無くならないミスの無くし方 (石田淳) の書評

書籍:無くならないミスの無くし方
著者:石田淳
出版社:日経BP
ASIN ‏ : ‎ B0D392GKW1
無くならないミスの無くし方の書影

【書評】『ミスの無くし方』石田淳:意識ではなく行動を変え仕組み化するAI時代のマネジメント術

日々の業務やマネジメントにおいて、「また同じミスをしてしまった」「部下が何度注意しても同じ間違いを繰り返す」と頭を抱えることはないでしょうか。ミスが発覚した際、私たちはつい「次からもっと気をつけます」「仕事に対する意識が足りないからだ」といった言葉でその場を収めようとしてしまいます。

しかし、この「気をつける」「意識を高める」というアプローチこそが、ミスがいつまで経ってもなくならない根本的な原因であるとしたらどうでしょうか。

今回ご紹介する一冊は、行動科学マネジメント研究所所長である石田淳氏の著書『ミスの無くし方[決定版]』です。本書の帯には、「重要なのは×『意識を変える』○『仕組みをつくる』」と明記されています。このシンプルなメッセージの中に、現代のビジネスパーソンが直面する多くの課題を解決する鍵が隠されています。

現代はAIやテクノロジーが急速に進化し、定型業務や単純作業の自動化が進んでいます。しかし、どれほどシステムが高度化しても、それを運用し、最終的な意思決定を下すのは依然として人間です。そして人間が関与する以上、ヒューマンエラーは必ず発生します。

むしろ、システムが複雑化している現代だからこそ、一つの小さなヒューマンエラーが組織全体に致命的なダメージを与えるリスクは高まっていると言えるでしょう。

このような時代において、「人間のミスをどう防ぐか」というテーマは、単なる業務改善の枠を超えて、経営の根幹を揺るがす重要な戦略的課題となっています。これまでの多くの日本企業では、ミスを防ぐために「個人の注意力」や「精神論」に依存しがちでした。「気合を入れる」「ダブルチェックを徹底する(という意識を持つ)」といった、属人的で曖昧な対策です。

しかし、人間の注意力には限界があり、体調や感情、環境によって容易に変動します。 本書が提唱する「行動科学マネジメント」は、そうした曖昧な「意識」ではなく、客観的に観察可能な「行動」に焦点を当てます。米国で発祥した行動分析学をベースとする「組織行動セーフティマネジメント(BBS:Behavior Based Safety)」の考え方を取り入れ、ミスに結びつく「危険行動」を特定し、それを望ましい「安全行動」へと変え、習慣化させるための具体的な手法を提示しています。

本記事では、この『ミスの無くし方』を紐解きながら、なぜ今、精神論ではなく科学的なアプローチが求められているのか、そして私たちビジネスパーソンが日々の仕事や組織マネジメントにどのようにこのメソッドを応用していけばよいのかを深く掘り下げていきます。AI時代を生き抜くための「人間のエラーとの正しい向き合い方」を、共に考えていきましょう。

この記事でわかること 

・ミスが起こる本当の原因と、「気をつけます」という精神論の限界 
・行動分析学に基づく「組織行動セーフティマネジメント(BBS)」の基本概念
・曖昧な指示を明確な行動に変える「MORSの法則(具体性の法則)」の実践方法
・ミスをなくすための「5つのステップ」による仕組みづくりの手順
・AI時代・複雑性の高い現代において、組織の生産性と心理的安全性を高めるマネジメント術

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・ミスをなくすために必要なのは、個人の「意識を変えること」ではなく、誰でも実行できる「仕組みをつくること」である。
・「危険行動」を「安全行動」へと変え、その行動が自然と続くような環境を整備し、習慣化させることが根本的な解決策となる。
【原因】
・多くの組織では、ミスが起きた際に「意識の低さ」や「不注意」といった個人の内面的な要素に責任を求めてしまう。
・業務プロセスにおいて具体的な「行動」が定義されておらず、「適切にやる」「しっかり確認する」といった曖昧な言葉で指示が行われている。
【対策】 
・行動科学マネジメント(BBS)を取り入れ、相手の意識ではなく「行動そのもの」にフォーカスしたマネジメントを実践する。
・「MORSの法則」を用いて行動を具体化し、ミスをなくすための5つのステップ(特定と継続)を組織の共通言語として運用する。 

本書の要約

石田淳氏による『ミスの無くし方[決定版]』は、行動分析学をベースにした「組織行動セーフティマネジメント(BBS)」を用いて、組織や個人のミスを劇的に減らす手法を解説した実践書です。私たちがミスをしたとき、つい「次から気をつけよう」と意識の問題にしがちですが、著者はこれを明確に否定します。人間の意識は曖昧で変動しやすく、それだけに頼っていては絶対にミスはなくなりません。

重要なのは、相手の意識ではなく「行動そのもの」にフォーカスすることです。ミスにつながる「危険行動」を具体的に特定し、それを望ましい「安全行動」に置き換え、さらにその安全行動が定着し習慣化するような「仕組み」を作ることがBBSの根幹です。

本書では、行動を明確に定義するための「MORSの法則」や、ミスをなくすための具体的な5つのステップ(事象の特定、安全な状態の特定、行動の言語化、ピンポイント行動の特定、継続する環境づくり)が、豊富なビジネス事例とともに紹介されています。リーダーから個人のセルフマネジメントまで、幅広く応用できる普遍的なメソッドが詰まった一冊です。

こんな人におすすめ

・部下やチームのミスが減らず、どのように指導すべきかマネジメントに悩んでいるリーダーや管理職 
・問題が起きるたびに「気をつけて」「意識を高く持て」という精神論で指導を済ませてしまう方 
・ヒューマンエラーを属人的な能力に依存せず、仕組みで解決して組織の生産性を高めたい経営者 
・自分自身のケアレスミスを減らし、日々の仕事の精度とスピードを上げたいビジネスパーソン

本書から得られるメリット

・ミスの原因を「人のせい」にするのではなく、客観的・科学的に分析する視点が身につく
・曖昧な指示をなくし、誰でも間違いなく実行できる「具体的な行動」の定義方法がわかる
・ペナルティや精神論に頼らない、前向きで心理的安全性の高い組織づくりのヒントが得られる
・AIやシステム化が進む現代においても残る、人間のエラーを防ぐための普遍的な仕組み構築力が養われる 

精神論からの脱却:「意識」ではなく「行動」にフォーカスする

「ミスや事故は『意識の徹底』では解決しない」ものです。(石田淳)

日本のビジネスシーンにおいて、長く根付いている悪しき習慣の一つが「精神論による問題解決」です。ミスが発生した際、上司は「なぜもっと注意しなかったんだ」「意識が低いからだ」と叱責し、部下は「次からはもっと気をつけます」「意識して取り組みます」と反省の弁を述べます。

しかし、本書『無くならないミスの無くし方』の著者である石田淳氏は、このようなアプローチではミスは絶対になくならないと断言します。 なぜなら、「意識」や「心構え」というものは目に見えず、非常に曖昧なものだからです。

「気をつける」という言葉は、一見すると前向きな態度を示しているように見えますが、具体的に「何を・どうするのか」が全く定義されていません。人間の注意力や集中力は、日々の体調、睡眠不足、プライベートな悩み、あるいは業務の繁忙度合いによって容易に低下します。つまり、「意識」に依存したミス防止策は、最も不安定な基盤の上に城を建てるようなものなのです。

本書で紹介されている「組織行動セーフティマネジメント(BBS:Behavior Based Safety)」は、この曖昧な「意識」を完全に排除し、「行動そのもの」にフォーカスします。米国を発祥とし、行動分析学をベースとするこのマネジメント手法は、ミスや事故に結びつく行動を「危険行動」と呼び、望ましい行動を「安全行動」と定義します。

そして、危険行動を安全行動へと置き換え、それを習慣化させるための「仕組み」をつくることこそが、リーダーの真の役割であると説いています。

AIやテクノロジーが進化し、定型業務が次々と自動化される現代において、この考え方は一層の重要性を増しています。AIは疲労もせず、感情に左右されることもなく、プログラムされた「安全行動」を100%の精度で実行し続けます。

一方で、人間に残される仕事は、非定型業務、高度なコミュニケーション、そして複雑な意思決定です。これらの業務は、マニュアル化が難しく、認知的な負荷が高いため、ヒューマンエラーが発生しやすい領域でもあります。

だからこそ、私たちが介在する業務プロセスにおいて、「意識」というブラックボックスを排除し、誰もが実行可能な「行動の仕組み」を設計することが求められます。「いつ・誰が・誰に対して・どこでやっても」同じような効果が出る再現性の高い仕組みをつくること。これが、AI時代における人間の生産性を最大化するための第一歩となるのです。

現代の日本企業が直面する大きな経営課題の一つが、人口減少による深刻な人手不足です。人材の採用が難しく、退職者の補充も容易ではない今、ミスをした社員を厳しく叱責し、場合によっては辞めさせるという従来型の管理では、組織そのものが成り立たなくなります。

石田氏は、人手不足が進む時代には、「社員が安心して働き続けられる環境」と「安全な行動を習慣として定着させる仕組み」を、セットで考える必要があると指摘します。 ミスを防ぐために厳しく管理しすぎれば、社員は萎縮し、失敗や異常を隠すようになります。その結果、職場への信頼を失い、若手社員の離職にもつながりかねません。

一方、社員の定着だけを優先して、ミスを見過ごしたり指導を曖昧にしたりすれば、安全性や業務品質を守ることはできません。 だからこそ、企業に求められるのは、社員を責めることではなく、誰もが正しい行動を無理なく実行できる仕組みをつくることです。特に、これから組織の中核を担う若手人材が安心して働き、成長できる環境を整えながら、ミスを防ぐ行動を組織文化として根づかせる必要があります。

「人材の定着」と「安全・品質の向上」を両立させることは、どちらか一方を選ぶ問題ではありません。この2つを同時に実現する仕組みを設計することこそ、現代のリーダーやマネジャーに求められる重要な役割です。

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曖昧さを排除し、再現性を高める「MORSの法則」と部下のミスを減らす「ABCモデル」

多くのビジネスの現場では、そもそも慣習として「曖昧な指示」が定着しています。組織行動セーフティマネジメント(BBS)は、相手の行動をコントロールしてミスの発生を抑える手法ですから、指示の言葉も「行動」を示している必要があります。これがここでいう「具体的な言葉」です。

では、私たちが普段使っている言葉を「具体的な行動」に落とし込むにはどうすればよいのでしょうか。ここで非常に役立つのが、本書で紹介されている「MORSの法則(具体性の法則)」です。

行動科学マネジメントにおいて、「行動」と呼べるものは以下の4つの条件をすべて満たしていなければなりません。
1. Measured(計測できる)
どのくらいやっているかを数えられる(数値化できる)

2. Observable(観察できる)
誰が見ても、どんな行動かがわかる

3. Reliable(信頼できる)
誰が見ても、同じ行動だとわかる

4. Specific(明確化されている)
誰が、何を、どうしているかが明確である

これら4つの要素がそろって初めて、具体的に表された「行動」となります。逆に言えば、この条件を満たしていないものは、単なる「状態」や「結果」の表現に過ぎません。

例えば、上司が部下に対して「お客様にはしっかり対応するように」と指示を出したとします。この「しっかり対応する」という言葉は、MORSの法則に照らし合わせるとどうでしょうか。数値化できず(M)、人によって捉え方が異なり(O, R)、具体的に何を指しているのか不明確(S)です。これでは「行動」を指示したことにはなりません。

結果として、部下は自分なりの「しっかり」を実践し、上司の期待とズレが生じ、ミスやクレームへと繋がってしまいます。

これをMORSの法則に沿って行動レベルに変換すると、「お客様が来店されたら、3秒以内に相手の目を見て、笑顔で『いらっしゃいませ』と言う」となります。これなら、回数を計測でき、誰が見てもその行動をとったかどうかがわかり、認識のズレも生じません。

現代のビジネス環境、特にリモートワークやハイブリッドワークが普及した環境下において、この「MORSの法則」に基づくコミュニケーションは極めて重要です。オフィスで顔を合わせていれば、文脈や空気感で伝わっていた「阿吽の呼吸」は、テキストコミュニケーションやオンライン会議では通用しません。

指示の曖昧さはそのまま実行のブレに直結し、それが手戻りやミスの温床となります。 マネジメント層だけでなく、チームメンバー全員がこの「MORSの法則」を共通言語として持つことで、組織内のコミュニケーションコストは劇的に下がり、ミスの発生確率を構造的に引き下げることができるのです。 

「行動」を具体的に定義できたとしても、なぜ人はミスにつながる行動(危険行動)をとってしまい、正しい行動(安全行動)を継続できないのでしょうか。

その謎を解き明かすのが、本書で解説されている人間の「行動するサイクル」を示す「ABCモデル」です。 人が行動を積み重ねるメカニズムは、以下の3つの要素で構成されています。
・A(Antecedent)先行条件:行動を起こすきっかけ。行動する直前の環境
・B(Behavior)行動:行為、発言、ふるまい
・C(Consequence)結果:行動によってもたらされるもの。

人が行動を起こすには、まず行動のための「条件(なぜ行動をするのか)」という理由(A)があり、次にその条件を満たすために「行動(B)」し、行動の後には必ず「結果(C)」が伴います。

例えば、「急いで資料を作成しなければならない(A:先行条件)」という状況下で、「確認作業をスキップして提出する(B:危険行動)」をとったとします。その結果、「締め切りに間に合い、上司から早く提出したことを褒められた(C:ポジティブな結果)」としたらどうなるでしょうか。この人は次からも、締め切りが迫ると確認作業をスキップするという危険行動を繰り返すようになります。

行動科学の観点からは、行動の直後に「ポジティブな結果」が伴うと、その行動は強化され、繰り返される傾向にあるからです。

つまり、私たちが部下のミス(危険行動)を無くし、正しいプロセス(安全行動)を定着させたいのであれば、「B(行動)」そのものを力技で変えようとするのではなく、「A(先行条件)」を整え、正しい行動をとった際の「C(結果)」を意図的にデザインしなければならないということです。

確認作業をしやすいチェックリストを手の届くところに置く(Aの改善)、確認作業を行って提出した際に「正確な仕事をしてくれて助かる」と承認を与える(Cのデザイン)。この行動メカニズムを理解することこそが、仕組みづくりの前提となります。

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ミスを減らす5つのステップ

安全行動を習慣化するステップは、大きく「特定」と「継続」に分けられます。「特定」の段階では、ミスや事故の実態を正しく把握し、「安全な状態」とはどんな状態なのか?.のような行動によってそれがつくられているか?そこで外せない行動とは何か?を特定します。「継続」の段階は、その状態を習慣化し、組織に根付かせるための取り組みとなります。この2つの段階を経ていくことが「ミスや事故の無い職場」づくりの実践ということになります。

具体的な行動を定義できるようになったら、次は実際にミスをなくすための仕組みづくりに入ります。本書では、「ミスを無くす仕組みづくりの実践」として、以下の5つのステップが示されています。 –

ステップ1:[特定1] 繰り返し発生しているミスや事故を特定する
ステップ2:[特定2] 安全な状態を特定する
ステップ3:[特定3] 一連の行動を特定し言語化する
(チェックリストの作成とSMORSの法則 先ほどのMORSにSafetyを加える)
ステップ4:[特定4] 「ピンポイント行動」を特定する
ステップ5:[継続] 行動の続く環境づくり

そもそも何が原因でミスが「繰り返し」起きているのか(ステップ1)、本来あるべき安全な状態とは具体的に何か(ステップ2)、その状態に至るまでのプロセスに欠落している行動は何か(ステップ3)を精緻に言語化しなければ、効果的な対策は打てません。

中でも重要なのが、「ステップ4:ピンポイント行動の特定」です。これは、一連の業務プロセスを細かく分解し、ミスや事故の防止に直結する最も重要な行動を一つに絞り込む作業です。

たとえば、安全対策として「ヘルメットを着用する」と決めるだけでは不十分です。ヘルメットを被っていても、あごひもが緩んでいれば、転倒や衝撃の際に外れてしまう可能性があります。したがって、この場合のピンポイント行動は、単に「ヘルメットを被る」ことではなく、「あごひもを確実に締める」ことになります。

このように、曖昧な目標や精神論ではなく、「いつ、誰が、何をするのか」を具体的な行動として特定することが、ミスを確実に減らす第一歩になります。

複雑な事象を構造的に捉え、最もレバレッジの効く「ピンポイント」に対してリソースを集中させる。この一連の思考プロセスを身につけることは、単なるミス防止にとどまらず、ビジネスパーソンとしての問題解決能力を飛躍的に高めてくれます。

心理的安全性と行動の継続 5つのステップの最後を飾るのが「ステップ5:行動の続く環境づくり」です。どれほど素晴らしい安全行動(ピンポイント行動)を定義しても、それが継続されなければ意味がありません。 ここで石田氏が警鐘を鳴らすのが、「ペナルティを与えることは逆効果である」という事実です。

ミスをした人間に対して、叱責したり、評価を下げたりといった罰を与えれば、一時的にその行動は抑制されるかもしれません。しかし、行動科学の観点からは、罰による行動変容は長続きしないことが証明されています。それどころか、罰を恐れるあまり、ミスを隠蔽したり、新しいことへの挑戦を避けたりするようになり、組織は徐々に硬直化していきます。

行動を継続させるために必要なのは、罰ではなく「ポジティブなフィードバック」と「行動しやすい環境のデザイン」です。安全行動をとったときに、上司やチームメンバーから即座に承認(「いいね」「ありがとう」「そのやり方、助かるよ」)が与えられる環境を作ること。また、意志の力に頼らなくても自然と安全行動がとれるような物理的・システム的な環境(例えば、特定の入力をしないと次の画面に進めないシステム設計など)を構築することが重要です。

これは近年注目されている「心理的安全性」の概念とも深く結びついています。ミスを個人の責任として追及するのではなく、「システムの不備」「行動デザインの失敗」として客観的に捉えることで、チーム内には「ミスについて率直に話し合える土壌」が生まれます。「失敗は隠すものではなく、システムを改善するための貴重なデータである」という共通認識を持った組織こそが、変化の激しい現代において真に強い「学習する組織」となり得るのです。

コンサルタント 徳本昌大のView

本書『ミスの無くし方』を通読し、私は改めて「人間の認知バイアスとどう向き合うか」という普遍的なテーマの重要性を痛感しました。私たちは皆、「自分は気をつけているから大丈夫」「一度言えば相手は理解しているはず」という強烈な思い込み(バイアス)の中で生きています。

しかし、本書が示すように、人間の意識や記憶は私たちが思っている以上に脆弱で、不完全なものです。 経営やビジネスの実務において、この「人間の不完全さ」を前提にシステムを設計できるかどうかは、優れたリーダーの必須条件です。

「判断の質を上げる」ためには、気合や根性ではなく、構造で考える思考回路が必要です。ミスが起きたとき、誰かを責めることでカタルシス(感情の浄化)を得るのではなく、一歩引いて「この行動を引き起こした構造(仕組み)は何か?」と問う姿勢。それこそが、知的で誠実なマネジメントのあり方だと言えるでしょう。

また、本書のメソッドは組織マネジメントだけでなく、私たち個人の「知的生産」や「習慣化」にも強力に応用できます。例えば「読書を習慣にしたい」と思ったとき、「意識を高くして毎日読むぞ」と決意するのではなく、MORSの法則に従って「毎朝の10分間で、本を3ページ読む」と行動を定義し、継続できる環境(前日の夜に本を机の上に置いておくおく等)を整えるのです。

AIが私たちの仕事のあり方を根本から変えようとしている今、私たち人間に求められるのは、「自らの行動を客観的に観察し、望ましい方向へデザインしていく力」です。本書は、その力を養うための極めて実践的なガイドブックとして、すべてのビジネスパーソンの本棚に常備しておくべき一冊だと確信しています。

FAQ

Q1: 行動科学マネジメントは、チームのマネジメントだけでなく、個人のセルフマネジメント(自分のミス防止)にも役立ちますか?

A1:はい、非常に役立ちます。本書で紹介されている「MORSの法則」や「5つのステップ」は、個人の行動変容にも完全に適用可能です。自分自身のミスを振り返り、「意識が足りなかった」と反省するのではなく、「どのような環境・行動の連鎖がミスを引き起こしたのか」を客観的に分析し、仕組みで解決するアプローチを身につけることで、個人の仕事の精度も飛躍的に向上します。

Q2: 「MORSの法則」を日々の業務に取り入れるには、何から始めればよいでしょうか?

A2:まずは、日々のメールやチャット、口頭での指示出しにおいて、自分が使っている言葉を見直すことから始めてみてください。「なるべく早く」「しっかり」「適切に」といった曖昧な形容詞や副詞を使わず、代わりに「数値(いつまでに、何回)」と「具体的な動作(誰が、何をどうする)」に置き換えるよう意識するだけで、チーム内のミスコミュニケーションは劇的に減少します。

Q3: AIやシステム化が普及するこれからの時代に、なぜ人間のヒューマンエラー対策が重要なのでしょうか?

A3:定型業務がAIに代替されるほど、人間に残される仕事は「複雑な判断」「非定型の課題解決」「クリエイティブな意思決定」といった、高度で属人的な領域にシフトします。これらの領域で発生するエラーは、単純な作業ミスよりも組織に対するダメージが大きくなる傾向があります。だからこそ、人間の行動特性を科学的に理解し、エラーを防ぐ「環境」や「仕組み」を意図的にデザインするマネジメント力が、これまで以上に求められているのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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