社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメント (ケン・ブランチャード, ジョン・P・カルロス, アラン・ランドルフ)の書評

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社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメント
ケン・ブランチャード, ジョン・P・カルロス, アラン・ランドルフ
ダイヤモンド社

社員の力で最高のチームをつくる―〈新版〉1分間エンパワーメントの要約

かつての上下関係による管理型マネジメントは限界を迎え、社員の自律性を引き出すエンパワーメント型への転換が求められています。その際、情報共有、明確なルール、セルフマネジメント・チームの導入が鍵になります。リーダーの現場への信頼とサポートにより、社員の主体性が育ち、職務満足、仕事の質、利益の向上が実現します。真の変革は経営トップの意識改革から始まるのです。

エンパワーメントに必要な3つの鍵

エンパワーメントとは、自律した社員が自らの力で仕事を進めていける環境をつくろうとする取り組みです。社員のなかで眠っている能力を引き出し、最大限に活用することをめざしています。(ケン・ブランチャード ジョン・P・カルロス アラン・ランドルフ)

従来のように、指示を出す側と従う側に明確に分かれた階層的なマネジメントモデルは、もはや現代の組織には適合しなくなりつつあります。経営層が社員を単なる「労働の手段」として扱い、一方的な命令で組織を動かすようなスタイルでは、個々の能力や創造性を十分に引き出すことはできません。

特に、AIや自動化技術が急速に進展するいま、人間にしか生み出せない価値を発揮するためには、社員一人ひとりが自ら考え、意思決定し、行動する力を備えることが不可欠です。言い換えれば、自律的に動ける人材こそが、これからの時代において最もAIに代替されにくい存在だと言えます。

こうした時代の要請に応えるには、社員一人ひとりの主体性を尊重し、自律的な行動を支援する「エンパワー型マネジメント」への転換が求められます。この考え方を世界に広めた人物の一人が、アメリカの経営コンサルタントであり作家のケン・ブランチャードです。 (ケン・ブランチャードの関連記事

彼は『1分間マネジャー』をはじめとする多くのベストセラーを通じて、長年にわたり、リーダーシップやマネジメント、エンパワーメントの重要性を提唱してきました。社員の潜在能力を引き出し、組織全体の力を最大化するには、社員を信頼し、力を託す姿勢が欠かせません。 では、エンパワーメントを実現するには、何が必要なのでしょうか?

本書社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメントにはその答えが書かれています。ブランチャードは、次の3つの「鍵」がエンパワーメントには重要であると説いています。

第1の鍵 正確な情報を全社員と共有する
まず、情報は組織の血流ともいえる存在です。社員が正確な経営情報にアクセスできるようにすることで、自ら判断し、行動するための土台が築かれます。利益やコスト、マーケットシェア、生産性、そして課題など、経営に直結する具体的なデータをオープンに共有することが求められます。

社長と同じ情報を手にした社員は、受け身ではなく、主体的な「経営パートナー」としての視点を持つようになります。これは、信頼に裏打ちされた真のエンパワーメントにつながるのです。

第2の鍵 境界線を明確にし、自立的な働き方を促す
自由には、明確なルールが必要です。社員が自律的に働くためには、何が許容され、何が許されないのか、その線引きを明確に示す必要があります。これは社員を縛るためではなく、自信を持って行動できる枠組みを与えるためです。目的や価値観と一致したビジョンを共有し、「自分がどのように貢献できるのか」を社員が理解することで、行動の方向性が定まり、安心して創造的な取り組みができるようになります。

第3の鍵 階層組織をセルフマネジメント・チームに置き換える
そして、もう一つ重要なのは、チームという単位での自律性です。エンパワーメントは個人だけで完結するものではなく、チームとしての成熟によってもたらされるものです。最初から完璧なセルフマネジメント・チームが出来上がるわけではありません。

むしろ、試行錯誤を重ねながら徐々に権限を委ね、チームが自らの意思で動けるようサポートするプロセスが大切です。途中で困難や摩擦が生じることもありますが、それもチームが自立していくための貴重な学びとなります。 エンパワーされたチームは、単なる個人の集合体ではありません。そこには、相互信頼と情報共有をベースにした「相乗効果」が生まれます。

チーム全員が必要なスキルを磨き、目的を共有し、階層的な思考を乗り越えたとき、組織は驚くほど創造的で柔軟な力を発揮するようになります。 エンパワーメントの本質は、トップマネジメントの強い意志と継続的な支援にあります。社員を信頼し、その可能性を信じ抜くこと。経営者がその姿勢を示すことで、社員一人ひとりが経営者のような視座を持ち、自律的に考え行動する組織文化が育まれていくのです。

エンパワーによる効果。信頼と自律が企業を進化させる!

行動のために情報を!情報を提供すれば奇跡が起こる!

セルフマネジメント・チームが機能することで、組織はさまざまな面で大きな恩恵を受けるようになります。まず、社員一人ひとりの従業員満足度が大きく向上します。従来のように与えられた仕事をこなすのではなく、自ら意思決定に関わり、チームで目標を設定し、達成を目指して行動することが、働くことの意味や手応えを深めてくれるのです。

このような働き方の変化は、「仕方なくやる」から「やりたいからやる」への意識転換を生み出します。仕事に対する姿勢が根本から変わり、それが組織全体の活力へとつながっていきます。 また、社員の主体的な関与、つまりコミットメントが明らかに強まります。自分たちで意思決定を行う環境では、その決定に対して強い責任感が生まれます。

やらされ感のある業務ではなく、自ら選んだ目標に取り組むことで、社員は高い納得感を持ち、粘り強く行動するようになります。その結果、従業員と経営層とのコミュニケーションの質も向上します。

今までのような命令と報告の関係ではなく、相互に信頼し合い、目的を共有するパートナーとしての対話が生まれるようになります。 こうした信頼関係は、意思決定のスピードと質を高める効果もあります。現場が判断の権限を持つことで、状況に応じた素早く柔軟な対応が可能になります。

これにより、顧客への応答性も高まり、企業としての競争力が強化されます。また、仕事の質自体も向上していきます。単なる作業の効率化だけではなく、創意工夫や改善提案が自然と生まれやすくなることで、業務全体の完成度が高まるのです。

さらに、意思決定や管理業務の分散により、無駄なプロセスが削減され、オペレーションコストが抑えられるという副次的な効果も期待できます。管理のための管理、確認のための確認といった非生産的な作業が減り、組織がよりシンプルで機動力のある状態に近づいていきます。

こうした一連の変化は、最終的に企業の利益構造を強化し、持続的な成長を可能にする大きな要因となります。さらに、成果に対する評価が公正に行われ、利益が適切に還元されることで、社員のモチベーションは一層高まっていきます。

人には本来、経験、知識、そして意欲といったかたちで、優れた潜在能力が備わっています。著者はこの点を繰り返し強調しています。エンパワーメントとは、その力を正しく認識し、適切に引き出すための仕組みづくりです。社員が信頼され、自律的に能力を発揮できる環境が整えば、そのエネルギーは組織の課題解決に向けて効果的に活用され、結果として高い成果をもたらす可能性が飛躍的に高まります。

意欲的な社員が現場で意思決定を担い、チームとして連携しながら柔軟に対応することにより、顧客対応の迅速化、イノベーションの創出、さらには財務の健全化といった、具体的かつ実質的な成果が次々と現れてきます。とはいえ、こうした変化が自然に生まれることはありません。その起点となるのは、経営トップの明確な意思と行動なのです。

トップマネジメントの考え方が変わらない限り、どれだけ制度を整備しても、真のエンパワーメントが実現することはありません。現場を信頼せず、「社員はどうせ時間をつぶしに出社している」といった固定観念を持ち続けているうちは、組織文化は根本から変わらないのです。

まず経営者自身が、社員を一人の大人として尊重し、信頼する覚悟を持たなければなりません。そのうえで、「任せる姿勢」と「支援する姿勢」の両方を、日々の経営行動において実践することが求められます。

本質的なエンパワーメントとは、社員一人ひとりが「この会社は自分の会社である」「この仕事は自分の仕事である」と心から実感できる状態を指します。つまり、社員がオーナーシップのマインドを持ち、自らの意志で責任を引き受け、成果に向けて自発的に行動することが理想です。

この感覚が芽生えたとき、社員は受け身ではなく、主体的に価値を創出する存在へと変わっていきます。 そのような文化を築くには、制度や評価といった表面的な仕組みだけでは不十分です。何よりも重要なのは、日々の対話や振る舞いのなかに、経営トップの本気と誠実さがにじみ出ていることです。

エンパワーメントの実現には、強いリーダーシップと粘り強い姿勢が不可欠です。短期的な成果を求めて途中で手を引くのではなく、あきらめずに継続し、信頼の文化を育む覚悟が求められます。

エンパワーメントは一時的な施策ではなく、組織文化そのものの中核にある考え方です。一朝一夕で定着するものではありませんが、信頼と対話、そして継続的な実践を通じて、確実に組織に根づいていきます。

社員がオーナーシップを持ち、経営者のような視座で仕事に取り組むようになったとき、その組織は変化に強く、持続的に成長する力を備えた、しなやかで力強い企業へと進化していくのです。

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