DX経営図鑑
著者:金澤一央
出版社:アルク
本書の要約
Optoroを活用することで、小売業者は返品商品のリコマースによる利益を得られます。小売業者は返品のオペレーション業務からも解放されます。消費者は新品のアウトレット商品の購入機会が増え、商品をより安く買えるようになります。Optoroは三方良しのビジネスモデルを実現することで、成長しています。
DXとは顧客のペインを取り除き、新しい価値を提供すること
DX(デジタルトランスフォーメーション)を考えるうえで重要なのは、DX以前と以後で、価値提供の仕組みは変わったか、その価値は不可逆的なものとして消費者に認められているか、ということです。別の言い方をすれば、デジタルによるゲームチェンジが成立しているかがDXの成否を推し量る、主な評価基準になります。(金澤一央)
DX経営図鑑 の中で著者の金澤一央氏はDXとは、顧客視点で圧倒的な価値提供プロセス変革を行うための武器だと定義します。「徹底してお客様のペインを取り除き、お客様にとって新しい価値を提供すること」がDXのゴールとなり、価値提供できないDXは意味がないのです。
本書ではNetflixやWalmart、Sephoraなど世界全32社のDX事例を収録しています。顧客/ユーザー視点での「ペイン(苦痛)」と「ゲイン(利得)」を切り口に、顧客/ユーザーが最終的に得た「価値」について解き明かしています。
今日はその中から、リバースロジスティクスを切り開くユニコーンであるOptoroを取り上げます。Amazonや楽天のなどのeコマース登場で、私たちの生活は便利になりました。しかし、このeコマースでもミスマッチが起こるようになりました。
例えば、生鮮食品や生活消費財、アパレル商品などの商品では、時に不良品が問題になります。写真と実物の期待感やサイズが違ったなどのミスマッチも問題になっています。こうしたミスマッチは返品やキャンセルで解決されますが、その手続きは簡単ではなく、さらに「自己都合返品」という定義が曖昧なので、正当な主張もクレームとして却下されることもあります。
最近では顧客のペインを取り除くため、欧米のECショップでは、可能な限り返品を受け入れています。消費者が安心して購買できる環境を作り上げることで、返品率は逆にアップしてしまいます。欧米のeコマースの返品数は膨大になる中で、多くの商品が廃棄されていると言います。この中には不良品ではない、ミスマッチによる返品も数多くあります。
誰かのミスマッチ商品は、ある人にとっては完壁な商品になり得ます。それでも多くが廃棄されてしまうのは、返品オペレーションに必要なコストやリソースも膨大なものになるからです。つまり、返品を受け付け、倉庫に再保管し、再検品し、再び商品在庫に加えるという一連のオペレーションは煩雑で、また、再利用商品は「訳あり」として値引き販売をする必要があるため、コストが掛かったうえに利ざやが下がるのです。
この返品に注目し、新たな価値を生み出しているのが、アメリカのOptoroです。リバースロジスティクス(返品物流)やリコマース(再販売)という領域で、Optoroは存在感を示しています。
Optoroが成長している理由
Optoroのビジネスモデルは、小売業者の返品全般をソリューションとして受託し、その再販利益までを提供します。その根幹にあるのは、OptiTuneと呼ばれる返品処理と再販を自動化するアルゴリズムです。Optoroは自前の倉庫を持っていて、契約顧客は返品された商品をOptoroの倉庫に送ります。Optoroは特殊なスキャンシステムによって、返品された商品を瞬時にデータベース化し、最も高く売れそうな販路を割り出し、在庫として出荷します。この一連の流れをOptiTuneによる判断で処理しています。また、Optoroは個人消費者向けのBLINQ、事業者向けのBULQというマーケットプレイスを運営しており、多くの商品はここで再販されます。
OptoroにはBtoC向けの「BLINQ」とBtoB向けの「BULQ」の2つのECサイトがあります。例えば、サイズ違いで返品されたアパレル商品や、性能には問題ない家電などは BLINQで格安で売られます。また、業務用の資材(粘着テープやコピー用紙など)で大量キャンセルになった商品は、BULQで文字通りバルクセール(12個以上などのロット単位)として販売されます。OptituneによりBLINQやBULQでの販売が難しいと判断された場合には、商品はリサイクルや寄付に回されます。できるだけ無駄をなくそうというOptoroの企業姿勢が、消費者から評価されています。
小売業者は、Optoroに返品処理の代行料を支払う一方で、再販で得られた利益の一部を受け取ることができます。自前で効率的なリバースロジスティクスおよびリコマースの環境を運営できるのは、Amazonのような巨大EC企業だけでしたが、多くの企業がOptoroを活用することで、無駄な廃棄を防いでいます。
IKEA、HomeDepot、BESTBUY、STAPLEなどの大手企業がOptoroの顧客になっています。Optoroはこれまでに約2億5000万ドルを調達し、ユニコーン企業として投資家からも注目されています。
Optoroは返品オペレーションをほぼ丸ごと引き受け、再販による利益まで生み出します。本来、小売業者が用意すべきオペレーションは返品の受け付け、返品の着荷処理、倉庫保管、検品、返金処理、廃棄または再販の判断、再販販路の確保、値付け、出荷などのフローで構成されます。この一連のフローには多くの部門の連携が必要であり、コミュニケーションコストやシステムの連携、各担当人員の配置など複雑な体制を組むと、業務効率も運営コストも巨大なものになります。しかし、Optoroはこのうちの返品受付と返金処理以外を全てソリューションとして提供します。さらに、返品在庫の再販が完壁に消化できれば利益を上げることさえできるのです。
Optoroによって返品オペレーションの大幅な効率化が実現すれば、小売業者はより顧客体験の向上に資源を集中できます。
Optoroは返品商品の再還流を生み出します。 BLINQとBULQを使うことで、小売業者は返品商品のリコマースによる利益を得られます。小売業者は返品で利益を生み出すだけでなく、返品のオペレーション業務から解放されるのです。消費者は新品のアウトレット商品の購入機会が増え、商品をより安く買えるようになります。Optoroは三方良しのビジネスモデルを実現することで、成長しています。
Optoroは「サステナブルな消費に参加している」という社会貢献と満足感、崇高さも顧客に与えれてます。今後、「安いから」ではなく、「サステナブルだから」という理由で、リサイクル品やアウトレット品を消費する傾向が高まっていきます。Optoroはリバースロジスティクスとリコマースで、サスティブルな社会を実現しようとしているのです。
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