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「山奥ニート」やってます。
著者:石井あらた
出版社:光文社
本書の要約
都会ではなく、限界集落の山奥で楽しく引きこもる集団が「山奥ニート」です。山奥ニートはお互いの個性を認め合い、助け合って生きています。彼らはお金をたくさん稼ぐためではなく、「恵み」を得ながら適度に働き、仲間と交流することで、人生を楽しめるようになったのです。
山奥ニートとは何か?
物価の安い海外に移住するより、日本の山奥で暮らしたほうが安い。英金融大手HSBCホールディングスが2019年に発表した「働きたい国ランキング」日本は33ヶ国中32位だった。日本は働くには大変な国だ。収入は他国と比べて多いわけじゃないのに、どんな小さな仕事にも完壁が求められる。でも、代わりに食べ物は安い。治安もいいし、インフラも今のところ整ってる。(石井あらた)
NPOの共生舎をご存知でしょうか?私はJ-WaveのJam the worldで、この団体の存在を知りました。ゲストとして出演した代表の石井あらた氏の話に興味を持ち、本書「山奥ニート」やってます。を購入しました。
著者はひきこもりとなって大学を中退し、ネットを通じて知り合ったニート仲間と2014年から和歌山の山奥に移住しました。最寄りの駅から車で2時間の限界集落に暮らすことで、月あたりの生活費をわずか1万8000円に押さえています。「山奥ニート」は気分が乗った時だけ働き、普段は何もしないという自由な人生を謳歌しています。
彼は浪人・留年・中退の親不孝三重奏でニートを選択しますが、NPOの理事と出会い、限界集落に住むことを決めます。しかし、支援先の代表が移住してわずか3日で亡くなり、途方にくれます。しかし、彼は山奥の生活に可能性を感じ、自らNPOの理事となり、山奥にニートを集め始めます。現在は、限界集落に建つ廃校の木造校舎に、ネットを通じて集まった男女15人と暮らしています。著者はブログや動画配信、簡単なアルバイトを行いながら、山奥ニートとして人生をエンジョイしています。
著者は、最低限のお金があれば、田舎暮らしを楽しめると言います。日本は先進国の中でもっとも物価が安く、インターネットなどのインフラも整っているため、都会と同じ環境でゲームやSNSを行えます。自然に囲まれた環境で、ニート仲間と交流しながら、彼らは自分らしく暮らしています。
働きすぎなければ、日本はいい国だと思う。 田舎は仕事が少ないと言われるけど、年間を通じて月20万もらえる仕事が少ないだけだ。期間限定だったり、単発の仕事はけっこうある。15人で住んでいる今でも、仕事が多すぎて断ることがあるくらいだ。過疎集落では、若いというだけで貴重な人材だ。 どうせ都会のもやしっ子だと思われているので、スキルは期待されてない。遊びに来た孫が手伝ってくれているという感覚の人が多く、まるで仕事をしている気がしない。休憩も多い。考える暇もないくらいに忙しい街のアルバイトとは、まったく別物だ。
彼らはニートなので、農業でも手を抜きます。それでも、季節毎に自然は彼らに様々な恵みを与えてくれます。真っ赤なトマトやナス、栗、柿、柚子などのたくさんの実りがあるから、食うには困らないと言います。裏山に罠を仕掛けることで鹿や猪を食べることも可能です。猟師の人から肉の処理の仕方を学んだニートは、自らナイフを買い、仲間のために肉をさばき、バーベキューを行います。
山奥ニートはお互いの個性を認め合い、助け合って生きています。彼らはお金をたくさん稼ぐためではなく、生きるために適度に働き、人生を楽しめるようになったのです。都会のニートたちが山奥に移り住むことで、新たな種族「山奥ニート」を生み出したのです。
彼らは「ニート」(NEET=Not in Employment, Education or Training=仕事も通学も求職もしていない人)という言葉の定義に当てはまりませんが、山奥という「恵み」を得られる環境で、ニートを進化させたのです。
山奥ニートが見つけた「恵み」とは?
限界集落には都会の若者が知らない生きるための知識や知恵がたくさんありますが、あと10年もしたら、そのノウハウは伝承されることなく消えてしまいます。著者は山にはおいしい話がたくさん転がっていて、それらを集めたら、21世紀型の新しい狩猟採集生活ができるようになると言います。
たとえば、使われていないキャンプ用品や洋服を集められれば、洋服の支出を減らすことが可能です。都会では大量生産、大量消費が続き物が余っていますが、それを田舎に運ぶことで、ニートの生活の糧になります。都会の不用品をリサイクルしながら、山奥で狩猟採集を行うことで、都会で人間関係で苦しんでいる人を救えるのです。
恵みを受け取れるかどうかは、天の思し召し次第だ。大昔、人々が神に祈って雨を待つしかなかったように、僕もブログを更新して、”神”が現れるのを待つ。恵まれないときは、そのときだ。というか、得られないのが当たり前だから、恵みなのだ。だから、それが得られたときには感謝を忘れてはいけない。自然に感謝。文明に感謝。本日も生存させていただき、ありがとうございます。どうか次も、恵みをください。そのために、今日も祈りを捧げます。
都会にいたときには感謝する心を忘れていた著者は、山奥で人間らしさを取り戻します。山奥ニートになることで、自然と文明の両方から恵みを得られるようになり、著者はその恵みに感謝できるようになったのです。現代人の常識を捨てることで、彼らは都会で暮らす私たちよりもはるかに幸せな時間を過ごしているのかもしれません。
同じ建物には小説家志望のニートも同居していますが、彼は自然の中で俳句を詠むようになったと言います。四季折々の自然体験を重ねるながら、仲間のニートと共に歳時記をめくりながら、俳句を楽しむことが、小説を書くことによい影響を及ぼしています。山奥で俳句に出会うことで、小説の表現力や描写力を伸ばせたのです。自然との対話や仲間や集落の住人との交流によって、ニートは新たな価値観と自分らしい生き方を手に入れていきます。
山奥で暮らすことで、他人の目を気にしなくなり、心が解放されるというメリットも得られます。 都会は常に他人の視線を感じながら生きなければなりませんが、山奥では自分らしく生きられ、開放的になれます。今は社会全体が「ゆるーく生活する」ほうにシフトしていますが、山奥ニートはその新しい生き方を先取りしているのです。
山奥ってのは、都市じゃない。でも、いわゆる田舎とも違う。もっとプリミティブな、未開拓地だ。都会か地方かの二択である居住地に対して、選択肢にも上らないような場所。この「じゃない場所」は、「じゃない人」も「じゃない組織」も受け入れてくれた。山奥ニートっていうのは、そんな感じのものなんじゃないかと思います。 納得して働くのもいいし、納得して働かないのもいい。でも、自分が働くことに納得していなければ、なんだって苦痛だ。働いていない自分に納得していなければ、地獄の毎日だ。僕は「持続可能なニート」をしたい。そのために、少しは働く。そのことに僕は納得している。だってニートって最強なんだ。
「ニートが最強だ」という著者のメッセージを読みながら、自分らしい人生とは何かを考えました。ゆっくりと考える時間を持つことで、やりたいことが明確になり、私たちは人に流されなくなります。一人一人が自分らしい最強な生き方を見つけられれば、それが幸せな人生につながります。
仕事が好きな私にはここまで「ゆるーく生活」することはできませんが、著者の「恵み」という言葉から幸せに生きるためのヒントをもらえました。私には納得できる仕事があり、大切な家族や仲間がいます。彼らに囲まれて幸せに暮らせていることに改めて感謝したいと思います。
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