Your Time ユア・タイム 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術(鈴木祐)の書評

time lapse photography of stars

Your Time ユア・タイム 4063の科学データで導き出した、あなたの人生を変える最後の時間術
鈴木祐
河出書房新社

本書の要約

心に本当の余裕を持たせたければ、時計の針に耳を傾けるべきときと、それを無視すべきときを意識し、使い分けることがポイントになります。時計を意識した「クロックタイム」と出来事にフォーカスし時間を気にしない「イベントタイム」を上手に切り替えことができれば、心に本当の余裕が生まれ始めます。

時間術の常識を捨てることが重要な理由

万人に効果がある時間術は、いまだひとつも見つかっていない。(鈴木祐)

時間に関するティップスや常識を一旦私たちは捨てた方がよさそうです。科学ジャーナリストの鈴木祐氏は4063の科学データから、すべての人に効果のある時間術などないことを発見します。

著者は本書の冒頭で、時間に関する3つの提言を行い、自分に合った時間感覚を身につけ、時間を有効活用すべきだと述べています。

1、私たちが本当に気にすべきは、時間ではなく〝時間感覚〟である
2、時間は平等だが、〝時間感覚〟には個体差がある
3、個体差に合わせて〝時間感覚〟さえ書きかえれば、あなたは時間を有効に使えるようになる

脳が持つ確率の計算機能を考慮し、著者は過去と未来を定義 します。
◉未来=いまの状態の次に起きる確率が高い変化を、脳が「予期」したもの
◉過去=いまの状態の前に発生した確率が高い変化を、脳が「想起」したもの

私たちは、世界のあらゆる変化を「予期と想起」の2軸で受け止め、それを主観的な時間の流れとして解釈しています。さらに、客観的な時間の管理には限界があるのだから、あとは私たちの意識の内側における時間、すなわち「予期と想起」を調整していくしかありません。

著者によると時間には個体差があるため、その人にあったやり方を考えるべきですが、以下の予期と想起のフレームワークを使った方がよいと言います。
1、予期にずれがある=以降に起きることへの確率の見積りが甘い
2、想起にずれがある=以前に起きたことへの確率の見積りが甘い  

スタンフォード大学で予期の調査を行ったところ、予期の現実感が濃い人ほど金融資産額が多いことがわかりました。10年後の自分を「わたくしごと」としてとらえることが可能な人は、10年後の自分を大事にすることができ、資産を増やすために自分をコントロールできます 逆に予期の現実感が薄いと、私たちは将来の自分を「見知らぬ他人」と同じように扱い、時間を無駄遣いします。

予期に現実感がある人は、生産性が高いこともわかっています。彼らは将来の自分を喜ばせるために、現在の欲求を犠牲にすることで、結果を出しています。
・テスト勉強のためにゲームをひかえる。  
・会議資料作成のために飲み会を断る。  
・早朝会議のために配信ドラマを観ずに寝る。  
これらの行為が成り立つのは、あくまで予期のイメージに現実味を感じられるからこそです。

私は将来のイメージから逆算し、行動すること、重要タスクを優先し、やらないことを決めることで結果を出せるようになりました。大好きだったお酒をやめられたのも10年後の理想の自分をイメージし、自分を律することを決めたからです。

本書の「デイリー・メトリクス」が秀逸なので紹介します。このメソッドは、数ヶ月から数年はかかるような長いプロジェクトを、月単位や年単位ではなく「日単位」で考える技法です。

ミシガン大学などのチームが行ったテストでは、参加者に「リタイア後の生活資金を貯めるには、いつごろから貯蓄を始めればよいと思いますか?」と質問しました。その際、参加者の半数には「30年後に退職した自分」を、残り半数には「1万950日後に退職した自分」をイメージさせました。その結果、ゴールを「日単位」で考えた参加者は、「年単位」よりも4倍も早めに貯蓄を始めようと考えたのです。 

デイリー・メトリクスを活用し、ゴールを日単位で設定し、ワクワクなイメージを持って、具体的なプランを立てることで成功する確率が高まります。あとは小さなアクションを起こし、それを習慣化することです。

時間への感覚を変えて、心に余裕を持たせる方法

私たちが感じる「明日」とは、「昨日の自分」を未来に外挿したメンタルモデルにほかなりません。次の1秒が過ぎるあいだにも、人間の脳は過去の想起から未来の「1秒」を作り上げ、これを時間の経過としてあなたに体験させています。そのため、想起がずれた人ほど時間の流れを誤認し、時間をうまく使えなくなってしまうわけです。

脳科学者のデミス・ハサビスによると過去の体験を記憶するのが不得意な人ほど未来を思い描くのが苦手で、そのせいで時間の感覚に狂いが生じることがわかっています。過去の正しい想起がなければ、未来をデザインすることも難しくなります。

課題を始める前に、同じようなタスクを想起し、かかった時間を見積り、行動計画に落とすことで、生産性を高められます。

「コピー・プロンプト」は、ペンシルバニア大学ウォートン校の研究チームが提唱する時間術です。同大学は1028人の男女を対象に検証を行い、コピー・プロンプトを使ったグループは、「毎日エクササイズをする」という目標の達成率が大きく上がり、時間の使い方もうまくなったと報告しています。

コピー・プロンプトは、以下のように行います。
①の自分が「もっと時間をうまく使いたい」と思うタスクをひとつだけピックアップする。
②そのタスクを、うまくやり遂げている知人や友人を探す。
③最低でも2日間をかけて、その知人や友人たちが、どのようにタスクをこなしているのかを調査する。または、その知人や友人に、どんな手法を使っているのかを尋ねる。
④知人や友人が使っている手法を、自分でも真似してみる。

他人のやり方をコピーすることで、自分の時間の使い方を変えられます。私もこのブログをスタートする前に、有名ブロガーから記事の書き方を学び、そのやり方を真似しました。他者から学んだ方法を真似することで、想起のずれに邪魔されず、本来の目的に向かって進むことが可能になります。何かをスタートする際には、まず自分よりもうまく目標をこなしている人を探して、その方法を真似ることで、結果を出せるようになります。

このブログでもお馴染みの「マイクロサクセス」(日々の小さな成功)の効果も、本書では紹介されています。ヴィクトリア大学などが101人を対象に行った試験では、マイクロ・サクセスに意識を向けながら暮らしたグループは、人生の満足感の増加、抑うつ症状の軽減などの変化が確認されたと言います。

イェール大学などの研究でも、定期的にマイクロ・サクセスに目を向けたグループはポジティブな感情が増え、ネガティブな人ほど作業パフォーマンスが向上しています。私も小さな成功体験を積み上げることで、断酒、感謝日記やこのブログを習慣化できました。

生産性が高い人には、仕事が集中し、時間にますます追われるようになります。生きがいを持つことで、どの仕事をやると幸せになれるかが見つかります。本当に自分がやりたいことを行うことで、充実した時間を過ごせ、幸福度も高められます。

生きがいは以下の4つの重なり合った部分から生まれます。
①自分が楽しいこと
あなたがいくらやっても飽きず、やればやるほど元気が出るような活動のことです。

②世間が必要とすること
身の回りの人や世間一般が求めるようなニーズがあるかどうかを意味します。

③世間から金銭がもらえること
その活動やスキルにより、誰かから金銭をもらえるかどうかを意味します。

④自分が得意なこと
あなたが特に苦労を感じずに、他人よりもうまくできる活動を意味します。

私も経営者の成長を支援することを自分のパーパス・生きがいにしたおかげで、幸せな時間を過ごせるようになりました。

毎日いつも同じようなタスクをこなしている場合は、いつまでも印象的な想起が脳内に溜まっていきません。その結果、脳は「たいした時間は使っていないだろう」と判断し、時間が速く過ぎたかのような感覚をあなたに与えます。

この状態を避けるためには、退屈な時間を増やすことです。脳が退屈に慣れると、で外部の刺激への閾値が下がり、いつもは見過ごしていた情報に、興味を持てるようになります。退屈が脳の感受性をアップデートしたおかげで、小さなデータが「印象的な想起」として蓄積されやすくなるのです。

ジェニファー・ロバーツは「減速は前向きなプロセスだ」と指摘します。
情報にあふれた現代では、コンテンツの一部しか楽しめていないことが多いのです。最近流行りの倍速視聴やビジネス本の速読だけでは、コンテンツに細部にある重要なことを見逃してしまいます。

この問題をクリアするためには、手軽な情報処理をやめて、戦略的に行動のスピードを落とし、退屈な時間にあえて身をさらすことが求められます。

心に本当の余裕を持たせたければ、時計の針に耳を傾けるべきときと、それを無視すべきときを意識し、使い分けることがポイントになります。時計を意識した「クロックタイム」と出来事にフォーカスし時間を気にしない「イベントタイム」を上手に切り替えことができれば、心に本当の余裕が生まれ始めます。


 

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