残酷すぎる幸せとお金の経済学
佐藤一磨
プレジデント社
残酷すぎる幸せとお金の経済学(佐藤一磨)の要約
幸せになるために必要なことは、人間関係、健康、仕事(お金)になります。年収が75,000$を超えると幸福度は上がらないと言われていましたが、最近の研究でこれが間違っていることが明らかになりました。幸福度に影響する4つの主要な要因は、健康状態の悪化、失業、パートナーとの離別、そして社会からの孤独・孤立です。
幸せになるために必要なこと
じつは、日本は世界的に見ても男女間の幸せの格差が大きい国です。幸せに関して言えば女性優位だと言えるでしょう。しかも、直近の20年間で男性の幸せの水準は低下傾向にあるため、「幸せの男女間格差」は拡大しつつあります。(佐藤一磨)
「幸せ」は人によっても感じ方が違う主観的、抽象的な概念なので、かつては哲学や倫理学、心理学の研究対象でした。しかし、近年は新たな分析手法が次々に開発されて、経済学の観点から新たな研究結果がこの30年間に次々と発表されています。
本書では、夫婦関係、子育て、兄弟関係、離婚、出世、学歴、お金など、私たちが日常生活で直面する様々なテーマについて、経済学の理論を用いて解説しています。その結果、以下のような驚くべき事実が明らかになったのです。
日本における幸せな女性の特徴は、「未婚」よりも「既婚」、「共働き」よりも「専業主婦」、そして「子あり」よりも「子なし」である。
幸せの研究では、子なし女性と子持ち女性の幸福度の比較が行われました。その結果、日本では子持ち女性のほうが幸福度が低いことがわかりました。これは、子育てに伴う負担やストレスが影響している可能性があります。子供の存在は喜びや成長の機会でもありますが、同時に責任や制約も伴います。子育ての負担が大きいために、幸福度が下がってしまうのです。
日本での調査によると、子どもがいる女性は子どもがいない女性に比べて生活満足度が低い傾向にあることが分かっています。さらに、子どもの数が増えるにつれて、女性の生活満足度は一層低下するという結果が出ています。特に、子どもが思春期に入ると、女性の満足度は最も低くなるとされています。
この現象の背景には、金銭的な負担、夫婦関係の悪化、家事や育児の重圧があると考えられます。日本では、第1子を出産した直後に夫婦関係が急激に悪化する傾向があり、これが第2子出産の障害になっていると指摘されています。このような状況は、女性の生活満足度に大きな影響を及ぼしていると考えられます。
また、専業主婦と妻が管理職の夫の幸福度の比較も行われました。ここでも、妻が管理職の夫のほうが幸福度が低いことが明らかになりました。これは、キャリアや社会的な成功に対するプレッシャーや責任が関与している可能性があります。一方で、専業主婦として家庭に専念することによる充実感や安定感もあるかもしれません。
さらに、夫は妻より幸せになれないという結果もあります。これは、男性の社会的な役割や期待によるものかもしれません。男性は家族の経済的な支えとしての責任を感じる一方で、自身の幸福度を追求することが難しいとされています。
人生の「幸せのどん底」は48.3歳でやって来るという結果もあります。これは、中年期における様々なストレスや不安が幸福度に影響を与える可能性があることを示しています。中年期はキャリアや家庭の安定を求める時期であり、その達成度や自己評価によって幸福度が変化すると考えられます。
さらに、経済成長が子どもの幸福度に与える影響も研究されました。
経済成長が進むと、子供の幸福度は大幅に下がるという結果が得られました。経済成長は子どもの幸せに必ずしもつながっていません。経済成長が子どもに多くの恩恵をもたらすことは間違いないのですが、その社会で豊かな生活を維持していくためには勉学にさく時間を増大させる必要があり、それが子どもたちの幸福度を低下させてしまうと考えられます。これは、国が豊かになったがゆえに出てくる新たな課題だと言えるでしょう。
これは、社会的な競争や物質的な豊かさが子供の幸福度に対する負の影響をもたらす可能性があることを示しています。
年収が75,000ドルを超えると幸福度は上がらないことが長年通説になっていましたが、最近の研究でこれが間違っていることが明らかになりました。
2023年に、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのマシュー・キリングスワース上級研究員、バーバラ・メラーズ教授と共に、ダニエル・カーネマン名誉教授は新たな研究を発表しました。この研究では、アメリカの働く居住者33,391人を対象に、年収と幸福度の関係に焦点を当てました。
その結果、年収が75,000ドルを超えると幸福度がさらに伸び続けることが示されました。特に、年収が高いグループでは、年収の増加に伴い幸福度が加速度的に上昇する傾向が見られました。この研究は、幸福度が低いグループと高いグループを分けて分析することで、新たな発見に至りました。この結果は、「高い収入がより大きな幸福をもたらす可能性がある」ということを示唆しています。
幸せの決定条件とは?
人間関係、健康、仕事は、まさに私たちのふだんの生活そのものであり、目新しさはありません。しかし、そのふだんの生活の中にこそ、私たちの幸せがある、と言えるでしょう。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのポール・ドーラン教授が発表したサーベイ論文「われわれは、何が自分たちを幸せにしてくれるのかを本当に知っているのだろうか?」では、幸福度を大きく低下させる4つの主要な要因について言及しています。
これらは健康状態の悪化、失業、パートナーとの離別、そして社会からの孤独・孤立です。 健康の悪化や失業は、日常生活に支障をきたし、社会的地位や経済的安定を失わせることで幸福度を低下させます。パートナーとの離別は深い喪失感を引き起こし、幸せを感じることを困難にします。また、孤独や社会的孤立は、人間関係の欠如により幸福感を感じにくくなる要因とされています。
これに対して、ハーバード大学のロバート・ウォールディンガー教授とブリンマー大学のマーク・シュルツ教授は、80年以上にわたるハーバード成人発達研究を基に、「心の通う人間関係が人生や老いのつらさから守る」と指摘しています。この研究は、人間関係が幸福度に特に大きなインパクトを持つことを示しており、健康や仕事と並ぶ重要な要素として位置付けられています。
現代社会における幸福感は、その社会環境に大きく影響されています。例えば、日本では専業主婦の既婚女性が働く既婚女性よりも高い幸福度を示しているのに対し、女性の社会進出が進んでいるヨーロッパ諸国では、働く既婚女性の方が専業主婦よりも幸せを感じていることが研究で明らかになっています。これは、女性が自分の能力を発揮して職業に就くことが経済的な報酬と幸福感をもたらす社会環境が整っているためと考えられます。
このように、社会の状況によって、同じ行動がもたらす幸福度の影響は異なります。日本も将来的には、働く既婚女性の幸福度が専業主婦を上回る可能性があると著者は指摘します。
また、子どもの有無に関わらず、幸福度が変化する可能性もあるということです。社会環境の変化に伴い、幸福感の基準や源泉も変わっていく可能性があることを示唆しています。
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