稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質
名和高司
日経BP
本書の要約
京セラと日本電産という飛躍企業には3つの共通点があります。稲盛氏と永守氏の2人は、1)「志」から出発していること 2)30年先、50年先といった長期目標を立てるとともに、短期的に結果を出すことにこだわり続けること 3)人の心に火をつけることを日々実践しているのです。
稲盛と永守の「MORI」モデルとは何か?
稲盛と永守はこの言語化力を、独自の経営哲学と経営手法に結実させている。稲盛の場合は「フィロソフィ」と「アメーバ経営」。永守の場合は「3大精神」と「3大経営手法」。(名和高司)
残念ながら、世界でも通用する日本の経営者はごく限られています。サラリーマン経営者が跋扈する中、創業からグローバル企業を作り上げてきた経営者は、数えるほどしか存在していません。著者はその中から京都の2大企業の京セラの稲盛和夫氏と日本電産の永守重信氏を取り上げ、2人の経営メソッドを対比させながら、その共通点を明らかにします。
著者は2人の経営の中身をよく知れば知るほど、両者の経営モデルの本質がぴたりと重なり合うと指摘します。両者の経営モデルを「盛守経営」と呼び、3つの共通点を紹介しています。
(1)「志(パーパス)」から出発していること。「志本経営(パーパシズム)」の実践
(2)30年先、50年先といった長期目標を立てるとともに、短期的に結果を出すことにこだわり続けること。
「遠近複眼経営」
(3)人の心に火をつけること。
稲盛は能力を未来進行形でとらえよと語り、永守はIQよりEQが大切と説く。そして二人が異口同音に強調するのが「情熱・熱意・執念」のパワーだ。
これら3要素から構成される経営モデルを、「MORI」モデルとネーミングしています。
■Mは Mindful(志を大切にする)
■OとRは Objective-driven & Results-oriented(目標と結果にこだわる)
■Iは Inspire!(人を動かす)の略だ。
稲盛氏と永守氏には、多くの共通点があります。そのーつが、それぞれ、確固たる哲学を貫き通していることです。2人のすごさは、その独自の哲学を、社員のみならず、社会に対して広く発信していることです。
稲盛氏は大義を語り、永守氏は志を語ります。稲盛氏は利他を説き、永守氏は執念を説きます。しかし、2人の経営哲学は、よく読み解いていくと、驚くほど共通点が多いと言います。 2人は高い志(パーパス)と熱意(パッション)だけを武器に、ゼロからスタートし、閉塞的な日本市場から世界へと飛び出し、世界トップの座をつかんだのです。
稲盛氏と永守氏は、ファインセラミクスと小型モーターという本業から軸をプレさせることなく、2兆円に手が届く世界企業として成長し続けています。京セラと日本電産は、自分の得意分野にこだわり続け、デジタル化の波に乗り、飛躍していったのです。
2人の経営者には以下の3つの共通点があります。
①常識的な発想にとらわれず、自らの手で未来を拓き続けること
ヒトもデジタルの力を借り、より大局観をもち、先見力と想像力に磨きをかけ続けなければならない。この二人の先駆者は、バーチャルとリアルの世界が融合した未来を拓き続けていくことだろう。 二人とも、人間の可能性は無限だと信じている。
・稲盛→知的バーバリアン
・永守→知的ハードワーク
②日本の伝統的な価値観を基軸として、それを世界に伝播し続けること・
・正しい倫理観に基づくこと
・原理原則に従うこと
・人の力を信じ、鼓舞し続けること
③経営を軸足としつつ、大きく一歩踏み出していくこと
稲盛氏は経営を超えて、人の生き方や社会のあるべき姿を語り続けています。
・稲盛経営「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」「フィロソフィー」「アメーバ経営」
・永守の3大精神=「情熱、熱意、執念」 「知的ハードワーキング」 「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
・永守の3大経営手法「家計簿経営」「千切り経営」「井戸掘り経営」
MVVからPDB(パーパス・ドリーム・ビリーフ)に!
会社の経営を究極まで突き詰めていくと、実に単純明快なことが導き出されます。それは、原理原則にしたがって、当たり前のことを当たり前にやっていくことで、これ以上でもなければ、これ以下でもありません。『継続は力なり』という言葉がありますが、一切の妥協や譲歩を許さず、誰にでもわかっている当たり前のことを、淡々と持続させていくこと以外に成功する極意も秘訣も存在しません。(永守重信)
この永守氏の言葉の中に、京セラと日本電産の成功の秘密が隠されています。実は2人の経営者は、当たり前のことを徹底的にやり切っているだけなのです。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が重要な経営指標としてもてはやされていますが、21世紀の経営者はパーパス(志)から発想すべきだ著者は指摘します。MVVからPDB(パーパス・ドリーム・ビリーフ)へと経営を進化させなければならないというのです。
MVVが外発的なものであるのに対して、PDBは内発的なものです。これは、客観正義から主観正義へのパラダイムシフトで、経営者や従業員が自社のパーパス「自分ごと化」が重要です。
このブログでも何度かMTP(野心的変革目標)を紹介していますが、著者はこの目標を「北極星」と呼んでいます。その上で、「北極星」には、次の3要件が備わっていなければならないと述べています。
1、「わくわく」→聞いただけで、思わず心が躍るような高揚感が広がるか?
2、「ならでは」→その企業の独自性がしっかり打ち出されているか?
3、「できる!」→社内の人も社外の人も、実現性を確信できるか?
稲盛と永守の狙いは、真のリーダーを育てることにあります。真のリーダーには、先程のMORIモデルが欠かせません。
・Mindful(志を大切にする)
・Objective-driven & Results-oriented(目標と結果にこだわる)
・Inspire!(人を動かす)
真のリーダーは、志を高く掲げ(M)、目標達成に執念を燃やし(OR)、人の心に火をつけることができる(I)人財を指します。稲盛は「大義」=Mファクターを、永守は「人を動かす」=Iファクターを最重視しています。
著者の名和氏は新「SDGs(サステナビリティ、デジタル、グローバルズ)」と呼ぶ新常態を提唱しています。「盛守経営」はその最良の羅針盤になります。サステナビリティ、デジタル、グローバルズという3つを束ねるのが、「志(パーパス)」になります。この志に基づく「志本経営」こそ、盛守経営の神髄なのです。
コメント