戦略コンサルのトップ５％だけに見えている世界
金光隆志
クロスメディア・パブリッシング（インプレス）
戦略コンサルのトップ５％だけに見えている世界 （金光隆志）の要約
『戦略コンサルのトップ5％だけに見えている世界』は、提案が響かない背景に「問いの質」と「思考枠の限界」があると指摘します。重要なのは、見慣れた前提を再構成し、新たな視点から問題を捉える力です。思考枠を拡張することで、示唆の射程が広がり、創造的な解決が可能になります。さらに本書では、「ビッグピクチャー」「ルールオブザゲーム」「クイックアンドダーティ」という戦略思考の三種の神器を紹介しています。
トップコンサルタントの思考態度と思考枠とは？
トップ５％の戦略コンサルタントは標準的な戦略コンサルタントと何が違うのか。決定的かつ根底的に違うのは次の２つです。①思考法に先立つ「思考態度」 ②思考を非日常へと誘う「思考枠」（金光隆志）
「どうして、クライアントの心に響かないのだろう？」 そんなモヤモヤを感じたことがある方は、きっと私だけではないはずです。 資料は完璧。ロジカルに構成し、フレームワークでも説明がしっかりできてる。必要なデータもこれでもかと集めた。にもかかわらず、プレゼンの途中、クライアントの視線は厳しいまま。
「正しい提案のはずなのに、なぜ伝わらないんだろう？」 そんな違和感を抱えたまま、プロジェクトは淡々と進んでいく。言葉にできない不安だけが、胸の奥に静かに残るのです。
本書戦略コンサルのトップ５％だけに見えている世界は、「なぜ提案が届かないのか？」という悩みに真正面から答えてくれる一冊です。 論理やスキル、知識だけでは超えられない壁。その原因を、著者・金光隆志氏は鋭く解き明かしていきます。
金光氏が私たちに示してくれるのは、コンサルタントとしての本当の違いが、テクニックや知識の量にあるのではないという事実です。 鍵となるのは、「問いの質」、そして「ものの見方」。 つまり、どんな課題をどう解釈するか。問題をどう定義し、どこに焦点を当てるか──。その一歩目の違いが、成果を大きく分けるのです。
トップ5％のコンサルタントたちは、論理の正しさや分析の精密さを超えて、「そもそも、考えるとはどういうことなのか」という原点に立ち返ります。 この本を読み進めるうちに、あなた自身の思考の方法が、少しずつ変わっていくはずです。
たとえば── トップ5％のコンサルタントたちは、あるシンプルな問いを何度も投げかけます。 「それって、本当だろうか？」 「もし、そうだとしたら？」 一見、当たり前に思える前提や情報に対しても、彼らは決して鵜呑みにしません。それは仮説ではなく、あくまで仮置き──。その視座で物事を眺めるのです。
立ち止まる問いと、前進させる問い。その反復の中で視点はズレ、新たな光が差し込みます。そこから、まだ誰も気づいていない答えが立ち上がってくるのです。
一方で、多くのコンサルタントは「ロジカルであること」に満足してしまいます。もちろん、論理的であることは重要です。でも、もしその結論が誰もが思いつく常識でしかなかったら──、それは差別化になり得ません。 競争優位とは、「他と違うこと」からしか生まれない。つまり、正しさの中に埋もれていては、本当の価値は届けられないのです。
そこで必要になるのが、「思考枠」の拡張です。 本書では、思考枠を超えるための技術として、「制約を解除する問い」が紹介されています。盲点を突き、思い込みを壊し、前提を外し、仮説的に飛躍する。これはただのアイデア出しではなく、思考を非日常モードに移行させる知的エンジンになるのです。
この問いを習慣化することで、見慣れた現実に新しい輪郭を与えることができます。たとえば、「顧客とは誰か？」「価値とは何か？」といった基本的な問いですら、視座を変えれば全く違う世界が見えてきます。
ここで著者が特に強調するのが、思考の“見え方”を変えるための３つのアプローチです。 それが、「問題を動かす」「マルチレンズで見る」「思考対象を工夫する」という三位一体の知的スイッチです。
①問題を動かす
これは、いま扱っている課題をそのまま見つめるのではなく、思考の座標軸そのものを動かしてみるという試みです。 〈抽象〉〈具体〉〈原因〉〈結果〉という4つの方向にずらしてみるだけで、まるで別の課題が立ち上がったかのように、風景が変わります。 同じテーマでも、粒度を変えるだけで別の論点が見えてくる。
たとえば「売上が伸びない」という課題も、「そもそもこのプロダクトの価値とは何か？」という抽象化で捉えるのか、「このマーケティング施策のKPIは？」と具体に落とし込むのかで、思考の行き先はまるで異なります。
②マルチレンズで見る
・Zoom in / Zoom out
細部にフォーカスを当てるのか、それとも全体を俯瞰して見るのか。
・Framing / Reframing 問題の枠組みをそのまま使うのか、それとも枠自体を取り替えて捉え直すのかを考えます。
ここで重要なのは、自分が今どのレンズで物事を見ているのかを自覚することです。多くの人は、この視点の切り替えを無意識のうちに行っています。
だからこそ、著者は「視点を意識的に選び直せ」と繰り返し強調します。 視点を意図的にずらすだけで、認識の解像度が一段と高まります。それはまるで、写真のピントを合わせ直すような思考の行為なのです。
③思考対象の工夫
自分の思考がいつも向かう安全地帯から一歩踏み出すことが、創造的な発想への第一歩です。あえて文脈をずらし、想定外の対象を取り入れ、予想外の結果を受け入れることで、思考にブレイクスルーが生まれます。
私たちはつい、目の前にあるものだけを対象にしてしまいがちです。しかし、本当に創造的な思考とは、「まだ見えていないもの」に目を向けられるかどうかにかかっています。思い込みや枠組みの外にこそ、未来を変えるヒントが隠されているのです。
戦略コンサルの三種の神器とは？
ビッグピクチャーでテーマを俯瞰的・多角的・重層的に捉え、 クイックアンドダーティで本質かつ有効な仮説へ素早くたどり着き、ルールオブザゲームで勝利の方程式を導きます。
戦略コンサルタントのトップ5%は、意識しているかどうかに関係なく、例外なく以下の３つの思考術を使いこなしていると著者は指摘します。
①Big Picture（ビッグピクチャー）
全体像を把握し、大局的な視点から問題を捉える思考法です。
②Rule of The Game（ルールオブザゲーム）
ルールを理解し、その枠内で最適な戦略を導く方法です。
③Quick & Dirty（クイックアンドダーティ）
完璧を求めるよりも、素早く本質的な解決策を出す実践的なアプローチです。
ビッグピクチャーで全体を俯瞰し、クイックアンドダーティで有効な仮説を素早く導き、ルールオブザゲームで勝ち筋を描いていきます。 このように思考を推し進めることで、当初は見えていなかった視点や仮説にたどり着くことができます。それが創造的戦略の入口になります。クイックアンドダーティを体得すれば、戦略思考力は格段に高まり、世界の見え方が一変することでしょう。
GoogleはYahoo!との競争において、検索の枠を超えてAndroid OSを展開し、スマートフォン市場を押さえることで検索でも優位に立ちました。
Googleは単に検索エンジンとしての機能向上を図るのではなく、検索という土俵そのものを再定義したのです。Android OSを通じてスマートフォン市場を制することで、検索の起点を自社で握り、モバイルからの検索トラフィックを確保しました。これにより、検索市場でもYahoo!を圧倒し、決定的な優位性を築きました。
創造的思考には「思考態度」と「思考枠」というOSがあり、それを活用する「戦略思考三種の神器」が中核となります。そして、アウトプットを生み出すアプリケーションとして「コンセプト思考」があります。
同じインサイトに基づき同様の結論に至ったとしても、トップ5%のコンサルタントのアウトプットには違いがあります。その違いは「示唆の射程」にあります。
トップ5％の戦略コンサルタントのアウトプットは、何が違うのか？ それは、「示唆の射程」が圧倒的に広いことです。 一見、同じような分析やロジックに見えても、そこから導かれる“気づき”がまったく違うのです。 なぜそんな違いが生まれるのか。 その秘密は「コンセプト」にあります。
コンセプトとは、物事に名前を与える行為であり、現実にかたちや秩序を与える力を持ちます。優れたコンセプトは、ただ整理された情報以上のもの──つまり、世界の見方そのものを更新する視点をもたらします。
「○○は△△ではなく、××だったんだ」 そんなパーセプションチェンジ（認識の転換）こそが、人の思考を刺激し、行動を動かすのです。
また、コンセプトはシンプルであるほど深みを持ちます。 背後には複雑な思考の積み重ねがあり、その余白が読者の思考を誘発します。だからこそ、時に“不完全”なコンセプトの方が、むしろ豊かな示唆を含んでいるのです。
さらに、戦略思考の中核には「インサイトドリブン」というアプローチがあります。 これは、ロジックや仮説よりも先に、個人的な違和感やひっかかりを出発点に据える方法です。問いの立て方を変えることで、まったく新しい視点や答えにたどり着くのです。
そのプロセスは、大きく4つのステップに整理できます。
１、仕込み 問いや違和感を大切にし、思考の枠の外へ出る
２、複線化 複数のレンズや視点からアプローチを設計
３、熟成 タスクをこなしつつ、日々小さく思考を耕す
４、編集的知性 素材を自由に組み合わせ、新たなひらめきを生み出す
最終的に、これらの積み重ねが「独創的な仮説」や「世界の見方を変えるインサイト」へとつながっていきます。
結局のところ、戦略思考とは、単なるスキルや手法の集積ではありません。思考の態度や枠組みを柔軟に持ち替え、自らの問いを深め続ける姿勢こそが、その本質にあります。
「ビッグピクチャー」「ルールオブザゲーム」「クイックアンドダーティ」という三種の神器を自在に使いこなすことで、戦略に対するアプローチはより立体的かつ創造的になり、本質的な価値を生み出せるようになります。 自分の内側にある違和感や問いを丁寧にすくい上げ、それを思考の原動力とすることが、これからの時代に求められる戦略思考のあり方です。
問いの質を高め、思考の枠を拡張することによって、クライアントから本当に支持されるコンサルタントへと成長していくことができるのです。
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