望月衣塑子氏とマーティン・ファクラー氏の権力と新聞の大問題の書評

安倍政権は、第二次安倍政権になって特にメディア・コントロールを強化してきた。メディアのトップとの頻回な会食や、情報操作を行う一方、高市早苗総務相(当時)による停波発言、放送法四条の撤廃を打ち出すなど、アメとムチを巧みに使い、政府にとって都合のいい報道をメディアが”付度”していくよう促している。(望月衣塑子)


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日本の新聞のどこに問題があるのか?

今回の通常国会の与党の運営があまりにひどすぎ、若い世代のために行動を起こしたいと思い、最近Twitterで安倍政権の問題点を指摘しているツイートをRTするようにしています。新聞には書かれていない与党の横暴がソーシャルメディアにはあふれ、メディアが報道しない政治の闇を知ることができました。そんななか、書店で望月衣塑子氏とマーティン・ファクラー氏の対談権力と新聞の大問題を偶然見つけ、読むことにしました。

望月氏は菅官房長官の記者会見で一躍有名になった東京新聞の記者で、日本の既存メディアから異端視されています。共著者のマーティン・ファクラー氏は調査報道で有名なニューヨークタイムズの前東京支局長で、日本の政治報道を長年問題視してきました。特に記者クラブという日本独自のシステムが日本の政治報道をダメにしたと指摘します。

安倍政権のメディア対応は新聞社との戦いを続けているトランプ政権との共通点があると述べています。しかし、その対応は真逆で日本の新聞はおとなしすぎるというのです。

安倍政権とトランプ政権のメディア対応には共通点がいくつもあることがわかった。政権に批判的なメディアに陰に陽に圧力をかけるというのがそのひとつだ。ところが、日本のメディアがそれに屈し、萎縮してしまっているのに対し、アメリカのメディアは、ジャーナリストとしての闘志を燃やし、トランプ政権に毅然と立ち向かい続けている。

トランプがアメリカのジャーナリスト魂に火をつけ、メディアはトランプ政権の問題点を次々あぶりだし、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの販売部数は過去最高の売れ行きになっています。日本の新聞は逆に安倍政権を忖度し、政権に寄り添う姿勢が読者にもわかる情けなさです。望月氏をはじめ、数人の記者が会見で厳しい質問を菅氏にしていましたが、何人かの記者が不思議なことに異動になってしまったそうです。チェック機能を果たそうとするメディアに政権は圧力をかけている可能性が高いのです。アメリカのメディアは戦い、日本の新聞社が政権に忖度するという実態を知ると暗澹たる気持ちになります。日本のメディアはトランプを批判する前に自国の政権を問題視し、もっと積極的に報道すべきです。

新聞を含む大手マスメディアは、政権をチェックしようという意識が弱体化しているばかりでなく、その中から、むしろ政権に寄り添うような報道を続けるメディアや記者も出てきました。また、インターネットやSNSによる情報を見た人たちが「ネットにはこういうふうに出ているのに新聞はぜんぜん違うじゃないか」と新聞の報道を疑問視するようになり、新聞の社会的信頼性が従来より低下していると感じます。

私も新聞報道の姿勢の甘さがひどすぎると感じています。今回の赤坂自民亭の飲み会もソーシャルメディアでは早くから問題視されていましたが、多くのメディアはしばらくは様子見で、SNSや雑誌の報道を受けて、ようやく動き出しました。

マーティン・ファクラーは日米の報道スタイルを以下のようにまとめています。海外の政権もメディアに圧力をかけますが、それに屈服することはなく、自ら調査報道を仕掛け、読者のための記事を書き続けているのです。

第2次安倍政権は、従来の政権とは違い、メディアへの情報操作をしたり、特定のメディアに強い圧力をかけたりして、メディアがまるで政権の広報のような報道をすることが起こり始めました。あえて繰り返しますが、政権側がメディア側に圧力をかけたり情報操作をしたりするのは世界的にやすやすよく見られるけれど、欧米のメディアはそれに易々と屈することはありません。(マーティン・ファクラー )

政権の広報に成り下がった新聞社を動かさなければ、政治はますます劣化します。今回の国会もメディアの報道が政権よりだったこともあり、多くの国民が知らぬ間にカジノ関連法案や働き方改悪法案などの悪法が通過してしまいました。このような民主主義のありかたを無視した数の論理が、今後もまかり通るのは日本の危機であり、現状を変えていかなければ、未来を担う日本人に申し訳ありません。

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圧力に弱い日本のメディア

そういう状況の中で、望月さんは菅官房長官の記者会見で鋭い質問をぶつけて、問題を追及しようとしています。その姿勢が、菅官房長官にすれば「不都合なことを聞くしつこい記者」であり、一方、安倍政権に疑問を抱いている国民にとっては「私たちを代表して政府を追及してくれる記者」として注目され、期待を一身に集めています。しかし、実は望月さんがやっていることは、ジャーナリストとして当然の取材であり、他の記者がそうしないことが変なのです。

記者クラブの中で望月氏が目立つことが日本の報道の問題点を象徴しています。ジャーナリストとして当たり前の行動に出た望月氏を政権は排除しようと、質問の数に制限を設けたり、菅氏は塩対応で望月氏の質問にスルーを続けます。TVや新聞ではわかりませんが、ネットやソーシャルメディアでは会見が共有されているため、記者クラブの体質が明らかになっています。記者クラブの中で政権を揺らがす質問が増えなければ、ますます政治家はやりたい放題になり、日本の民主主義は危機的な状況を迎えるはずです。

最近では、政権に都合の悪いメディアを政府は締め出そうとしています。望月氏は官邸を取材するためのパスに制限がかかっていると言います。政治部以外の社会部用のパスが急に回収され始めたり、以前に比べてパスの使用期限がすごく厳しくなっているそうです。

一年間使用していない人のパスは自動的に失効。おまけに毎回、パスのない記者は入館の許可を申請しなければいけないようになりました。新規のパスは、なかなか発行されなくなってきたし、フリージャーナリストは、ますます入れなくなった。官邸も各省庁も、そうやって、まるで政治行政の取材がしにくくなるように記者を締め出そうとするかのような対応を見せています。

批判者を締め付ける一方で、政権べったりのメディアの幹部とは会食などを通じてアクセスを強めているのが安倍政権です。好きなメディアには情報をリークし、メディアをコントロールしています。一方、政権に批判的なメディアを徹底的に締め出しています。安倍政権がやろうとすることに対してゴチャゴチャ言うメディアは邪魔な存在で、すべてを忖度し、政権に寄り添うメディアを受け入れています。

望月氏の言葉が現政権の劣化を的確に表現しています。

安倍内閣がやろうとしていることに本当の信念と自信、そして適切なプロセスがあれば、どんなに批判されても、きちん説明も反論もできるはずです。そういうのが実はあまりなくて、「僕、これやりたい」と安倍首相が思ったことを、きちんとした手続きや法的な根拠、議論を経ず『総理のご意向』だけを政府をあげてやろうとするから、いろいろ変なこともするし、国民に本当のことを知られないようにさっさと進めてしまおうとしているんじゃないか。こうした矛盾が森友・加計疑惑のような形で噴出しているのだと思います。政府がいま、やっていることを見ても、次々と問題が露呈した経緯を見ても、完全に政治と行政の劣化だと言わざるを得ません。

安倍氏の権力が強まると、自分が好きな人を集めて好きなように法律を作れるだけでなく、自分や妻のお友だちのために権力を使い、それを批判されても、メディアをコントロールし、好き放題の政治を行っています。

ファクラー氏も安倍首相を問題視しています。メディアや人をコントロールすることで、彼は自分の権力を日々強化しているのです。確かにこの一年で日本の政治はひどい状況に追い込まれてしまったので、彼の意見には共感を覚えました。

日本に健全なジャーナリズムが存在するべきだということなんか一切、考えていないかのようですね。もしかしたら「立派な権力者が正しいことをするためには報道の自由や言論の自由などたいした問題じゃない」と思っているのかもしれませんね。とにかく自分が信じた政治を思うように進めるための道具をたくさん持っているのがいまの安倍政権であって、官僚も国会もメディアも、すべてそういう道具としてとらえているかのようです。そのアシストをメディアが喜んでやってしまうというのが信じられません。もしワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが、読売と同じようなことをしたら、記者たちがまず猛烈な反対をするでしょう。トランプ政権では、前にも触れたブライトバート・ニュースやFOXテレビが完全にトランプ応援団になっていますが、見るほうもそれははっきりわかっていますからね。

日本はニュース系のネットメディアが普及していません。アメリカや韓国では政権に批判的なネットメディアが国民の支持を得ています。良質な調査報道やソーシャルメディアを駆使した報道スタイルによって、政権を監視しているのです。既存マスメディアもソーシャルメディアから国民の声を吸い上げ、新しい報道の形を実現しています。

ようやく日本でもワセダクロニクルのような新しいメディアが登場しています。彼らは調査報道に力点をおき、世の中の問題点を炙り出しています。このようなNGOに読者が寄付することで、日本の報道を変えられますから、私も応援したいと思います。ワセダクロニクルのような非営利のNGOが動き出したのですから、大手メディアも日本をよくするために、政権に忖度し、報道に規制をかけるのはやめたほうがよいのです。

ファクラー氏は公正であることがメディアに求められていると言います。最初から結論ありきで記事を書くのではなく、質問や検証を重ねて記事を書くべきです。「報道というのは、結論で始まるのではなく、質問で始まる」というファクラー氏の言葉を記者だけでなく、国民一人一人が意識すべきかもしれません。盲目的に自分が読んでいる新聞を読むのではなく、自分の頭で考えることを心がけたいと思います。政府が強い力でメディアをコントロールしていると考え、反対意見をしっかりと見つけるために、様々な情報に触れることを意識すべきです。多様な視点で質問を繰り返し、政権をチェックしておお習慣を身につけておかないと、未来に大きく後悔することになりそうです。

まとめ

「政府はこう言っているけれど、こういう疑問がある」「野党はこういう対案を出しているけれど、こういうマイナスがある」というふうに読者に今国会で起きていることをしっかりと伝えることがメディアに求められています。政権に忖度するのではなく、読者が見えていないところを報道するメディアが増えれば、国民の知る権利も強化され、もっともっと議論が深まり、その結果、日本の未来を明るくできそうです。読者もメディアを動かすために、ソーシャルメディアで声をあげ、民意を政権に届けるようにすべきです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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