イノベーションの競争戦略―優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?
内田和成
本書の要約
懐中時計によって「時間に合わせて行動する」という大きな行動変容が起きました。ひとたび行動変容が起こると、もはや元の日常に戻ることはありません。行動変容には不可逆性があるのです。懐中時計の発明は、人々に行動変容を起こしたイノベーションだったのです。
行動変容とは何か?
行動変容とは、商品・サービスを利用した顧客の習慣が変わってしまうことである。懐中時計を例にとって説明してみよう。懐中時計を手にした顧客は大きな態度変容が起きたが、それ以上に巨大な行動変容がもたらされ古くからの習慣が一変してしまった。(内田和成)
イノベーションの競争戦略―優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?の書評を続けます。経営学者でコンサルタントの内田和成氏は「イノベーションとは、これまでにない価値の創造により、顧客の行動が変わること」だと定義します。
新しい製品サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそが、イノベーションの本質です。顧客の行動変容を起こす取り組みや技術を活かすための戦略、さらには企業や事業の生き残りをも左右してしまうのです。
実は懐中時計も人々の行動を大きく変えたイノベーションだったのです。懐中時計が普及する前、中世から近代の多くの人々にとって、時を知る方法は寺や教会が鳴らす鐘のみであり、2、3時間ごとに決まった時刻しか知ることはありませんでした。
当時の人々の時間に対する態度は「大まかにわかればよい」であり、生活も仕事も今より遥かにゆったりしたものでした。19世紀後半、アメリカのメーカーが懐中時計の量産化に成功し、「いつでも時間がわかる」ようになったのです。
結果、懐中時計の利用者である顧客の時間に対する態度が「正確な時間を知りたい」へと変容しました。定刻での待ち合わせや工場労働者の一斉始業などが当たり前になり、行動が時間で決められ、時間に遅れることはマナー違反と考えられるようにまでなったのです。
懐中時計によって「時間に合わせて行動する」という大きな行動変容が起きました。ひとたび行動変容が起こると、もはや元の日常に戻ることはありません。行動変容には不可逆性があるのです。懐中時計によって、人々の働き方やライフスタイルが大きく変わりました。
Zenlyが起こしたイノベーションとは?
現在、10代を中心にインスタグラムから一歩進んだ行動変容が起きていると言います。2015年にフランスの企業が開発したZenly(ゼンリー)というアプリが若者たちの行動を変えています。Zenlyはつながった人の現在地を電話番号やIDで確認できる位置情報共有アプリで、「相手の居場所や行動をコミュニケーション なしに簡単に把握できる」という価値を創造しました。
利用者の若者は、相手の状態をいつでも知れるようになったことでコミュニケーションに対する態度を変えました。これまでは、コミュニケーションは「相手の状況把握から始めるもの」でしたが、Zenlyの利用者にとってコミュニケーションは、「相手の状況を把握した上で行なうもの」へと態度変容が起きたのです。
Zenlyによってファストフード店に複数名の友人が滞在していることがわかれば、わざわざどこにいるのか聞くことなく、直接お店に出かけ、友達に会うようになりました。家にずっと滞在しているようであれば、相手がひまであることを前提に連絡をとります。
Zenly利用者は、相手に行動を知られていることを受け入れ、インスタ映えと同様にZenly映えする行動をとるようになったと言います。インスタグラムの顧客がアップロードする場所やお店だけを映えるようにするのに対し、Zenly利用者は常に相手に行動を知られてしまうため、たとえばランチをする際も家の近所の小汚い店ではなくおしゃれなカフェに行くなど、日常生活すべてにおいてZenly映えする行動をとるようになったのです。
Zenlyは若者たちの行動を変え、彼らの生活スタイルにまで影響を与えてしまうイノベーションなのです。顧客の価値観や行動を変えたZenlyは今までの社会の常識を創ること、位置情報を明らかにすることで、若者たちに行動変容を起こしたのです。
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