レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換 (ジェレミー・リフキン)の書評

blue and brown globe on persons hand

レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換
ジェレミー・リフキン
集英社

本書の要約

私たちがレジリエンスを高め、適応力を向上させることで、未来の世代によって「石炭紀の人々」としてではなく、地球環境を守るための革新的な変革を導いた世代として記憶してもらえます。一人ひとりが行動を変えることで、地球を破壊した世代ではなく、地球を愛する世代として歴史に名を残すことができるのです。

地球との共存を目指すレジリエンスの時代とは?

「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」への大変革は、私たちの種が周囲の世界を認識する方法の、大規模な哲学的・心理的再調整を、すでに引き起こしている。この変革の根本にあるのが、私たちの時間的志向と空間的志向の全面的な転換だ。 「進歩の時代」を終始導いてきた根本的な時間的志向は「効率」だった。すなわち、天然資源の収奪と消費と廃棄を最適化し、それによってより速く、より短い時間で、社会の物質的豊かさを増すことの追求だ。ただしそれには、自然そのものを枯渇させるという犠牲が伴うのだが。(ジェレミー・リフキン)

再野生化する地球で、環境との共存を目指す私たち人類は、経済、政治、社会のパラダイムシフトを迎える必要があります。長い間「進歩の時代」に身を置いてきた私たちは、地球の資源を無尽蔵に採取・消費してきました。

効率の追求が私たちに数多くの利益をもたらしてきた一方で、それは同時に自然界への大きな負担となっていることは否めません。大量生産・大量消費の文化は、過剰な資源の消費や増加する廃棄物という問題を生んでいます。そして、経済成長を優先するあまり、環境や生態系が犠牲にされるケースも少なくありません。

これからの私たちの課題は、時間や社会のペースを再評価し、よりバランスの取れた方法を模索することです。効率という一つの価値だけに囚われず、持続可能性や環境保全の重要性を等しく認識し、行動に移す必要があります。今こそ、新しい共存の時代への移行が求められています。

経済社会理論家のジェレミー・リフキンはこれからの時代を「レジリエンスの時代」と呼び、人間が自然と共生する新たな世界の到来を示唆しています。彼はこの時代の設計図として、本書で人類が取り得る新しい選択肢を示しています。 リフキンの提案には、資本主義を超えた新たな経済モデルや、持続可能性を核に据えた政治・社会の再構築が含まれています。ただの発展や利益追求から、地球との調和を重視したシステムへの移行が求められています。

効率が時間的な価値であるのにひきかえ、レジリエンスは状態だ。たしかに効率を高めればレジリエンスを損なうことが多いが、その対抗策の役割を果たす時間的価値は、さらなる効率化ではなく適応力なのだ。

今までの「進歩の時代(化石燃料の時代)」は、時間と効率を同調させながら進んできました。ところが、「レジリエンスの時代」では、適応力が重要になっていきます。ただ効率を追い求める時間的視野から、変わりゆく状況に柔軟に対応する適応力を中心とする視野への移行が必要です。

この適応力が、暴走し再野生化する地球での共存の「通行証」となるのです。 私たちは、長い間、自然を利用・搾取する形で生活してきました。しかし、人類が生き延びるためには、マインドセットを変える必要があります。地球の生態系や環境との調和と共生のための新しい思考や行動が求められる時代となっています。

レジリエンスの時代は、不確実性が高まり予測が難しくなる中、人間の振る舞いや価値感を再考する、新しいターニングポイントとなると著者は指摘します。今まさに起こり始めている再編は、経済生活と社会生活の営み方や、その測定・評価法にまつわる他の根深い思い込みに対して、すでに影響を及ぼしています。

効率から適応力への転換は、以下のように各領域で変化し始めているのです。
・生産性から再生性へ
・成長から繁栄へ
・所有からアクセスへ
・売り手と買い手の市場からプロバイダーとユーザーのネットワークへ
・直線的なプロセスからサイバネティックなプロセスへ
・垂直統合型の「規模の経済」から水平統合型の「規模の経済」へ
・中央集中型の価値連鎖から分散型のバリューチェーンへ
・複合企業から、流動的なコモンズでブロックチェーン化された、柔軟でハイテクの中小規模の協同組合へ
・知的財産権からオープンソースとしての知識の共有へ
・ゼロサム・ゲームからネットワーク効果へ
・グローバル化からグローカル化へ
・消費主義から生態系の保全と管理へ
・国内総生産(GDP)から「生活の質の指標(QLI)」へ
・「負の外部性」からサーキュラリティ(循環性)へ
・地政学から生物圏政治へ

私たちの種が「進歩の時代」から「レジリエンスの時代」へ移行する過程は、まだ始まったばかりの歴史的な転換期です。この変化の背後には、地球の持つ途方もない生命力と進化があります。私たちは、地球の変化に即応する能力を持つ必要があります。繁栄の鍵は、自然の回復力を理解し、尊重することにあります。

「レジリエンスの時代」への移行する中で、政治形態も変化します。「バイオリージョン統治」はその代表的な例で、従来の政治的な境界線を超えて、生態的につながる地域での新しい統治方法を提案しています。なぜこのような方法が必要かというと、自然界は私たちが描く国の境界にとらわれず動いているからです。

例えば、洪水や森林火災、干ばつなどの対策、そして絶滅危惧種の保護活動などは、複数の地域が協力して取り組むべき課題となっています。 大災害が発生した際に、国や地方自治体だけの力では解決が難しいことがあります。そんなとき、地域住民やコミュニティの手を借りて対応することが大切です。

このような場面で役立つのが「対等者(ピア)議会」で、これは住民が主体となって意見や提案を行う新しい形の議会です。バイオリージョン統治の考えのもと、従来の中央集権的な政治スタイルは、より分散して民の声を取り入れる「ピアオクラシー(ピア政治」に移行していくと著者は指摘します。

この大きな変革の始まりは、私たち個々の意識の中から始まるものです。私たち一人ひとりが、自然との深いつながりを再確認し、持続可能な生き方を探求することで、より良い未来を築くための第一歩を踏み出すことができるのです。

石炭紀の人々と記憶されないために、適応力を鍛えよう!

巨大な危機が2つある。パンデミックと気候の温暖化だ。グローバルなパンデミックは、大規模化しながらしだいに短い間隔で発生するようになっている。加速する気候の温暖化は、私たちの種を同胞の生き物たちもろとも6度目の大量絶滅へと向かわせている。

この化石燃料の時代を「進歩の時代」と名付けることができるかもしれませんが、未来の人々が私たちをどう見るかは一つの大きな疑問です。もしかすると、彼らは私たちを「石炭紀の人々」として見るかもしれないと著者は述べています。

化石燃料の発見は、産業革命から現代にかけての経済成長のカギとなりました。私たちはそのエネルギーを利用し、都市を築き、技術を進化させ、世界中で交流を増やしてきました。しかし、その繁栄の背後には大きな代償がありました。わずか200年という短い時間で、私たちは地球上の大量のエネルギーを使い果たし、それと同時に大気中に温室効果ガスを大量に放出したのです。

時計や印刷、通信、インターネットといったテクノロジーの進展によって、人類は新たな時間と空間の認識を得ました。これらの技術がもたらす情報の拡散は、数百年という短い時間で地球の隅々に影響を及ぼしました。私たちが住むこの地球上の多様な要素、それを構成する地球化学的、物理学的、生物学的なプロセスを、私たちは部分的に所有し、操る力を手に入れました。

地球の生命力は、水圏、岩石圏、大気圏、生物圏という主要な4つの圏の相互作用によって維持されています。この4つの圏は、地球上のあらゆる生物にとって重要な役割を果たしています。特に、生物圏は最も広範囲に及ぶ層で、地表から19㎞の高さまでを覆っています。生物圏は、水圏、岩石圏、大気圏が連携して、生命の繁栄を支えています。

しかし、私たち人類はこれらの価値ある圏を自らの利益のために操作し、変化させてきました。効率と商業性を追求する中で、地球が長い時間をかけて築き上げたバランスを崩してしまったのです。私たちの行動が環境問題や気候変動を引き起こしていることは明らかです。

例えば、水圏では海洋汚染や過剰な漁獲によって生態系が破壊され、多くの生物が絶滅の危機に瀕しています。さらに、岩石圏においては、農業や放牧が土壌を劣化させています。鉱山開発や森林破壊による大規模な土地利用によって生態系が破壊され、生物多様性の喪失が進んでいます。熱帯林が消失することで、温暖化が進行しているのです。

これらの環境問題は、私たちが地球とその生態系と共に生きるという原則を見失った結果と言えます。私たちは、地球の資源を過剰に消費し、環境への負荷を増やすことで自らの利益を追求してきました。しかし、その結果として私たちは環境問題に直面し、自らが生きる環境を守ることが難しくなっています。

新型コロナウイルスのパンデミックや今まで経験したことのないような異常気象は、多くが人間の手による影響を受けているのです。私たちはこの進化の時代の負の遺産を真摯に受け止めるべきです。

地球温暖化のリスクと現実は、一時的な現象ではないからだ。気候変動を防ごうとする人類の集団的な努力はすべて、少なくともこれまでのところ、おおむね徒労に終わっている。そして今、地球の死滅はもはやありえないことではない、と科学界は私たちに警告している。人類は、温室効果ガスの排出削減に向けて努力し続ける必要があると同時に、温暖化する気候によってもたらされる実存的変化に絶えず適応する方法を見つけなくてはならない。

レジリエンスを持つ社会の構築は、今後の人類が直面するさまざまな課題を乗り越える上で、極めて重要な要素となるかもしれません。レジリエンスとは、あらゆる困難や変動に対し、適切に対処し、迅速に回復する能力を指します。

私たちは、これまでの常識や常態から離れ、新たな時代に適応し、さらには繁栄する方法を模索しなければなりません。 私たちの先祖、狩猟採集民もまた、その時代特有の困難な環境下での生存を求められました。彼らは氷河期や環境の変動といった、我々現代人にとって想像を超えるような困難な状況にも順応し、生き延びるための知恵や戦略を身につけました。その経験は、私たち現代人にも有益な教訓となりうるでしょう。

最近の科学的研究からも、私たちの祖先のホモ・サピエンスが、変化や逆境に対する類い希なる適応力を持っていたことが分かっています。この適応力こそが、人類が長きに渡り生き残ってきた秘密であり、私たちがこれからも未来を切り拓いていくための鍵となるのです。極端な気候変動やその他の環境変化の中で、私たちが存続してきたのは、私たちの持つ独特の創造力と適応力、そしてコミュニケーション能力によるものです。

激しく変化する気候様式への人間の適応力は、私たちの強みだ。そのおかげで私たちは地球上でも有数のレジリエンスを持つ種となった。これはことによると、今の時代に最も心強い情報かもしれず、「レジリエンスの時代」の幕開けに、喜んでそれを認め、受け容れるべきなのかもしれない――。

私たちにはまだ未来を変える力があります。持続可能なエネルギーの導入、再生可能資源の利用、エコロジカルな生活スタイルの普及など私たちの挑戦は、この地球とその未来の生命を守ることです。

今後のインフラのあらゆる面でレジリエンスが組み込まれるべきです。壊滅的な森林火災か洪水かハリケーンで全国や地方の電力供給網と携帯電話基地局の一部が停止し、何百万もの人がコンピューターもスマートフォンも使えなくなった場合に、レジリエンスが効果を発揮します。

甚大な災害が発生した場合、家庭や地元の企業や店舗、近隣地域、地方自治体は、中央の電力供給網から切り離され、コンピューターやスマートフォンの使用が制限されることになります。

その場合、家庭やオフィスや工場などの建物内や近辺、または近隣地域や野原に設置された太陽光発電と風力発電のマイクロ送電網が活用されます。これにより、再生可能エネルギーを利用して電力を供給することが可能となります。さらに、このマイクロ送電網は、ネットワークとして再び一体化し、地域や全国の供給網が再稼働するまで、電気の供給を維持することができます。

このようなシステムの導入により、外部との途切れない接続を確保でき、コンピューターやスマートフォンの電源が確保されるため、情報の受け渡しやコミュニケーションが継続できます。また、地域や全国の供給網が再稼働するまでの間、電力の供給も維持されるため、生活やビジネスの継続も可能となり、リスクヘッジができます。

IoTは、地球の様々な環境や条件を監視するためのセンサーやデバイスが相互に連携する技術になり、地球の「感覚器」とも言えるものです。これらのセンサーは、水圏、岩石圏、大気圏、生物圏といった地球の主要な領域の変化や動きをリアルタイムでキャッチし、情報を集めてくれます。

このIoTの力により、地球のあらゆる場所で起こっている微細な変化も逃さずに把握することが可能となりました。地球のどれか一つの圏での変動は、他の圏や生物、そして私たち人間にも影響を及ぼすというのが、今日の科学的な認識となっています。

IoTは地球の健康を監視するための重要なツールとなっており、私たち人類にとっての新たな「神経系」とも言える存在となっているのです。また、テクノロジーが進化することで、農村が見直されます。クリーンエネルギーの普及がそれを後押しするはずです。 

気候変動と、パンデミックの増加が教えてくれたとおり、私たちがこの世界ですることのいっさいが他のすべてに直接影響を与える。その逆もまた然り、だ。人間は誰一人として自分だけの島ではなく、自律的な主体として世界に働きかける存在でもなく、命ある他のあらゆる主体と、地球の各圏の動的な関係とに頼って存在していることを、私たちは自覚するようになった。

私たちの日常の小さな選択が、地球の明日を形成します。省エネや再生可能エネルギーの活用、こうした選択は環境にやさしい未来へのステップとなります。また、これにとどまらず、地域の取り組み、国の政策、国際的な連携も環境保護の鍵を握っています。

最新のIoT技術や発電技術の進歩、そして適応能力や共感、そして若者の情熱。これらを組み合わせることで、私たちはレジリエンスをさらに高めることができます。 私たちが暮らす美しい地球は、様々な生命とともに輝いています。私たちの行動一つ一つが、他の生命や環境に影響を与えるので、常にその意識を持ちつつ、持続可能な未来を追求する努力をしましょう。

私たちがレジリエンスを強化し、適応力を向上させることで、未来の世代から「石炭紀の人々」としてではなく、地球環境を守ったイノベーティブな変革を牽引した世代として、振り返ってもらえます。一人ひとりが行動を変えることで、地球を破壊した世代ではなく、地球を愛した世代として歴史に名を刻むことができます。

ジェレミー・リフキンの深い洞察と幅広い知識に触れることで、多くの学びを得られます。今年最も面白かった一冊で、知的好奇心のある方におすすめです。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
徳本昌大 Amazonページ >
 

徳本昌大をフォローする
文化SX哲学リーダーパーパス習慣化書評生産性向上ブログアイデアクリエイティビティマーケティングライフハック
スポンサーリンク
徳本昌大をフォローする
Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました