日本経済AI成長戦略
冨山和彦
文藝春秋

30秒でわかる本書のポイント
結果:生成AIの登場により、ホワイトカラーの中間業務がAIに代替される「AX(AIトランスフォーメーション)」の時代へ突入した。
原因:従来のDXは「ITによる改善」に留まり、日本企業の古い組織構造(昭和のOS)が壁となって根本的な生産性向上を阻んできた。
対策: AXを前提に戦略・組織・人材を一体で作り変える「CX(コーポレート・トランスフォーメーション)」を断行し、現場の一次情報をAIで増幅させる「実装力」で勝負する。
本書の3行要約
DXの限界を超えてAIが自ら業務構造を組み替える「AX」の時代が到来したことで、これまで日本企業の足かせだったホワイトカラーの調整業務は消滅し、リーダーには分析作業ではなく「判断する勇気(ボス力)」のみが問われるようになります。この大転換期において、深刻な労働不足に直面する日本こそ、現場の暗黙知をAIで実装する「リープフロッグ(飛躍)」によって、再び成長できると著者は指摘します。
おすすめの人
・経営者・マネージャー層: AI導入をIT部門任せにせず、事業構造そのものを変えたい方。
・ホワイトカラーのビジネスパーソン: 自分の職種がAIにどう代替され、どう生き残るべきか知りたい方。
・地方・中堅企業のリーダー: 人手不足を背景に、AIを武器に生産性を劇的に上げたい方。
読者が得られるメリット
・「DX敗戦」の呪縛からの解放: 後発だからこそ、レガシーを捨てて最新AI環境へ一気に飛び移る戦略が描ける。 ・次世代リーダー像の明確化: AIが分析を行う時代に、人間にしかできない「意思決定」と「責任」の本質が理解できる。
・日本経済へのポジティブな展望: 「人口減少=衰退」ではなく、「人口減少=AI導入の強力なインセンティブ」という逆転の発想が身につく。
DXからAXに経営はシフトする!
AIはいよいよ脳全体の機能の代替、大拡張をもたらそうとしており、もしかすると産業革命の最終段階なのかも知れない。まさに構造的な大転換期、AIによる革命的大変容、AIトランスフォーメーション(AX)の時代の到来である。(冨山和彦)
DXの時代からAXの時代へ――テクノロジーは恐ろしい速度で進化し、経営環境は激変しています。経営者やマネージャーはどのように戦略を組み立て、組織を導けば良いのでしょうか。
そのヒントが書かれているのが、経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦氏が著し、東京大学大学院教授の松尾豊氏が監修した日本経済AI成長戦略です。本書は、これまでのデジタルトランスフォーメーション(DX)が抱えた限界と失敗を総括したうえで、AIトランスフォーメーション(AX)という新たな時代の到来を宣言します。
DXが「人がITを使って改善する」時代だったとすれば、AXは「AIが自ら改善・創造し、仕事の構造そのものを組み替える」時代です。ここで問われるのは、単なるツール導入の巧拙ではなく、企業の意思決定のOSを入れ替える覚悟にほかなりません。
AXの現実味は、すでに日常業務のあちこちに滲み出ています。たとえばGitHub Copilotのような支援ツールは初級エンジニアの生産性を押し上げ、場合によっては人員数そのものの削減を可能にしました。Notion AIやMicrosoft Copilotは情報整理・分析といった“中間処理”を自動化し、ミドル層の役割を曖昧にします。
さらに高度な調査・分析機能が広がれば、調査報告や企画の下ごしらえまで機械化され、コンサルタント的な仕事の一部すら代替し始めます。つまり皮肉なことに、「DXを支える人材」自体が、AXによって構造的に不要になりつつあるのです。
AIは、既存業務を根こそぎ自動化・代替しうる組織変容力と、AI自身が自動的かつ自律的に進歩していく自己変容力を併せ持つ、二重の意味での自動変容ツールだ――本書の骨太な主張はここにあります。
この前提に立つと、戦略論と組織論の古典的な命題――「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか――は、いささか牧歌的に見えてきます。破壊的イノベーションが常態化し、ゲームのルールが短い周期で書き換わる時代には、戦略と組織は同時に変わるしかありません。
どちらがどちらに従うかという問い自体が意味を失い、戦略・組織・人材・制度を一体として変形させるコーポレート・トランスフォーメーション(CX)の局面に入っていくのです。
では、そこで求められる人材像は何か。本書が繰り返し示唆するのは、AIに「何をやらせるか」を定義できる人間、言い換えればトランスフォーマーの重要性です。
ここで起きる転換は、見た目以上にラディカルです。アルゴリズム構築の巧さよりも問題定義の鋭さが価値になります。業務改善という“磨き上げ”よりも、業務廃止という設計やプロセスの見直しが効果を発揮します。
IT人材は、システムを作る人から、事業×AIを再設計する人へと役割を変えます。要するに、AX時代の実務能力は、優秀な経営人材要件へと近似していきます。
AXの革命性は、特に3つの次元で表れます。
・UI/UXが変わる
・自動化が異次元化
・組織と人間の関係性そのものが変わる
データ収集・分析はAIが自動で行い、会議資料・議事録・要件定義はAIが生成し、UI/UX設計やプロトタイピングはノーコード×AIで即座に実装される。
こうして、業務設計や判断支援といった知的中核のアウトプットが常時生産される環境が整っていきます。もはや「人間が決めて、機械が動く」ではなく、「AIが提示し、人間が選ぶ」という構図へ移行しているのです。
AX時代のリーダーと組織のあり方とは?
AIによって、情報分析と意思決定支援は一瞬で済む。ならば、生身の経営者やリーダーが果たすべき役割は明確だ決断すること、責任を取ること。つまり、「判断するプロセス」ではなく「判断する勇気」が問われる時代になる。
AX時代に経営者やリーダーに残る仕事は何になるのでしょうか。結論から言えば、AIが判断材料の生成を高速化するほど、リーダーの価値は「何を選び、何を捨てるか」という選別と、その選別に伴う責任の引き受けに収れんしていきます。分析やシミュレーションの精度が上がっても、不確実性が消えるわけではありません。
むしろ、選択肢が増え、論点が可視化されるほど、最後に残るのは価値判断です。だからこそ問われるのは、判断プロセスの巧みさというより、前提を置き、優先順位を確定し、正い意思決定を行い能力だと言えるでしょう。
この変化はホワイトカラーの構造にも波及します。業務のうち、調整・整理・分析・中間処理といった領域はAIに吸収されやすく、AXが進むほどコストと見なされやすくなります。一方で希少になるのは、AIに何をさせるかを設計し、出力を評価し、組織としての結論に翻訳する役割です。
著者はリーダーには、「ボス力」が求められると述べています。ここでいう「ボス力」とは地位ではなく、①本質的な問いを立てる力(問題設定)、②意思決定する力(優先順位づけとトレードオフの確定)、③人とAIの協働を設計・運用する力(分業設計とアウトプット管理)、④結果責任を引き受ける力(リスク選好と説明可能性)といった能力になります。
言い換えれば、AI時代のリーダーは判断と設計とコミュニケーションに優れた人であり、最後に覚悟が残る、という構図になります。
ただし本書の視線は、ホワイトカラーの淘汰に留まりません。むしろ日本の中堅・中小企業、そしてローカル経済圏にこそチャンスがあると論じます。規模や資本力よりも、「経営の解像度」と「現場との距離」が成果を左右する局面が増えるからです。
人手不足が深刻な地域ほどAI導入の改善余地は大きく、現場力・暗黙知・多能性を持つ企業は、AIを代替としてではなく補完として組み込みやすいのです。
ホワイトカラーかブルーカラーかの二分法はあまり意味を持たなくなる。AI武装したアドバンストな(高度化した)ブルーカラー、身体性感情性を兼ね備えたホワイトカラー、いわばライトブルーカラーの時代が来ることになる。
ホワイトカラー/ブルーカラーという仕分けは、AXの前では徐々に意味をなさなくなります。より正確に言うなら、机上の処理がAIに吸収されるほど、価値の源泉は「現場」に戻ってくる、という逆流が起きます。
現場の仕事は今後以下の2つの方向へ分岐していくと著者は指摘します。
・AIで武装してオペレーションを高度化する道
・身体性や情緒性を武器に顧客接点やすり合わせを担う道。
前者はアドバンスト・ブルーカラー、後者はライトブルーカラー。どちらも共通しているのは、AIを“使う側”に回った瞬間、仕事が単なる作業から「価値を生む運用」へと格上げされる点です。 ここでAIの性格がはっきりします。
ホワイトカラー領域ではAIは代替財として振る舞い、調整・整理・分析といった中間処理を破壊的に飲み込んでいきます。
一方で、身体性や感情労働が絡む現場現業では、AIは補完財になりやすい。エッセンシャルワーカーの仕事はまさにその典型で、現場の不確実性(天候、故障、突発対応、人の癖)を抱えたまま回し続ける力は、いまのところ人間の側に残ります。AIがやるのは、人間を押しのけることではなく、人間の判断と運用を増幅することになる。
この30年、エッセンシャルワーカーの比率は高まってきましたが、多くは低生産性・低賃金という現実に縛られてきました。ところがAIの劇的な進化は、この領域の生産性を持ち上げる余地を一気に広げます。新しいテクノロジーが入るだけでは足りませんが、そこに現場のマネジメントノウハウが結合すると、オペレーション自体が別物になります。
つまり、現場で働く人が“アップデート”されるのです。バージョンアップしたエッセンシャルワーカー――アドバンスト・エッセンシャルワーカーの時代が立ち上がりつつあります。
そして、この変化が最も強く表面化する舞台がローカル経済圏です。ローカルAXとは、要するに「大資本の効率」より「現場に根ざした実装力」に賭ける発想です。現場に近い企業ほど、一次情報を掴み、暗黙知を回し、AIで横展開して改善を積み上げやすくなります。
結果として、ライトブルーカラーへのシフトが厚みを増し、分厚い中間層の再形成という“日本にとってのメインストーリー”につながっていく――本書の示唆は、そこに収斂していきます。
AX時代に日本が勝てる理由
前時代の成功体験が新時代への適応を妨げる。これこそが、イノベーションのジレンマの本質である。つまり、「DXで出遅れた企業」だからといって、AX時代にも劣位になるとは限らない。むしろ、過去の重荷を背負っていない分だけ、思い切って再設計できる可能性がある。まさにリープフロッグ戦略のチャンスである。
米中のAI開発競争が激化するほど、日本企業の戦い方は「研究で勝つ」から「実装で勝つ」へと軸足を移すべきです。DXで出遅れたことは本来ハンデですが、AXのようにルールが入れ替わる局面では必ずしも致命傷ではありません。
既存システムや成功体験が強固な企業ほど変革が遅れるイノベーションのジレンマが働くため、レガシーが比較的薄い企業ほど、業務や産業をゼロベースで再設計できる余地があります。ここに後発の利を活かしたリープフロッグの可能性があります。
ただし飛躍は、基礎研究の優劣ではなく、医療・介護、物流、防災、インフラ運用など「止められない現場」でAIを回し続け、改善を積み重ねる経営能力で決まります。生成AIの普及により調査・要約・比較はコモディティ化し、差は一次情報の獲得と意味づけに移ります。
現場に入り、兆しを拾い、原因をほどき、合意形成までやり切る——この実装を備えることが、企業固有の競争力になります。
内需と地方で生産性と賃金を押し上げ、デジタル赤字の縮小に道筋をつけたうえで、日本型AXを課題解決のパッケージとして海外展開する、という戦略が現実味を帯びます。
そこで鍵になるのが、暗黙知を企業内でレバレッジする発想です。現場で生まれた暗黙知を、対話系生成AIやフィジカルAIを含む企業内のプライベートAI化を梃子にして横展開するのです。
言い換えれば、現場の学びをAIで再現可能な型へ変換し、組織全体に配布できる仕組みにすることです。AX時代の差は、二次情報を上手に扱えるかどうかではなく、一次情報を掴み、意味づけし、運用に落として再現性を持たせられるかで決まっていきます。
この延長線上に、ソフト・ハード融合の勝ちパターンがあります。AIの時代に競争力を取り戻すには、モノやサービスをソフトウェア・デファインド、さらにはAIデファインドに作り替えていけるようなコーポレート・トランスフォーメーション(CX)が不可欠です。
日本企業が得意だった「良いモノを作る」だけでは足りず、アップデート可能な設計、データが回る運用、学習が蓄積される仕組みが価値の中心に移ります。この点で先行している中国のモノづくりやシリコンバレーのロボティクス系スタートアップから素直に学ぶ姿勢は合理的です。
必要なら、ソフトウェア・デファインドな能力を持つ人材を積極採用し、あるいはスタートアップをアクハイヤリング型で買収して学習曲線を短縮する。AXは「内製か外注か」という二択ではなく、必要な能力をどう取り込み、どう運用に編み込むかの勝負になっていきます。
日本の相対的優位は、この文脈でいくつも説明できます。
・DXでの敗戦ゆえにレガシー資産や既得権が相対的に薄く、再設計に踏み込みやすい。
・企業統治改革の流れが、ホワイトカラー型の大企業に構造改革圧力をかけ、経営レベルでAX/CXに踏み出す背中を押している。
・余剰になりやすいホワイトカラーが多い世代が定年期を迎え、組織の新陳代謝が進みやすい。
・ローカル産業や現場現業に強みがある一方で生産性が低く、AXによる伸びしろが大きい。
・深刻かつ恒久的な労働供給制約があり、人手不足が続くため、AIの代替に対する社会的反発が比較的小さくなり得る。
DXフェーズでは失業への神経質さが変革の足枷になった面がありましたが、AXフェーズでは、サイバー空間のホワイトカラー領域でディスラプションが起きる一方、包摂的で調和を重んじる文化が、ソフト(AI)×ハード×人間のすり合わせ型ビジネスでは価値創造にプラスに働く可能性もあります。
地方は人口減で需要が縮む一方、労働供給はさらに縮み、人手不足が深まります。だからこそAIで生産性を上げる必然性が高い。高齢化で社会が持たないという制約も、AIとロボティクスを使い倒してケア業務を補完し、高生産性・高賃金の仕事へ変える圧力になります。
低生産性の国に未来はないという厳しい現実は、裏を返せば生産性押し上げの余地が大きいということでもあります。 問題は、日本人の思考が古い経路依存にはまりやすい点です。
生産性の向上と雇用の減少を短絡させて反発し、物価高に対しても、本来は付加価値労働生産性を上げて賃金を持続的に引き上げるしかないのに、それが信じられず、バラマキや減税を期待してしまう。しかし、それでは根本問題は解決しません。デフレ的な「停滞なる安定」の均衡が崩れる局面では、状況はむしろ悪化しやすいです。
労働供給制約の日本には実は大きなチャンスが来ているのに、そのチャンスを見送ってしまうのはとてももったいないことです。AXのその先の社会モデルは、日本人自身がデフレ脳や停滞志向という思考の経路依存を断ち切れるかどうかで、初めて再構成されます。
AXで確実に起きることは機能的な意味でのホワイトカラーの消滅であり、それは全業種共通にコストサイドにおいて販管費革命が起きることを意味する。
AXによって、今後、コストサイドにおける販管費革命が起きることは間違いありません。営業、管理、ITなどホワイトカラー機能に紐づく人件費や物件費の相当部分がAIに置き換わるからです。
アメリカのIT企業に比べ、DX敗戦でコスト構造が高止まりしている日本企業が、この販管費革命に乗り遅れれば、致命的な差をつけられます。逆にここで間接固定費を軽量化できた企業は、組織の機動性と投資力を高め、AXが生む付加価値サイドの果実を取りに行く確率も上がります。差は縮まらず、広がっていきます。
本格的なAX型CXに踏み出すことは、多くの日本企業にとって存続をかけた経営課題になりつつあります。逡巡している場合ではない、という結論は、感情論ではなく構造から導かれます。
結局、AX時代の戦略は「AIを導入する」で終わりません。戦略と組織を同時に変え、現場で一次情報を掴み、暗黙知を生み、AIで増幅し、再現可能な仕組みに落とし込む。
そのうえで、AIが提示する選択肢の海から何を選び、何を捨て、どこに賭けるのかを決め、結果責任を引き受ける。経営者やマネージャーに求められるのは、その設計と決断の力です。そしてボス力と現場力を鍛えるために、実はリベラルアーツが効いてくるという著者の指摘は、AXが技術論ではなく統治論であることを改めて思い出させます。
一人ひとりがAIによってボスになれる時代、1億人が総ボスになることで、日本が再び成長できるという著者の主張に希望を感じました。
本書のまとめ
①DXからAXへ:経営は「自動変容」のフェーズへ
DXが「人間が主役でITが脇役」だったのに対し、AX(AIトランスフォーメーション)は、AIが自ら改善・創造し、組織を「自動変容」させる段階です。
AX時代の新・人材ポートフォリオ
ホワイトカラーとブルーカラーの境界は崩れ、以下の2つの人材が中心となります。
・アドバンスト・ブルーカラー: AIを武装し、現場オペレーションを高度化させる。
・ライトブルーカラー: 身体性や情緒性を武器に、AIにはできない顧客接点を担う。
②AX時代のリーダーに求められる「ボス力」
AIがシミュレーションを高速化するほど、最後に残るのは「不確実性の中での選択」です。リーダーの役割は「管理」から「決断と責任」にアップデートされます。
・問題設定: AIに「何を解かせるか」という問いを立てる力。
・優先順位: トレードオフ(何かを捨てて何かを選ぶ)を確定する力。 責任の引き受け: AIの出力結果を含め、最終的なリスクを取る覚悟。
③日本型AX:現場の「暗黙知」をAIでレバレッジする
日本が勝てる理由は、皮肉にも「深刻な労働供給制約」にあります。
・リープフロッグ戦略: DXで遅れた分、しがらみなくAIネイティブな組織へ飛び級できる。
・ソフト・ハードの融合: 現場の一次情報(リアル)をAI(デジタル)で型化し、再現性を持たせることで、日本独自の「高付加価値な現場」を再構築できる。
「AIは人間を追い出すものではなく、人間の判断と運用を増幅するものだ」
















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