Deep Skill ディープ・スキル――組織と人を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」
石川明
ダイヤモンド社
本書の要約
世の中の”不”を解消することで、顧客から支持されるビジネスモデルを生み出せます。ビジネスパーソンは「専門性」を高める必要がありますが、顧客を自ら遠ざけることで専門性のパラドックスに陥ることがあります。それを避けるために、「顧客との距離を縮める」、「他者の視点を取り入れる」ことを意識しましょう。
まずは顧客の「不」を発見し、それを解決しよう!
ビジネスにおいて何よりも大事なのは、まず「人はどんな”不”を抱えているのか?」を的確につかみ取ることにほかならないということです。 「どんな人が」「どんな場面で」「どんな”不”を感じているか」に思いを馳せ、「どうすれば、その”不”を解消できるか」を考え抜く。その「不」が的を射たものであれば、必ず興味を示すユーザーは現れます。そして、ユーザーの反応を見ながら、ビジネスの形に修正を加え続けることによって、結果として、その企業にとって最適な「ビジネスモデル」は生み出されるのです。(石川明)
Deep Skill ディープ・スキル――組織と人を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」の書評ブログを続けます。著者の石川明氏は「世の中の”不”を解消して、お客さまに喜ばれることで、その対価をいただくこと」と定義します。 世の中には、不平、不満、不安などさまざまな「不」が存在します。製品やサービスを企業が提供することを通して、これらの「不」を解消することこそがビジネスの「本質」です。
「世の中の”不”を解消」するための方法について試行錯誤を重ねるなかで、結果としてビジネスモデルが生み出されます。 例えば、ユニクロは「企画・計画・生産・物流・販売までのプロセスを一貫して行うビジネスモデル」でアパレル業界に革命を起こしました。良質なバリューチェーンを構築し、消費者と製造現場の距離を縮めることで、店頭の需要をいち早く製造現場にフィードバックし、 適時・安価に顧客ニーズに即した製品を店頭に並べることに成功しました。
ユニクロは「カジュアル服は割高」「安売りされている洋服はセンスが悪い」という顧客が感じていた「不」を解消することを追求し、試行錯誤を重ねることで、ユニクロらしいイノベーティブなビジネスモデル」を生み出したのです。
逆に、そうした土台なしに、どんなに精緻な「ビジネスモデル」を構想しても、ビジネスは脆くも崩れ去ってしまいます。
すべては、「人はどんな”不”を抱えているか?」をつかみ取ることから始まるのです。 そのためには、人の気持ちに思いを寄せ、深く洞察し、心の微細な襞までも理解することができなければなりません。私たちビジネスパーソンに求められている最も根おもんぱか源的な能力は、「人の気持ちを慮る」ということなのです。
そのためにビジネスパーソンは日頃からどう行動すればよいのでしょうか?多くの人は専門性を高めることを考えますが、それだけでは「専門性のパラドックス」に陥ります。
「専門性」のパラドックスに陥らない方法
「専門性」を高めれば高めるほど、ビジネスの「本質」から遠ざかるリスクも高まってしまう。このパラドックスを常に意識しておかなければ、せっかく磨いた「専門性」が”宝の持ち腐れ”になってしまう、いや、時にはビジネスを損ねる原因にすらなりかねないのです。
ビジネスパーソンは、それぞれの”持ち場”で「専門性」を高める必要がありますが、その結果、「お客さま=普通の人々」から遊離した存在になってしまうことがあります。しかし、「専門家」にとって”当たり前”のことが、「普通の人々」にとっては難しいということが見えなくなってしまうのです。その結果、「普通の人々」にとって使いづらい機能を追加したり、インターフェイスをつくり上げてしまいます。マーケティングでもついつい難しい専門用語を使うことで、顧客を自ら遠ざけている企業が多く見られます。
「専門性」をもつ者同士、同質的なコミュニティを形成する傾向が強く、専門性を助長します。「共通の関心事」をもつ専門家が集まり、その閉じた世界でコミュニケーションを行うことで、顧客との距離が離れてしまいます。専門家同士で切磋琢磨することで、さらに「専門性」を高めることができる一方で、より一層、「普通の人々」の気持ちや感覚から遠ざかってしまい、つまらないサービスやプロダクトを生み出します。
それを避けるためには、お客さまと直接触れ合う機会をできるだけ多くつくることが大切です。お客さまの気持ちに寄り添うためには、直接お客さまとコミュニケーションを取るべきです。お客さまと直接触れ合うことに努めるのは、ビジネスパーソンが「お客さまに喜んでいただく仕事」をするためには当たり前のことなのです。
また、「普通の人」の「普通の生活」を日々実践することも重要です。普通の生活を送る顧客の「気持ち」や「感情」をイキイキと感じることができれば、生活の中の「不」を発見できるようになります。
著者は「人はどんな”不”を感じているか?」をつかみ取るためには、徹底的にミクロで考えるべきだと言います。「特定の誰か」を想定しながら、その人が「どのような”不”を」「どんなシチュエーションで」「どのくらいの頻度で」感 じるのかを徹底的に掘り下げていきます。
「属性の違う人々」と幅広く付き合うことも重要です。多様なコミュニティに属し、自分とは異なる生活者とのコミュニケーションをしながら、相手がが日頃感じている「不」にアンテナを立てるのです。
「専門性」のパラドックスに陥らないためには、「専門性」を高める努力をする一方で、自分の「感情」を大切にし、さまざまな属性の人々と「感情」を通わせる経験を積むことが大切です。そのためには、ぜひ外に出て普通の「感情」に触れる機会を増やしていくといいでしょう。片手に「専門性」、片手に「感情」。この2つを兼ね備えることが、ビジネスパーソンとして「面白い仕事」をするうえで、欠かすことのできない「ディープ・スキル」なのです。
他者の脳を借りることで、自分よがりのアイデアを修正できます。自分の考えていることや、頭の中にあることをさらけ出し、他者からフィードバックをもらうことによって、新たな「視点」が手に入ります。
専門家という存在になっても、ひとりで問題を抱え込むのをやめましょう。周囲の仲間やプロフェッショナルに 「壁打ち」をお願いするのです。
私は独立し、社外取締役になったときに、経営について自分が何も知らないことに愕然としました。マーケティングの知識だけでは生き残れないと感じた当時の私は必死に学びました。上場を目指す取締役として不足している知識やスキルを得るために、大量の本を読み、周りの士業やプロフェッショナルな方々との交流を通じて、自分のスキルアップを目指しました。当時の学びやネットワーク拡大が、今の私の資産になっています。
「集合天才」という考えをご存知でしょうか?一人の天才の出現に頼らず、組織のメンバーの才能を集めることでよい結果を出そうという考え方で、GEやGoogleが採用しているメソッドです。日本でもコンサルタント会社のチームエルがこの考えを導入し、組織力を強化し、成長を続けています。
以下、同社のサイトから集合天才について引用します。
一人一人が「自分の力だけでできることには限界がある」という考え方にたち、個々の専門分野を持った人間が自分の経験を人に教えてあげ、他人の経験を教えてもらい、一人一人の経験を全体の経験にしていく。 100人いれば、自分は 100人分の経験と100人分の知識を持って仕事をできる。そうすれば、素晴らしいことが実現できる。 私たち一人一人の力は大きなことを成すには無力である。しかし、「個人の経験を全体のものとし、全体の経験を個人に結集する」というやり方で事に当たれば、天才以上のことも成し遂げられるのである。凡人が集まって天才でなければできないことを成し遂げる。これが「集合天才」の概念です。
イノベーションを継続的に生み出すためには、異能の掛け合わせが欠かせません。顧客の「不」を解決するという自社のビジョンを実現するために、Biz、Tech、Creativeなどの多様な人材を集め、解決策を共に考えることで、よいサービスやプロダクトが生まれます。
私も顧問先のプロジェクトごとに集合天才を集め、さまざまな視点を取り入れ、解決策を考えるようにしています。世の中の課題が複雑になる中で、一人のプロフェショナルだけで問題を解決することが難しくなっています。
集合天才を揃えることもビジネスパーソンの重要なディープスキルになっています。
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