを再設計し、データ処理をAIに任せ、人間関係の構築や創造的な意思決定、最終的な責任を引き受けるポジションを取りにいく。
本書の要約
本書は、Scaling Law(スケーリング則)によって急速な進化を遂げてきたAIが、今後直面するデータ枯渇やモデル崩壊といった構造的な限界を、定量的な未来予測に基づいて冷静に分析する戦略書です。
これまでのAI開発では、モデルの規模や学習データ、計算資源を増やすことが性能向上の中心でした。しかし、利用可能な高品質データには限りがあります。
本書は、この制約によってAIの進化の軸が、大量のデータを取り込む「学習」から、限られた情報を使って答えを導く「推論」へ移行すると指摘します。その結果、AIは単にもっともらしい回答を生成する段階から、自らの答えを検証し、複数の可能性を比較しながら深く考える方向へ進化していきます。
さらに本書は、AIをソフトウェアの問題だけで捉えません。米中対立や先端半導体の輸出規制、電力、データセンター、通信網など、AIエコシステムを支える「物理的インフラ層」にまで視野を広げ、地政学的な緊張が技術開発や企業戦略に与える影響を網羅的に解説しています。
AI覇権の行方は、アルゴリズムの優劣だけではなく、半導体、エネルギー、データ、資本、人材を確保できるかどうかによって決まるという構造が明らかになります。
一方で、本書は日本が米中と同じ規模の競争を追いかけるだけでは、独自の優位性を築けないことも示唆します。そこで注目するのが、箸に象徴される関係性の思想や、西田幾多郎氏の哲学をはじめとする日本独自の知的伝統です。
予期せぬ変化が連続する「無限定環境」では、あらかじめ定められたマニュアルや形式知だけでは対応できません。現場の状況を読み、人間同士の関係性を通じて知恵を生み出し、その都度、最善の意思決定を行う力が必要になります。
本書は、こうした能力を持つ「逞しい組織」への転換を、日本企業の生存戦略として提示します。野中郁次郎氏の「知識創造理論」をAI時代の文脈で再解釈し、AIの処理能力と人間の経験知、身体知、対話力を組み合わせることで、新たな競争力を生み出せると論じています。
AIの限界と地政学的リスクを直視しながら、日本企業が持つ現場力と知識創造力の可能性を示した、教養と実務の双方に役立つ一冊です。
こんな人におすすめ
・AIの導入を進めているが、単なる業務効率化にとどまらず、組織全体の意思決定の質を高めたい経営者やDX推進担当者
・「AIに自分の仕事が奪われるのではないか」という漠然とした不安を抱え、これからのキャリア戦略やリスキリングの方向性を模索しているビジネスパーソン
・米中対立や半導体不足、データセンター問題など、マクロな地政学リスクとテクノロジーの関係を構造的に理解したい人 アジャイルやスクラムといった現代の経営手法の本質を、日本独自の「知識創造理論」の視点から学び直したい人
・過去の成功体験に囚われた「思い込み」を捨て、批判的思考と構造的な思考で新たな経営戦略を模索しているリーダー
本書から得られるメリット
・Scaling Lawの限界と推論へのシフトという、AIの進化の潮流をマクロな構造的視点から理解できる。
・AIエコシステムの4つの階層における生存戦略を理解し、自社や自分の役割を構造的に再定義できる。
・AIが提示するアウトプットの限界(ハルシネーションやデータの汚染)を見抜き、人間の「責任ある判断」の価値を高めることができる。
・マニュアル(形式知)依存から脱却し、現場の「暗黙知」を組織の強みに変えるための具体的な視点が得られる。 地政学的リスクを考慮した、より戦略的なAI活用とキャリア構築が可能になる。

Scaling Lawの限界と、AIの進化が向かう「学習」から「思考」へのシフト
新しい技術革新が起こるとき、最初に仕事が消えるのではありません。まず最初に、業務の工程の組み替えが起こります。そして、その結果として、人員削減が起こるとともに、新たな役割が必要となるのです。(松田雄馬)
AI時代の競争力を左右するのは、AIに仕事を任せることではなく、人間とAIの役割を再設計する力です。 新しい技術が登場しても、人間の仕事が一夜にして消えるわけではありません。最初に起こるのは、業務プロセスの抜本的な組み替えです。AIが得意な業務は自動化され、人間はより高度な判断や創造的な仕事へと役割を移していきます。
その結果、従来の職務が縮小する一方で、AIを活用して成果を生み出す新たな役割が生まれます。 現時点では、自分の仕事に対するAIの影響をそれほど感じていない人もいるでしょう。
しかし、新しいAIサービスが業務プロセスの空白を一つずつ埋めるにつれて、その影響は確実に大きくなります。 もちろん、すべての仕事がAIに置き換わるわけではありません。
顧客の感情を理解すること、複数の利害を調整すること、前例のない状況で決断すること、そして結果に責任を負うことは、依然として人間の重要な役割です。
問題は、「AIに仕事を奪われるかどうか」ではありません。問われているのは、AIを自分の知的生産プロセスに組み込み、新しい働き方を習慣化できるかどうかです。AIを活用しながら学習と改善を続ける人と、従来の仕事の進め方にとどまる人との間には、今後さらに大きな差が生まれます。
人間とAIの新しい役割分担を考えるうえで、Amazonの意思決定プロセスは示唆に富んでいます。同社では、役割をおおむね次のように分担しています。
・戦略レベルの意思決定:人間
・データの収集・分析と予測:AI・アルゴリズム
・オペレーションの実行・最適化:AIと人間の協働
AIは、膨大なデータから「どの商品が、どの地域で、どの程度売れる可能性があるか」を予測します。その結果をもとに在庫や物流を最適化し、人間は市場環境や顧客価値、長期的な経営方針を踏まえて戦略を決定します。 つまり、AIは人間から判断を奪う存在ではありません。AIは、判断に必要な情報を集め、分析し、日常的なオペレーションを高度化するパートナーです。
一方、人間には、AIの予測を無条件に受け入れるのではなく、その妥当性を評価し、例外を見抜き、最終的な責任を引き受ける役割があります。 これからの時代に必要なのは、「人間かAIか」という二者択一ではありません。AIに任せる領域と、人間が担う領域を見極め、両者の強みを組み合わせることです。AI時代の競争優位は、技術の保有そのものではなく、人間とAIの協働を継続的に設計し直す力から生まれます。
こうした人間とAIの構造的な役割分担は、すでに多くの先進企業で広がり始めています。 このようなリアルな構造変化が進行しているにもかかわらず、AIの急速な進化を目の当たりにする日々において、私たちがAIを「無限に成長し続ける全能の杖」のように錯覚してしまうのは、人間の認知の構造上、無理のないことかもしれません。
しかし、その無意識の思い込みに対して冷徹な事実と、マクロからミクロに至る構造的な視座を提供してくれるのが、大和大学情報学部特任教授/ AIメタバースラボ所長の松田雄馬氏の『AI覇権戦争書籍』です。
現在のAIが、計算資源の力技とも言える「スケーリング則(Scaling Law)」によって飛躍的な進化を遂げてきたことは紛れもない事実です。GPUの劇的な性能向上とデータセンターの巨大化が、LLM(大規模言語モデル)に膨大な知識を飲み込ませてきました。しかし、この直線的な進化の先には、決して避けては通れない「構造的な限界」が待ち受けています。
・学習データの枯渇(2030年の壁)
AIを賢くするためには、人間が生み出した高品質なテキストや画像データが不可欠です。しかし、現在のペースでデータを消費し続ければ、2030年前後には世界中の良質な学習データが枯渇すると予測されています。
・データの汚染と「モデル崩壊」の危機
データ不足を補うために、AI自身が生成した合成データを新たなAIの学習に用いる試みも進んでいます。しかし、これは「コピーのコピー」を繰り返すようなものであり、出力結果の劣化や、偏りが増幅される「モデル崩壊(Model Collapse)」という致命的なリスクを孕んでいます。
しかし、スケーリング則が頭打ちになることは、AIの進化の終焉を意味するわけではありません。これからのAIは、膨大なデータを飲み込む「学習(訓練)」のフェーズから、与えられた情報をもとに論理を組み立て、検証能力や深い思考を伴う「推論(思考)」のフェーズへと主戦場をシフトしていきます。
現在の数十倍から数千倍へと推論能力が膨れ上がることで、AIはより人間の思考のプロセスに近づき、「かゆいところに手が届く」レベルの高度な壁打ち相手へと進化するでしょう。
だからこそ、私たちはAIを単なる「作業の自動化ツール」としてではなく、「人間の構造的思考を強力にサポートし、判断の質を上げるための道具」として捉え直す必要があるのです。
私たちが日常的に、画面越しに利用している便利なAIサービスの裏側では、国家の生き残りをかけた巨大で生々しい「覇権戦争」が繰り広げられています。なぜなら、現代においてAIとは単なる便利なソフトウェアではなく、国家や企業の「意思決定能力」を劇的に拡張し、優位性を決定づける究極の装置だからです。
2019年に米国政府が「米国AIイニシアチブ」を発表して世界的リーダーシップの維持を宣言したのを皮切りに、世界各国が一斉にAIを国家戦略の中核に据えました。この現代の覇権戦争の主戦場は、もはや純粋なアルゴリズムの美しさの競争ではありません。それを根底で支える「物理的なインフラの奪い合い」へと変貌しています。
膨大な計算を担う最先端のGPU、それらを何万個も束ねた巨大なデータセンター、そしてそれらを稼働させるための莫大な電力と通信網。AI開発は「桁違いの資本を投じ、物理インフラを構築できた者だけが高い性能を独占できる」という極めて資本集約的な競争になっています。 この構造は地政学的リスクと直結しています。
米国は巨大IT企業間の熾烈な競争を補助金等で後押しし、市場主導でエコシステムを拡大しています。一方の中国は、中央集権的な国家体制のもとで独自の強固なAI網を育成しています。
米国がNVIDIA製などの先端半導体技術に対して厳格な対中輸出規制を敷いているのは、単なる経済的な貿易摩擦ではありません。敵対国が最先端の計算資源を手に入れ、軍事や経済における「意思決定の圧倒的優位性」を獲得することを阻止するための、安全保障上の防衛策なのです。
日々のビジネスの現場においても、「AIを使って何か面白い業務改善ができないか」というミクロな視点に留まっていては危険です。
「裏側のマクロな構造がどう動いているか」を絶えず俯瞰し、未来予測の解像度を上げる視座を持たなければ、不確実性の高い環境下で基盤ごと足元をすくわれることになります。
「限定環境」のAIと、「無限定環境」の現場
企業の意思決定は、大きく3つのプロセスに分けることができます。まず、情報を収集するプロセスがあり、次に、それを分析するプロセスがあり、そして最後に、経営判断を行うというプロセスです。AIが特に得意としているのは、このうち前半の2つです。膨大なデータを処理し、パターンを見つけ、未来を予測する。さらには、それをもとに提案を行う。こうした情報処理は、人間よりもAIのほうが圧倒的に得意です。
私たち人間の脳には、エネルギー消費を抑えるために「楽をしようとする(認知的な負荷を下げる)」習性、すなわち思考の穴が存在します。そのため、AIが自信満々に提示するもっともらしい答えを、疑うことなくそのまま採用してしまいがちです。
しかし、AIの学習データに偏りがあったり、前提条件が現実の文脈とズレていたりした場合、その「思考停止」による意思決定は、企業や事業に対して致命的な打撃を与えます。 AIと人間の本来の役割分担を考える上で、環境の違いを理解することが極めて重要です。
・限定環境(AIの独壇場)
チェスや将棋、過去のデータに基づく統計予測など、ルールが明確で予測可能な環境。ここではAIの形式知処理が圧倒的な力を発揮します。
・無限定環境(人間の主戦場)
仕様の不備、市場の急変、顧客の感情の揺れ動きなど、予期せぬトラブルや変化が連続する実際のビジネスや経営の現場。マニュアル化された形式知だけでは決して対応できません。

この「無限定環境」においてこそ、日本文化が古くから育んできた「現場の知」が真価を発揮します。 西洋的な近代科学のアプローチが、ナイフとフォークのように対象を「分解・支配」する姿勢であるのに対し、日本の「箸」の文化は、他者や環境との「関係性」の中で意味を見出し、その場その場で最適な答えを創り出していく知恵を象徴しています。
これは西田幾多郎氏の「場の論理」や清水博氏の「生命知」とも深く響き合う思考法です。実際の商談の場で、完璧に準備したはずのプレゼンテーションが相手の何気ない一言で方向転換を余儀なくされるように、真の意思決定は自分一人で完結するものではなく、常に「その場の関係性(コンテキスト)」の中で動的に創り出されるものなのです。
GAFAMやNVIDIAといった圧倒的な資本力を持つ巨大IT企業の影に隠れ、私たちはいつしか日本企業が本来持っていた「現場の知」という最大の強みを見失ってしまったのではないでしょうか。
20世紀の日本企業の躍進を支えたこの強みを世界的な経営理論として体系化したのが、野中郁次郎氏の『知識創造理論(SECIモデル)』です。野中氏は、知識をマニュアルやデータとして言葉で表現できる「形式知」と、長年の経験や身体感覚に基づく言語化できない「暗黙知」に大別しました。
AIがどれほど進化しようとも、それが得意とするのは過去のデータに基づく「形式知」の高速処理に過ぎません。現場で起こる予期せぬ変化に柔軟に対応し、ゼロから新たな価値(イノベーション)を創り出す源泉は、現場の人間が身体に刻み込んでいる「暗黙知」と、人と人との濃密な関係性から生まれる知識のぶつかり合いです。
現代のソフトウェア開発や新規事業で主流となっている「アジャイル」や「スクラム」といった手法も、実はこの日本独自の知識創造理論と根底で深く繋がっています。マニュアルという型を正確になぞるのではなく、開発者も顧客も含めた全員で協力し、状況との関係性の中でその都度最適な動きを創り出していく「身体知」のプロセスそのものなのです。
本書が突きつける最も重みのある警告は、「AIに代替される人」と「AIを使って仕組みを変える人」の残酷なまでの分断です。 目の前のルーチン業務をAIに代替させて「効率化できた」と満足しているだけの人は、いずれ世界のAIエコシステムを取り巻く巨大な渦に飲み込まれ、仕事そのものを奪われる憂き目に遭うでしょう。
AI時代に真に求められる知的生産とは、「イシューからはじめよ」という言葉が示す通り、まず正しい問いを立てる力です。その上で、以下の役割を果たすことが不可欠になります。
・業務プロセスの構造的再設計
AIの特性を熟知し、どこにハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクが潜んでいるかを見極める。トラブル発生時の代替手段(フォールバック)を組み込みながら、人間の知的生産プロセス全体を俯瞰して再構築する力。
・責任ある「判断」と「決断」
AIが提示する高度な分析結果を、あくまで数ある「判断材料」の一つとして客観視する。そして、企業のパーパス(存在意義)、倫理観、ステークホルダーとの複雑な関係性といった、極めて文脈依存度の高い領域において、人間固有の責任を引き受けて決断を下す力。
・代替不可能な領域へのリソース集中
データ処理や論理構築の土台をAIに任せることで生まれた余白を、深い顧客理解、強靭な組織文化の構築、そして人間同士の信頼関係の構築といった、決してAIには代替できない領域へと投資する力。
AIというブラックボックスが出す答えに依存し、思考の穴に落ちてはなりません。その限界を構造的に理解した上で、人間としての判断を日々研ぎ澄ますこと。思い込みに騙されず、深い思考を習慣化し、自ら関係性に働きかけていくこと。これこそが、AI時代を生き抜き、新たな価値を創造し続けるための本質的なロードマップなのです。
コンサルタント 徳本昌大のView
本書は、AIを単なる技術革新ではなく、国家・企業・個人の意思決定を左右する構造変化として捉え直す一冊です。 本書は、AIというテーマを「技術の進化」や「業務の効率化」という枠に閉じ込めず、国家戦略、地政学、産業構造、そして個人の意思決定権という、より広い視点から読み解いています。
私自身、社外取締役やアドバイザーとして多くの企業変革に関わってきました。その経験から感じるのは、成果を出し続けるリーダーと、変化に取り残されるリーダーの違いは、「物事を構造で捉えられるか」にあるということです。
成果を出せない組織は、新しいツールが登場するたびに、「どう使えばよいか」という目先のノウハウに飛びつきます。しかし、導入そのものが目的化し、十分な成果を得られないまま、次の技術に関心を移してしまいます。
一方、優れたリーダーは、次のような問いから考えます。 AIによって、自社のビジネスモデルや競争環境はどう変わるのか どの業務をAIや自動化に任せるべきか 人間は、理念の提示、問いの設定、意思決定、責任といった領域にどう集中すべきか AIを活用することで、顧客に提供する価値をどう再設計できるか AIは非常に強力な道具ですが、それ自体が目的ではありません。
万能だという思い込みを捨て、予測困難な環境への対応、学習データの劣化によるモデル崩壊、事実ではない情報を生成するハルシネーションなど、その限界を正しく理解する必要があります。 重要なのは、AIに判断を丸投げすることではなく、AIを活用しながら、人間の判断の質を高めることです。
何を問い、どの情報を採用し、最終的に何を決断するのか。その責任は、これからも人間に残ります。 「思い込みに騙されず、構造で考え、判断の質を高める」。この姿勢は、AI覇権をめぐる競争が激化する時代において、個人と企業の双方に必要な生存戦略です。
「ChatGPTによって作業が楽になった」という段階で満足してはいけません。本書を通じて、AIをめぐる世界の構造変化を俯瞰し、自らのキャリアやビジネスにおける意思決定の質を高めること。それこそが、本書を読む最大の意義だと考えます。
FAQ
Q1: Scaling Lawの限界と推論へのシフトは、AI活用にどのような影響を与えますか?
A: Scaling Lawの頭打ちは、AIの進化が止まることを意味しません。AIの進化は「学習」から「推論」へシフトし、検証能力や深い思考へと向かうでしょう。推論能力は飛躍的に向上し、より人間の思考に近い「かゆいところに手が届く」レベルへ近づくことが予測されます。 AIをただの業務効率化ツールと捉えるのではなく、推論能力を高めた道具として使いこなし、人間の意思決定の質を高めることに集中すべきです。
Q2: データ枯渇問題とモデル崩壊リスクは、経営戦略やリスク管理にどのような影響を与えますか?
A2: データ枯渇問題、生成AI自身によるデータの汚染、モデル崩壊のリスクは、経営戦略やリスク管理の視座を高めます。AI活用においてデータの質に関心を持つことの重要性を浮き彫りにします。AIが魔法のように答えを出すと思い込むのではなく、その答えがどのようなデータに基づいているのか、偏りはないか、モデル崩壊のリスクはないかを構造的に考える必要があるからです。
Q3: 若手社員ですが、これからの時代に向けて何を学ぶべき(リスキリングすべき)でしょうか?
A3: ChatGPTを使った資料作成の下書きや要約を作るスキルは「最低限のスキル」です(image_26.png)。それ以上に重要なのは、マニュアル(形式知)を正確になぞることではなく、マニュアル(形式知)依存から脱却し、現場のマニュアルだけでは対応できない場面(無限定環境)で、人間同士の関係性から最善の意思決定を導き出す「逞しさ」を取り戻すことです。批判的思考力、構造的思考力、顧客理解、人間心理に関する知識など、AIが提示する答えの裏側にあるバイアスを見抜き、自ら判断を下せる知的体力を磨くことが重要です。
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本書は、AIを無条件に礼賛も否定もせず、予測AIと生成AIを分けて評価する重要性を説きます。採用、教育、医療、司法などで使われる予測AIは、人間の将来や行動を正確に予測しにくく、誇大宣伝のまま導入されれば不利益を招きます。一方、生成AIには文章作成、要約、翻訳、発想支援など、知的作業を補助する実用的価値があります。「AI蛇油」を見抜き、用途ごとに効用と限界を判断するリテラシーを養うための一冊です。
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