THINK FUTURE 「未来」から逆算する生き方
ハル・ハーシュフィールド
東洋経済新報社
THINK FUTURE (ハル・ハーシュフィールド)の要約
未来の理想の自分をイメージし、そこから現在を見つめ直す「バックキャスティング」によって、人生を変えられます。未来の自分とのつながりを強め、そのための行動を続けることで、徐々に理想の自分に近づいていけます。この継続的な実践が、人生に大きな変革をもたらすのです。
未来のあるべき姿を考えるThink Futureとはなにか?
自分の過去と現在、そして未来のつながりを強化することで、人生において何が重要かという新たな視点を得ることができる。ひいては望みどおりの人生を築くことも可能になるのだ。(ハル・ハーシュフィールド)
未来の自分を思い描き、その実現に向けて行動することの重要性を説くTHINK FUTURE。本書は、UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメントの教授であり、マーケティング、行動意思決定、心理学の分野で活躍するハル・ハーシュフィールドの最新刊です。(ハル・ハーシュフィールドの関連記事)
ハーシュフィールド教授は、「未来の自己」に関する研究で数々の賞を受賞し、その知見は多くの著名な媒体で取り上げられています。また、企業や組織のコンサルタントとしても活躍し、人々が「今の自分」から「未来の自分」へと成長するための方法を研究しています。
本書の核心は、未来志向の重要性にあります。私たちの人生において、未来の自分に思いを寄せ、それに向けて計画を立てることがいかに大切であるかを強調しています。同時に、「今の自分」と「なりたい自分」のギャップを埋める方法にも焦点を当てています。このギャップを埋める方法は戦略コンサルの手法と同じで、私も人生の様々な場面で実践してきましたが、本当に効果があります。
著者は、現在と未来のバランスを取ることの重要性を説きながら、読者に実践的なアプローチを提供しています。 時間の捉え方も本書の重要なテーマの一つです。「よりよい人生」を実現するためには、時間をどのように考え、活用するかが鍵となることを説いています。ハーシュフィールド教授は、時間に対する私たちの認識が、未来の自分への道筋にどのような影響を与えるかを詳細に分析しています。
著者は、「よりよい私」に集中するために今すぐできることを具体的に提示しています。理論だけでなく、日々の生活の中で実践できる方法を豊富に紹介しており、読者が自身の未来を設計し、それに向けて行動を起こすための実践的なガイドとなっています。
人間の思考は、まるで時間の中を自由に行き来するかのように、瞬時に現在から未来へ、そして過去へと飛び移ります。この現象は「メンタルタイムトラベル」と呼ばれ、私たちの日常生活に深く根ざしています。
心理学者のマーティン・セリグマンとジャーナリストのジョン・ティアニーは、この現象についてさらに踏み込んだ見解を示しています。彼らによれば、人間を他の生物から分かつ最大の特徴は、未来を熟考する能力であり、その未来を思い描くことによって私たちは前進していくのです。
未来の自分について考えることは、現在の自分はもちろん、実際の未来の自分にも大きな影響を与えます。しかし、ここで疑問が生じます。そもそも「未来の自分」とは何者なのでしょうか。 一般的には、人は一生を通じて一貫した人格を持ち続けると考えられています。多くの人は生まれた時につけられた名前を一生使い続け、人生の記憶を積み重ねていきます。好みや嫌悪感も、大部分は変わらないままです。
確かに、体の細胞は日々入れ替わり、着る服は流行や年齢に応じて変化し、付き合う友人の層も変わります。顔も年とともに老いていきます。それでも、「自分は自分」であるという認識は変わりません。
しかし、最新の研究ではこれとは異なる見方が提示されています。それによると、人間は単一の核としての自己から成り立つのではなく、複数の自己の集合体であるというのです。つまり、「私」ではなく「私たち」なのだと考えることが有効です。
この考え方を踏まえると、効果的なメンタルタイムトラベルの方法を学ぶことで、未来の自分に対する考え方や付き合い方を改善できる可能性が見えてきます。そしてその結果、より良い未来を作り出すことができるのです。
未来の自分を身近にしよう!
未来の自分とのつながりが強ければ強いほど、倫理的な決定を下す傾向がある。見返りがあっても倫理的に問題のある選択は、実際には明日よりも今日を優先させることになる。
fMRIの調査で分かったことによると、脳の中では未来の自分は現在の自分よりも他人に近い存在として認識されているようです。この発見は、私たちが自分自身をどのように捉えているかについて新たな視点を提供しています。
脳科学の分野では、TMSという技術が注目されています。これは脳に弱い磁気パルスを送り、特定の部位の働きを一時的に遮断する方法です。現在、この技術は慢性的なうつ病患者の治療にも応用されており、気分を調節する脳の部位をコントロールすることで、症状を大幅に改善できることが分かっています。
脳には側頭頭頂接合部という小さな部位があります。この部分は他者の感情を理解したり、共感したり、相手の立場に立って考えたりする機能を担っています。研究者たちは実験でこの部位の機能を一時的に停止させてみました。
すると、被験者が突然冷血で反社会的な人間になるということはありませんでしたが、共感力を示す数値が低下しました。つまり、他人の心を読み取ることが難しくなったのです。 この実験で特に興味深かったのは、側頭頭頂接合部をオフにすると、被験者は他者の心だけでなく、未来の自分の心さえも想像できなくなったことです。
脳内で心を旅する領域が遮断されると、被験者はお金を貯めるよりも使うことを選択するようになりました。これは、他者に対する共感力が低下すると、未来の自分にも感情移入できなくなり、まるで他人のように扱うようになることを示しています。
定年後のために貯金をするよう言われても、その時の自分のことを他人のように感じてしまい、「そんな老後の自分のことなんか知らない」という態度になってしまうのです。
未来の自分について理解を深めることが、今後の人生を左右することは間違いないのだ。
バーチャルリアリティー技術を活用した興味深い実験が行われました。この実験では、被験者にバーチャルリアリティーの没入型ディスプレイを用いてアバターを見せるという手法が取られました。
実験の設定は次のようなものでした。被験者の半数には現在の姿を反映したアバターを、もう半数には老化した姿のアバターを見せました。その後、しばらく時間を置いてから被験者に調査を行ったところ、驚くべき結果が得られました。
未来の分身、つまり老化した自分のアバターと対峙した被験者は、現在の姿のアバターを見た被験者と比べて、老後資金用の口座により多くの預金をするようになったのです。 研究者たちは、この実験を何千人もの被験者を対象に繰り返し行い、人々が稼いだお金でどのような決断をしたかを継続的に記録してきました。
この一連の実験から得られた教訓は非常に大きいものでした。 実験結果は、幸福な未来を創造するためにより適切な決定を下すには、現在の自己と未来の自己のギャップを埋める方法を模索する必要があることを示唆しています。
つまり、現在の自分と未来の自分との間に強力なつながりを感じることができれば、たとえ現在の自分が過去の自分とは異なり、また未来の自分とも異なるとしても、自身を向上させようと努力する可能性が高くなるのです。 実際、将来の自分に親密感を覚えている人々は、貯蓄額も多いことが分かりました。
これは、未来の自己との関係性が非常に重要であることを示しています。もちろん、将来の自分とのつながりや貯蓄額を左右する要因は他にもあるでしょう。例えば、年齢が高ければ未来の自分の姿をより身近に感じやすく、また資産を形成しやすい立場にあるとも言えます。しかし、年齢や学歴、収入、性別といった要素を排除しても、将来の自分との関係と貯蓄額の間には明確な相関関係が存在したのです。
さらに興味深いことに、未来の自分とのつながりが強ければ強いほど、倫理的な決定を下す傾向があることも明らかになりました。これは、見返りがあっても倫理的に問題のある選択をすることは、実際には明日よりも今日を優先させることになるからだと考えられます。
この実験結果は、私たちの意思決定プロセスや将来設計に対して重要な示唆を与えています。未来の自分をより具体的にイメージし、現在の自分との連続性を意識することで、より賢明な資産運用や倫理的な行動選択ができる可能性があるのです。これは個人の生活設計だけでなく、社会政策や教育プログラムの設計にも応用できる知見と言えるでしょう。
未来の自分とのつながりを強化する
近年の研究によると、未来の自分を具体的にイメージすることで、人は自分自身をよい方向に変える可能性が高まるとされています。その効果は、単なる貯蓄の増加にとどまらず、道徳的な行動の促進や健康的な生活習慣の獲得など、多岐にわたります。
例えば、将来の自分が健康で活動的な姿をイメージすることで、現在の食生活や運動習慣を見直すきっかけになるかもしれません。また、退職後の自分を具体的に思い描くことで、計画的な貯蓄や投資行動につながる可能性もあります。 しかし、ここで注意すべき点があります。単に未来の自分の姿を見るだけでは、真の変化は生まれません。
「老け顔アプリ」などは、確かに未来の自分を知る契機にはなりますが、それ以上の意味を持ちません。重要なのは、その画像の背後にある文脈や意味を理解することです。 研究者のダニエル・バーテルズとオレグ・ウルミンスキーは、行動を変えるために認識すべき点が2つあると指摘しています。
第1に、時間の経過とともに誰もが必然的に未来の自分になるという事実です。これは当たり前のようで、実際に自覚することは難しいものです。第2に、現在の行動が未来の自分の人生を大きく左右するという点です。この2つの認識は、単なる視覚的なイメージ以上に、私たちの行動変容に強い影響を与える可能性があります。
例えば、30年後の自分を想像してみましょう。その時の自分は、今の選択の結果を生きているはずです。毎日のちょっとした運動が習慣化していれば、より健康的な体を手に入れているかもしれません。計画的な貯蓄を続けていれば、経済的に余裕のある生活を送っているかもしれません。逆に、現在の不健康な習慣や無計画な消費が、将来の自分を苦しめることになるかもしれません。
このように、未来の自分を具体的にイメージすることは、現在の行動を見直す強力なツールとなり得ます。未来の自分との対話は、自己変革への新たな扉を開く可能性を秘めています。それは、単なる空想ではなく、現実の自分を見つめ直し、よりよい未来を創造するための実践的なアプローチなのです。
日々の小さな選択の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらすことを忘れずに、未来の自分とより良い関係を築いていくことが、充実した人生への鍵となるでしょう。
将来の自分を身近に感じることは、長期的な目標達成や自己実現において極めて重要です。ベストセラー作家のアン・ナポリターノは、14歳の時から興味深い習慣を始めました。彼女は10年後の自分に宛てて手紙を書き、その10年後に手紙を読み、また新たに10年後の自分へ手紙を書くのです。 この習慣は並々ならぬ決意と忍耐を要します。
将来の自分に手紙を書き、そして将来の自分の立場から現在の自分へ返信を書くこと、この双方向のコミュニケーションは、将来をより鮮明にイメージする助けとなり、同時に未来に対する不安を和らげる効果があります。
将来の自分のために良い決断をすることは容易ではありません。現在の快楽や欲求に負けてしまうことは往々にしてあります。この課題に対して、MITの大学院生だったデイブ・クリッペンドルフは革新的な解決策を生み出しました。 クリッペンドルフは、ストレス時に過度のスナック摂取に走る自身の習慣を改善しようと、電子タイマー付きの小さな金庫を発明しました。この装置は、スナックを一定期間、距離を置くことで、間食や暴飲暴食を防ぎます。
彼はこのアイデアをサイドプロジェクトに死、発売します。その後、高給な仕事を辞めてKitchen Safe(後にkSafe)を立ち上げ、成功を手に入れました。 このような「コミットメント・デバイス」は、将来の行動に適度な制約を加えることで、長期的な目標達成を支援します。
例えば、夕食時に携帯電話をkSafeに入れることで、間食だけでなく、アルコールとの距離を取れたり、家族との時間を大切にすることができます。
将来の自分のために現在の自分が犠牲を払うという構図は、しばしば「悪い関係」のようにも感じられます。この心理的な障壁を乗り越えるには、犠牲を感じにくくする工夫が必要です。 最近の研究では、フィンテック企業のアプリユーザーを対象に、自動貯金口座への登録率を調査しました。
同じ金額の投資でも、「月150ドル」「週35ドル」「1日5ドル」と表現を変えて提示したところ、「1日5ドル」という表現で4倍もの登録率を得ました。これは、小さな金額に分割することで、犠牲を感じにくくなるためです。
将来の自分のために良い選択をするには、現在の自分と将来の自分の間の心理的な距離を縮める必要があります。それは、将来の自分を身近に感じる努力や、賢明な制約の設定、そして現在の犠牲を軽減する工夫を通じて実現できます。これらの方法を日々の生活に取り入れることで、より充実した人生の道筋を築けるようになります。
私も44歳の時に自分の未来を変えることを決め、理想の自分の姿を描きました。お酒をやめ、著者になることを決め、現在とのギャップを埋めることにしたのです。自分の理想の未来からバックキャスティングをし、そのための行動を続けることで、自分の人生を変えることができました。未来とのつながりを強化するために、毎日、ビジョン日記を書き、自分の思考と行動を変え続けました。
このように自分の未来と向き合い、つながりを強化し、具体的な行動を起こすことで、望む人生を実現できる可能性が高まります。それは、今日からでも始められる、自分自身への簡単な投資なのです。
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