努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学 (山根承子)の書評

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努力は仕組み化できる 自分も・他人も「やるべきこと」が無理なく続く努力の行動経済学
山根承子
日経BP

努力は仕組み化できる  (山根承子)の要約

人は「合理的であるべき」と考えつつも、衝動的に行動し、計画通りに進まないことが多いです。このズレを理解し克服することが、努力を持続させる鍵です。フィードバックやフィードフォワード、EASTのフレームワークなどの行動経済学の知見を活用することで、努力を仕組み化し、やりたいことを習慣化できるようになります。

努力とはなにか?行動経済学で努力を仕組み化しよう!

「今」コストを払って「将来」大きな報酬を手に入れるか、「今」ラクをする代わりに「将来」何も得られないか。その、「今」支払うコストのことを「努力」と呼んでいるのです。(山根承子)

「今度こそ、頑張ろう!」と心に誓ったのに、気がつくとその決意を忘れてしまっていた。そんな経験は誰にでもあるはずです。実は、努力の継続は才能や性格に関係なく、行動経済学を活用することで誰でも実現できると株式会社パパラカ研究所代表取締役社長の山根承子氏は指摘します。

私たちは、「今」コストを払って「将来」大きな報酬を手に入れるか、「今」ラクを選んで「将来」何も得られないか、常にその選択に迫られています。つまり、「今」支払うコストこそが、私たちが「努力」と呼んでいるものなのです。

この「努力」は、短期的には負担や苦労と感じることが多いかもしれませんが、行動経済学の視点では、将来の自分への投資として捉え直すことができます。 行動経済学は、理性と衝動の対立や人間の非合理的な行動パターンに注目し、従来の経済学を補完・発展させる学問です。

努力は単なる苦労ではなく、未来に向けての価値ある行動であり、そのための「コスト」を支払うことは、長期的な成功や成長に繋がるのです。この視点を持つことで、「今」行う努力の意味をより深く理解し、日々の行動に納得感を持たせることができます。

私たちは「合理的であるべき」と考える一方で、実際の行動は多くの場合衝動的で、意図通りに物事を進められないことが少なくありません。このズレを理解し、克服することが、努力を持続させるための鍵となります。

では、どうすれば努力を仕組み化できるのでしょうか?まず考えたいのは、人は何を「努力」と感じているのか、そして他者からはどのように努力が見られているのかということです。著者は、様々な行動経済学の理論をもとに、「努力が勝手に続く」ための4つの仕組みを提案しています。

①フィードバックで変化を目覚めさせる
努力の進捗や成果が目に見える形で把握できると、モチベーションが維持されやすくなります。目に見える形で進捗を確認できないと、たとえ頑張っていても途中で挫折してしまうことが多いのです。たとえば、ハビットトラッカーや日記を使って、自分の努力を視覚的に追跡することで、進捗を実感しやすくなります。

②フィードフォワードでやりやすくする
これは事前の計画を重視する方法で、自分で意思決定を行う感覚が得られるため、努力の継続に役立ちます。自ら計画を立てることで、納得感が増し、やる気が持続しやすくなるのです。計画は他人から押し付けられたものではなく、自分自身で納得した形で進めることが重要です。

③努力の自動化(怠け心から自分を守る)
意思の力に頼らず、行動を習慣化することで無理なく続けられるようになります。行動が自動化されるまでの期間は、18日から254日と幅がありますが、中央値は66日です。つまり、約2カ月間続けることで、その行動が自然にできるようになる可能性が高いのです。意志が弱いと感じる人こそ、まずは2カ月間を目標に頑張り、行動の自動化を目指すことで、意志に頼らず良い習慣を身につけることができるでしょう。

④教育の力で習慣を変える
ある行動に対して納得感があると、より積極的に取り組めるようになります。なぜその行動が重要なのか、どのような効果が得られるのかを理解することで、努力がただの苦労ではなく、意味のあるものに変わります。これにより、習慣が形成され、継続することが楽になるのです。

目標達成のためには、計画と習慣が重要です。まず、最初に取り組むべきことは「達成したい目標を決める」ことです。目標はできるだけ具体的で、測定可能であることが望ましいです。例えば、「ブログを書く」という曖昧な目標ではなく、「毎朝8時までに3000字以上のブログを更新する」というように、具体的な数値や期限を設定することで、進捗を確認しやすくなり、モチベーションも保ちやすくなります。

次に、「目標を達成するために、毎日できる簡単な行動を選ぶ」ことが大切です。どんなに大きな目標でも、日々の小さな行動の積み重ねが鍵となります。朝起きたらパソコンを立ち上げるなど行動が簡単であればあるほど、習慣化しやすく、無理なく続けることができます。

最後に、「その行動をいつ、どこで行うかを計画する」ことが重要です。計画が曖昧なままだと、習慣化するのは難しくなります。具体的には、「毎日、同じ時間に同じ場所で行う」ことを目指しまます。例えば、朝起きてすぐにブログを書き始める、という風に時間と場所を固定することで、行動が自動化されやすくなります。

この一貫性こそが、習慣の形成を助け、目標に向かって着実に進むための大きな力となるのです。 このように、目標設定、具体的な行動、そして行動の計画と一貫性を持たせることで、どんなに大きな目標でも実現に近づけることができます。私もこの3つの習慣形成のルールにより、この書評ブログを毎朝更新できるようになりました。

努力は、習慣化することで自然な行動に変わり、最終的には無理なく目標を達成できるようになるのです。このように、努力は「仕組み化」することができます。行動経済学の知見を活用し、努力を科学的に分析して実践的な方法に落とし込むことで、どんな目標に対しても確実に進んでいくことが可能になります。

内発的動機が継続に重要

「全ては自分の力ではなく運で決まっている」という考え方の人は努力しない傾向があるという研究結果もあります。自分の内側に楽しみを見出したり、自分の力を信じたりといった、ある種「自己中心的に生きる」ことが、努力を続けるコツなのかもしれません。

努力を続ける上で、外部の要因ではなく、内発的な動機が重要だということが、多くの研究から明らかにされています。「全ては運で決まっている」と考える人は、努力すること自体にあまり意味を感じず、何かを達成するために行動を起こさない傾向があります。これは、成功や失敗が自分のコントロール外にあると感じるため、努力をする意欲がわかないのです。

逆に、自分の力を信じて行動する人、つまり自分の内側に動機や楽しみを見出すことができる人は、結果にかかわらず努力を続ける傾向があります。彼らは、結果がどうであれ「自分ができることを精一杯やる」という信念を持っており、自己中心的に自分の成長や成功に集中しています。この自己中心的な姿勢が、実は努力を続ける大きな原動力となるのです。

内発的動機の一つに「楽しみ」があります。何かを「やらなければならない」ではなく「やりたい」と感じることが、行動を持続させる鍵となります。外部の報酬や評価を求めるのではなく、行動そのものに楽しみを見出すことが、結果的に努力を長続きさせることにつながります。たとえば、スポーツや趣味を続けられる理由も、外的な報酬よりも、その行動自体が楽しいからです。

さらに、「自己効力感」も内発的動機の重要な要素です。自己効力感とは、自分がその行動をやり遂げられると信じる力のことです。この感覚がある人は、難しい課題にも果敢に挑戦し、失敗しても諦めずに再挑戦します。たとえ途中で挫折しても、最終的には達成感を得られると信じているため、努力を続けることができるのです。

このように、内発的動機が努力を支える大きな要因であり、外発的な報酬や他者からの評価に依存しない形で自己を高めていく姿勢が、最も強力な努力の持続方法と言えます。自分の内側にある欲求や楽しみ、信念に基づいて行動することが、長期的な成功に繋がるのです。

人が行動を起こす動機には、達成動機だけではなく、親和動機や権力動機といった様々なものが存在します。親和動機とは、「他人と良好な関係を築きたい」「人の役に立ちたい」という欲求であり、権力動機は「地位を手に入れたい」「他人に影響を与えたい」といった願望を指します。これらは「難しいことに挑戦して成功したい」という達成動機とは異なりますが、人が行動を起こす大きな理由になり得ます。

努力を続けるためには、自分がどの動機に強く引かれているのかを理解し、それに基づいた方策を立てることが大切です。たとえば、親和動機が強い場合、「他人のために頑張っている」という意識を持つことが効果的です。

ダイエットであれば、1キロ痩せるごとに寄付をするなど、自分の行動が他者に利益をもたらす状況を作ることで、努力が続けやすくなります。

一方、権力動機が強い人は、競争心を刺激する環境を作ると効果的です。例えば、ランキングが表示されるシステムや、成功体験をブログに書いて多くの人に読んでもらうといった目標を設定することで、権力動機を上手に活かすことができるでしょう。 つまり、自分がどんな動機で頑張れるかを知り、それに適した方法を取り入れることが、長続きする努力に繋がるのです。

人の行動を変えるEASTのフレームワーク

ナッジ理論は、行動経済学の一分野であり、人々が自発的に望ましい行動を取れるように促す方法を提供します。この理論は、複雑な意思決定を簡単にし、選択の自由を奪わずに行動を変える手法として注目されています。その中で、特に効果的な方法の一つが「EASTフレームワーク」です。

EASTとは、「Easy(簡単に)」「Attractive(魅力的に)」「Social(社会的に)」「Timely(タイミングよく)」の頭文字を取ったもので、行動を促進するための4つの基本的な原則を表しています。

・Easy(簡単に)
人々が行動を起こしやすくするための最も重要なステップは、それを「簡単に」することです。複雑で面倒なプロセスは、たとえ良い意図があっても、行動を遅らせる原因になります。

例えば、登録手続きを簡略化する、情報を整理して提示するなど、ユーザーが直感的に行動を取れるようにすることがポイントです。また、「デフォルトの選択」を利用することも有効です。たとえば、年金制度の自動加入設定がその典型例で、加入する手間を省くことで、多くの人が行動を起こしやすくなります。

・Attractive(魅力的に)
行動を促進するためには、それが「魅力的」であることも重要です。人は視覚的に魅力的なものや、インセンティブを感じる要素に惹かれます。シンプルで目を引くデザイン、ユニークなメッセージ、個別にカスタマイズされた内容などは、人々の関心を集める効果があります。

また、インセンティブやリワードも非常に有効です。小さな報酬や、長期的に見た利益を分かりやすく提示することで、行動のモチベーションを高めることができます。

・Social(社会的に)
「社会的」な要素を取り入れることも、人々の行動に大きな影響を与えます。人は周囲の行動や意見に敏感であり、他の人がどうしているかを基準に自分の行動を決めることが多いのです。例えば、エネルギー消費を減らすために「近隣の家庭の平均消費量」を示すことで、自分も節約しようとする意識を高めることができます。

また、社会的認知を得る機会を提供することも有効です。たとえば、チャリティへの寄付やエコ活動に参加したことが他者に見える形で記録されると、人々はそれをきっかけに行動を起こす傾向があります。

・Timely(タイミングよく)
人が行動を起こす際に、適切な時期に働きかけることは、その行動を強く促進します。特定の行動を取るタイミングが適切でないと、人々はその行動を後回しにしてしまいがちです。

例えば、年末の税申告の際に節税のアドバイスを提供したり、健康診断の前に健康改善プログラムの案内を送るなど、行動を起こしやすいタイミングを見計らうことで、実際の行動に結びつきやすくなります。また、行動を促すためにリマインダーを送るなど、タイミングを見極めて適切なサポートを提供することも効果的です。

このEASTフレームワークは、さまざまな分野で活用されています。例えば、健康促進においては、フィットネスアプリが「簡単に」利用でき、デザインが「魅力的」であり、友人や家族と進捗を共有する「社会的」要素が組み込まれています。さらに、ユーザーの行動に合わせて「タイミングよく」リマインダーやアドバイスが送られる仕組みが整っているため、ユーザーは自然と健康的な行動を取るように促されます。

EASTフレームワークは、シンプルでありながら強力なナッジの手法を提供し、私たちの日常生活に多くのポジティブな変化をもたらします。行動を促す際には、この4つの原則を活用することで、より効果的かつ持続可能な成果が得られるでしょう。

コミットメントのパワーで習慣を変えよう!

行動経済学では、「自分は目先の報酬(利益)に目がくらみがちで、最終的に後悔する可能性がある」という自覚のある人を「ソフィスティケイテッド」、そのような自覚を持たない人を「ナイーフ」と呼んでいます。

行動経済学では、未来の自分がどのように行動するかを正確に見積もることが難しいとされています。その中で、「自分は目先の報酬に誘惑され、最終的に後悔してしまう可能性がある」と自覚している人を「ソフィスティケイテッド」、そのような自覚のない人を「ナイーフ」と呼びます。

この2者は、行動や意思決定において大きな違いがあります。 ソフィスティケイテッドは、自分が誘惑に弱く、計画倒れになりがちであることを理解しているため、その対策を講じることができます。一方、ナイーフは自分の行動に対する過信から、将来の失敗を予見することができず、対策を取ることができません。

結果として、ソフィスティケイテッドはより計画的で成功しやすく、ナイーフはその場の誘惑に流されやすい傾向があります。 この違いを象徴するのが「コミットメント」という手法です。ソフィスティケイテッドは、コミットメントを使って未来の自分を縛り、計画倒れを防ぐ手立てを講じます。

コミットメントとは、あらかじめ自分に制約をかけることで、将来の誘惑に負けないようにする方法です。たとえば、ダイエットを成功させるために、友人や家族に宣言し、毎週体重を報告するという方法があります。このように他者との約束を作ることで、自分を追い込むことができるのです。 私も断酒をした際に、このコミットメントの力を活用し、お酒をやめることに成功しました。

自分ひとりの意志力だけに頼るのではなく、周囲の環境や他者を巻き込んで仕組みを作り、自分を強制的に行動させることができます。たとえば、運動を習慣にするために、ジムに先にお金を払ってしまうことや、友人と一緒に運動の約束をすることもコミットメントの一例です。お金や約束がかかっていると、途中で諦めることが心理的に難しくなり、結果として行動が続けられるようになります。

また、デジタルツールを活用したコミットメントも増えています。例えば、フィットネスアプリでは、日々の運動記録をシェアすることで、他者からのフィードバックを得ることができます。こうした共有の仕組みも、自己制約の一種として効果を発揮し、モチベーションを維持する手助けとなります。

習慣を変えたいのであれば、自分一人で頑張ろうとせず、コミットメントを活用して、強制的に行動を続けられる環境を整えることが鍵となります。

コミットメントは、意志力に頼らない賢い戦略として、未来の自分を助けるための強力なツールです。これをうまく取り入れることで、計画倒れを防ぎ、習慣を変える力を高めることができるでようになります。

最強Appleフレームワーク

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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