予測脳 Placebo Effect 最新科学が教える期待効果の力(カリン・イエンセン)の書評

person holding medication pills

予測脳 Placebo Effect 最新科学が教える期待効果の力
カリン・イエンセン
日経BP

本書の要約

期待効果は、現代社会における健康上の問題に大きな影響を与えていることが指摘されています。身体の機能は柔軟であり、期待感が痛みや肥満などの問題に影響することがあるため、期待効果を理解することは健康問題に対処するための手段を見つけることができる可能性があります。期待効果を活用することで、健康増進のための新しいアプローチを考えることができます。

病気を改善する期待効果とはなにか?

意識的であれ無意識的であれ、期待が私たちの生活でこれほど大きな役割を果たすことには、生存につながる深い理由がある。期待がなければこの世界はより困難なものになり、私たちは大きくて危険な金魚鉢の中で暮らす物覚えの悪い金魚のように、周囲の厳しい環境と対峙することになっただろう。自分の周囲の世界を理解し、次の曲がり角の先に何があるのかを予測する能力は、私たちの生存にとって極めて重要である。そして、治療から生じる期待効果もまたしかりだ。(カリン・イエンセン)

病気に対する期待効果は、医師を訪れるだけで気分が落ち着き、処方された薬を服用するだけで症状が改善することがあることを示しています。これらの効果は、病気に対する治療効果につながることが知られています。

脳は、生存を有利にするために常に少し先を予測しています。この予測や期待は、メンタルだけでなく、身体機能にも大きな影響を及ぼすことが分かっています。

「プラセボ」とは、薬効成分が含まれていない偽薬のことを指します。しかし、本物の薬と同様に、プラセボを服用すると、体がそれを本物の薬と認識し、症状の改善を引き起こすことがあります。これが「プラセボ効果」と呼ばれるもので、治療の成功に大きな影響を与えるとされています。プラセボ効果は医療分野だけでなく、スポーツや日常生活でも起きることがあります。

私たちはノンアルコールビールで酔っぱらったり、同じワインなのに「高い」と言われたほうにおいしさを感じたりすることがあります。 人間の選択や思考は、自分が思っているほど合理的ではなく、自分が何を信じるかに左右されます。自分の感覚器から得た情報と「信じていること」にかい離が生じたとき、脳はその差を縮めようとします。そして、場合によっては「自分の感覚」よりも「信じていること」を優先させ、プラセボ効果が生まれるのです。

実際、薬の治験では、本物の薬を投与したグループの治療効果が高い場合、プラセボを投与したグループの改善効果も大きくなることが知られています。同様に、脳の機能についても、本物の治療とプラセボは、治療を受けている人にある程度同じような改善効果をもたらすことがわかっています。

治療の成功には、患者だけでなく医療者の期待も重要な役割を果たします。スウェーデンのある研究では、長期病気休暇を取った5802人について調査を行い、医療従事者との関わり方が治療効果に与える影響を調べました。その結果、治療の種類に関係なく、ポジティブな医療従事者に出会った人は、仕事に早く復帰することができることが分かりました。

一方、ネガティブな医療従事者に出会った場合は、患者が苦痛を感じるだけでなく、社会にとっても大きな経済的損失となることがあります。こうした状況から、現在では期待効果が医学界に大きな影響を与えることが注目されています。

スタンフォード大学のアリア・クラムと研究チームは、健康的な食品に2種のラベルを貼ることで、人々の食習慣に期待効果があるかどうかを検証する追跡研究を実施しました。

米国のある大学では、学生食堂のメニューに野菜料理の説明を自由に変えることが許可されていました。そこで、野菜料理に「低カロリー」または「やみつきのおいしさ」という表記を加え、約2万8000人の学生がどのように選択するかを分析しました。

その結果、「やみつきのおいしさ」を選ぶ学生が多く、少し罪悪感を誘う表現にしたことで、野菜料理の総量は増加しました。つまり、食べ物の表現方法を工夫することで、学生たちは健康的な食事に変えることができたのです。この研究では、リバースサイコロジーという心理効果を応用し、人々に不健康な食事をしていると思わせることで、健康的な食事を促しました。

人々は合理的ではないため、健康的な食事をするためには、健康的な食品を理性的に訴えるよりも、不健康な食品に使われる表現(例えば「禁断の味」)を使って、健康的な食品への欲求を刺激する必要があるということが示唆されました。

アリア・クラムによると、私たちはメニューを見るときに、書かれていない情報を読み取っていると言います。例えば、メニューに「ヘルシー」と書かれていると、「それほどおいしくない」とか「お腹が満たされない」といった印象を持ちがちです。

このように、健康的な食事が味や満腹感の面で犠牲になっていると感じると、肥満や不健康な生活習慣が増える可能性があるということです。これらの矛盾は、人間が複雑な生き物であり、健康促進の効果を予測することが難しいことを物語っています。

期待効果は、現代社会が抱える健康上の問題に大きな影響を与えていると指摘されています。身体の機能は非常に柔軟であるため、痛みや肥満などの問題は、期待感が影響していることがあります。つまり、期待効果を理解することで、健康問題に対処するための手段を見つけることができる可能性があるということです。期待効果を活用することで、健康増進のための新しいアプローチを考えることができます。

期待効果の限界とは?

新型コロナウイルスのワクチンが実用化される前に、大規模なプラセボ対照試験が行われました。数千人の被験者にランダムに本物のワクチンまたはプラセボが投与され、その結果から「プラセボ・ワクチンは、新型コロナの感染を防ぐことはできない」という結論が得られました。

本物のワクチン接種群とプラセボ群の違いは非常に大きく、本物の接種群では95%の防御率が示されました。注射を受けた数日間は両群とも差がなかったが、約9日後には明確な違いが現れ、統計グラフが上下に分岐していきました。本物の接種群では新規感染者がほとんど確認されませんでしたが、プラセボ群では接種前と同じペースで新規感染者が増え続けました。

身体の免疫力を高める方法には瞑想が挙げられますが、それが新型コロナウイルス感染リスクに影響を与えるかは疑問が残ります。期待による身体機能の影響は限定されているため、新型コロナウイルスによる苦痛には期待効果は働きません。

また、期待による影響も限定されており、予防接種による期待がウイルスから身を守るほどの強い効果を発揮することは考えにくいです。ただ、副反応に関しては、本物のワクチン接種群もプラセボ群も同程度に疲労感、頭痛、下痢、筋肉痛などの症状が報告されたことから、ワクチン接種にはノセボ効果が働いたと考えられます。

この研究は、期待が神経系を介して身体の症状にどのような影響を与えるかを証明したことを示しています。さらに、ワクチン接種によって引き起こされるネガティブな反応の多くは、期待や身体的な症状に対する注意の増加に起因することが分かりました。

期待効果には限界がある。期待は病状を改善させることがあるが、プラセボ効果で深刻な病気を治すことはできない。精神・神経疾患など、症状の大部分が脳のプロセスによって大きな影響を受ける病気は、プラセボ治療が効く可能性はある。

期待効果には限界があることがわかってきました。期待によって、病状が改善することがある一方、深刻な病気をプラセボ治療で治すことはできません。病気の原因に直接影響を及ぼすことはできないため、期待効果だけで病気を治すことは不可能です。

ただし、精神・神経疾患などの病気では、脳のプロセスによって症状が大きく影響されるため、プラセボ治療が効く可能性があります。 しかし、自然に症状が改善しても治療による効果だと思い込んでしまうリスクがあるため、注意が必要です。逆に、治療によらない症状を治療の副作用だと思い込んでしまうこともあります。期待効果は、病気や治療に対する理解を深める上で重要な要素であると同時に、その限界も知る必要があると言えるでしょう。

新型コロナワクチン接種について、メディアは副反応を恐れて接種を躊躇する人々が増えていると報じています。しかし、ワクチン接種の事実に基づいた情報を伝えることが重要であり、プラセボ研究から得られる知見は、ワクチン接種に関する情報を理解し、評価する際に役立つことができます。 また、医師や医療従事者と患者の関係性についても重要です。これまでの研究では、医療従事者によって治療成績に違いがあることが明らかになっています。

しかし、この違いは、実験においてコントロールするのが非常に難しいため、研究が進んでいませんでした。しかし、最新の研究では、医師と患者の脳活動を測定し、相互作用がプラセボ効果にどのように影響するかを客観的に評価することに成功しています。これにより、薬の有効成分を超えた「特定されていない要素」を理解するためのヒントを得ることができるかもしれません。

患者と医療従事者の関係は、治療成績に大きな影響を与えることがわかっています。患者が医師や看護師と信頼関係を築けば、積極的に治療に取り組むことができます。

最近の研究により、プラセボによる治療効果が確認されました。治療においては、プラセボを含め、すべての要素を最大限に活用することが大切です。患者の病気の改善につながる可能性があるため、期待効果を含めた治療のアプローチが必要です。

期待効果を最大限に活用することで、治療の結果を改善することができます。そのため、患者にとって有益な治療を提供するには、期待効果を含めた治療のプログラムを設計することが必要です。治療プログラムは、患者の病気や症状に合わせて最適化されるべきであり、期待効果が治療の成績にどのように影響するかを考慮する必要があります。

治療において期待効果を最大限に生かすためには、治療を提供する医師や専門家が患者とコミュニケーションを取り、患者の期待や希望に対応することが大切です。したがって、期待効果を含めた治療プログラムをデザインすることが、治療の成功に欠かせない重要な要素であるといえます。

期待効果を理解することは、仕事や生活がより豊かになるだけでなく、健康管理にも役立ちます。期待効果について学ぶことで、私たちはより健康的な生活を送ることができるようになります。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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