人間には、頭や手足がありますが、必ずしも頭が偉いわけではありません。頭には頭の、手足には手足の役割があり、それぞれが機能を十分に発揮することで、より良く生きていけます。組織も同じです。(出口治明)
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リーダーが部下に権限を委譲しなければならない理由
出口治明氏の座右の書『貞観政要』 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」の中に、春秋戦国時代の英雄の重耳(春秋時代の晋の君主。春秋五覇のひとり)の話が紹介されています。 『貞観政要』の中で、臣下の魏徴は晋の重耳(文公)の逸話を用いながら、リーダーの役割を上司の李世民に説きます。(『貞観政要』についてはこちらのブログを参照ください。)
重耳が狩りに出て獲物を追いかけているうちに、湿地帯の中で道に迷ってしまいます。すると、ひとりの漁師と出会い、重耳は道案内をお願いします。彼はその時「私はおまえの主君である。道を教えてくれれば、礼をしよう」と言い、自分が君主であることを明かします。
2人が湿地帯の外に出たあと、漁師は文公に向かって、上司の機能を「人をまとめる」「方向を示す」であると話します。「コウやクグイといった大きな鳥は、黄河や海など、広い場所に生息しています。けれど、そこにいるのが嫌になって小さな沢に移ると、どうなると思いますか?目立ってしまい、撃たれてしまうかもしれません。君主のいるべき場所は、広い場所であって、沢のような狭い場所ではないはずです。それなのに、どうしてこんなに遠くまでやってきたのですか?万一の危険があったらどうするのですか?」
漁師が伝えたかったのは、「自分の役割を忘れてはいけない」ということです。君主の機能は当たり前ですが、国をしっかりと治めることです。君主が獲物が欲しいときはプロを雇い、彼らから買えば良いのです。たとえ君主であっても、君主は領民の仕事を奪ってはいけないのです。
今、どの方向に風が吹いているか、社会がどの方向に変化しているかを見極め、その変化に適した人材に任せる。適材適所に人材を配置し、チームとしてのパフォーマンスを上げる。それが上司の機能です。
重耳は19年間諸国を放浪したのちに君主となった、苦労人として知られる人物です。苦労に苦労を重ねて、人生の酸いも甘いも知り、世事に長けていた晋の文公(重耳)ですら、権限について考えが及ばず、領民から批判されてしまったのです。
ひとたび権限を委譲したら、その権限は部下の固有のものであり、上司といえども、口を挟んではいけません。 文公の故事を引き合いに出しながら、上司にリーダーの役割を説いた魏徴は李世民から愛されます。部下の諌言を受け入れる上司・李世民は、その後唐を最強の国家に変えていきます。
組織を強くするために権限の感覚を身につけよう!
上司は、部下の権限を代行できない。これが、権限を付与するときの基本的な考え方です。ひとたび権限を委譲したら、その権限は部下の固有のものであり、上司といえども、口を挟んではいけません。
唐の太宗(李世民)は重耳よりも若く、経験も浅いのですから、リーダーの心構えを持たなければなりません。これまで以上に自分の立場をわきまえなければ、国を豊かにすることはできません。部下の魏徴はそのことを太宗にわかってもらうために、重耳を例にあげたのです。
漁師が話を終えたあと重耳は、「良いことを教えてくれた」と漁師を褒め、褒美をとらせようとします。しかし、漁師はそれを断りました。今ここで褒美をいただかなくても、君主が君主としての機能を果たし、いい政府をつくり、国を豊かにしてくれれば、自分もその恩恵を受けると漁師は考えたのです。
君主が本来の機能を果たさなければ、たとえここで褒美をもらっても、結局は貧しくなってしまいます。そのことをわかってもらうために、漁師はあえて褒美を受けとらなかったのです。
強い組織をつくるには、上司も部下も、君主も人民も、与えられた役割に注力すべきです。人間にはそれぞれ、組織上、仕事上の本分があります。自分の本分でないことには手を出すべきではありません。 とくにリーダーは、「権限を与えたら、あとからり戻すことはできない」「上司といえども、部下の権限を代行することはできない」という権限の感覚を身につけることが重要です。
リーダーは、自分一人の力の限界を知り、部下を使いこなすべきです。有能な部下を見つけ、彼らに権限を委譲したら、彼らを信じることが重要です。権限の感覚を身につけることで、部下が成長し、組織が強くなるのです。
まとめ
リーダーは組織を強くするために、部下の力を引き出すべきです。ひとたび部下に権限を委譲したら、その権限は部下の固有のものであり、上司といえども、口を挟んではいけません。上司が権限の感覚を身につけることで、部下が成長し、組織が強くなるのです。
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