「コラボレーション疲れ」が人を潰す(ロブ・クロス, レブ・リベル, アダム・グラント)の書評

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「コラボレーション疲れ」が人を潰す
ロブ・クロス, レブ・リベル, アダム・グラント
ダイヤモンド社

本書の要約

コラボレーションは、現代のビジネスにおける喫緊の課題を多数解決する手立てですが、優秀な人を疲弊させては意味がありません。リーダーは適切な種類のコラボレーション型業務を認識・促進し、うまく配分する方法を身につけなければならないのです。

職場に蔓延するコラボレーション問題とは?

従業員は会議への出席や電話対応、メールへの返信にどのくらい時間を費やしているだろうか。多くの企業では、勤務時間のおよそ8割を占めているという。従業員が各自で終わらせるべき重要な業務には、ほんのわずかな時間しか残されていないのだ。(ロブ・クロス)

バージニア大学マッキンタイア商学大学院教授のロブ・クロスは、職場にコラボレーション疲れが蔓延していると指摘します。

ビジネスの課題が複雑になる中、その解決のためには、人との協働が欠かせなくなっています。他社からアドバイスを求められたり、参加すべき会議が増えることで、本来の自分の業務に使える時間が減り、パフォーマンスが損なわれてしまうのです。

結果、従業員は自宅に仕事を持ち帰るようになり、燃え尽き症候群や離職のリスクが顕在化します。著者が300以上の組織で実施した研究では、コラボレーション型業務は極めて偏って分布していることが、わかりました。

付加価値を生み出すコラボレーションの20~35%を、わずか3~5%の従業員が担っていたのです。有能かつ協力的との評判が立った人材は、重要度の高いプロジェクトや役割に次第に引き込まれていきます。「仲間の役に立ちたい」という意欲がある人は、他者との協業に力を入れ、パフォーマンスが高まります。そのため評判もアップし、彼らに相談が押し寄せるのです。

アイオワ大学助教授のニン・リーを中心に最近実施された調査でも、「労を惜しまない」従業員は、しばしば自分の役割以上の働きぶりを発揮することがわかっています。優秀な人は、他のチームメンバー全員を合わせた以上のパフォーマンスを、たった一人で発揮します。

しかし、優秀な彼らが職場のパフォーマンスを下げてしまいます。頼りになる従業員が参加するまで仕事が滞るため、彼らが組織内のボトルネックと化してしまうのです。しかも、彼らには過度の負担が
かかっているため、本来の力が発揮できなくなるのです。

著者がネットワーク分析を活用して組織内でコラボレーションに最も貢献している人材を探り出すと、従業員の半数以上が列挙されると言います。多くの人が協業に時間を費やすことで、職場にコラボレーション疲れが蔓延しているのです。

職場のパフォーマンスを上げる方法

「コラボレーション資源」、すなわち従業員一人ひとりが価値をもたらすべく他者に提供する資源には、情報資源、社会的資源、属人的資源の3種類がある。

・情報資源・・・知識やスキルなど、記録・継承可能な専門的知見。
・社会的資源・・・人的ネットワークに対する見識、利用法、立場など、従業員同士がうまくコラボレーションするために使うもの。
・属人的な資源・・・個人の時間やエネルギー。

これらの3種類の資源は、等しく効率的に活用できるものではありません。情報資源と社会的資源は、たいてい一度やり取りすれば共有可能で、提供者の手持ち資源を使い果たすこともありません。

しかし、従業員一人ひとりの時間とエネルギーには限りがああります。このため、プロジェクトへの参加や意思決定の承認が求められるたびに、従業員が各自の担当職務に割り当てられる時間やエネルギーは枯渇していきます。

コラボレーションを望む場合は、属人的資源を求められることが多い。というのも、人間はリポートや文献といった既存の資料の中から必要なものを、みずから探そうとしない。そればかりか、情報資源や社会的資源を見極めて、それらについて教えを乞うこともしない。その代わり、不要かもしれないのに「直接手を貸してほしい」と要請するのだ。

他者との相談やミーティングのための時間が、属人的資源を消耗させてしまいます。

貢献型の優秀な人は、最も優れた情報源と見なされ、コラボレーターとして社内で引く手あまたになります。ところが、調査によると彼らの仕事に対する熱意と満足度のスコアが最も低くなることがわかっています。こうした人材は最終的に(有益な知識とネットワーク資源を持ったまま)退職するか、たとえ留まっても同僚に対してますます無関心になり、冷ややかな態度をまき散らすかのいずれかになります。

リーダーがこの問題を解決する方法は2つあると著者は指摘ます。
①コラボレーションを合理化して業務配分を見直すこと
②優れた貢献に対して報いること。

リーダーはビジネスソフトウェアを活用し、「コラボレーション疲れ」のリスクに最もさらされている従業員を割り出すべきです。そして職場の生産性を高めるために以下の施策を実践することで、職場のパフォーマンスを高められます。

コラボレーションに最も積極的に関与している一方で、最も負担が大きい貢献者に要請のふるい分けと優先順位付けを指導します。時には協力を断ること(あるいは要請された時間の半分だけ対応すること)を許可し、みずからの持ち味が発揮できない要請には他の誰かを紹介するように後押しします。

属人的資源を投入するならば、「消耗の激しい活動ではなく、励みになるような付加価値の高い活動にこそ投入すべきです。会議や簡単な相談ではなく、コーチングなどの業務に時間を使うことで、優秀な社員の満足感が高まることがわかっています。

たえず押し寄せる要請の波を食い止めるには、協力を要請する側の行動も改善しなければなりません。協力の要請メールや会議の出席依頼をいつ、どのように送るべきかなどの決まり事を見直せば、無駄な時間を大幅に削減できます。

テクノロジーと物理的な空間を活用することも効果があります。スラックやセールスフォース・ドットコムのチャターを使うと、さまざまな業務トピックに関して自由に討議するスレッドを立てられます。

従業員同士が即興的に顔と顔を突き合わせてさっとコラボレーションできるように、デスクの配置を工夫すると資源のやり取りがいっそう効率よくなります。

社員の評価にも工夫を凝らす必要があります。バスケットボールやホッケー、サッカーのプロチームでは、得点数だけでなく、アシスト数もチェックしています。組織も同じように取り組むべきできす。そのためには、ネットワーク分析や同僚評価制度、付加価値に基づく業績評価といったツールを使うとよいでしょう。

人事考課での高評価、昇進、昇給を判断する際には、情報資源、社会的資源、属人的資源の3つの資源を効率よく共有することも要件の一つに加えるべきです。

コラボレーションは、現代のビジネスにおける喫緊の課題を多数解決する手立てですが、優秀な人を疲弊させては意味がありません。リーダーは適切な種類のコラボレーション型業務を認識・促進し、うまく配分する方法を身につけなければならないのです。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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